艦娘という深海棲艦に対して有効な存在を見つけた政府はまだまだ解明されていない艦娘について調べるべく、被験者を集めるため新たな法律を作った。

その名は「艦娘手当制度」もしくは通称「蜘蛛の糸制度」。

艦娘になった者には資金的援助がされ、裕福な暮らしができる。
要は、金で人を釣っている。

だから艦娘には身寄りがない者、貧しい経験をしている者が多い。


これはそんな世界のお話。

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艦隊これくしょんの二次創作です。

「佐世保鎮守府の北上さん」で書くネタに困ったので、酒を飲みながら息抜きに書いてみたのですが…

…いや、どうしてこうなった。
書いている私が砂糖を吐きそうになるぐらい甘々な話を書こうとしてたはずなのに…。

昔からどんな話書こうとしても暗い話になっちゃうんですよね。


あと何このオリジナル設定。
やっぱ思い付きで設定なんか書くもんじゃないですね。


つきよのこくはく

 今日は艦隊全体の錬度をあげるために、多めに出撃をしたせいで書類仕事が増えてしまい仕事を終えるころにはとっぷりと日が暮れてしまうどころか、月が昇ってしまう時間になってしまった。

 

 仕事量の関係上、秘書官の北上さんを付き合わせてしまう形になってしまった。

 いつか、埋め合わせをしてあげないと…

 

「月が綺麗だねー、提督」

 

 そんなことを考えていると、北上さんが私に雑談を振ってきた。

 まぁ、確かに仕事が終わったからハイ、サヨナラというのも味気ないものだ。

 せっかく話題を提供してもらえたのだから、多少の雑談をして別れることにしようかな。

 

「月が綺麗といえば、夏目漱石が英語教師をしてた時、 "I love you." を『月が綺麗ですね』と訳した話は有名ですよね」

 

「うん、その話はもちろん知ってるよー。まぁ、知ってるからこそ言ってるんだけどさー。月が綺麗だねーって」

 

「え?知ってるからこそ言ってるってどういう意味ですか?」

 

 単純に美しい月夜だという話ではないのか?

 目に入ったもの、そう例えば景色などの視覚的情報や聴覚的な情報を話題に挙げるのが定番だからという理由で話題を振ったのではないのか?

 

 私がそんな思考を巡らせていると、北上さんが呆れたように溜息をついた

 

「…提督さぁ。ちゃんと頭回ってるー?眠いのはわかるけどさー、ケッコ―真面目な話してるんだけどー?…柄にもなく、さ」

 

 

「あまり眠くはないですよ?頭の回転もあまり鈍ってないと思いますし…」

 

「じゃあわかるでしょ?アタシは提督に "I love you." っていってんのー」

 

「…はい?北上さん?いまなんと?」

 

「提督のことが好きだって言ってるんだってば。『like』じゃなくて『LOVE』だかんねー」

 

「いやいやいやいや!今までそんな素振り無かったじゃないですか!!」

 

「だって金剛みたいにあからさまにアタックしても避けるでしょ?」

 

 金剛というのは、もちろん私の艦隊の主力戦力である金剛型戦艦のネームシップである彼女のことだろう。

 『コンゴウ』タイプの艤装を装備しているせいか、他の艦隊に配属している『コンゴウ』タイプの艤装を装着している少女と同じく、『提督の事を無条件に愛する』という性質を持っている。

 

 そもそも艦娘というものは、『人間の少女』が艤装という『船』の『魂魄』が宿った物を繰り返し装着していくうちに、『人間』の性質が薄れていき、『人では無い者』になった個体である。

 最終的には人間だった頃の名前すら思い出せなくなり、『艤装の魂魄に残っている記憶情報や性質』のみが残る。

 そのため前もって、初めて艤装を装着する『被検体』は自分の名前を捨て、艤装の名前を名乗るようにする取り決めがある。

 

 まぁ、被験者にとって人間だった頃の記憶を思い出せなくなるのは、喜ばしいことなのだろうけれど。

 

 閑話休題。話が逸れてしまった。

 私は金剛から好意を持たれていて、様々なアプローチを受けている。

 もちろん、全部無視しているが。

 

「まぁ、確かに避けるかもしれませんね」

 

「でしょー?まぁ、好きという感情は風化してしまう前に伝えるけどぉ、あからさまなアプローチとかはしないよ。私も本気だからねー」

 

「…その感情は放っておけば風化してしまうんですか?」

 

「幻滅したー?でもさー、提督。世の中に変わら無いものなんてないんだよー?特に感情や人間関係なんてほんとーに些細な出来事で変わっちゃう代表例だといっていいくらいじゃーん?」

 

「…そうかもしれませんね」

 

「まぁ、金剛の『バーニングラヴ』って感情は変わらないのかもしれないけれどー。あの子はそういう性質(ロール)を与えられた被検体(キャラクター)だからねー」

 

「…」

 

「でもさー、アタシが今感じてる『この提督が好き』って感情は大切にしたいんだー。たとえ時間が経てば風化してしまうかもしれないものでも。もしかしたらこの気持ちもアタシに与えられた性質(ロール)なのかもしれないけど。それでも…さ。」

 

「…本気なんですか?」

 

「さっきも言ったじゃん。アタシは本気だよー」

 

「今すぐ返事はできませんよ」

 

「それくらいわかってるってばー。…でも、なるべく風化してしまう前によろしくねー」

 

 北上さんは笑いながら、執務室を後にした。

 彼女の表情はとても明るいモノだったけど、後ろ姿はまるで泣いているように見えた。

 

 私には北上さんの抱える苦悩は一生理解できないだろう。

 私に出来ることはただ一つ。

 

 この戦い下らないを終わらせて、真剣に考えて返事を返すこと。

 

 彼女の気持ちが風化してしまう前に。

 



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