大昔ポケモン金銀で遊んでて、あとはノコッチを捕まえればコンプリート……というところで電池が切れてデータが全消失したことを思い出しながら書きました。思い出したら泣きそう。

1 / 1
 

 

「今日もかわいいよ、僕のニューラたん」

 

 ……ふん。私がかわいいのは当然のことでしょう。

 元が良いのは言うまでもない事ですが、あれだけ金をかけて美容院に通い、ジャラジャラとしたアクセサリーで着飾り、猫(私は猫ではないけれど)可愛がりさているのだから、美しいのは当然です。

 

「よしよし、今日もいい子だね、かわいいかわいいニューラたん」

 

 膝の上に座っている私を撫でながら、いつもと同じようにマスターは言いました。

 私はこれからもずっとずっと、死ぬまで愛されるのでしょう。せいぜいマスターを飽きさせないよう、かわいいかわいいニューラたんを演じ続けている限り。

 生まれた頃からシロガネ山原産の珍しい高級愛玩ポケモンとして、ろくに外の世界も知らずに育てられてきた私はそう思って生きてきたのでした。

 

 あの日までは。

 

 

 その日は、マスターのところに来客がありました。

 客は、黒い服を着ていて赤い長髪をした目付きの悪いチンピラ……もとい、少年でした。「珍しいポケモンを持っている人がいると聞いて、アサギから遥々やってきた」のだそうです。無論、その珍しいポケモンとは私の事に違いありません。

 

「いいともいいとも、ぜひとも見ていってくれ。このニューラはね、あくタイプっていうつい最近発見された新しいタイプのポケモンでね……」

 

 少年がマスターの話を聞きたがっている事を知ると、マスターは長々と自慢話を始めました。私もマスターの言葉に合わせて、少年にアピールするようにポーズを決めます。しなっ、と色っぽく腰を捻りながら背筋を伸ばしてみたり。きらっ、と研ぎ澄まされた爪をさりげなくアピールしてみたり。

 

「……ところで、」

 

 ちょっと過剰気味な自己PRにも飽きた頃、私の事をくどくどと自慢し続けるマスターの言葉を、相手の少年が遮りました。

 

「……なんだい?」

 

 自慢話が遮られるとマスターはいつも不機嫌になります。まったく、無礼な奴です。せっかくマスターが私のかわいらしさについて話しているのに。

 私も内心不服でしたが、構うことなく少年はこんなことを言い出したのです。

 

「そのニューラってポケモンは、戦闘経験はあるのか?なかなかいいツメしてるみたいだが」

 

 少年の言葉にマスターは眼を丸くします。

 

「闘わせるのかい、ポケモンを? とんでもない!」

 

 驚天動地、そんなマスターの反応を少年は「ふん」と鼻で笑いました。

 

「バトルこそポケモンの醍醐味だろ?」

 

 私も相手の少年を軽蔑しました。彼はそんな野蛮な目的でポケモンを飼っているのです。言い直す必要はなく、やはり彼はチンピラでした。

 

「そんな眼で僕のニューラたんを見て欲しくないよ。帰ってくれないか?」

 

 話を中断されただでさえ不機嫌だったマスターの怒りに、少年の見下したような目線と態度は油を注ぐ結果となりました。

 

「ああ、悪かったな。邪魔した」

 

 マスターの言葉を聞いた少年もといチンピラは、うんざりしたような呆れたような馬鹿にしたような様子で帰っていきました。

 

「まったくもう、ああいう野蛮人だとわかっていたら家になんか上がらせなかったのに。ねぇ、ニューラたん」

 

 ええ、まったく同意です、マスター。あんな奴、二度と来なければいいのです。

 

 

 

 

 その夜は、月の見えない闇夜でした。

 特注ベッドの中ですやすやと眠っていた私(本来夜行性の私ですが、昼間来客があった為疲れて眠っていたのです)は、妙な気配で目覚めました。

 月光も差さない暗闇の中、何かが潜んでいるような。ポケモンとしての本能という奴でしょうか、愛玩用の私にもその妙な違和感だけは敏感に感じ取れたのです。

 

「へ、」

 

 それは、

 

「へちゅっ」

 

 耳の良い私でもかろうじて聞き取れる程度の、小さな小さなくしゃみでした。

 

「なんでそこでクシャミすんのよこのバカッ!!」

 

 途端に大声が響きます。部屋の隅には、新月の闇を重ね塗りする黒い影がボンヤリと見えました。

 

「し、仕方ないでしょ!!!」

 

 私の頭上から大声が言い返しました。見上げてみれば、一体いつから潜んでいたのでしょう、音もなく二枚の翼の影が羽ばたいていました。

 

「昼間っから物音も立てずにずっと、ずっと、ずぅぅーっと!!」

 

 ああそうですか、昼間からですか。

 

「隠れてたんだからッ!!!」

 

 ご苦労様です。

 私の感想を他所に、二枚の翼は、黒い影に怒鳴りつけました。

 

「だいたいね、あなたの“作戦”とやらはいつもいつも杜撰過ぎるのよ!」

「ちょっとちょっと、アンタまさかアタシのパーペキな計画にケチつける気!?」

「あなたは御主人様を犯罪者にしたいのかしら!?」

「アンタが毎回毎回ドジ踏むからでしょ!!」

「何よ、このニヤニヤ!!!」

「何よ、この口減らず!!!」

 

 あ、あの……?

 私は喧嘩している二つの影に声をかけます。あまりにいたたまれませんもの。

 

「「うるさいわねこの…………!!!1!!111!1!」」

 

 怒鳴りつけようとする声が絶妙にハモると、四つの目がこちらに向き、パッチリ目覚めている私の表情を凝視しました。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が通り過ぎ、間が持たなすぎて私はついつい口を開いてしまいました。

 

「……えっと、今何時でしたっけ?」

 

 私は一体何を聞いているんでしょうか。ぽっかりと、奇妙な間が開きました。

 

「…………」

「…………」

 

 二つの影が行動を起こしたのは、ほぼ同時の事でした。

 

「さいみんじゅつ!!」

「ちょうおんぱ!!」

 

 二つの補助技が、虚を突かれた私へと襲い掛かります。私は悲鳴を挙げながら、何がなにやらわからなくなってしまったのでした。

 

 

 

 

 ……ふぁぁ。なんか寒いわね。

 

 気がつくと私は外にいました。私の体が乗っているのは、いつものふかふかの高級クッションではありません。いつの間に出されたのでしょうか。もしや私、夢遊病のケでもあったのかしら?

 起き上がろうとした私は、両手両足を太い丈夫な紐で雁字搦めに縛られているのに気がつきます。うちのマスターもついに変な趣味に目覚めたのでしょうか。いつもいつも変な人だとは思っていたけれど。

 自分の状態を確認したときでした。

 

「このアホゴースト!!」

「何よバカゴルバット!!」

 

 何やら聞き覚えのある声が。

 

「まったく、最後の最後まで足引っ張るなんて、アンタってホントドジね!!」

「あーら、最後に警報引っかかって家主起こしたのはあなたでしょ?」

「もとはといえばアンタが起こしたんでしょーが! あーぁ、アンタみたいなドジッ娘と組んだアタシがバカだったわぁ」

「アンタの計画なんていつもいつも無茶苦茶じゃないの!! 私だけで行けばあんな無様な展開にはならなかったのに」

 

 嗚呼、どうやら私はまだ夢の続きを見ているようですね。昨夜の夢に出てきた黒い影と黒い翼、ゴーストとゴルバットでした。

 

「ねぇ、コイルはどう思うの?」

「あら、コイルならアタシの計画に賛同してくれてたわ。ねー、コイル?」

 

 二匹が声をかけた先、小柄なポケモンがちょっと大きめな電卓のような装置(のちにそれは“ぱそこん”という装置だと知りました)をカシャカシャと操作していました。

 コイルと呼ばれたそのポケモンは、無表情な顔の目だけ動かしてちらりとやると、

 

「……だまって。作業の邪魔」

 

 言いたい事だけぽつりと言うと、そのまま作業の続きに取り掛かりました。

 途端、ゴーストとゴルバットは互いに我が意を得たりと声を張り上げます。

 

「ほーら、アンタが悪いって!!」

「いーや、あなたの計画が悪いんだってヴぁ!!」

「何よこのつり目!」

「言ったわねニヤニヤ笑い!」

「バサバサ!」

「ふわふわ!」

「バーカ、ブァァーカ!!」

「おたんこなす、ドテカボチャ!!……」

 

 どちらでもないはずだったコイルの言葉も、興奮した二匹には火に油。怒鳴り合いのボルテージがあがってゆくばかりです。

 

「まったくあなたったら本ッ当ば「トライアタック」かばばばばばばっ!!」

 

 ぽてっ、という音がしたかと思うと、ゴルバットは地面に落ちました。

 

「へっへーん、ざまぁみさら「でんきショック」せびびびびびびびびびっ!!」

 

 ぱたんきゅぅ、とゴーストも地面に伏します。

 二匹が黙ったあと、コイルが静かに言いました。

 

「……だまって。作業の邪魔」

 

 そうやって邪魔者を黙らせたコイルは、黙々と自分の作業に戻りました。

 黒焦げのゴーストとゴルバット、パソコンに向かうコイル、そして縛り上げられた私。またしても沈黙が、場を支配します。

 耐えきれなくなり、私は口を開きました。

 

「……ねぇ」

「…………」

「ねぇ、ちょっと」

「…………」

「ねぇ、ったら」

「…………」

「そこの貴女」

 

 四度目の声掛けで、コイルはようやくこちらに振り向きました。

 

「私の事を呼称しているのならば、私の名称は“ねぇ”ではない」

「え?あ?えーと、」

「私の個体識別名称を質問しているならばコイル。私の種族名を質問しているならばコイル。私の個体識別IDを質問しているなら「いや、もういいわ」

 

 変人には耐性がついているつもりでしたが、こちらもこちらでかなり偏屈……げふんげふん、変わった性格のようです。

 とにかく、私はコイルに猫なで声(私は猫ではないけれど)で訊ねました。

 

「……ねぇ、コイルちゃん。いくつか聞いてもいいかしら?」

「緊急を要さないならば、あと30秒弱待って欲しい」

 

 30秒だったらそんなに変わらないような。私はあまり深く追求せず尋ねました。

 

「貴女は一体何をしてるの?」

 

 見ると、コイルが操作しているパソコンには、私が普段収められている高級品のモンスターボールが接続されていました。

 コイルは、先ほどと同じように作業の手を止めないまま目だけをちらりと向け、

 

「貴女の捕獲ボールのトレーナー認証システムを構成するコードの一部を削除、余剰リソースに私のマスターのトレーナー認証コードを入力している」

 

 呪文でも読み上げるようにスラスラと答えました。捕獲ボールのとれーなーにんしょう……? よくまぁ、噛まないものです。

 

「え、えぇっと……」

「貴女のマスターの親IDを、私のマスターのIDに書き換えている」

 

 おやID?いつだったでしょうか、そんな事をマスターが言っていましたっけ。

 あ、そういえば私のマスターはどうしたのでしょうか。

 

「ただいま」

 

 その時、向こうから声がしました。若い男の声でした。

 そのときになって、コイルはようやく手を止めました。さっきノックダウンされていたはずの二匹もすばやく起き上がり、声のした方向へ飛びつきます。

 

「マスター」「マスター!」「御主人様!」

 

 私の姿勢では、その姿は見えません。砂を踏む足音はこちらに近づいてきます。

 

「留守番ご苦労だったな」

 

 若い男は三匹の労をねぎらうと、こちらを見下ろして言い放ちます。

 

「今日からお前の主人は俺だ、ニューラ。よろしくな」

「……!」

 

 その顔を見たとき、私は驚愕しました。なぜならばその男は、

 

「こないだのチンピラ野郎……!?」

 

 彼こそ先日、マスターのところに話を聞きに来た赤髪の少年。

 逆光越しに、紅い髪が潮風で揺れていました。

 

好きなポケモン

  • ゴルバット
  • ゴースト
  • コイル
  • ニューラ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。