貴婦人より愛を込めて   作:デフレイムス

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実装までに畳むことができました
あらすじ書いたときはもう少し略奪的な想定していましたが、ずいぶん乙女になりました
DV彼女の設定もあまりいらなかったな、と



貴婦人より愛を込めて

 トレーナー室で、私は所在なさげにしていた。またレース映像を振り返っても仕方ありません。トレーニングも、これ以上はオーバーワークですわ。

 だからソファーに座って髪をくるくるといじりながら、かける言葉を考える。

 思えば状況は全て私に味方していた。時期は現役を引退した後。略奪するまでもなくトレーナーさんは自由になった。傷心のほとんどを私が側にいれた。

 振り返ると、我ながらずいぶん奥ゆかしいものですわね。お可愛いこと。まさに淑女と呼ぶに相応しいのでは?

 自嘲気味に鼻で笑う。

 なるほどヴィルシーナさんが、ジェンティルドンナ? と確認するだけある。レースにある時の私とは確かに別人。

 

 

 最初からトレーナーさんに恋人がいなければ、あるいはあそこまで傷心しなければ違ったかしら。

 いずれにせよ、私にここまで気を回させたのは貴方が初めてよ。トレーナーさん。

 

 

 時計の針が十六時半を指した頃、ノックがする。

「ジェンティル、いるかい?」

「貴方の部屋でしょう。ノックなどせずに入ってらっしゃい」

 そう言って書類と一緒に入ってきたトレーナーさん。本当に、一時期と比べて顔色は良くなったと思う。

「まだお仕事はあるのかしら?」

「いや、今日やらないとというものはないかな」

「そう。なら私のことに集中なさい」

「そうするよ」

 デスクに紙の束を突っ込んで、そのままそこに座ってしまう。私はソファーに座っているのだけど。

「トレーナーさん」

「?」

「近うよりなさい」

 そういって隣にくるようソファーをポンポン、と叩く。

 苦笑いするが要求には応えてくれる。最近その顔、よく見ますわよ。

 子供のわがままを聞いている、という風には感じられないからその理由を教えていただきます。

「ああ、お茶でも淹れましょう。トレーナーさんはどうぞお座りになって」

「いや、ついでに淹れてくるけど」

「お座りになって?」

 こうなると私は聞かない、ということを彼は知っている。

 そしてトレーナーさんは従うということを私も知っている。

 

 

 何やら走ってきたようにも見えたから、ぬるめのお茶を淹れた。

 隣に座って、私の右肩は彼の左肩にほぼくっつけた。

 彼は一気に飲み干してしまう。

「風情も何もないですわ」

「トレーナー室のお茶に求めたことはないなあ」

「それもそうね」

「それで話とは?」

「ええ。まずレースの話ではなくってよ」

 そう前置きして右手を重ねる。もはやこの程度は何の抵抗もない。話もおよそ察するでしょう。

「復職してどうかしら?」

「ああ、迷惑をかけたね。もう大丈夫だと思う」

 そう答えるわよね。わかっていてよ、トレーナーさん。

「そしたらもう抱き枕にする必要も、される必要もないかしらね」

 そして見慣れた苦笑いですわ。

「ああ、あれももう大丈夫だと思う。そもそも良くないことだった」

 隣に座っている形なので、少し覗き込むようにして彼と目を合わせる。

「本当に大丈夫なのかしら? ジェンティルドンナのトレーナーさん」

 他の人がそうするように問いかける。

 レース場はわかりやすいヒールだったけれど、それが負荷になったり引け目になるのは望みませんわ。

 彼は意図を測りかねてか黙ったままなので、元の体勢に戻る。

「そしたらこうするのも良くないことかしら」

 彼の肩に頭を預けて、耳でペシペシと顔を叩く。

「ああ、良くないと思う」

「割にされるがまま。腰に手を回しても私は構わなくってよ」

「ジェンティル、君は……」

 身を預けたまま、話を続けることにする。

 ヴィルシーナさん、貴女が冗談めかして仰っていた「好きです」で簡単に壊れる関係ですわ。

 私が雲上にいるというならば、下界に降りてあげることはない。拘り、ともいえますがずっと私たちはそうしてきた。

 私の行く道を、彼が歩きやすいようにしてくれた。それが負担だったならば、私は止めさせますわ。

 

 

 ――止めさせた後の関係は、いえ、その時に考えましょう。

 まずは彼の手を引っ張り上げてみるところから、ですわね。

 大丈夫、トレーナー室に飾られた私たちのトロフィーは、栄光の軌跡はジェンティルドンナとトレーナーの在り方を肯定していますわ。

 トレーナーさんは私に対して、やるべきことをやり、やるべき以上のことを成した。見せるべき弱みを見せた。打ちひしがれる様を、そこから立ち上がる姿を見せた。だから私は彼を信じてこういった行動に取れる。

 私はトレーナーさんに対して同じように、やるべきことをやった。これから弱みを見せる。惚れた弱みでしてよ。だから自分を信じてこんな慣れない行動をとる。

 

 

「いつか聞いたことを今一度伺いますわ。貴方にとって私は何?」

「最強のウマ娘」

「大変結構。では私に取っての貴方は何かしら?」

「それを本人に答えさせるのか……」

 当たり前ですわ。私のことは即答するくせに、自分のことは考え込むのですね。

「ただのトレーナーかな」

「そうですわね。私はそのことにほぼ満足していますわ、トレーナーさん」

「ほぼでも光栄だね」

「ええ。この1ヶ月。トレーナーさんと幾度もの夜を過ごして、思うことがありますの」

 お茶を一服。顔が強張るけれど、責める気などさらさらないのだから勘違いなさらないで。

「もっと、これからもああいう夜があっても良いんじゃないかと」

「よくわからないな……」

「意外に私も楽しかったり安らぎを得ましたわ」

 トレーナーさんは「えっ」と反応する。体を預けているから表情はわからない。

「だからこうしてこのまま眠ってしまうのも、良いかもしれない」

「こっちはどうすれば良いのかな」

「膝に移すなり、ご自由に」

 彼は「いやあ」と一言。

「こんな時間は必要ないと思っていたけれど、そうでもないのね。貴方はどうだったかしら?」

 引け目を感じたり、申し訳ないと思うのならあまり色よい返事は来ないのでしょうね。最悪だんまりさんかしら?

 チラリと上目遣いで彼を見ると逡巡している様子が伝わってくる。

 まあ、まあ。このまま待っていても建設的ではありません。これくらいにしてあげましょう。

「話がそれましたわ。そう。私、とても気になるお言葉をトレーナーさんから頂戴しましてよ」

 左肩から頭を外して、両手でトレーナーさんの顔をこちらに向ける。瞳に私が映ると鼓動が高鳴った。

 反射された私は、まるで獲物を狙う蛇の顔。

 私、自分の顔は鋭いよりも柔らかい雰囲気だと思っていますが、赤い瞳がずいぶん獰猛に見えますわ。

「あまり心当たりはないけど……」

 ええ。私もヴィルシーナさんとお話しするまでは気にしていなくってよ。

「『俺は君のトレーナーをちゃんとやれていただろうか』だったかしら。なぜ、そう思うというの?」

 これからヴィルシーナさんが言っていた私の泣きつきタイムですわ。

 

 

 物理的な障壁、元彼女さんはいなくなりました。思えばトレーナーさんは、私に相応しくあろうとしたため自分の時間を費やしたとも言えますわ。

 結果軋轢を生んでしまった。とはいえ、顔も見たことないけれど確かに貴女には相応しくなくなりましたわね。

 あと残るはトレーナーさんの不可思議な劣等感か罪悪感かは、わかりませんが不要なものでしてよ。

 おやめなさって?

 貴婦人が身を捧げても尚崩せない私たちの壁を、壊して差し上げますわ。

 

 

 そうしてトレーナーさんは誤魔化しの手を打つ。

「ああ、言ったかもね。あれは一時的な気の迷いかな」

「私、寝言でたくさん謝られましてよ」

「寝言か……」

「まあ寝言は戯言ではありますが、私に嘘が通じるとお思いで?」

 瞳が揺れている。トレーナーさん、あれはあれで失言だったようですね。

「喋らない口なら、他の用途を見つけないとね。例えばキスとか」

 こんなことで脅迫する私もどうかと思いますが。

「……わかった、喋るって」

「よろしい。ですが不遜な答えも許しませんわよ」

「でも知ってどうするんだい」

「私たちの関係を変えますわ。でも私の予想では、きっと良いことになると考えています」

「健全ではないように聞こえるけど」

「そう? ならば期待なさって?」

 貴方はとっくの昔に私のものになれたのに。本当は、もっと別のことを聞かせて欲しいものですわ。

 何を期待するんだ、という表情のトレーナーさん。まったく据え膳を前に。そういうところでしてよ。

 

 

 さすがに話しづらいから向き合うのからは解放してあげた。再び肩に頭を乗せる。

「改めて、なぜそう思うかと言われても、そう思うからと言うしかないんだけどね」

「禅問答のおつもり?」

 彼がわずかに笑ったのが伝わる。仕草としては、口角をあげて首を横にでも振ったかしらね。

「最初から話そうか」

「そうして頂戴」

 どこからかわかりかねましたが、どうやら教官補佐をやっていた頃からになるようですわ。

 頭を外して、お茶を淹れ直しましょう。

「ちゃんと聞いているから、続けてよくってよ」

「流石に話しづらいけど……まあ、いいか」

 今度は少し熱いお茶にしましょう。お茶の出し方については、こんな故事があった気もしますわ。

「けっこう功名心が強くてね。さっさと教官補佐は抜け出したかった。だから色々独自のトレーニングを考えていた」

「教えない貴方が珍しいのね」

「わかりやすい実績がいるからね。それでジェンティルに声を掛けたのは必然だったけれど、君からメニュー考えてくれ、というのは予想していなかった」

 私の方は、茶葉を用意しつつお湯が沸くのを静かに見つめている。

 独白に近い方がきっと話しやすいだろう、というのもある。

「契約できたのは良かった。正直何もしなくても勝てるウマ娘。この子で勝てないなら他でも無理だろ、と思う程度に」

「そうですわね」

「それで君の在り方を見て、気高さに触れた。内外とも相応しくなろうと努力も、工夫もした」

 確かにメイクデビューの頃から、なかなかの名演でしたわね。

 新人で、有望株を勝たせられなかったのに次を見据えて批判もどこ吹く風だった。

「そしたらあっという間にトリプルティアラ。もう手の届かないウマ娘になったから、自分の出来ることは君にかかる色んな火の粉を払うことしかやることがなかった」

 日々トレーニングやレースをしていたのだからそんなことないと思うけれど黙って聞く。

 栄光は私に、責任は自分に。勝とうが、負けようが、掲示板さえ外しても変わらず私を守る貴方がいたから私は次の勝負にだけ目を向けられましたのよ。

 さて、お茶が入りましたわ。持っていって、再び隣に座るとそれを待ったようにトレーナーさんは口を開いた。

「さらに俺が振られた後の君の対応。自然に回復しただろうけど、ジェンティルがいて荒れずに済んだ」

 そういって彼はお茶を飲む。「熱いな」といって一息ついた。

「振り返っても、俺は君にトレーナーや大人らしいことを何もできていないと思うからだね」

「なるほど」

 負い目引け目があると対等に付き合えない。その通りですわね。

 

 

 次の言葉を考える。そんなことはない、と言っても響かない気がする。

 だから私はどうすればいいの、と泣きつきたいわけだがここは彼にどうするか投げましょう。

「相応しくないなら、どうするのかしら?」

 回答次第では、と一瞬頭が冷えました。

 ただ、思い直すに私のトレーナーに復職しているんですもの。最悪にはならないと自分にすぐ言い聞かせ納得する。

「認めてもらうしかないかな、と」

 案の定。まったく。もう叶ってましてよ。そのお話し。

 貴方は七冠を取ったウマ娘に相応しいトレーナーですし、ジェンティルドンナの番として認められていますわ。

 とはいえこれは心持ちの問題でしょう。

「……やれやれ。だからちっとも休もうとしないのね」

 もはや話はシンプルだった。負担にはなっているかもしれないが、それが私に見合おうとするゆえならば道を分つ必要もない。

 そうですわね、ここは最短距離を行くのが良いでしょう。

 トレーナーさんもレース前のミーティングでは言っていましたわね。何をすれば先頭に立てるのか。それは距離という数字だけの話ではありません。

「お互い、両家にご挨拶でもしましょうか」

「……なに?」

「私がしてきたことも振り返ってほしいのだけれど、あまり効果がなさそうだから外堀を埋めましょう。私が認めていない方を父母には紹介しませんし、私だけ紹介すると言うのもおかしな話ですし」

 そんな頃合いでしょう?

 呆気に取られていますが、トレーナーとその担当ウマ娘という関係に限っても不思議な話ではない気がしますわ。もう四年も過ごしていましてよ。

「あ、父や母は別に取って食おうという方でもありませんのでご安心なさって?」

「いや、そこは良いんだけど……」

 私もお茶に口付ける。我ながら熱く淹れすぎましたわね。まあ心は鎮まるのかしら。

「私は貴方を認めていますのよ。ええ、それこそ諸々のパートナーとして。据え膳も腐ってしまいますわ、トレーナーさん?」

 畳み掛けると、少し眠くなってきましたわ。

 言いたいことを言えた解放感もあるかしら。

「何とも思っていない方に、私がああまで身を任せる。献身する。そんな安い女とお思いかしら」

 そこまで言うとまた肩に頭を乗せて体重も預けた。

「私の手を取ってエスコートなさい。私はずっと、待っていますわ」

 これが私の王手。長い間、まるで詰将棋のよう。

 将棋盤をひっくり返すような性格だと思うけれど、慣れないことをしたものね。

 ――でも、これでダメならひっくり返すか。

 まずは私がいかにトレーナーさんを大事に思っているか、教えて差し上げる必要がありますわね。

 

 

 目を閉じると彼の体温がより感じられる。

「ジェンティル?」

 少しだけ寝息を立ててみる。私が起きていなければもう少し大胆になれるかしら。

 

 

 そうして待つこと数分、案の定手が私の背中を回って、そのまま落ちた。

 肩でも抱こうとしたのかしら。もう少しでしたわね。

 少しだけ身を捩る。やれよ、と体を押し付けてみる。そしてまた出来る限り自然に寝たふりをする。

 なんとも、蛇のような狩りですわね。待ち伏せして電光石火の一撃を喰らわす。

 

 

 トレーナーさんの一挙手一投足が全て伝わる。

 体をくっつけているのと、目を閉じて視界も絶っているので余計な情報も入れない。

「まったく人の気も知らずに」

 お言葉そのまま返しますわよ……?

 声音からしてネガティブなものではないと思う。

「エスコートか。君と恋仲になると、それはそれで大変そうだ」

 耳が露骨に反応しかけたのを抑える。これは獲物がかかったのではなくて?

「でも、悪くないのかもな」

 確信。もう姿を隠す必要もなくなりましたわ。

 

 

 耳がピンと立つと同時に目をカッと開いてトレーナーさんの方を見る。

 どうやら完全に油断していたようで動揺が見て取れますわ。

「ごめんあそばせ。今なにか仰いましたか? 少し眠ってしまいましたの」

「いや、あまり意味あることは言ってないかな」

「そう。では何と仰いましたか?」

「起きてたよね? ジェンティル?」

 ええ。それが何か? と言う感じで詰めていく。下手を打ったのはそちらですわ。トレーナーさん。

「不束者ですが、よろしくお願い致しますわ」

「嘘だろ……?」

 そうですわね。少し落ち着きましょうか。

 貴方は私のものになれますのよ。

「でしたら、どういう意図での発言か教えていただけるかしら」

 ぐっ、とその先の返事をためらう彼の様子がありありとわかる。

 最後、邪魔な壁を取り払ってあげましょう。

「私は全てを認めていますのよ、トレーナーさん。私は貴方のものになっても良いのです」

 なりたい、とは思っていても言わない。それは淑女の矜持だった。

 

 

 そしてトレーナーさんを見つめる。

 数十秒のことと思うけれど、永遠に感じられた。

 スローモーションの世界で、彼の心の揺らぎがはっきり感じられる。私の鼓動や息遣いがやけにノイズでもある。

 彼の次の言葉は、ずっと私が待ち望んでいたものだった。

「エスコートさせてほしい。これからもずっと」

 手が差し出された。初めて会った時の、合気のそれとは違い手の平を見せるまさにエスコートのそれ。

「ようやく手を、伸ばしていただけましたわね」

 その手に私の右手を乗せて返答とし、すぐに体を向き合わせて座ったまま抱きついた。

 先ほど肩を抱かなかった腕が、背中に回ったのを感じると私の苦悩は終わったのだと感じた。

 少しだけ心が痛む。彼の傷に付け込む形にはなったから。

 その罪悪感を押しつぶさないといけない。

「私、悪い女になりましたわね」

「そうなの?」

「ええ。そうですの」

「そっか」

 それだけで彼は済ませた。何のことを言っているかは自明ですものね。

「どんな意図であれ、俺は救われたよ」

「そう。ありがとう存じます」

 そう言うと彼の腕に力が加わった。物理的な力としてはお可愛いものですが、私を落とすには十分。

 私もそれだけで救われましたわ。ええ、これが私の引け目でしたから。

 

 

 大きく息を吐いて、数多の季節を思い返した。

 結局レースのことばかりで実にウマ娘とトレーナーである。

 いえ、レース以外のことが最近ありましたわね。

「トレーナーさん。あの日からまともなお酒を飲めていないのではなくて?」

 私が彼と初めて添い寝をした日。背景としては酷いものですが、あれはあれで良い思い出でしょうね。

「ああ。まあまともという意味だとそうかな」

「先月買ったものが残っていますわね?」

 冷蔵庫を覗いたから知っているのですが。彼からも肯定の返事をもらう。

「今宵は飲みましょうか。外泊届も出ていますし。いえ、待つのも興が醒めてしまいますわね。今ですわ」

「やっぱり振り回されそうだな」

 ええ。せっかく綺麗にまとまったのですもの。これは外堀とか関係なく善は急げですね、何が善か不明ですが。

 

 

 ――私もだいぶ浮ついていますわね。

 

 

 散々待たせたお詫びを名目に準備の全てをトレーナーさんに任せている。

 このトレーナー室は全く月や花など見えるわけではない。風情はその辺りの河川敷の方があるでしょう。

 ただ勝ち取ってきたトロフィーは何物にも変え難いですわね。私と彼の栄光の景色ですわ。

 そんなことを思っていると、目の前にグラスなど必要なものが用意されていた。

「君はジュースで良いんだよね……?」

「当たり前では?」

 そこはたとえ成人してもアスリートであるならば守りますわ。

 そういって、彼はまたグレープフルーツジュースを持ってきてくれる。

 あら、もう注いでくれていましたのね。

 そして隣に座るや否や手酌しようとするトレーナーさんからワインをひったくって、お酌する。

 溢れるまで入れてやって、手渡す。

「……やれやれ。さて何に乾杯しようか?」

「私たちのこれからで良いのではなくて」

「ああ、そうだね。……乾杯」

「乾杯」

 少しだけ口つけて、彼に言いたいことを言ってしまおう。

「貴方には私の全てを与えますわ。トレーナーとしての栄達、男としての幸せ。それはもう全てを」

 言うだけ言ってジュースを飲み干した。

「もうもらっているよ」

「あら。もっと、ですわ」

 空っぽのグラスを再び傾けた。わずかな水滴だけが唇を濡らす。

「私の信頼に応えたのだから、ご褒美を差し上げないと」

「ああ、これからも頂戴できるように頑張らせていただこう」

 そういう彼をクスクスと笑う。

「ええ。ならばずっと私は褒美をとらせましょう。愛を込めて」

 次の刹那、お酒の味がどんなものかわかった。

 最初は私からうっかり欲しがって、次はトレーナーさんからのお返しで飲まされてしまいました。

 口移しは飲酒ノーカウントかしら。

「今まで、ほとんどの時間で君のことを考えていた。それがどんな理由であれ、君のことを。彼女には悪いことをしたけれど」

「ええ」

「これからも変わらない。ただ違うのは、ジェンティルドンナ。君のことを愛しているよ」

 先月、彼の頬に口付けした日の夜と同じように視界が滲む。私もずいぶん弱くなった。

 そして目の前が滲んでも、かつて不完全だった景色は完成した。積み重ねてきた栄光と愛。きっと良い顔で笑えている気がする。

 私は貴方の全てが、大好きですわ、トレーナーさん。

 

 






一応完結
チラ裏のものを最後までお読みいただきありがとうございましたmm
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