共鳴りとは──魂の振動(大嘘)   作:美味しいラムネ

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呪術廻戦③

 

 「領域展開──『伏魔御廚子』

 

 それは、伏魔御廚子に似ていた。しかし装飾は異なり、どちらかといえば快活な雰囲気を漂わせる祓の祠。宿儺という呪力に浸され、その世界が書き換えられた故に辿り着いた王の世界。

 激しい斬撃の応酬。一見拮抗しているように見えた天秤は、徐々に両面宿儺の方へ傾き始める。

 

 当たり前だ。どれだけ削っても、どれだけ弱らせようと、相手は『呪いの王』。史上最強の術師。一朝一夕で追いつける相手じゃない。

 

 ──流石に、厳しいか...!

 

 元となった領域が乙骨憂太のものであったおかげか、幸い領域の押し合いにはまだ負けていない。()()、負けていないだけだ。

 横をチラリと見ると、悠仁の額に脂汗が滲んでいるのが見える。

 

 本来なら、閉じない領域どころか、閉じている領域すら展開できない筈だった結界術の力量で、無理やり領域を展開しているのだ、無理もない。領域の維持に手いっぱいでその場から動けないのも無理はない。

 

 ──まぁ、無理をしているのは私も一緒なんだけどね

 

 散々酷使してきたこの体も、そろそろ限界だ。ぴしり、と呪霊としての側面が強い体の部位にヒビが入った気がする。あー、寿命がガリガリ削れていってる感覚がするわね。普通なら何回かは死んでるようなダメージ受け続けてるんだもの、当然ちゃ当然か。

 まぁ、辞める気も止まる気もねぇんだけれどもね。

 

 「ケヒヒッ...このままでは貴様らには勝ち目がない、なぁ?だが、持っているんだろう?この状態をひっくり返せる札を」

 

 本当に、嫌になるわよ。

 呪いの王『両面宿儺』。この状況をひっくり返されたら、自分が死ぬ可能性が高い。それなのに、それを期待すらしている。私たちが次に何をするのかを楽しみにしている。

 

 「あー、本当に!何から何まで、気に入らねえんだよ!その余裕綽々な態度も、人を見下したような態度も!恵っ!」

 

 瞬間、口から血が溢れた。

 

 「釘崎っ!?」

 

 「気にするな!領域の維持に集中して!」

 

 大丈夫、まだ戦える。

 文字通り、私たち3人の世界を掛け合わせた、今持ちうる手札の中で最高の一枚だ。

 

 斬撃が影に染まる。

 

 「──魅せてくれたな、伏黒恵ッ!」

 

 両面宿儺は気づいた。徐々に天秤が押し戻されている。

 重量、電撃、貫通、適応。斬撃に付与された属性には覚えがあった。

 十種影法術。その脅威は誰よりも知っていた。なるほど、領域のブレンドか。個人の内包する世界を展開する技、それが領域展開だ。領域同士が押し合うように、通常ならば他人同士の領域は反発し合い、共存することはない。

 

 それを可能にしているのが、影の持つ性質。あらゆるものに付随する、影という存在。他のものとの親和性が高いが故に、可能だったのか。いや、それでも厳しいだろう。そもそも、今の伏黒恵は領域を展開できないほどに脳にダメージを負っている筈だ。

 

 「『鄒霊呪法』...カビの生えたつまらん術式の筈だが、使い手が違うとこうも化けるものなのか!釘崎野薔薇!やはり貴様は面白い!」

 

 「負け惜しみか、自称呪いの王さんよ!」

 

 頬の皮が裂け、血が垂れた。

 

 「ふむ」

 

 それを撫でた呪いの王は、血を拭き取り、私たちを見据えた。

 瞬間、悟った。この両の眼も訴えかけてきている。

 

 ──来る、両面宿儺の最大の一撃が。

 

 終ぞ内燃機関としてしか使われてこなかった竈の炎が、解き放たれる。

 

 「興が乗った」

 

 「最大限の力を持って、貴様らを叩き潰す。今、決めた」

 

 「竈」の炎は火力に対して速度と範囲に乏しい。しかし、ことこの瞬間に限っては、その問題は解決されていた。膨大な呪力を秘めた特級呪具を燃料に、昂る精神に呼応するようにしてその炎はこれまでにないほどに燃え上がっていた。

 

 「そして、貴様らは既に俺の呪力という油に浸されている。勢いよく燃え上がることだろう」

 

 焼く、切る。蒸す、揚げる、炙る。他多数。調理方法とは多種多様、複雑怪奇。術式の解釈、それをどこまでも自由に広げた存在を見たことで、御廚子の効果も格段に上がっていた。故に、竈はただ焼き尽くすだけでは無いものに進化を遂げていた。

 

 「次元振か、魔虚羅か。それとも小僧、お前がなにかできるか?」

 

 嗤い声が聞こえた。

 

 「『(カミノ)』」

 

 斬撃を撃ち落としながら、その手に劫火が握られる。

 

 所詮、虎杖悠仁には何も出来ないだろう、そう心の何処かで思っていたのだろう。実際、領域の維持に手いっぱいで動ける筈もなかった。その出自故に、何故そこまでできないのかと、周囲の術師と比べてなぜここまでつまらないのかと内心失望し続けていたからなのかもしれない。ようやく認めてもいい、及第点の領域まで上がってきたとはいえ、脳裏にこびりついた印象はすぐには消えない。

 ほんの一分だけ、油断があったのだろう。

 

 「本当、ありがとな、釘崎」

 

 1人じゃ、ここまで来れなかった。

 

 術式により共有された、朱雀を始めとした炎に関わる術式を使う式神呪霊達の、炎を生み出すイメージ。そして、何かを作り出す工程を2人で折半し、無理やり錆びついた窯の扉をこじ開ける。

 

 

 「『(カミノ)』」

 

 その手に、蒼い炎が握られた時。思わず目を見開いた。

 目から血を吹き出させながら、小僧の手を握る釘崎野薔薇の姿からは狂気すら感じた。

 

 なぜ弱者に限って(己以外の存在)、身の丈にあった不幸を受け入れないのかと常々思ってきた。違う、こいつらは。身の丈に合わない幸福を求めているのではない。常に、目指す幸福に向けて無理やり身の丈を届かせようとする、どこまでも強欲な存在なのだ。

 そして、それを為せるだけの資格があった。

 

 そこで、はたと気づく。小僧が動いた今、誰が領域を保持しているのか。なるほど、伏黒恵か。その傷ついた脳でよくやる。

 

 「あぁ、良い。良いぞ!俺と、お前ら。これが最後の

 

 

 「「呪い合い!」」

 

 どのような結果に終わっても、互いに無事では済まないことは明白だった。

 

 「『開──ッ!?」

 

 あの男の影を幻視した。それは、手ずから葬ったはずの、最強の亡霊。脳のどこかが壊れた気がする。

 ここで来るか、『無量空処』を喰らった後遺症。あの、最期の時の領域展開が、ここまで響くのか。

 

 「誰だろうと、若人から青春を取り上げることは許されていないからね。じゃ、あとは頑張ってねー。なんとかなるでしょ、君たちなら」

 

 譲り受けたその眼は、その姿を間違いなく一瞬だけ捉えていた。

 

 「本当、最期まで最高だったよ、...先生」

 

 一瞬の術式の乱れ、出力の低下。それが、最大の好機を生み出した。

 

 『開』(フーガ)!!!」

 

 徐々に、両面宿儺の炎が押され始める。

 

 「やってくれたな、五条悟...!」

 

 が、それも一瞬のこと。すぐさま術式を編み直し、両面宿儺の炎が、虎杖悠仁の炎を突き破り始める。

 

 「故に、お前は気づかない。ついに、あいつら以外を見ている余裕がなくなったから」

 

 十種影法術の式神は、全て破壊された。そして、その力だけが残った。そうなれば、もう式神は召喚できないのか?いいや。その方法はかなり前から見つけていた。

 式神としてではなく、不定形の影のまま呼び出すあの手法と同じ。影に、力を付与することで無理やり式神を再現する。

 

 玉犬の形をした影が、両面宿儺の肝臓を貫いた。

 

 「不意打ち、まぁ普通なら決まらなかっただろうな。でも、ここは俺の領域で、そしてお前は俺に意識を向けることができなかった」

 

 「貴様ッ...!」

 

 その顔が歪んだ。

 無論、ただでさえ限界を超えて領域を展開していたなかで無茶をした以上、領域の崩壊は早まる。が、両面宿儺の伏魔御廚子により体が細切れになるよりも速く、窯の炎が、両面宿儺を飲み込み、領域を破壊した。

 

 

 領域が破壊された瞬間、外で待機していた術師達の意識が一つになる。

 乙骨が戦闘不能状態で弾き出された時はどうなるかと思っていたが、考えうる中で最高に近い状態だ。術式が焼き切れ、その使用が困難になった上に、全身を焼かれ、大きなダメージを受けた両面宿儺と、両の足で立っている3人。

 

 ここらでその役目も終わりだろう、そう判断された烏たちが宿儺に向けて突撃し、爆散する。その一撃を以て、総力戦の狼煙となった。

 

 「あとはお兄ちゃんたちに任せろ!『穿血』『超新星』!」

 

 狙撃するように放たれた、本家本元の穿血が途中で幾重にも分裂しながら放たれ、蝕爛腐術により腐食性を付与された血液の弾丸が宿儺に降り注ぐ。

 同時に、3人が東堂の位置替えにより離脱し、自立移動した凰輪に残された九十九由基の術式が宿儺の体を穿つ。

 呪力により強化された拳がそれを引きちぎった瞬間、二つに分かれた式神と、2人の術師が入れ替わる。

 

 「やはり貴様は厄介だ」

 

 ペースが掴めない、出来ることならば待機位置もろとも竈で焼き尽くしたかったが...ならば、解を持って細切れにするのみ。

 

 が、それをさせまいと入れ替わった2人の術師から渾身の技が飛ばされる。

 

 「ま、普通お前の前に出ようなんて考えないわな。まぁ、でも夜蛾さんの件で借りはあるし、それに──ガキどもが命張ってるのに、大人の俺が必死こかないわけにはいかないでしょーが!」

 

 東堂の入れ替えに慣れるのは、はっきり言って味方でも不可能。故に、不意打ちの一回だけに全てをかけた。

 シン陰流最速の一撃、『抜刀』。そこから流れるように簡易領域を拡大し、その内部の存在へフルオートで斬撃を放ち続ける、言ってしまえば小さな伏魔御廚子。その斬撃を間を縫うようにして、1匹の龍が放たれる。

 

 文字通りの大博打だ。最後の保険があるとはいえ、それを除いた全戦力をここに集中させた。何があっても、ここで全て決め切るつもりだ。ここを逃せば、二度と勝機は訪れない。闇の中で、ついに繋ぎ切った勝機だ。

 

 ──七海さんはダウンして参戦できない。その代わりを務められるとは思えないっすけど。筋、通させてもらいます

 

 「その術式を見て、生き残った者はいない。『四番「竜」』」

 

 龍の如き呪力の奔流が、地面を抉り取りながら宿儺の腹に食らいつき、同時にそこへ斬撃が注ぎ込まれ、狙撃するようにして穿血が放たれる。

 

 ぱぁん、拍手がなる。穿血の先端で加速されていた呪力を纏った血栓が、その手に握られていた竜骨と入れ替わり、音速を超えた速度で特級から注ぎ込まれた衝撃が指向性を以て突き刺さる。

 

 「がっ」

 

 「ぐっ」

 

 簡易領域で軽減し、迎撃してなお有り余る威力をなお発揮する宿儺の斬撃。日下部と猪野の両名はダメージを受けて倒れかけるが、なんとか一歩踏みとどまる。

 

 攻撃を止めるな、反撃の隙を与えるな。

 

 「やはり貴様は動くか、虎杖悠仁ッ...!」

 

 「やっと名前で呼んだな」

 

 魂を揺さぶる打撃が、拍手の音と共に左肩を穿つ。反撃に放たれた斬撃を無理やり耐え抜き、宿儺を突きの構えで待機していた日下部の方へ蹴り飛ばす。

 視線を交わす。どう動けばいいのかは、知っていた。

 即席の連携にしては及第点。同時に空から追尾する獬豸が、周囲には絶対に逃さないと血液の罠が展開され、烏が空を旋回する。

 

 「あー、やっぱバケモンだわ、両面宿儺」

 

 神速の突き、それも一級術師の呪力が十二分に乗った刀の一撃が、手刀によって切り落とされる。

 

 「しかし、脆いな」

 

 空、大地。その全てを薙ぎ払ったのは、宿儺の斬撃だった。

 檻は破られた...が、それでよかった。

 

 音速を超えた飛来物。それが、術師2人を片付け、虎杖悠仁を摘み取ろうとする宿儺の意識外から飛来した。

 

 異国の戦士どもに散々使われた、銃弾。無論、宿儺に取っては何の脅威にもならないはずの一発。そう、本来であれば何の脅威にもならないはずだった。砲撃だろうが核だろうが無意味。

 

 しかし、ちっぽけな弾丸は、想いのこもった弾丸は呪いを貫いた。

 

 弾丸の中に籠っていたのは『簡易領域』。メカ丸の残した技術を、三輪が受け継ぎ、夜蛾の助けを借りて完成させた一発。

 咄嗟にその脅威度を感じとり、4本の腕のうち1本を犠牲に弾丸を防ぎ切る。

 

 「ちっ...『解』」

 

 狙撃先へ一際巨大な斬撃を放つが、既に狙撃主は去ったあとだった。無量空処の影響でぼやけた視界は一瞬、天与呪縛の女が狙撃主を抱えて飛び去った姿を捉えた。

 

 「『超新星』!悠仁、合わせるぞ!」

 

 「あぁ、脹相!」

 

 虎杖悠仁は、黒い閃光に愛されている。必要なタイミングで、閃光は彼に微笑む。

 目眩し代わりの血のカーテンを突き破り、黒閃が宿儺の胸で炸裂する。いい手応え。

 

 「『共鳴り・丑の刻』...まぁ、もうこれぐらいしかできそうにないけど...ねっ!」

 

 瞬間的に宿儺の体が酸に浸されたことでその防御が緩んだのか、黒閃は想像以上に深く突き刺さった。

 これぐらいしかできない、なんて言いながら援護に釘を飛ばしているのは何かの冗談か。

 

 拍手が響き、悠仁の穿った場所へ、東堂の後ろ蹴りが炸裂し、さらに再度入れ替わった悠仁が宿儺を近くの建物まで蹴り飛ばす。

 

 「...か、『獬豸』」

 

 文字通り最後の呪力を込めた一発が、空中で宿儺の姿勢を崩した。

 

 「何かの店っぽい...か?」

 

 あとを追って飛び込んだ施設の中で、宿儺の斬撃を咄嗟に拾ったフライパンを呪力で強化することで減衰し、近くの店舗から掴み取ったネットで絡みとる。

 

 後を追って東堂と、さらに遅れて釘崎が来たのを感じつつ、一瞬だけ動きが止まった宿儺へ膝打ちを喰らわせる。

 2人がそばを通っただけでショーウィンドウが割れ、細かな破片が舞う。

 昼間なのに誰もいない。まるで国が滅んだみたいだ。

 それが誠になるのかも、この戦いの結果次第だ。

 

 「式神かっ!」

 

 宿儺を押さえつけようとマネキン数体が絡みつく。釘が打ち込まれたその姿から、恐らく即興で作られた式神だろうと推察できるが、呪霊が入っていないからかその動きは鈍く、粗雑だ。

 

 マネキンのうち一体を破壊した時、その余波でマネキンが身につけていた商品と思わしきポーチが割れる。中から溢れ出したのは、血。輸血パックのような袋から溢れ出した血液を見て、宿儺は失敗を悟る。

 

 「脹相!」

 

 「良い方の憲紀から輸血パックを用意しておくと何かと便利だと聞いてな」

 

 硬化し、体を縛る檻となった血液が破壊された瞬間、その血塊と東堂が入れ替わり、宿儺の体を揺らした。

 再び打撃と斬撃の応酬が繰り広げられ、徐々に建物が崩壊を始める。

 

 「片腕が動かん。治せそうではあるが。ふむ...この動かん腕と、対応する腕を捧げれば竈の再点火には事足りるな」

 

 「...はっ!?」

 

 釘崎野薔薇の眼は、その絶望的な事実を捉えてしまった。

 竈の再点火、そして縛りによる威力の拡大。

 

 両腕を、その治癒さえ不能にする、文字通り完全に捧げることで竈を再点火する。さらに、実質残機と化していた世界に残る何本かの指との繋がりの破棄。従来通りの領域展開も、世界を断つ斬撃も使用不能になり、近接戦闘能力も減衰する。それほどまでに自ら両腕を消し飛ばすというのは大きな縛り。その上、残機も消した。故に、その効力は大きい。ただ、範囲と威力は大きいが、通常の開と比べて発動までに3倍の時間はかかるようだ。これも縛りの一端か?

 

 この威力だったら、下手したら東京全域が吹き飛ばされてもおかしくはない。

 

 「開を使わせる前に、殺し切るしかない!」

 

 言うが速いか、即座に片腕を構成していた呪力を釘に変換し、撃ち放つ。同時に、宿儺が投げ捨てたものを拾っていたのか、脹相が遅れて追いついた恵に竜骨を投げ渡す。私は打出を取り出し、宿儺目掛けて駆け出す。工夫はもういらない、とにかくがむしゃらに前へ飛び出せ。

 いつかの花御との戦闘の時を思い出すようだ。入れ替わりを繰り返しながら、何度もぶつかり続ける。

 

 『動くな』

 

 録音された、狗巻の呪言が一瞬だけ宿儺の動きを止め、瞬間竜骨が宿儺の片肺を貫く。

 それを新たに用意しておいた烏越しに見守っていた狗巻の喉から血が溢れるが、あくまでも満足げな表情だ。信じたのだ、彼ら彼女らを。役目は果たした。

 あとは、勝ってくれ。

 

 二重の黒閃が宿儺の脇腹を抉る。悠仁のこぶしに重なるようにして、私の一撃も決まる。

 

 「『超新星』」

 

 「『簪』」

 

 攻撃を重ねろ、何かをされる前に沈めろ。なんでも良い、ぶつけ続けろ。

 

 「『竈』」

 

 あぁ、不味い。足りない。あと一撃の時間が。このままだと全滅どころの騒ぎではない。東堂と恵の攻撃でも足りない。──命を捨てるなら、私よね。

 

 「釘崎?...お前、まさか」

 

 「おい、早まるな。その手段はブラザーも望んじゃいない」

 

 命をかけた縛りのよる一撃。この状況を打破するには、この方法しかない。そう思った瞬間。声が聞こえた。聞こえるはずのない声が。ここにいるはずのない2人の声が。

 

 

 

 

 「あぁもう!七海さん!絶対安静って言われてるんですからね!怒られても知りませんよ!溶岩に全身焼かれたようなもんでしょ!」

 

 「えぇ、そうですね、吉野順平くん。でも、ナイスタイミングです。えぇ、本来なら休業のこの日──残業を超える苦行、休日出勤です。しかも、無給です」

 

 巨大なクラゲが宿儺の体を縛り付け、そこ目掛けて呪力を纏った瓦礫が降り注ぐ。

 あぁ、これは...順平の術式だ。

 

 「十劃呪法『瓦落瓦落』」

 

 そして、その瓦礫に紛れた七海が、宿儺の背中を7:3に切り裂いた。

 この瞬間、宿儺の術式の展開が僅かに遅れた。この一瞬が欲しかった。

 脹相が送り出すようにして穿血を放ち、宿儺の膝を穿つ。

 

 「足りた、最後の一手が...!行け、悠仁!」

 

 「ぶちかませ、ブラザー!」

 

 「決めろ!」

 

 

 

 「うぉ、うぁああああああアアアアあっ!

 

 黒閃。史上観測された黒閃の中でも、最も巨きな火花が散った。

 






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