直哉成り代わり♀がいく実力至上主義の教室   作:一夏 茜

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お久しぶりです。次もかなり先になりそうです。


第12話

 

「ただし。櫛田さんを誘うのはあなたたちよ。提案したのはあなたなんだから当然でしょう?」

 

 腕を組みそっぽを向いて、実に堂々とした振る舞いで堀北は言い放つ。あくまでお前たちが言い出したのだから私は関与しない、とでも言いたいのか。それが堀北にとってギリギリの妥協点なのだろう。プライドが高い人は大変そうやね。……しかし、ほんま何様やねんこいつ。態度だけは一丁前やね。私はこめかみに青筋を浮かべたが、横で清隆くんがまあまあと言わんばかりに肩に手を置いてきた。

 

「わかった、櫛田を誘えばいいんだな」

「いい? 肝心なのは最終的に須藤くんたちを連れてくることよ。そうね、図書館に連れてきて。これ、私の携帯電話とアドレス。何かあったらこれで連絡して」

 

 そう言うことで、清隆くんと私は教室に戻ってきていた。櫛田はすぐに見つかる。何人かの女のクラスメイトに囲まれて談笑していた。名前が思い出せへん雑魚の連中や。ま、今はどうでもええな。清隆くんをそれを見て躊躇したように止まるが、私は気にせずずんずんとその輪に割って入った。

 

「ちょっとええ?、桔梗ちゃんに用事があるんやけど」

「……いきなり何よ?」

 

 その中の何人かがこちらを睨む。不快そうなその目に写るのは少しの敵意。カーストの下を見る、嘲りを含んだ瞳でもある。

 はて舐められてるんやろか。泣くまで虐め倒したろかとも思ったが……どうも今はめんどくさくて無視することにした。まあ機会があれば泣かしたるわ。羽虫にいちいちマジになるのもかっこ悪いしな。私は櫛田を見ながら、お願いっと手を合わせて頼み込む。

 

「ちょっと教室の外で話がしたいんや。な? 頼むわ。桔梗ちゃんにしか頼めへんのや。もちろんお礼はするで」

「珍しいね、禪院さんから話しかけてくれるなんて。今友達とお話ししてたんだけど……いいよ。それにお礼なんていらないよ。本当に困ってそうだしね。ごめんね、皆ちょっと行ってくるね」

 

 清隆くんと櫛田を連れて教室の外にやってきた。櫛田は半ば強引に連れてきたのにも関わらず、ニコニコと一切気分を害した様子もない。

 教室の外にやってくると、今度は清隆くんが須藤たちを助けるための勉強会を開きたいのだと説明した。

 

「この勉強会を通じて堀北と仲良くなれるかもしれないし、そう思ってさ」

「仲良くはなりたいけど……そう言う心配はいらないよ? 困ってる友達がいたら助けるのは当たり前じゃない? だから手伝うよ!」

 

 ちょっと嘘くさいくらいできた人やわ。これには私も感心した。

 

「ほんま、桔梗ちゃんはえらいいい子やね。鈴音ちゃんにも見習ってほしいわ」

「ふふっそんな言い過ぎだよ。見習うだなんて」

 

 櫛田はくすくすと鈴を転がすように笑った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「なあなあ清隆くん、この漫画読んだ? アニメ化もされててなぁ、なかなかおもろいで」

 

 私はベッドにゴロゴロと仰向けに横たわったまま、持ち込んだ漫画本を掲げて清隆くんに見せた。そばのテーブルには食べ終わったカップ麺の空箱が二つぶん置いてある。

 

「いや、読んでない。そんなことより、お前なんで俺の部屋にいるんだよ……」

 

 ここは男子寮。清隆くんの部屋だ。放課後押しかけるようにして一歩足を踏み入れた私は、その違和感にぐるりと部屋を見回したものだ。

 殺風景でほとんど何もない。普通もう少し何かあるやろ。趣味の一つもないんかな。清隆くんの心を表しているようだとも思った。……これは色々と私物を持ち込んで、彩りを与えるしかないな。その一環として持ち込んだのがこの漫画たちだ。

 

「まあええやんええやん。清隆くんも普通の男子生徒になりたいんやったら漫画の一つでも読んでみたらええで。趣味くらい持ってるのが普通なんやから」

「……確かに?」

 

 清隆くんが押し付けられた漫画の一冊目を促されるまま読み始める。私はニコニコとしながら頬杖をついてそれを眺めていた。何が好きで、何が嫌いなのか。私はそれが知りたかった。清隆くんの心に触れてみたかった。

 

 その時、無機質なバイブ音が鳴り響く。清隆くんのスマホや。私はそれを手にとって、通知がきていたメールボックスを開いた。清隆くんは「あ」とこちらに手を伸ばしたっきりだ。今日来ていたメールは一件だけ。

 

「お前……勝手に」

「お、桔梗ちゃんからやね、山内と池からはオッケーやって。須藤は……好感触らしいわ、やっぱやるやん桔梗ちゃん。さすがやね」

 

 はい、と私は清隆くんにスマホを返す。

 それを受け取り、呆れたようにため息を吐いた清隆くんは立ち上がる。

 

「どしたん?」

「風呂に入る、お前さっさと帰っとけよ。そろそろ立ち入り禁止時間だろ」

「それもそうやね。あ、明日も来てええかな?」

 

 清隆くんは言葉に詰まったように一瞬黙り込んだ。予想外の言葉に悩んでいるようだ。私は畳み掛けるように上目遣いで手を合わせた。

 

「お願いっ清隆くん。何やったら夕飯私が作ったるから。毎日カップラーメンっていうんも体に悪いやろ?」

「直哉は料理できるのか?」

 

 意外だとでもいうような顔をした清隆くんに、私は頬を膨らませる。

 

「当たり前やろ。私が毎日何食べとると思っとるんよ」

「いや……悪い。直哉は実はお嬢様なんだろ? そういうのに慣れてないんじゃないかと思ってな」

 

 私はニコッと笑って言った。

 

「楽しみにしとってや? 絶対美味いて言わせたるから」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日の放課後。退屈な授業をいつも通りこなした私は、堀北と清隆くんと共に図書館に向かう。外観から綺麗で大きい建物だ。そして、図書館の端にある長机の一角にスペースを確保して腰掛けた。もちろん私は清隆くんの隣だ。

 

「連れてきたよ〜!」

 

 すぐに櫛田がやってくる。その背後には池と山内、須藤の三人がいた。それと沖谷という男子生徒も。なんでも赤点ギリギリで心配だったからとのこと。さすが桔梗ちゃん、人を集める能力に関してはピカイチやね。

 

 堀北はここにいるメンバーに50点を目指してもらうとのことだ。

「ギリギリのラインを越えるように挑むのは危険よ。赤点を楽に越えられるようでなければ、もしもの時に困るのはあなたたちよ」

 赤点組は渋々、他は素直に頷いた。

 

「今度のテストで出る範囲はある程度こちらでまとめてみたわ。テストまで残り二週間ほど、徹底して取り組むつもりよ。分からない問題があったら、私に聞いて」

 

「……おい、最初の問題から分からないんだが」

 

 須藤は睨みつけるとうに堀北をみた。それに応じて、清隆くんは声に出して問題文を読む。

 連立方程式の問題やね。第一問目としてはなかなかいい問題なんやない?

 

 「少しは頭を使って考えろ。最初から考えることを放棄していたら前に進めないぞ」

 「んなこと言ってもよ……俺は勉強の方はからっきしなんだ」

 「うげ、俺もわかんね……」と池。

 

 私はペンを回して欠伸した。

 難航しそうな予感だ。

 

「沖谷くんは分かる?」

「えっと……A+B+Cが2150円で……A=B +120……で」

「うんうん、合ってる合ってる。それで?」

 桔梗は優しく頷きながら教えていた。

 

「いい?これは連立方程式を用いて簡単に答えを求めることができるの」

 

 堀北も堀北なりにペンを走らせ頑張って教えている、だが……。

 

「そもそも連立方程式ってなんだよ……」

「……本気で言っているのか?」

 清隆くんが引いた声を出した。今まで勉強に力を入れたことがなかったのだろう。

 そして……ついに須藤はペンを投げた。

 

「ダメだ、やめる。こんなことやってられるか」

 

 須藤以外も沖谷以外は皆やる気をなくしている。忍耐力も、努力しようと言う気もないカスには妥当な結果やね。

 

「ま、待ってよ皆。もうちょっと頑張ってみようよ。解き方を理解すれば、あとは応用だからテストでも活かせるはずだし。ね? ね?」

「……まあ櫛田ちゃんが言うなら、頑張ってみてもいいけどさ……」

 

 堀北は無言だ。間違いなく腹を立てていることは分かる。

 櫛田は意を決してシャーペンを取ると丁寧に説明しながら、スラスラと三行の方程式を連ねていく。だが、それは当たり前に分かるだろうと基本が省略されている。

 

「……え、これで答え出せるのか? なんでだ?」

「う……」

 

 ついてこれている者はいない。

 それを無言で見ていた堀北が口を開いた。

 

 

「あなたたちを否定するつもりはないけど、あまりに無知、無能すぎるわ。こんな問題も解けなくて将来どうしていくのか、私は想像するだけでゾッとするわね」

 

 

 まあ、いつか爆発すると思ってたんよな。

 

 

「っせえな。お前には関係ないだろ」

「確かに私には関係ないことよ。あなたたちがどれだけ苦しもうと、影響はないから。ただ憐れみを覚えるだけ。今までの人生辛いことから逃げて来たんでしょうね」

 

 

 一理ある。一理あるからこそタチが悪い。私はため息を吐いた。

 勉強なんてしなくてもバスケをやってプロを目指した方がよっぽど役に立つという須藤を論破していく堀北。

 堀北の言うには、一つ一つの問題を解けるようになって初めて今までの生活に変化が現れる。つまり勉強をしていれば苦労しなかった可能性があると。

 そこで止めときゃいいのに、さらに須藤の大事な「バスケ」にもその逃げの姿勢で取り組んでいたのではないかと詰める。本当に苦しい部分には勉強のように逃げていたのではないか、と。

 最後に堀北は自分が顧問ならレギュラーにはしないと言ってこの言葉を締め括った。

 

 

 結果は……分かるやろ?

 

 今────須藤が堀北の胸ぐらを掴んでいた。堀北は眉も動かさず、冷めた目で須藤を見ていた。

 

「私はあなたには全く興味がないけれど、見ていればどんな人間かは大体わかるわ。バスケットでプロを目指す? そんな幼稚な夢が、簡単に叶う世界だとでも思っているの? あなたのようにすぐ投げ出すような中途半端な人間は、絶対にプロになんてなれない。そんな現実味のない職業を志す時点で、あなたは愚か者よ」

 

 

 

「────それは違うで」

 

 

 

 私は立ち上がっていた。そして少し首を傾げて言う。

 

「夢はでかいほうが燃えるんや。つまらん価値観でベラベラ言うんは勝手やけどな、今の君、みっともないで。現実味がないから諦めるなんて、みっともない弱者の理論や」

 

 現実味があるから、叶いそうだからその道を選ぶなんて雑魚のやること。

 須藤や、池たちは私が割り込んだことに目を大きくさせていた。まさか味方するとは思っていなかったのだろう。まあ別に味方をしているわけじゃない。

 

 

「ま、鈴音ちゃんが切れるんもわかるけどな。こっちは何も意地悪でこの場を用意したんやなくて、理由はただ一つ。君らに退学してほしくないからや。その親切心を裏切るようなやる気がない様子を見せられたら、誰だってムカつくわ。……ま、今日はここら辺でいいんちゃう? お互いに頭冷やす時間が必要やろ」

 

 

 池や須藤、山内は教科書をカバンに詰めてチラチラこちらを見ながら去った。普通に無視やけどね、別に嫌いやし。

 無言で立ち尽くす堀北に私は肩をすくめて告げた。

 

「君には人望がないわ。このままやとクラスを引っ張るリーダーにはなれんやろね」

「……私は間違ったことは一つも言っていないわ。大体あなたに何がわかるのよ、あなただって人望なんて……」

 

 そこで少しひっかかった顔をする堀北。

 

 

 

「『正しい』ことだけ言ってれば人はついてくるわけやないんやで」

 

 

 

 私はそれだけ言うと堀北に興味をなくした。散々勉強ができない彼らをこき下ろしていたが、堀北も堀北でリーダーとしては欠陥もいいとこだ。その一点では、平田や櫛田は安定感もあって強いと言えなくもない。

 

 正論が嫌いと若き日の五条悟も言っていたことだし。

「正論」っていうのは言う側は気持ちいいかもしれんけど、それだけや。それだけじゃ人は動かない。

 

 

 堀北は一番大事なそれがわかってへんのや。

 

 

 

 

 

 

 

 黙り込んで教科書に目を落とす堀北を置いて、歩き出した時。清隆くんはふと聞いた。

 

「なんで、直哉はあの時ああ言ったんだ? いや……普段の直哉だったらわざわざ突っ込んだりしなかっただろ? あいつらが好きってわけでもないだろうし」

「なんか……ムカついたんよな」

 

 

 夢を否定する奴は……ムカつくんよな。

 

 

 だって誰にも憧れは止められない。そう言うものだと決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

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