頭からっぽで考えたタイトル。

今回は虹夏ちゃんのお父さんの事について個人的な見解で書いてみました。原作で特別編を除いて登場してないので実際のところは分かりませんが、お父さんも相当苦労してるとは思うのでいつか和解してほしいとは思いますね。
そして途中なぜか差し込まれる真面目マッサージ。そこはもう書きたかったからとしか言いようがないです。

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寒い時はどうする? そうだ、ハグしよう!

星歌side

 

「はぁ!? お父さん明日の温泉旅行行けないの!?」

「緊急の仕事が入ったんだと。まぁ仕方ないさ」

「……そりゃ仕方ない事だけどさ、お父さんが久しぶりに家族で出掛けようって言ってくれて嬉しかったのに……」

「父さんも残念に思ってるさ。すごく謝ってたよ」

「……」

「なぁ虹夏。父さんが仕事頑張ってくれてるから生活出来てるんだし、私がSTARRYを開業出来たのも父さんの力添えが大きいしさ、今回は……」

「……もういいよ、分かってるから。私明日の準備してくる」

「虹夏……」

 

 はぁ、すっかり拗ねちまったな虹夏。今回の旅行で父さんと虹夏の関係を修復したかったんだが、上手くいかないもんだ。

 しかしこうなると問題は余った父さんの分だな。父さんには2人で3人分楽しむなり、誰か誘うなり好きにしていいとは言われたけが。ふむ……。

 

 

 

 

 

 

『えっ!? わ、私がお二人と一緒に旅行に!?』

「あぁ、1人分余ってな。ぼっちちゃんも一緒にどうかなって思ってさ」

『で、でもそれならリョウさんとかの方がいいんじゃ……』

「いやリョウは……」

 

 リョウは呼べばタダ飯目当てにやってくるだろうが24時間あいつの介護をしてたら余計に虹夏のストレス溜まるだろうし、もしかしたら逆に気晴らしになるかもしれんがこれ以上あの野良ペルシャの世話が身に染み付いてしまったら最悪の場合ルームシェアするとか言い出しかねない。それだけは断じて阻止せねば。

 そんな事になったら婚期が遅れてしまう。独身がペットを買うと婚期遅れるって言うし。私は虹夏には可愛い子供を産んでもらって、可愛い姪っ子か甥っ子を抱っこするのが私の密かな夢なんだ。出来れば姪っ子が良い。ちょっと内気だと尚良し。

 しかしぼっちちゃんに「お義姉ちゃん♡」って呼んでもらうのも捨てがたい。悩ましいところだ……。

 

「あいつは家が裕福だから旅行なんて飽きるほど行ってるだろ。誘い甲斐が無い」

『あ、確かにそうですね』

 

 ちなみに喜多は嫌いじゃないんだがあのテンションと常に居続けるのは正直シンドいから喜多も選択肢から除外してる。

 

「まぁ急な話ではあるんだけど出来れば来てほしいんだ。ちょっと色々あって虹夏の奴落ち込んでて……」

『行きます』

「え?」

『あ、いやその! に、虹夏ちゃんが落ち込んでるなら力になりたくて。な、何も役に立てないかもしれないですけど……』

 

 ふぅん? へぇ? 虹夏が落ち込んでるって聞いた途端どもりもせずに二つ返事か。

 

「……ふふっ。じゃあOKって事でいいんだな?」

『あっはい。ご迷惑でなければ』

「何言ってんだよ私から誘ったんだから。サンキュ。虹夏も喜ぶよ、よろしくな。じゃあまた明日」

 

 虹夏のヒーローさん、と心の中で呟いて電話を切る。

 ……やっぱぼっちちゃんに「お義姉ちゃん♡」って呼んでもらう路線で行くか?

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ヘッドライト、防犯ブザー、GPS、遭難用ホイッスル、迷子プレート、非常食を装備したぼっちちゃんと合流した。……私、今日行くのは秘境探索だなんて言ったか?

 そして今は私たちは温泉宿に向かうべく電車に揺られている。

 

「ぼっちちゃん急だったのにありがとね。来てくれてうれしいよ」

「い、いえ。よ、予定はいつも空けてるので全然大丈夫です」

「あはは、そっか。じゃあ旅館に着いたら温泉でゆっくりしようか」

 

 そうだな。温泉なんて久しぶりだ。父さんが来れなくなったのは残念だけど、じっくり温泉に浸かって日々の疲れを癒すとするか。

 ……待てよ。温泉ということは複数人で風呂に入れるって事だよな。つまり、合法的にぼっちちゃんと一緒に風呂に入れる……? つまりつまり、ぼっちちゃんのわがままボディを拝める……!?

 

「ぶはっ!!」

「て、ててて店長さん!? 急に鼻血が!」

「放っといていいよ」

 

 

 

 

 

 

 そして電車からバスに乗り換え、私達は目的の温泉旅館へ辿り着いた。

 

「意外と遠かったね〜。疲れた〜」

 

 客室へと案内されるとすぐに畳の上にゴロ寝する虹夏。

 まぁ本来は父さんの車でサクッと来る予定だったからな。だがそんな事を口にしたらまた虹夏が拗そうだから言わないでおこう。

 

「まぁまぁ長旅だったな。ぼっちちゃんも疲れたんじゃないか?」

「あ、私は普段から電車に長時間乗ってるのでそこまでは」

「あー……」

 

 そういやそうだった。地元での自分を知らない人間がいない所を選んで金沢八景から態々県外に通学してるんだったか。そう考えるとぼっちちゃんって方向性はアレだけど引っ込み思案な割には行動力あるよな。

 

「じゃあさっそく温泉に入って疲れを取ろうよ!」

「あ、はい。わ、私虹夏ちゃんと店長さんのお背中流します!」

 

 なん……だと……! つまり……。

 

『店長さん、擦るの強くないですか……?』

『ああ丁度いいよぼっちちゃん』

『えへへ、良かったです。……あっ!』

『おっと。……ふふっ、そんな所を触るだなんてエッチだなぼっちちゃんは』

『わ、わわワザとではないんです! ごめんなさい!』

『気にしなくても大丈夫さ。ぼっちちゃんならどこでも触ってもいいんだぞ。ほら』

『あ、店長さんの、やわらかい……』

『まだ触りたいところ、あるんじゃないか……?』

『店長さん、私、私……!』

 

「ぶへぇっ!!」

「ひぃっ! 店長さんが色々な所から血を!」

「放っといて私達だけで温泉行こうか?」

 

 そうは行くか……! ここで命尽き果てようとも私もぼっちちゃんと温泉にぃっ……!!

 

 

 

 

 

 

「で、なんで私がお前の頭を洗ってるんだ?」

「いいじゃん。可愛い妹を甘やかせるのも姉の特権でしょ? ねーぼっちちゃん」

「あ、はい」

 

 最近のふたりは私を舐め切ってますけどね、へへ……。っと卑屈に笑うぼっちちゃん。

 だ、大丈夫だってぼっちちゃん。妹って生意気なもんだし。

 

「ったく……。ほら、痒いところはございませんか。お姫様?」

「んー、頭のてっぺんかな?」

 

 へいへい、っと虹夏の頭頂部をカシカシと擦る。

 

「あーそこそこ、苦しゅうないぞ」

「そらようございました」

 

 しかしこいつの頭を洗ってやるのも久しぶりだな。昔は一緒に風呂に入って洗ってやってたもんだが髪も子供の頃と比べると随分伸びたし洗うのも一苦労だ。それだけこいつもデカくなったって事かな? まぁ背も胸も小さいが。

 

「ってぶわ! おい頭のアホ毛を振るな! 泡が飛び散ってんだよ!」

「なーんか失礼な事考えてた気がしたんだよね」

 

 こいつ何時から読心術者になったんだ。我が妹ながら恐ろしい……。

 

「ほら、頭流すぞ」

「えー、もう終わり?」

「これ以上どこ洗えってんだよ。……また洗ってやるから」

「へへー、言質とったからね?」

 

 だー! アホ毛振らすなっての! ……やれやれ、根っこのところは相変わらず甘えん坊なんだよなこいつ。

 さて……。

 

「ふ、ふふふ……、ぼっちちゃん待たせたな。さぁ隅々まで洗ってやるからバスタオルを取ってこっちに……」

「あ、ぼっちちゃんは私が洗ってあげるからお姉ちゃんは先に温泉に浸かってろ」

 

 虹夏に頭を掴まれてそのまま風呂に投げ込まれる。

 おのれ虹夏。こうなればぼっちちゃんの裸体を脳内フォルダに焼き付けて……! と温泉からぼっちちゃんを眺めていると、虹夏の投げた風呂桶が眉間に直撃して意識を吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「ててて……。加減しろよな」

「ぼっちちゃんに邪な視線を送る方が悪いでしょ」

「なんだ? 嫁の裸は見せたくないってか」

「次はジャーマンスープレックス?」

「ごめんなさい」

 

 こいつの技のキレはリョウのせいですっかり鋭くなっちまって食らえばタダじゃすまねえからな。

 

「あ、あの、良く分からないですけど喧嘩は……」

「あー大丈夫大丈夫。これくらい喧嘩の内に入らないから」

「あはは、そういう事。でもビックリさせちゃったかな? ごめんねぼっちちゃん」

「い、いえ。喧嘩じゃないなら良かったです」

 

 ホッとするぼっちちゃん。やっぱ良い子だなぁ。

 

「しっかし、ちゃんと湯船に浸かれなかったせいかイマイチ疲れが取れてない感じがするな……」

「え、あ、ごめん……」

「いやんな気にすることじゃねえよ。今日は泊まりに来てんだ。流石に一日に二回も風呂に入る気にはなれないけど、明日の朝一にでも……」

「あ、あの!!」

 

 うお、ビックリした。急にデカい声出してどうしたんだぼっちちゃん?

 

「す、すみません調節間違えました。あの、良かったらマッサージしましょうか?」

「え? いいのか!?」

「は、はい。店長さんにはこんな無能な私を雇ってもらって、普段からお世話になってますから……」

 

 な、何という僥倖……! 私はこの日の為に産まれてきたのでは……!?

 

「じ、じゃあお願いしようかな?」

「は、はい! 頑張ります!」

「…………」

 

 う、虹夏が刺すような視線を送ってくる……。

 だが仕方ないだろう? ぼっちちゃんの折角のご厚意を無下にする訳にもいかないしな!

 

「えっと、特に辛い場所とかありますか?」

「ん、そうだな……。普段座りっぱなしで足腰張ってるからさ、足の方から頼めるか?」

「わ、分かりました。横になってもらえますか? うつ伏せで……」

「あいよ」

 

座布団を枕にしてぼっちちゃんの指示通りうつ伏せになる。

 

「じゃあ足裏から始めていきますね。」

 

 ギュッ、ギュッ、グリグリ……

 

 あ〜〜〜〜〜〜痛気持ちいい〜〜〜〜〜……。

 私の土踏まずをぼっちちゃんの親指がグリグリと痛すぎない範囲で押し込んでくる……。

 

「い、痛くないですか?」

「いや丁度いいよ……。最高……」

「あ、へへ。なら良かったです」

 

 そのままぼっちちゃんが時には親指。時には人差し指の第二関節でグリグリゴリゴリと、足の指、踵、踵の横と足の裏を全体的に絶妙な力加減で解していく……。

 足裏マッサージって痛いイメージだったけど、適切な力加減でしてもらうとこんな気持ちいいんだな……。

 

「ほへぇ……」

「えっと、足裏は大体解れたので次はふくらはぎを解していきますね」

 

 ギュッ、ググッ……、ギュッ……

 

 あ、たた……。今度は親指じゃなくて手の平で押し込むようにしてふくらはぎが解されていく。が、効くなこれ……。

 

「あ、すごく張ってますね……。ちょっと痛いかもしれませんけど、少し我慢してください」

 

 グッ、ググッ、ギュウゥゥゥゥッ……

 

 うっ、くぅぅぅぅ……! マジで効く……!

 元々運動なんざするタイプじゃなかったけど、STARRYを開業してからというもの椅子に座って毎日パソコンとにらめっこだったからなぁ。ウォーキングくらいするべきかな……。

 

「はぁぁ……」

「じゃあ次は太ももを。ここはもっと強く押し込んで……」

 

 ぼっちちゃんがふくらはぎの時よりも更に圧をかけて押し込んでくる。だけどさっきと違って痛みは控えめで、まるで太ももの中に溜まったガスが抜けていくように押し込むごとに疲労が抜けていく。

 

「あ~~~……、ここもいい……」

「て、店長さん足が全体的にパンパンに張ってますね」

「デスクワークしてるとやっぱりなぁ……」

 

 前は虹夏にマッサージしてもらってたけど受験勉強が本格化してからはそれも頼むに頼めなかったしなぁ。

 

「じ、じゃあ次はお尻を解していきます」

「し、尻!?」

 

 マッサージにかこつけてそんなところを触るだなんて。ふふっ、ぼっちちゃんもやはりお年頃という訳か……。

 

「あの、多分すごく痛いと思いますけど我慢してくださいね?」

「え?」

 

 そう言うやぼっちちゃんの親指が私の尻の側面をグリグリと押し込んでいく。その瞬間。

 

「…………!!!!!」

 

 私のケツに電流でも流したのかと思うほどの痛みが走った。

 

 痛い痛い痛い痛い!! な、なんだ!? ふくらはぎの時とは比べ物になんねえくらい痛いぞ!?

 

「あ、やっぱり……。お尻ってあんまり意識することないですけど実はすごく負担が掛かってるんです。実際今私そこまで力入れてないですけどそれでも相当痛いですよね……?」

「ち、力入れてない!?」

 

 嘘だろ!? 尻に指が貫通してるんじゃないかってくらい痛いぞ!?

 

「で、でもここを解したらだいぶ楽になると思いますので頑張ってください」

「う、くく、くぅぅぅぅ……!」

 

 ぼっちちゃんに頑張ってとか言われたら頑張るしかねぇ……!

 そして尻の上の部分や真ん中をグリグリと全体的にマッサージし終わると手を離した。

 

「こ、これで片足は終わりです。ど、どうでしょうか……?」

「どうって……。ん?」

 

 な、なんだこれ。すごく軽い! マッサージしてもらった右足と、まだしてもらってない左足で随分違うぞ! それに血が巡ってる感じがしてすげー温かい!

 

「うへへ、効果あったみたいで良かったです……」

「サンキューなぼっちちゃん。最高だよ。もう片足も頼めるか?」

「あ、はい。もちろんです。左足も終わったら次は上半身を……、って、あれ?」

 

 ぐえ!? なんだ!? 急に腰に何か重いのが……!

 

「……そんなに重くないでしょ。背も胸も小さいんだから」

「に、虹夏?」

 

 な、何なんだ急に、私の背中に乗っかってきて。

 

「私もマッサージしたげる」

「え? 虹夏も?」

「なに? 嫌な訳?」

「いやそんな事は無いが……」

 

 な、なんか不機嫌じゃないか? どうしたんだ一体。

 

「よーしぼっちちゃん。私は上半身やるから、ぼっちちゃんはそのまま残りの足をお願い」

「あ、分かりました。でも虹夏ちゃんはゆっくりしてて大丈夫ですよ? 私全部やりますので……」

「良いの良いの。二人でやった方が早いし、それに旅館のご飯もそろそろ届くかもしれないでしょ?」

「あ、確かにそうですね。じゃあお願いします」

「うん、任された! じゃあお姉ちゃん、肩からマッサージしていくから力抜いててね? ギュッギュっと……」

 

 虹夏の親指が私の肩のイイトコロを揉み解していく。ああ……、効くな……。

 

「はぁぁ……、気持ちいいな……」

「ふふーん、お姉ちゃんが揉まれて気持ちいい所は全部把握してるからね。こことか、ここも」

 

 虹夏の指が首と肩の付け根、肩と腕の付け根、肩甲骨周りをグリグリゴリゴリと解していく……。めっっっっちゃ気持ちいい……。

 左足はぼっちちゃんがさっきと同じようにマッサージしてくれて、上は虹夏がマッサージしてくれて、なんだこれ。天使二人にマッサージされて、ここが天国か?

 

「……どうなの?」

「……ん? え? な、なにが?」

 

 虹夏が私の耳元にいつの間にか顔を寄せて、小声で声を掛けてくる。

 

「……ぼっちちゃんと私のマッサージ、どっちが最高なの?」

 

「…………」

 

 チラッと虹夏の声のする方へ顔を向けると、ちょっと拗ねたような虹夏の顔があった。

 ……ははぁん? こいつ、急にぼっちちゃんに割り込むようにマッサージしてきたからどうしたのかと思ったけど、なるほど。私がぼっちちゃんをべた褒めするもんだから妬いてたのか。

 寝そべったまま手を上げて、虹夏の頭を撫でる。

 

「……これでいいか?」

「……うん」

 

 アホ毛をピコピコ揺らす虹夏。ったく、可愛い奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く二人にマッサージをしてもらい、私はすっかり夢心地になっていた。

 

「いやー二人ともサンキューな。温泉入るよか効果あったよ」

「い、いえ、お役に立てて良かったです」

「でもすっかり硬くなってたね。私も試験終わったし、これからはまたマッサージしてあげるよ」

「ああ、助かるよ。……しかしアレだな。今は私がマッサージされる側か。歳を取ったって事かな?」

「あ、前は店長さんがマッサージしてたんですか?」

「ああ。昔は母さんの肩揉んだり」

 

 だからだろうか。

 

「仕事で疲れてる父さんに足踏みマッサージしてやってたな」

 

 この旅行に来る経緯をすっかり忘れてしまっていたのは。

 

「……ふーん、そういうことしてあげてたんだ」

 

 ……ハッ!?

 

「あ、いや! 昔な、昔!」

「別にそんな慌てなくてもいいじゃん。……ちょっとマッサージで疲れたから外の空気吸ってくるね」

 

 ご飯の時間までには戻ってくるから、そう言って虹夏は部屋を出ていった。

 しまったぁぁ……! 折角父さんの話題も出さない様にして、虹夏の頭の中から父さんの事抜け落ちてたっぽかったのに、すっかり油断してた……。

 

「まずったな……」

「あ、あの、一体何が……」

 

 オロオロとぼっちちゃんが慌ててしまってる。そういやぼっちちゃんには今回の温泉旅行の細かい経緯は話してなかったか。

 

「あー……。ぼっちちゃんって私たちの父さんの事は何か聞いてるか?」

「え? えっと、仕事が忙しくて家に殆どいなくて、だから虹夏ちゃんも家族は店長さんだけって……」

 

 ……家族が私だけって、そこまで言ってたのか。そこまで深刻なレベルの溝が出来てたのは知らなった。

 

「……まぁその父さんから久しぶりに家族そろって出掛けようかって話が来てな。それが今回の温泉旅行で、虹夏も喜んでたんだけど結局仕事が入っちまって来れなくなったんだ。だから虹夏のやつが落ち込んでるって言ったのはその事でさ」

「え。そ、そんな大切な旅行に私なんかが……」

「そこは気にすんな。私がぼっちちゃんが良いと思って声掛けたんだから」

 

 実際さっきまで虹夏は楽しそうだったし、人選に間違いは無かったはずだ。問題は私の迂闊さだ。

 どうすっかな。放っときゃいつも通りの顔で戻ってくるだろうが、それはいつも通りの顔を被って胸の中の気持ち悪いのを隠してるだけだ。それじゃあ意味が無いんだ。

 

「……なぁぼっちちゃん。虹夏のところに行ってきてくれないか?」

「え!? わ、私ですか!?」

「ああ。虹夏の悩みの相談でも、愚痴でもいいから聞いてきてあげてほしいんだ」

「い、いや、私なんかが言っても何も役に立たないし、それに店長さんの方が良いんじゃ……」

 

 確かに私が行った方がいい、っていうか私が行くのが筋ってもんだろうが……。

 

「家族だからこそ話しにくい事ってあるだろ? 私が行っても『何でもない、大丈夫』って言われるのがオチさ」

「で、でも」

「別に悩みを解決してほしいって訳じゃない。ただ虹夏の傍に、虹夏の心に寄り添ってあげてほしいんだ。頼む、ぼっちちゃん」

「……!」

 

 ぼっちちゃんに向けて頭を下げる。きっと私が出来るのはこれだけだ。

 

「わ、私が行っても、役には立てません……」

「……」

「でも」

 

「虹夏ちゃんが悲しんでるなら、私は虹夏ちゃんの傍に行きます」

 

「……ありがとう。虹夏の事、よろしくお願いします」

「は、はい!」

 

 バタバタと部屋を出ていくぼっちちゃん。

 後はぼっちちゃんに任せよう。きっと虹夏がぼっちちゃんの事をヒーローって言ったことは、間違いじゃない。

 

 

 

 

 

ぼっちside

 

 

 二階の部屋を降りて下にある中庭へ向かう。外の空気を吸ってくるって言ってたし、わざわざ旅館の外まで出ないだろうから行くならそこだよね。

 旅館のスリッパを借りて中庭へ出て適当に歩いていると、そこには夜空を見上げてる虹夏ちゃんがいた。

 

「……綺麗」

「……あれ? ぼっちちゃん?」

 

 し、しまった! 星空の中にいる虹夏ちゃんが綺麗で声に出しちゃってた! まだ何を話すか全く決めてないのに……!

 

「ぼっちちゃんも星空見に来たの? 綺麗だよね」

「い、いえ、綺麗って言うのはその、あの、……はい」

「……」

「……」

 

 ……駄目だー! やっぱり何も言うべきことが思い浮かばない! やっぱり私は何も役に立たないプランクトン……。

 

「……お姉ちゃんから」

「は、はい!?」

「お姉ちゃんから何か聞いた?」

「あ……、この旅行の経緯は聞きました。お、お父さんと来る筈だったんですね」

「うん。ずっと仕事仕事だったお父さんが一緒に出掛けようって言ってくれて、すごく嬉しかったんだけどなぁ」

 

 結局仕事にお父さん取られちゃった、って寂しそうに笑う虹夏ちゃん。

 

「に、虹夏ちゃんは、お父さんの事……」

「……嫌いな訳じゃないの。私が奨学金も借りずに大学行けるのも、お姉ちゃんがSTARRYを開業できたのもお父さんのお陰だし」

「……」

「でもね」

 

「心の中にいる、いじけた私がお父さんを許してくれないの」

 

 心の、中?

 

「お母さんが亡くなって、私がひとりぼっちになった時なんだけど」

 

 ひとりぼっち……? でも虹夏ちゃんには店長さんがいるよね? でもきっと今はそこに触れない方が良い気がする。

 

「お父さんも最低限の事はしてくれてたんだけどやっぱり仕事仕事で、全然傍にいてくれなかったんだ」

「分かってはいるの。お父さんが仕事をしてこないと私たちは生活が出来ないから、あの時お父さんはお父さんなりに私を気にかけながら仕事を頑張ってたんだって」

「……でもあの頃私はたったの9歳で、そんな事分かる訳なくて。どうしてお父さんは傍にいてくれないんだって、一人じゃ結べないリボンを抱きしめて泣いてたんだ」

 

「虹夏ちゃん……」

「中学生になる頃には何となく分かる様にはなったんだけど、頭で理解出来ても心の奥で納得出来ないって、あの日の私がずっといじけてるんだ」

 

 ……そっか。虹夏ちゃんはお父さんが大好きだったから、自分をひとりぼっちにしたお父さんの事が許せないんだ。

 俯く虹夏ちゃん。涙は流れてないけど、どうしてだか私には泣いてるように見える。な、慰めてあげたいけど何も言葉が出てこない……。

 何も言えない……。何も言えない、なら……。

 

『ただ虹夏の傍に、虹夏の心に寄り添ってあげてほしいんだ』

 

 ……!

 

「……ごめんね、辛気臭いこと話しちゃって。もう……」

「あ、あの!!」

「え?」

「い、今、虹夏ちゃんの心をそんな無理矢理に納得させる事、ないと思います」

「……でも、お姉ちゃんもお父さんと仲直りしてほしそうだし、お母さんだって、きっと……」

「で、でもそれは、虹夏ちゃんが辛いだけです」

「……何言ってるのさ。私があの時どれだけ寂しかったか、分かったような事……!」

「分かります!」

「……あ、え? な、何言って」

 

 ぜ、全部は分からないけど、少なくとも独りぼっちの寂しさは他の誰よりも私は知ってる。何の自慢にもならないけどこれだけは私が自信を持って言える事だ。

 

「お、お父さんの事が好きなら大丈夫です。ゆっくり時間をかけて仲直りしましょう」

「……でもそれじゃあ私のこの、寂しさがそれまでずっと続いちゃう……」

「私が傍にいます」

 

 虹夏ちゃんの今にも涙が零れそうな目を大きく開いて私を見上げる。

 

「その、ひとりぼっちだった頃の虹夏ちゃんが寂しがってるなら、その虹夏ちゃんに私がずっと寄り添います。虹夏ちゃんの寂しさが消えるその日まで、ずっとずっと私が傍にいます」

「ぼっち、ちゃん……」

「わ、私はひとりぼっち歴15年のプロのぼっちです。ひとりぼっちの寂しさは私が誰よりも分かります。そしてひとりぼっちで寂しい時に誰かが手を差し伸べてくれることがどれだけ救いになるかも、私は知っています」

 

「……虹夏ちゃんが、それを教えてくれたから」

 

「あ……」

「だから、もう泣かないでください」

 

 虹夏ちゃんの瞳から堪え切れなかった涙を指で掬う。

 

「ずっと傍にいます。だから、大丈夫です」

「……うん。ありがとう、ぼっちちゃん」

 

 虹夏ちゃんが笑う。……星空よりも綺麗だな。

 

「まったく、プロのぼっちとか言われたら敵わないじゃん」

「あ、へへ。な、なので虹夏ちゃんにはその寂しさが消えた後もずっと傍にいて頂けると幸いです……」

「……それ無自覚なのがズルいよねーぼっちちゃんは」

 

 無自覚? 何の事だろう?

 

「まあいいや。……ところでそろそろ寒くなって来たね」

「あ、じゃあお部屋に……」

「でももうちょっと星空を一緒に眺めてたいんだよねー。だからさ」

 

「暖めてほしいなーって……」

 

 虹夏ちゃんが私の肩に頭を乗せる。

 か、可愛い……。じゃなくて、あ、暖める? ってどうやって。も、毛布取って来いって事かな?

 

「……やっぱりこういうのは伝わらないかぁ」

 

 虹夏ちゃんが私の正面に向きなおって両手を私に伸ばす。

 

「ハグしてほしいなって事だよ」

 

 は、はぐ? HUG? ハグ!? わ、私が虹夏ちゃんを!? 私みたいな下賤な者が虹夏ちゃんをハグなんてしたら虹夏ちゃんが汚れるし、店長さんに殺されちゃう……!

 

「……また馬鹿な事考えてる。もういいや……」

 

 虹夏ちゃんが寂しそうな顔で両手を下げる。だ、駄目!

 

「虹夏ちゃん!」

「わ、わわ!?」

 

 あ! つい勢いよく抱きしめちゃった!

 

「ご、ごめんなさい! 痛くなかったですか!?」

「……ううん。すごく暖かい。もう少し強く抱きしめてくれる……?」

「は、はい」

「えへへ、暖かいなー……」

 

 私の背中に手を回す虹夏ちゃん。な、なんでか今すごく幸せかも。すごく体も心もポカポカする。良い匂いもするし。

 

「暫くこのままでいてほしい……」

「はい……、私もこうしていたいです」

 

 互いに抱きしめる力を強める。

 虹夏ちゃんとずっと、ずっとずっと傍にいて、こうしていられたらいいな……。


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