読んで字の如く。
ラインハルト様はヒルダと会うまで非リアですからな。

※らいとすたっふルール2015改訂版準拠

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非モテを拗らせたローエングラム公

 

「リア充とか言うあの賊軍共はなぜさも当然のように淫蕩な関係を持てておるのか。オーベルシュタイン、卿なら分かるか。」

 

銀河帝国皇帝という至尊の名を戴けども、その覇者は若干24の青年に変わりは無かった。

彼は神々しいほどの眉目秀麗を誇りながら、それまで一度も異性と恋に落ちたことは無かった。

即位前は姉を悪辣なるゴールデンバウム朝から救い出すのに必死なあまり、恋をする余裕など微塵もなかった。

即位後においても、旧貴族の遺した夫人方からは夜な夜なお誘いを受けてはいたものの、それで万一皇后の座に相応しくない者と子を設けるようなことになったらば最後、清廉公正を以って依るところとするローエングラム王朝はその建国の理想を容易く失ってしまうだろう。

故に、ローエングラム公は銀河を手に入れた後でさえ、迂闊に婦人との関係を持つわけにはいかなかったのだ。

 

その結果爆誕したのが、容姿•権力•才能の全てを文字通り全宇宙トップレベルで持ちながら、恋愛に関しては小学6年生が人生最盛期の2ch民にすら劣る程のクソザコナメクジという奇妙な人間であった。

 

だからこそ、輝かしき皇帝陛下は恋愛相談を、さも政略を論じるかのように、ドライアイスの剣に持ちかけるという、らしからぬ人選ミスを見せるのであった。

もし違うアイスがいれば、アンネローゼとの淡い恋の経験をもとに出来る分もう少しマシな相談相手となったであろう。

尤も、それも永遠のないものねだりになってしまってから一年が過ぎてしまっていたが。

 

「お言葉ですが閣下、小官は一度もそういった経験がございませんでしたので、正確なところは分かりません。」

 

軍務尚書閣下の言や尤もであった。とはいえ、彼はAにはAの、という彼の人材論を忠実に実行したに過ぎなかったが。

 

「ほう、卿の頭脳を以てしても分からぬか。」

 

「左様。実際のところはロイエンタールやミッターマイヤーにお聞きになるのがよろしいかと。」

 

しばしば帝国の双璧と対立した軍務尚書であったが、殊この方面の素質と経験に関しては自らが彼らに敵わぬことを熟知していた。

故に、彼が2人に助言を仰ぐように奨めることは、自明の理であった。

 

「だが彼らとてモテる側の者だ。余や卿のような非モテの心など分かるまい。

まあ、要は彼らに聞くのは癪なのだよ。」

 

銀河皇帝はらしからざるも、この件に関しては捻くれていた。彼の頭脳もまた軍務尚書同様、自身が色恋沙汰に関しては双璧に遠く及ばぬことは重々思い知っていた。だからこそ、彼は自らを虚偽で慰めることができなかった。自らが非モテであるという残酷な現実に正面から対面することで、その価値観は歪まざるを得なかったのだ。

 

「閣下の仰る通りでしょう。特にロイエンタールのような遊び人にとって、閣下が恋愛市場に参加なさることはそれ即ち競合の出現を意味します。まともな答えを返すとはお考えにならぬ方がよろしいかと。」

 

軍務尚書もまたやさぐれていた。夜な夜な女性と同衾する同僚を横目に、犬に煮込んだ鶏肉を与える夜を過ごすうちに、ドライアイスの剣は鋭敏に研ぎ澄まされ、自らの価値観をも斬り刻む諸刃の剣と化していたのだ。

 

彼らの歪んだ感性を修正する者は、最早この場には存在しなかった。

 

「やはりか。ではどうあれ余が懸想事を知ることは不可能か。」

 

「•••実は考えられることがないでもございません。」

 

『ないでもない』。

この言い回しが軍務尚書の口から出るのは、ガイエスブルクの悲劇以来であった。

嫌な予感がする諸兄は、きっと銀英伝の見過ぎである。

 

多分。Maybe。

 

「分かるか、オーベルシュタイン。」

 

「ええ。尤も•••机上の空論ではありますがな。」

 

「何を言うか、卿の机上の空論は緻密な論理的推定ではないか。恥ずることはない。申してみよ。」

 

最早この場において、銀河皇帝は軍務尚書に全幅の信頼を置いていた。

軍務尚書はこれに乗じて皇帝の寵を独占することも出来たであろうが、後の銀河の歴史が示す通り、そうはしなかったのは正論を刻み込んだ永久凍土の石板の本領発揮といった所だろう。

 

「御意。

小官はこれは罠だと考えます。」

 

「ほう、罠か。」

 

「左様。我らをしてさも恋愛なるものが存在するかのように誤認せしめんとする欺瞞工作です。実際のところは、男に女が寄生しているに過ぎませぬ。左様な不都合な真実を隠蔽するべく、リア充という叛徒どもはロマンチズムを惹起せしむ不毛な文学を世に放つのだと小官は考えます。」

 

もしここに軍務尚書のかつての上官がいたならば、「貴官の目にはありとあらゆるものが罠に見えるらしいな」と言ってたしなめただろう。

もしかしたらゼークト提督はオーベルシュタインが人生を拗らせることを見越して忠告してくれていたのかもしれない。(過大評価)

 

「さすがだオーベルシュタイン。この手の話題で余を納得させたのは卿だけだ。」

 

「過大な御言葉感謝致します。」

 

「それで•••その偽情報をばら撒く叛徒どもはどうしてくれようか。」

 

「ケスラーにやらせるには些か残酷すぎますな。この上は内国安全保障局長が適任かと。」

 

オーベルシュタインのこの人選ほど残酷なものはなかっただろう。嫉妬が服を着て役職付きで歩いているラングのような人間は、政策という大義名分を持ってリア充を悉く根絶やしにしようと躍起になるに違いなかったのである。

 

「そうか。よし、ラングを呼べ。」

 

これは後に「オーベルシュタインの野焼き」と形容されることになる、大粛清の始まりであった•••

 

 

勿論銀河皇帝に妃ができることはなかった。

 


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