「D型の
サイレンの鳴り響く統合府要塞の一角、王国軍に割り当てられた整備区画では。今まさに隊員たちが自分の愛機に飛び乗った頃であった。
各機に機付きの整備員が張り付いてパイロットと確認事項をチェックする中、
「取り合いになりそうだな」
「仕方ねぇさ」
コンテナというのは弾薬や替えの武器、電源呪符などを詰め込んだ補給コンテナのことで、「野生の後継者」決起から現在までのこの短い間に突貫で統合府要塞周囲に多数設置されたものだ。
森域で主に装備されているのは帝国のテンチュイオンⅡだが、コネクター形状などに若干の差異こそあれ、王国のアーゼェンレギナとは互換性がある。
こういった腰を据えた補給が困難である場合などには重宝する補給コンテナだが、物資に限りがある以上、どうしても味方同士で物資の取り合いになってしまう可能性があった。それで仲間割れにでもなっては目も当てられない。
ペイラーは肩をすくめてから、続けた。
「統合軍から回ってきたコンテナ位置は既にインプット済みだが、どれくらい信用できるかはわからん。一応、中身を勝手に使っていいことにはなってる」
「ハラグロイゼ卿とミッティ女史には感謝するほかないな」
「中隊長が帰ってきたら埋め合わせをするように言っとかねぇとな」
いまだ書類に忙殺されるミッティを脳裏に浮かべた二人はそろって半笑いになってから、それでもすぐに気を引き締めた。
「こっちでもコンテナ打ち上げの準備はしておく。カメッツィード=サンの手配が手厚かったから、モノだけは揃ってるしな。通信がダメなら、赤の信号弾で知らせてくれ」
「了解した」
事前に設置できていればいうことなしだったのだろうが、スプリガンズはもともと親善試合に出場するという名目でやってきた少数精鋭のチームだ。途中で技研のメンバーが加わったとはいえ、コンテナ設置のような純粋にマンパワーが必要な作業には向かない。
なので戦闘中の必要に応じて、厳重にシーリングした補給コンテナを砲弾よろしく現地に撃ち込んで運用するというトチ狂ったプランが提案され、ハラグロイゼ卿の裁量で認可されていた。
「撃ち込んだ衝撃で中身が全部パァになっていた、ってのは無しで頼むぞ」
「そうなってたら遮蔽物にでも使ってくれ」
ペイラーは冗談めかして言う。ピーターも口の端に笑みを浮かべてから、チェックリストの最後にペンを走らせた。
「……たしかに。死ぬんじゃねぇぞ。グッドラック」
ペイラーがぐっと親指を立てる。ピーターもそれにサムズアップのみで返した。ハッチがゆっくりと閉まって、圧縮空気の抜ける音とともに厳重に遮蔽される。無明の空間に唯一灯る起動画面のバックライトが、ピーターの顔を青白く照り返した。
「さて、自分に中隊長の代わりが務まるかどうか」
誰も聞く者がいなくなった窮屈な筐体内で、ピーターは独り言ちてからしっかりと操縦桿を握った。身体が拡張される感覚。外部カメラが拾った画像が4面の
「ピーター機、出すぞ! ケージ開放!」
ぐん、という重力を感じた直後、ずしんという振動がシートを介して尻に伝わり、頭の先に抜ける。ピーターは愛機に傍らのレーザーライフルを保持させて、そのままずずんと歩みださせた。
『スプリガンズ全機、起動完了。隊長代理殿、号令を頼む』
「事前のブリーフィング通りだ。我々は遊撃隊として、第13ゲートから出て統合府要塞の東面をカバーする」
『『了解!』』
「敵「野生の後継者」には、連中の思想に共感して呼応した統合軍も一部含まれる。機種のみで敵味方を判断せず、識別信号の確認を怠るな。フレンドリーファイヤには注意しろ」
『『了解!』』
「隊長が敵根拠地を制圧するまでのあと2時間、要塞を守り切れば我々の勝利だ。死ぬなよ。お前たちに死なれると、隊長の代わりにまた自分が書類を大量に書かなきゃならん」
ピーターが器用に自機の肩をすくめてみせると、整備区画中からどっと笑いが巻き起こった。その場の全員がティエスが作戦を成功させてドヤ顔で帰還する様子をありありとイメージできたし、その後の報告書地獄をすべてピーターに丸投げするところまでがセットで容易に想像できたからだ。
ならば、一枚でも彼に回される書類は少ないほうが良いだろう。笑いの中に、覚悟が生まれた。
笑いの大波はやがてさざ波になり、ややあって凪ぐ。それを見計らって、ピーターは号令した。
「スプリガンズ――出撃!!」
『『了解!!』』
総勢11機の強化鎧骨格が、一糸乱れぬ動作で歩き出す。一歩一歩、ずしんと大地を響かせながら。戦場へ向かって。
整備班員が、それを敬礼で見送った。誰一人目を逸らさずに、胸中の様々な思いを飲み込んで、ただ送り出す。
戦が、始まる。