ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-85 わくわく社会科見学⓶

「N-6フィールドに『野生の後継者』転移。数200。展開中の猛火烈士隊と交戦中」

 

「E-3~8フィールドに『野生の後継者』転移。白竜師団(パイロン)が急行中」

 

「N-1フィールドで『野生の後継者』と交戦中の鉄塊戦士団から火力支援要請。30秒後に聖樹衛士(ユグドラシルガード)による火力投射を実施します」

 

『HQHQ! こちら蒼海旅団(トライデンツ)! 敵の数が多い、増援を求む!』

 

「スプリガンズを急行させます。1分凌いで!」

 

「S-3フィールドの餓鬼兵団(プレタ)、損耗率30%。このままでは瓦解します。救援を――えっ、ゴブリンだからそのうち増えるでしょ? それもそっかぁ」

 

 最後のやつそれでいいのか。エルヴィン少年はやや現実逃避気味にそう思った。

 ウィエルサードに連れられて幾重ものチェックゲートを抜けた先にあったのは、情報の坩堝だった。飛び交う戦況報告と、漏れ聞こえる前線の兵からの怒号交じりの通信、それに怒鳴り返すオペレーターの悲鳴じみた声が入り混じり、中央指令室は混沌としていた。それはまさに、管制官の戦場だった。

 

「うんうん、みんなよくやってくれているね。さ、こっちだ」

 

 ウィエルサードはそんなヒリついた空気の中をまるで散歩するように歩きながら、ちょいちょいとエルヴィン少年を手招きする。完全にその場の空気に当てられていたエルヴィン少年ははっと我に返るも、しかし疑問は尽きない。

 

「あの、ウィエルサード様? 本当にお、自分を入れていいところなんですか、ここ」

 

「なに、構わないとも。なにせ今のところ、私が森域の法だからね」

 

 からからと笑うウィエルサードにドン引きしつつ、それでもウィエルサードの追従することを選ぶ。一人で元のシェルターまで帰れる自信も権限もなかったからだ。ちなみに傍らのエルフニンジャもドン引きしていたので、ウィエルサードの言動は森域の常識に照らしてもヤバいのだろう。いや、ニンジャを物差しに使って問題ないかは甚だ疑問ではあるが……。

 

「ここだね。さ、エルヴィン君、お入りなさい」

 

「ここって……」

 

 ウィエルサードが指し示した扉は、中央指令室から地続きになっている部屋のものだった。扉の横には、立て看板が一つ。組成を魔法で弄っていない生木の一枚板に、力強い毛筆でこう書かれていた。

 

『作戦本部』

 

「…………」

 

 ごくり、とつばを飲み込む音が、指令室の喧騒に溶けた。硬質高強度化木材の薄灰色で統一された無機質な中央指令室にあって、その立て看板だけがやけに有機的であり、それゆえに迫力を醸している。

 ウィエルサードに視線を移す。彼女はエルヴィン少年にやさしげに微笑んで、躊躇ひとつなくその扉を開けた。

 

「きみには見ておいて欲しいんだ。いろいろなことをね」

 

「いや、でも、まずいですよ。俺みたいな子供が……」

 

「構わない、と言った」

 

 ウィエルサードは柔和な顔を崩さず、しかし断固とした口調で言った。傍らのニンジャに苦し紛れに視線を送ると、それに気づいたニンジャは小さく肩をすくめる。

 

「ま、こうなったウィエルサード様を翻意させるのは難しいですからね。素直に従っておくといいでござるよ。ちょっと重めの社会科見学だと思って」

 

「他人事だと思って……!」

 

「他人事ですからね。では拙者はこれにて。ドロン!」

 

 そう言うや否や、ニンジャは煙となって消えた。ここでさらに情報量を増やすなバカ! エルヴィン少年は叫びたい気持ちでいっぱいだったが、喉元で何とか飲み下す。扉の向こうからこちらに向けられている胡乱げな視線に気づいたからだ。作戦本部という性質上、あの中にいるのは森域統合軍のお偉方だ。ここでエルヴィン少年が醜態をさらせば、それはつまり王国とウィエルサード両方の顔に泥を塗ることになる。それがわかるエルヴィン少年だからこそ、この場にもう選択肢がないこともまた、よくわかった。

 

「……失礼します」

 

「失礼するよ。やあやあ皆の衆。お集りのようだね」

 

 恐る恐る入室したエルヴィン少年に続き、能天気そうなことを言いながらウィエルサードが入室する。作戦本部に詰めていたほぼ全員が即座に起立し、森域式の敬礼を行った。ウィエルサードはやわやわと手を振ってそれを制すと、空席となっていたいちばんの上座へと躊躇なく着席した。

 

「ふむ、やはりエルヴィン従士も来たのだね」

 

 どの席に着けばいいのか迷っていたエルヴィンに、聞き馴染みのある声が掛けられる。見ればもっとも下座の席に、王国特使であるワリトー・ハラグロイゼ卿の姿があった。先ほど起立しなかった唯一の人物でもある。

 

「こちらにまだ席がある。よろしいね、ウィエルサード殿?」

 

「ム……エルヴィン君には私の膝の上にでも座ってもらおうと思っていたのだが……仕方がないね」

 

 ウィエルサードはとんでもないことを言った。それが冗談なのか本気なのかはエルヴィン少年にはわからなかったがどちらにしても居心地が悪いことこの上ない。周囲の視線が痛いほどに突き刺さる。ただでさえ混ざりものであるだけでひとの目を引くというのに!

 エルヴィンはひきつった愛想笑いを浮かべながら、ハラグロイゼ卿の隣に着席した。……本当を言えば、ハラグロイゼ卿にしたってこんなにおいそれと横に座ることを許される人物ではないのだが。エルヴィンは努めて気付かないことにした。

 

「さて、諸君。それでは、現在の戦況を聞こうじゃないか」

 

 ウィエルサードはやや張り切ったような口調で、パンと手を叩く。それが誰に対してのアピールなのかは、チラチラと目が合うエルヴィン少年でなくても察せられたことだろう。

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