ブラックマーケットは無駄に広い。数時間歩き続けてもなお未だにめぼしい物は見つからないぐらいに。流石に歩き続け過ぎたためにブライトや生徒達の足からは悲鳴が上がっていた。
「ねえ……そろそろ休憩にしない? 私もう限界なんだけど……」
「ならあそこの屋台なんてどうでしょうか? たい焼き、私がご馳走します!」
「えっ!? ノノミ先輩、またカード使うの!?」
「流石にそれは悪いから私が払うよ……」
「いえ、私が食べたいから良いんです☆みんなで食べましょう、ねっ?」
ノノミの勢いにブライトは押されてしまい、結局奢ってもらうことになってしまった。ブライトにも倫理がお猪口位にはあるようだ。
「まいどー!」
たい焼きはホカホカの焼きたて状態で紙袋に入れられて渡された。ブライトは早速それの背中から齧りつくと、中からはこしあんの滑らかな食感が口を伝わり、過剰でも過疎でもない絶妙な甘味が脳を刺激した。
「うんま!」
以前日本支部への出張の際に食べたきり食べれなかったたい焼きを再び食す機会が巡ってきたことをブライトは感謝した。
「アヤネちゃんには、戻ったらちゃんとご馳走しますね。私だけでごめんなさい……」
「あはは、大丈夫ですよノノミ先輩。私はここでお菓子とか摘まんでますし」
「しばしブレイクタイムだね~」
各々がのんびりとその時間を過ごすなか、ヒフミは少し怪訝な面持ちをしていた。探し物がここまで見つからないことは珍しいらしく、ヒフミは意図的な裏工作を疑っているようだ。ブライトはヒフミの呟きを聞いて一言。
「……やっぱ通ってるよね?」
「あはは……」
「そんなに異常なことなの?」
「異常というよりかは……普通ここまでやりますか? という感じですね……ここに集まっている企業はある意味開き直って悪さしてますから、逆に変に隠したりしないんです。例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です」
闇銀行という言葉に一同は一斉に集中した。ブライトは相変わらずヒフミに問いただしていたが。
ヒフミ曰く、その闇銀行はブラックマーケットで最大規模を誇る銀行の一つで、キヴォトスにおける犯罪の十五パーセントもの盗品がそこに流れているのだとか。
「……そんなの、銀行が犯罪を煽ってるようなものじゃないですか」
「その通りです。正に銀行が犯罪組織なのです」
「ふむ……ああいうとこなら……いや、やり過ぎか」
そんな最中だった。武装集団の接近をアヤネが告げた。そしてその集団はどうやらマーケットガードのようで、ブライトと生徒達は全員で逃げ隠れた。幸いマーケットガードはブライトらに気付いている様子はなく、何かを護衛していた。
「あれはトラックかな?」
「現金輸送車だね」
「あれ……あっちは……」
こそこそと遠方からトラックを監視していると、トラックが例の闇銀行へ入っていくのが分かった。しかもそのトラックの運転手は、今朝利息を払い渡した銀行員であった。
「……どういうこと?」
「成る程……やられたねぇ……カイザーローンめ」
「か、カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん、知ってるの?」
「カイザーローンと言えば……かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です……」
「有名な……? マズいところなの?」
「あ、いえ……カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいません……しかし合法と違法の間にあるグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で……」
「グレーゾーンねえ…………ところでアヤネ、現金輸送車の走行ルートって調べられるかな? あの銀行員が違うやつって可能性に賭けたい」
「少々お待ちください……」
通信機からアヤネがタイピングしている音が聞こえてくる。しかしタイピングは止まらず、アヤネの唸る声も聞こえてきてしまった。
「……だめですね。全てのデータをオフラインで管理しているようです」
「オフラインにならあるんだな?」
「え、まあはい……恐らくは」
「成る程……現金を要求していたのもこのためか……」
「私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流されている……」
「そゆこと」
「じゃあ何? 私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」
「残念ながらそうなる」
その場に沈黙が籠る。今までの行いが犯罪への加担だったと知れば誰でもそうなることは確かだろう。
「ま、まだそうハッキリとは……証拠も足りませんし」
「……あ! さっきサインしてた集金確認の書類……あれを見れば証拠になりませんか?」
「確かに」
「おお、そりゃナイスアイデアだね~、ヒフミちゃん」
「あはは……でも考えてみたら書類は銀行の中ですし……無理ですね。ブラックマーケットで最も強固なセキュリティを誇る銀行の中となりますし……でもそれ以外に集金ルートを確認する方法は……ええっと……」
「……あの銀行、犯罪盗品が集まってるんだよね?」
「え、あ、はい。そうですね」
「ふーん……じゃあさ、必然的に恨み買ってるわけだ。つまり被害者の復讐みたいなのが起きてもなんら不思議じゃない……」
「……成る程。ホシノ先輩、例の方法を」
「成る程、あれか~。あれなのか~」
「あれ」や「あの」だけで成り立っていく会話に、ヒフミは少し困惑する。それは一般人、ましてや高校生がやろうと思うはずもない行為。そんな行為をシロコとブライトはノリノリで、ノノミホシノはほんの少し引き気味で、セリナは驚きながら反応していく。ヒフミを置き去りにしながら。
「あ、あのう、全然話が見えないんてすけど……」
「なら見せてやるよ」
ブライトは一番にシロコの鞄からあるものを取り出す。それはルビーのような赤色をしており、ブライトはそれを被った。そしてブライトに続いてシロコ、ホシノと次々とその覆面を被っていく。
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」
「いいねえその反応! 最高だよ!」
「だよね~、そういう展開になるよね~」
「はいいいっ!?」
「わあ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
「ええっ!? ちょっと待ってください!」
「はあ……マジで? マジなんだよね? ふぅ……それなら……とことんやるしかないか!」
「あ、うあ……? あわわ……?」
「……はあ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……」
「もしかしてヒフミ、自分の分が無いことに驚いてるの?」
「うへ~、てことは、ばれたら全部トリニティのせいだって言うしかないね~」
「ええっ!? そ、そんな……覆面……何で……えっと、だから……あ、あう……」
ヒフミは失神になりかけながらも必死に雪崩れ込んでくる情報の波を処理していた。そしてヒフミにも
「ん、完璧」
「これであんたも共犯者!」
「番号も振っておきました。ヒフミちゃんは五番です☆」
「見た目はラスボス級じゃない? 悪の根元だねー、親分だねー!」
「わ、私もご一緒するんですか?」
「勿論! 仲間外れは寂しいもんね? それに、さっき共に行動すると約束したではないか。約束を破る悪い子じゃあないよねえ?」
「う……うぅ……わ、私、もう生徒会の人達に合わせる顔がありません……」
「ばれなきゃ良いんだよばれなきゃ。じゃ、銀行を襲うよ!」
「はいっ! 出発です☆」
「あ、あうぅ……」
「ふぅ……では、覆面水着団。出撃しましょうか」
そうしてその犯罪集団は歩みを進めた。各々が武器を手に持ち、ブライトはとある帽子を被って。
銀行強盗への最初の一歩は断線からだ。対象となる銀行の電気を一時的に切ることにより敵の認識を阻害する。次に一斉射撃。視界を奪った上での乱射は正に凶悪だ。
そうして敵数を減らしているうちに電気は復旧した。銀行の中央には覆面を被った正体不明の五人が認識され、それはそれは注目を集めていた。
「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは……皆さん、怪我しちゃいけないので……伏せてくださいね……」
余りにも突然の出来事に、その場に偶々居合わせたアルは大層驚いていた。銀行員達は緊急警報を発令しようとしていたが、それらは全て電源ごと落とされている。無駄なのだ。
銀行は混沌に落ちた。落ちた中でも抵抗しようとする銀行員はいたが、全て謎の射撃によって鎮圧、山のように重ねられていった。全て計画通り。
「じゃ、次のステップに進もう~! リーダーのファウストさん! 指示を願う!」
「えっ!? えっ!? ファウストって、わ、私ですか? 私が!?」
「リーダーです! ボスです! ちなみに私は……覆面水着団のクリスティーナだお¥*1」
そんな光景を、認識の外にいたブライトは羨ましく思った。そして、自分なら「アイスヴァイン」と名乗ると思った。
ブライトは認識の外にいる。それはなぜか。それは彼が被っている帽子にある。その帽子は、かつて蛇の手に奪われてしまった超便利オブジェクトとして恐らく名前の上がるオブジェクト、268だ。
そんなブライトを除き、便利屋のアル以外のメンバーは謎の覆面集団の正体に気が付いたようであったが、黙っておくことにした。手際よく作業する覆面集団に尊敬と憧憬の目を向けていたからだ。サンタを信じる幼児にサンタの正体を教えることなど、残酷なのだ。
そうして襲撃している内に、目的のブツは手に入った。そうなれば必然と撤退が宣言され、ブライトも良い感じに合流、逃亡に成功した。後ろからガードが迫ってきていたが、それらは認識されていないブライトによって全て処理された。無警戒な攻撃程怖いものはない。
ブルアカ史上、一、二を争うヤバエピソード(暫定)
登場SCP
sugoitakaiBILL作
SCP-1727-JP - 宅配されるものは
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1727-jp
2018
Pair Of Ducks作
SCP-268 - いないこ帽子
http://scp-jp.wikidot.com/scp-268
2008
CC BY-SA 3.0
tokage-otoko作
SCP-014-JP-J - 『奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァイン』
http://scp-jp.wikidot.com/scp-014-jp-j
2014
CC BY-SA 3.0
会話について
-
もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
-
このまま