ちょっとした茶番を終え、ブライトらは学校へ戻ると速攻で奪った資料を読み解いていた。それを読めば、シロコやセリカ達が返した利息、約八百万円のうち、なんと五百万円もの大金が敵であるカタカタヘルメット団に提供されていたことが分かった。自分達で首を絞めていた事実にその場には混乱が巻き起こり、そして少しの沈黙が流れた。
「理解できません! 学校が破綻したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに……」
「ふーむ……」
「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね」
「上もグルってこと?」
「そう」
「もしそうだとしたらカイザー中々にヤベエ企業だこと…………」
そう言いながら、ブライトは頭の中で、自分が相対してきた録でもない企業を浮かべ、掻き消した。あれと比べちゃしようがない。
「……本当に何故だ……」
ブライトは自信の持ちうる脳のリソースを使い込み思案するが、これといったアイディアが思い浮かばない。何故リスクを負ってまでアビドスを潰しにかかっているのか。それが分からない。
「……あ、そろそろ時間なので私帰ります」
「了解。見送ってあげるよ?」
ブライトは取り敢えず脳の片隅に追いやってから立ち上がる。すると他のメンバーも立ち上がった。ヒフミは見送りを遠慮していたが、ブライトとホシノの押しに負け、校門まで連れていってしまった。
「ええと……みなさん、色々とありがとうございました」
「いいってことよ! もうあんな場所いくんじゃねえぞ?」
「こちらこそ、変なことに巻き込んでごめんなさい、ヒフミさん」
「あ、あはは……」
「今度遊びに行くから、その時はよろしく~」
「さいっこうのお菓子を持っていってやろう。ケーキで良いかな?」
「いえいえ! 大丈夫ですよ! そんな堅苦しくなくて!」
ヒフミは知らない。ブライトの言う「ケーキ」がどんなものかを。ましてや、それが世界をも飲み込む危険なブツであることを。
「ま、気をつけて帰ってね。ここら辺割と危ないからさ」
「はい! 帰ったらティーパーティーにカイザーコーポネーションについてとアビドスの現状、報告しておきますね」
瞬間、ブライトはホシノの顔からいつもの呑気で、穏やかな雰囲気が消え去っていくのが分かる。これは真面目モードだと、ブライトは少し気を引き締めた。この時のホシノはブライトにとってほんの僅かに何とも言えない恐怖を覚えるのだ。
「ティーパーティーはもう知ってると思うけどね~」
「は、はいっ!?」
さも、常識がひっくり返されたかのようにヒフミは驚いた。
「ま、世の中甘くないからねぇ。そんな砂糖な世界、あってもつまらないだけだろうし」
先ほどまで動かされていたヒフミの表情が沈黙を表す。お人好しな彼女にとっては余りに惨い現実を受け止めるのに、少々時間がかかるようだ。
「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせたところでこれといった打開策があるわけじゃないしかえって私たちがパニクることになりそうな気がするんだよね~」
「そ、そうですか?」
「いじめっ子が使う『じゃれてるだけ』と同じように、あちらからはサポート名目で嫌がらせされてもどうにもならんのだよ」
「成る程……あうう……政治って難しいです」
頭を抱えるヒフミに少々目を濁らせて諭す二人。そんな構図に、ノノミがちょっとした異を唱えた。救いの手を差しのばす天使のように。
「でも……ホシノ先輩に先生、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか? 本当に助けてくれるかもしれませんし……」
「うへ~私は他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってね~」
「……実際に助けを求めて裏切られた例を何度か見たもんでね」
「それに、『万が一』ってことをスルーしたから、アビドスはこの有り様になっちゃったんだよ~」
またその場に沈黙が流れる。惨い事実に、何も言い返せないのだ。
その後ヒフミが何とか場を少し明るくしてからアビドスから去っていった。その流れから、アビドス側もその日は解散となった。
翌朝、ブライトがアビドスに来ると、目の前にホシノがノノミに膝枕してもらっている光景が存在していた。いつになく、ホシノは幸せそうな顔をしている。しかし、意識の象徴であるヘイローが点いており、起きてはいるようだ。
そして、ブライトの入室に気がついたノノミがブライトに話しかける。
「先生、おはようございます。今日は早いですね?」
「ま、三文拾うためにもね。それにしてもホシノ凄いリラックスしてんじゃん。珍し……くはないか」
「そりゃあ、ノノミちゃんの膝枕は柔らかくて最高なんだよ~。私だけの特等席だもんね~」
「いいな~、そこのチケット欲しいぜ全く」
「……今度、誰もいない時にしましょうね、先生。ホシノ先輩譲らないでしょうし」
突然耳打ちされたブライトは驚き、一瞬転倒しかけたが、持ち合わせた体幹がそれを阻止してくれた。
ブライトが体勢を持ち直した頃、ホシノは膝枕から頭を引き上げ、一つ欠伸をしてから早朝でも元気が多く存在していることに感心した。本日は自由登校日、来ても来なくても良い日なのだ。
「二人とも真面目だねぇ。ちゃんと登校して、学校のお世話なんて」
「私たちだけではありませんよ。シロコちゃんはトレーニングでしょうし、アヤネちゃんは多分図書館で勉強をしていると思います」
「うへ~、私はここでダラダラしてただけだよ~」
「先輩も何か始めてみてはどうでしょう? アルバイトとか、筋トレとか」
「君にとても似合うような戦術を知ってるんだ。私の居た場所では神拳と呼ばれていたものなのだが……」
「提案はありがたいけど無理無理~、おじさんは年齢的に無理が効かない体になっちゃったもんでね~」
「大丈夫! 職場にいた八十代のやつも習得してたよ!」
ブライトは手を小さく震わせながら力説する。小さく震える手の先に存在している窓には小さな罅が入っていたようだが、ブライトを除き気がついたものはいなかったという。
「うへ、じゃあまた今度教わろうかな。まあとにかく先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない? そんじゃ、私ゃこの辺でドロン」
「ん? どっこいっくの?」
「うへ~今日おじさんはオフなんでね。適当にサボってるから何かあったら連絡ちょーだい。ノノミちゃん」
そう言い残し、ホシノは教室を後にした。ノノミはホシノの行き先は昼寝スポットだと推測し、ブライトは居酒屋かと推測した。
「うーん、まあいいんじゃないでしょうか。会議はアヤネちゃんがしっかり進めてくれますから。あはは……それにしてもホシノ先輩も、以前に比べて大分変わりました」
「ほう……変わったとはどんな風にか? 以前はおじさんじゃなくておばさんだったとか?」
「いえ、そんな感じではありません。私が初めてであった頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」
「何か……不眠にさせてくる不可視の怪物とか?」
「いえ、ありとあらゆることに、と言いましょうか。聞いた話ですが、以前とある先輩がいたそうで……」
「亡くなったとか?」
「……詳しくは知りません。ですが、その人が去ってからと言うもの、ホシノ先輩は生徒会長を一年生ながらに引き受けたとか」
「大変だね~」
ブライトの勘は言っていた。そのホシノの先輩の話題をホシノの前で出すべきではないと。言ってしまえば何が起こるか分からない、最悪シナリオが発生してしまう気さえもした。勘でしかないが、そう感じた。
「で、今のあれと」
「はい。かなり丸くなりました。きっと先生のおかげですね☆」
「……私はなーんにもしてないよ」
そんな他愛もない雑談を二人は交わし続けた。ホシノの行き先を気にすることもなく。
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登場SCP
Seibai作
SCP-871 - 景気のいいケーキ
http://scp-jp.wikidot.com/scp-871
2011
CC BY-SA 3.0
Kwana作
SCP-710-JP-J - 財団神拳
http://scp-jp.wikidot.com/scp-710-jp-j
2014
CC BY-SA 3.0
Enma Ai作
SCP-966 - 眠りを殺す者たち
2010
http://scp-jp.wikidot.com/scp-966
CC BY-SA 3.0
会話について
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もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
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