いやぁ、悩んだんです。本当にスキップするか。ただ……ほんっとうにカイザーが壊滅から攻め込む準備を短時間で行えるかを考えた結果スキップとなりました。楽しみにしていた方には本当に申し訳ないです
余談ですが、今回は地の文少なめです。ですがそれは意図的ですのでご了承を
翌朝、ブライトが教室に到着すると、対策委員会の皆が悲しみの顔を浮かべ、どんよりとした空気が漂っていた。
「どうしたの皆? らしくないよ!」
「……先生、これ」
シロコから渡されたのは一枚の手紙と、捨てた筈の退部届。ブライトは皆の表情の理由を察した。
皆へと向けた手紙にはあるスカウトを引き受けたこと、そして皆への謝罪、そして自身の殺害願い。そして、ブライト向けのものには、ブライトへの本音と感謝とお願いが書かれていた。
「……何これ、あの子はこんなものを私が許すとでも思ってたのかな? 『紙魚入る』」
呟きの直後、ブライトの手に存在している退部届に大小様々な平仮名の「ゆ」が現れ、その紙面上にある殆どの文字を食いつくしていく。全て食べさせはしない。他の紙と判別できるようにするためにも。
「何なの? あれだけ偉そうに話しておいて!」
「まあ、何か思い詰めてしまったのかもしれない。我々に責任は何一つない。悪いのはカイザーだ」
「……助けないと」
「よし分かった、皆行くでしょ?」
「いや、迷惑かかるし私一人で……」
「落ち着いてください、今はまず足並みを揃えないと……!」
ホシノの消失という大事件に対策委員会は沈黙できるはずがなかった。ブライトはそんな喧騒を眺めながら考える。対策を、奪還策を。そうして思考を巡らせるうちにとある一つの策を思いついた。しかし、この策にはいかんせん時間が必要である。ブライトは時間稼ぎも兼ねて提案を行うことにした。
「皆、今日は混乱しているだろうから、この場は一回解散にしてまた後で集まろう」
「でも……」
「分かる、分かるが……このままじゃとんでもない方向へ舵を切るかもしれない。そのためにも、また後で、頭を落ち着かせてからここに来よう」
ブライトの提案に対策委員は皆少々渋々賛同し、それぞれが教室を後にした。
時間は進みその日の夜、ブライトはとあるビルの目の前に立っていた。ひとしきりビルを眺めたブライトはそのビルへと入り、エレベーターに乗る。そうして目的の階に到着したことを伝える電子音の後、扉が開くと、目の前に顔の無いどころかヒビが入った、黒いスーツを着用した人型実体が存在していた。
「……お待ちしておりました、ブライト先生。あなたとはこうして、顔を合わせてお話ししてみたかったものですよ」
「私としてはあんたを捕縛してヒト型生物居住空間に収容したいものだよ。なんだったかな……そう、黒服よぉ」
黒服と呼ばれた実体は冷静を崩すことなく、目の前の机に肘を置き、両手を組ませる。
「……あなたのことは知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在であり、数多の不可思議な物品などを司る者。さらにあのオーパーツ『シッテムの箱』の主人であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生」
「そんなに私を知ってくれているなんて、ストーカー?」
「いえ、ただの研究員ですよ。あなたを過小評価する者もいるようですが、私たちは違います……まず、はっきりさせておきましょう。私たちは、あなたと敵対するつもりはありません」
「あんたらはそのつもりだろうが、私も同じだ。ま、敵対も協力もするつもりがない」
「……そうですか」
「私がここに来た理由はただ一つ。ホシノを返してもらおうか」
「まあまあ、そう焦らずに。自己紹介でもさせてください。私たちはあなたと同じ、キヴォトスの外部の者……ですが、あなたとはまた違った……いや、近しい領域の存在です。適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。私たちのことは『ゲマトリア』、とお呼びください」
「へえ、覚えておくよ。要注意団体、ゲマトリアだな」
「財団流の呼び方ですか」
「は? 何故それを知ってる?」
「観測者であり、探求者であり、研究者だから……ですかねぇ。あなたと同じ、『不可解な存在』でもあるから、とも言えますかね」
「……やっぱ、あんたらは我々がいつか確保してやろう。そして適切に収容、保護してやろう」
「魅力的な提案、ありがたいですがお断りしておきます」
「……さて、茶番はこれまでだ。ホシノを返してもらおうか」
「……クックックッ。あなたの行動に正当性が無いことにお気づきですか、先生? 今のあなたに一体何の権利があって、そんな要求をされているのでしょう? ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないですか?」
「そんな届け出、存在していないよ?」
「……ほう?」
ブライトは胸ポケットに畳んで仕舞っていた紙を取り出し、展開する。紙には幾ばくかの文字が残されているのみだった。
「彼女は届け出を提出していない。ただ、匂わせ手紙と暗号みたいな無意味の紙を残して家出しただけだ。それ故に、彼女は対策委員会所属兼アビドスの新生徒会長であり、私の生徒だ」
ブライトはその紙を黒服の目の前にある机に、様々な契約書の上に叩き置いた。心の中で、罪悪感を感じながら。
「……成る程……未知の方法で資料の存在を消し去るとは。成る程成る程……貴方と怪奇現象……ふむ、中々に厄介ですね」
「どうせ、あんたらはホシノを使った実験でもしているだろう? ホシノを騙して。我々でもあまりやってない手法を平然と使うお前らを、私は軽蔑しよう」
「ええ、確かに仰る通りです。私たちは自分たちの利益を優先し、彼女を騙し、人体実験を行っています。それを否定しません。私たちの行動は、善か悪かと問われればきっと悪でしょう。しかし、ルールの範疇です。そこは誤解しないでいただきましょうか。アビドスに降りかかった災難は私たちのせいではありません」
「天災の利用、それはまだ良い。それはもう当たり前ですらある。ただ、利用方法に私は不満がある。慈善団体にでもあんたらを突き出してやろうか迷うよ」
「……流石、鋭いですねぇ。そういうことなので、アビドスから手を引いてはいただけないでしょうか」
「断る」
「…………どうして? 先程の言葉は嘘ということになるのですか? あなたは確かに強い、ですが、ここで私に攻撃でもなさるつもりですか? 理念に反して!」
「……いや、最近便利なものを手に入れたのでね」
ブライトは白衣のポケットから一枚のカードを取り出した。それは一般的に見るクレジットカードのようだが、何か不可思議なオーラを纏っていた。
「……先生、確かにそれは大変便利な武器です。しかし、私はそのリスクも薄っすらとですが知っています」
「そのリスクだが、私には問題ない。私は私。『私』も私になるのだからね。忌々しい呪いだよこれは」
「確かにそうですが……あなたにもあなたの生活があるはず」
「はは! そんなもの、財団に入ってから……いや、こいつを手にしてからとうに何処かに無くしたさ! だからさぁ、ホシノには私のようにはなってほしくないのだよ。手は引かない」
「なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? 理解できません、なぜ? 何故引かないのですか? どうして? 先生、それは一体何のためなのですか?」
「あんたは分からないと思うが、私は今も苦しい思いをしている。それもこれも、ある一般人が行った儀式、基実験で。だから彼女には苦しい思いをさせず、いつまでも幸せで過ごしてほしいんだ」
「あなたが面倒をみるとでも? あなたはあの子達の保護者でも、家族でもありません。あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子達に会っただけの他人です。一体どうして、そんなことをするのですか? 何故、取る必要のない面倒も、責任も取ろうとするのですか?」
「それこそが、私の役目で、大人としての課題だからだ」
「……ああ、そうですか。大人とは『責任を負う者』、そう言いたいのですか?」
「そうなるね」
「先生、その考えは間違っています。大人とは、望む通りに社会を改造し、法則を決め、規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡とを決める者です。権力によって権力無き者を、知識により知識無き者を、力によって力無き者を支配する、それが大人です」
「それも一つの定義だが、言葉には多の意味が混じってること知ってるか? 『大人』もそうだ。そもそも、私は支配などもうどうでもいい」
「……成る程、分かりました。交渉は決裂です、先生。私はあなたのことを気に入っていたのですが……仕方ありませんね。先生、彼女を助けたいですね? ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを生きている生徒に適用できるか──そんな実験を始めるつもりです。そう、ホシノを実験台として」
「……ふむ、それはそれは。どうせ失敗したらまた別、また別と変えるつもりだったのだろうね」
「……そういうことですので、精々頑張って生徒を助けると良いでしょう。微力ながら、幸運を祈ります」
「そりゃ、どうも」
「……ブライト先生……ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」
「……そりゃぁ、どうも。『収容:紙魚入る』」
ブライトは黒服に背を向け、エレベーターへと足を進め始める。相変わらず、その胸には赤く煌めく宝石の嵌まった首飾りが左右に揺れている。
暫く歩くこと数時間、ブライトはアビドス高等学校に到着する。約束していた時間丁度。ブライトは校門を抜け、教室を目的に足を更に進めていく。
そうして教室に到着すると、既に皆がいた。
「おかえり、先生」
「先生、お待ちしておりました!」
「先生!」
「先生……」
「たっだいま~!」
「何か、掴んできた顔だね」
「そ、天啓が降りてきちゃってさー!」
ブライトは両手を挙げ、頭に向けてかき集めるような挙動をした。それに対して反応するものは誰もいなかった。
「……じゃあ、改めて──」
「ホシノ救出作成、開始だ」
「……ん、行こう」
「ホシノを確保の後、ここへと移動し、保護する。名付けて、
「作戦名は置いておいて、そう言ってくださると思っていました!」
「しっかり一人で勝手に行動したことを反省してもらわないとね!」
「うんうん! 自分で言ったことを守れなかったんですから、お仕置きです!」
「『おかえり』と『ただいま』を使って、使わせてやろう!」
「うん……えっ!? 何それ、恥ずかしい! 青春っぽい! 背筋がゾワッとする!」
ブライトはセリカの背後に周り、人差し指でその背骨をなぞる。するとセリカは体を震わせ、ブライトに後ろ蹴りをしようとしたが、それをブライトが躱す。
「まだまだだね! 『おかえり』を言う、これは先生命令である!」
「ちょ、ちょっと!」
「はっはっはっ! さて、それはそうと、私がいるとはいえ、協力者は必要かなぁ……」
「便利屋は?」
セリカは既に、便利屋の番号が打ち込まれているスマホ片手に提案した。
「良いね。確かにあいつらは頼りになるだろう。ただ、まだいるだろう?」
会話について
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もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
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このまま