数多もの雑兵を打ち倒しながら、対策委員らは前にも来たPMC基地に辿り着いた。一つの怪我もなく、銃弾の残りも十分にある。
「さあ、ラストスパートだぞ。油断せず行こうか」
「はい!」
元気の良い、溌剌とした声が響いた。
ただ、その時である。たった今装備準備が完了したような兵士が現れ、対策委員らの前に立ち塞がった。基地の敷地の広さもあってか接敵まで時間はかかりそうだ。
「ははは! さあさ、戦闘の時間……」
ブライトは少し楽しそうに興奮したが、すぐに冷ましてしまった。何故ならば、上空をミサイルのようなものが飛行し、そのまま接敵予定だった集団に落ちていき、蹂躙してしまったからだ。
「支援射撃?」
「……L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!」
「ほう、それはまた余計な…………ありがたい支援を」
「余計……そしたらごめんなさい……」
ブライトの目の前に、デカデカと数字の五が額に書かれた紙袋を被った少女のホログラムが写し出された。その少女は、かつて銀行強盗を共に行った者であることは一目で分かった。
「いや、私の超個人的な感情だ。気にしないでくれ。ヒフ」
「ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです!」
「あぁそうかい、人違い悪かったな」
ファウストの参戦に、アヤネは少しだけ苦笑いをしたげな表情を表し、ノノミははしゃいだ。
「わあ、ファウストさん! お久しぶりです! ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ということで☆」
「あ、あれ!? あぅぅ……!」
「そんで、この爆撃はどうやって?」
「はい、それなんですけど……このL118はトリニティの牽引式榴弾砲ですが……」
「関係ない?」
「そうです! 射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので! す、すみません、これくらいしかお役に立てず……」
自ら関係があると言っているような言動に、ノノミを除いた皆は少しだけ額を抑えたい気持ちであった。ただ、この支援はとてつもなくありがたいものということは事実。それを卑下してしまうのは勿体ない。
「ううん、すごく助かった」
「はい! ありがとうございます、ファウストちゃん!」
「流石悪のカリスマだよ。こんなことをしてしまうなんてね! しかもこれ以上のことができるとな?」
「い、いえ! できませんよ…………えっと、みなさん、が、頑張ってください!」
そう言い残し、ホログラムは消滅した。ファウストはその消滅の瞬間まで、皆に微笑みを浴びせていた。
「火力支援の直後に突撃、定石通りだね」
「はい! 敵は砲撃により混乱状態です、今のうちに突撃しましょう!」
「じゃ、総員、準備せよ」
ブライトを含める対策委員達はそれぞれの銃火器を準備する。
端的にいってしまえば、戦闘は圧倒的蹂躙だった。即席とも言える装備の兵士相手に、しっかりと準備を怠らなかった相手に手も足もあまり出なかった。その上、時折降ってくる爆弾も蹂躙に加勢していた。
そうして兵士を打ち倒しながら進んでいくと、目的地へと辿り着いた。
「この辺りに、ホシノ先輩が閉じ込められているはずです! この周囲のどこかに、きっと……!」
「よし、じゃあ爆破掘削しようか」
「ちょっと待ってください!」
「ここ、学校っぽい?」
足元を見る。するとそこにはコンクリートのようなものが見え、近くにはフェンスがあるようにも見えた。それは学校の屋上のようである。
「本当だ。ここにあるということは……」
「ああ。ここは、本来のアビドス高等学校本館だ」
記憶に残っている不愉快な機会声。音源の方向に視線を向ければ傲慢な態度に見合った巨大な体形をしたオートマタが立っていた。
「ほう、生きられてたんだな。クソ野郎」
オートマタの周囲には他より一際良い装備をした兵士オートマタが存在している。
「あんたは……!」
「よくぞここまで来たものだ。アビドス対策委員会」
アビドスの仇、そしてブライトがボコボコ、もしくはオモチャにしたカイザーPMC理事の姿がそこにはあった。
「敵の増援多数……! この数字……おそらく敵側の動ける全兵力が……」
「へえ、ここで全を持ち込んでくるのか。バカだねぇ」
理事は忌々しそうに、この世の憎悪を全て込めたかのような声を出し始めた。
「砂漠化が進行し、捨て去られたアビドスの廃墟……ここが、元々アビドスの中心だった……かつてキヴォトスで一番大きく、そして強大だった学校の残骸が、この砂の下に埋もれている。ゲマトリアは、ここに実験室を立てることを提案した」
「悪趣味だねぇ……ゲマトリアも、お前も」
「そんなことよりも、ホシノ先輩はどこですか!」
「あの副会長なら、向こうの建物にいる。もしかしたら、すでに実験が始まっているかもしれないが……彼女のもとに行きたいのであれば、私たちのことを振り切っていけば良い」
「オッケー、教えてくれてありがと。『即効性呪われたSCPナンバー』」
いつも通り、腕の装置に向け呟く。いつもならば装置から何らかのものが出るが、今回は何も出てこない。
しかし、途端に理事の周囲にいたオートマタは唐突の爆発によって破壊されてしまった。偶然にも理事と対策委員に被害はない。
「やっぱ便利だねぇ。呪いってのは。それに、この付加機能も付けておいてよかった」
「キサマァ!」
しかし爆発の原因はわかっていない。それを不審に思ったシロコが周囲を見渡すと、そこにはかつて柴関ラーメンを爆破した四人ぐみの人影があった。
「じゃーん! やっほ〜⭐︎」
「よう、ナイス援護!」
「まさかあんな威力あったなんて、少し火薬量間違えちゃったかも〜」
「いや、助かったよ」
「べ、便利屋の皆さん……!?」
四人組、便利屋68は、ハルカはいつも通りオドオドと、ムツキは無邪気に笑い、カヨコは少し申し訳なさそうに、アルは目つきを悪くして立っていた。
「……ふん、こっそり助太刀しようと思ったのに、そう上手くいかなかったわね」
「いやー、格好良かったよ? 救世主さん?」
「…………なるほど、そういうことだね」
「……ん? 何、その期待に満ちた目線は?」
「社長、なんか嫌な予感がするから、まずは状況整理してから……」
アルは一瞬沈黙したが、すぐに目つきはそのままに微笑んで対策委員らに向け口を開く。
「ふふっ、勘だけは鈍っていないようね、対策委員会。私たちがここにきた理由なんて、決まっているでしょう? ここは私たちに任せて、先に行きなさい!」
「そう言ってくれると思った! 行くぞ」
ブライトは一足早く先ほど理事が指した建物の方向へと走る。理事は妨げようとしていたが、あるがその得物から放った弾丸が理事の目の前にある地面に落ちたことで止められた。ブライトの後を追うようにして、委員も走り始める。
走り続けているとやがては建物にたどり着くことができる。一対四であるために理事が追いかけてくる様子もなく邪魔も入らない。ブライトは分かりやすく存在している扉のドアノブに手をかけた。しかしながら、ブライトの力不足と、そこに辿り着いてからの頭痛から開くことができなかった。
「……かった!? 何これ!」
「先生、ちょっと退いて」
ブライトは言われた通り扉の前から離れると、シロコは女の子らしからぬ足わざで扉に蹴りを加えた。しかしながら扉からは鈍い金属音しか響かず、開く様子はない。
「ん、壊れない……もう一度……」
そうしてもう一度シロコが蹴りを入れようとした瞬間、上空からヘリの音がしてきた。見上げればそこには案の定のヘリと共に、それに搭乗しているアヤネの姿があった。
「おお、全員集合だこと。ホシノはこの開かずの扉の先だ」
「分かりました……こんのっ!」
アヤネも、その雰囲気に似合わない雄叫びと共に扉に蹴りを入れると、扉は勢いよく、まるで爆発でもしたかのような音を鳴らしながら壊れていった。そしてそこには、金庫の扉のような重装な扉がある。
「……へえ、面倒な作りだねぇ」
「でも、この先にホシノ先輩が……」
五人は足を踏み入れる。一歩、また一歩とその扉へと近づいてゆき、やがて目の前に立つ。そして、その扉のハンドルに手をかけ、回すと容易に扉が開き、ホシノの姿が現れた。
「よお! 家出娘さん! お迎えに来たぞ!」
「「「「ホシノ先輩!」」」」
ホシノは静かに顔をあげ、夢から覚めた時のように、信じられないというような顔をした。
「あ、あれ……どうやって……どうして……だって、私は……」
「信じられないなら、頬でもつまんでやろうか?」
「…………いや、大丈夫だよ」
ホシノは立ち上がり、皆に純粋で、眩しい笑顔を見せる。
「……ああ。そっか……みんなが、先生が……大人が、ね……はは」
今にも涙が溢れてきそうな、少し声質の安定していない声でホシノは呟く。
「……お、おかえりっ!」
「あ、私が言おうとしたのに!」
「恥ずかしいから言わないって言っていたのに、ズルイです!」
「う、うるさいうるさい! 順番なんてどうでも良いでしょ!」
あまりにもいつも通りな、日常とも言えるような騒がしさが、そこにはある。
「……無事で良かった」
「ほんと、異形になってたらどうしよ〜って思ってたよ。おかえり、ホシノ」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、です!」
「おかえり、ホシノ先輩」
皆が共通して言ってきた言葉に、ホシノは嬉しそうに苦笑いした。今の自分が言うには少し気恥ずかしく、少しだけ申し訳ないような言葉を思い浮かべたからだ。
「あはは……何だかみんな、期待に満ちた表情だけど……求められているのは、あの言葉?」
「ああもうっ! わかってるなら焦らさないでよ!」
「そうだそうだ! 歓迎してあげるから!」
ホシノは目を閉じて、更に増して喜ばしそうな表情を浮かべる。
「うへ〜……全く、可愛い後輩たちと先生のお願いだし、仕方ないなぁ……」
深い、深い深呼吸をして、ホシノは皆の目を見逃すことなく、その言葉を放った。
「ただいま」
こうして、対策委員会員、小鳥遊ホシノは帰還した。
あの事件から数日後、ブライトは様子見を兼ねて対策委員会の会議室に訪れた。いつも通り、騒がしい会議室の中で、アヤネ近況を語る。
近況として、対策委員会の公式承認、柴関ラーメンの屋台再会、ブライトによって借金の大幅減額成功、連邦生徒会によるカイザーローンの捜査予定、理事の指名手配及び解雇、便利屋68の新事務所、黒服の正体特定失敗といったものだ。一通りの近況報告を終えたアヤネは定例会議の開始を宣言した。
「ここしばらく色々なことがありましたが、最終的に借金が消えたわけではありません」
「でも、毎月支払う利子はかなり減った」
「半額にもなったしね!」
「そうだね〜せっかく負担が減ったことだし、ちょっとゆっくり昼寝でもしない?」
「お、いいね。いい場所教えてくれるかな」
「もちろんだよ〜」
あまりにも平和な光景、久しぶりに見る光景。ブライトは財団時から見ても珍しいその光景を楽しんでいた。しかし、彼の脳内にはある疑問があった。それは原因不明の頭痛。固かった扉前に立った途端に襲ってきた頭痛について、ブライトは脳内で考察を行なっていた。
「……おーい、先生?」
「…………ああ、すまない、どうした?」
「いや〜、ちょっとセリカちゃんとか止めるの、手伝ってくれない?」
見ればそこにはグラフィックボード片手に宣伝している騙されセリカ、そして銀行の地図を広げる強盗シロコがいた。
「ちょいちょい、二人とも、物騒なことはしないでくれよ?」
「シロコ先輩と同類にしないで!」
変わらぬ日常、変わらぬ平和、ブライトと対策委員会は心の中で、そのような平和が続くことを願っていた。
というわけで、対策委員会編2章まで終了です。さて、次は時計仕掛けの花のパヴァーヌ……と言いたいところですが、一回幕間ということで三話程度好きに書かせていただきます。いや〜、このまますぐに行くのもアリとは思うんですが、他の方の作品を読んでいるとどうしても書いてみたくなってしまいました。お付き合いのほど、よろしくお願いします
登場SCP
DrClef作
SCP-048 - 呪われたSCPナンバー
2009http://scp-jp.wikidot.com/scp-048
CC BY-SA 3.0
会話について
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もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
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このまま