ブライト達は歩いて目的地へと向かっていた。三十キロメートルという途方もない距離をだ。三十キロメートルとは分かりやすく言えば新宿駅から春日部駅までの直線距離に匹敵する。そんな距離を歩けば間違いなく一般人の足は破壊される。しかし、実際に疲弊しているのはブライトのみであり、他は余り疲れていないようであった。
「おや、先生疲れちゃったみたいですね〜!」
「なんで……君たちは疲れて……ないんだ!」
「いや〜、神秘的な何かかなぁ?」
「なんだよそれ……」
ブライトは不満を垂れ流す。それは曖昧な返答に対するものへか、それとも何故自身の首飾りにそのような副次効果がないのかというものか。それは誰にも分からない。
歩いていると、唐突に青い光が使われたホログラムが現れた。その青い光はオペレーター、アヤネの形をしている。
「カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました」
「まじ? やっとか……」
ブライトは糸の切られたマリオネットのように腰から倒れ、その場に座り込んだ。
「あの…………言いにくいのですが敵を検知しました」
「あぁ……じゃ、実力見たいからやっちゃって」
「こんなのが先生なんて……やってやるわ!」
ブライトの言葉に速攻反応したのはセリカであった。その後も続々と武器を構え始め戦闘体制となる。そして、アヤネの合図で三人は一気に駆け出した。
ブライトが身を引きずって今いる橋の下を見ると、ホシノがライオットシールドによって皆の盾となり、そのホシノや障害物のすぐ後ろでアヤネとシロコのアサルトライフルによって敵を着実に退治。そしてノノミが仁王立ちしながらマシンガンで一掃し、アヤネが回復サポートを行っていた。
「……流石、守ってきただけあるな」
そうして見ていると、四人の後ろから奇襲を仕掛けて来ようとするやつがいるのをブライトは見た。
「後ろ来てる!」
ブライトがすかさず叫ぶと、一番後ろにいたノノミが振り向き、奇襲部隊を蹂躙した。
「ありがとうございます!」
深く感謝して、ノノミは戦闘に戻っていった。
いつの間にか戦闘は終わり、四人が戻ってきた。
「敵の撤退を確認!」
「おつかれさん」
四人はあまり疲れていなさそうな様子だったが、ブライトは形式上労いの言葉をかけた。この六文字は魔法の言葉なのだから。
「並びに、カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認」
「これでしばらくはおとなしくするはず」
「……フラグかな」
一瞬、その場には静けさが生まれ、ブライトは申し訳なさといたたまれなさを感じて大声で笑い声をあげた。
「まぁ、学校に戻ろっか~」
ブライトを助けるようにしてホシノが言うと、ブライトを含めた皆は学校の方向へと歩いていった。
「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」
アヤネによる迎えの言葉が響く。またしても、そして先程よりもブライトは疲弊しきって足をぶっ壊しており、シロコが背負っていた。
「取り敢えず火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」
「そうだねぇ……ケーキでも食べる?」
椅子に座らされていたブライトがいつの間にかあったケーキの乗った皿を五つ見せる。すると五人共何も言わずにそれらを取って食べ始めた。
「これでやっと、重要な問題に集中できる」
「心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
「…………借金?」
ブライトは純粋な疑問を持った顔をした。例えるならば、新たな研究材料を見つけたような、新オブジェクトを見つけた時のようなものである。もっと簡易的に表すならば、好奇心で満たされた顔。
「……あ、わわっ!」
「そ、それは……」
一年生達が大いに慌てる様子を見て、ブライトは少し後悔した。弄ってはいけないタイプのやつだったのかと。
「良いんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」
「……カジノで大負けでもしたのかな? それともスロット? 」
ブライトはセリカの表情や仕草から話したくないような感情を読み取り、勘違いしているような発言をした。こうすれば訂正のツッコミが入ると思ったから。しかし、予想とは裏腹に話は拗れに拗れ、ついにはセリカは部屋を飛び出してしまった。
「セリカちゃん!?」
「私、様子を見てきます」
ノノミは部屋を後にした。
「あぁ……すまない」
「先生のせいじゃないよ。説明してなかったこっちも悪いし」
「いや、私こそ。借金をネタにして弄り倒そうかと思ってしまった」
「……そんなこと思ってたんだ~……」
ホシノは少し悲しそうな表情をブライトに見せたが、目を閉じ、深く息を吸ってからもう一度ホシノは口を開いた。
「改めて言うけど、この学校、借金があるんだ~」
「学校の借金と言うと千万?」
「いや、九億」
ブライトは頭を上に向け、手を目の上に置いた。想像よりも遥かに多い額。それも返せなさそうな額に。
「……九億六千二百三十五万円、です。これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります」
「ひえぇ……どうしてそうなったんだ!」
ブライトは嘆くようにして呟いた。しかしその言葉はしっかりと聞こえていたようで、アヤネは冷静に答え始める。
「数十年前、この学校の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした」
「災害……それがどう転んで……」
「……学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の借金を投入せざるを得ませんでした……」
ブライトはアヤネの話を静かに聞く。時々、窓の外に目を向けて、進行している砂を見つめながら。
「しかしこのような片田舎の学校に、巨額の投資をしてくれる銀行は中々見つからず……」
「闇金……てわけか」
「……はい。最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどりました……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」
呑まれる学校、貸してくれない正当銀行、不当な利子を取る闇金、これらを解決できるようなやつをブライトは知っていたが、果たしてそれは解決と言えるのかという疑問に囚われ、止めた。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底を尽きてしまっています」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題に向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが始めて」
「そりゃ、どうも」
「……まぁ、つまらない話だよね。で、ヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけ~。もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくて良いからね~。話を聞いてくれただけでもありがたいし」
「そうだね。先生は十分力になってくれた。これ以上は迷惑をかけられない」
ブライトは悩む素振りを見せずに首を横に振る。ブライトは一度やろうと思ったことはする。イタズラであれば尚更。真面目な事案はその次位にやる。
「私も、借金返済の解決に至るような手助けをしたい」
「そ、それって……あ、はい! よろしくお願いします、先生!」
「へえ、先生も変わり者だね~」
「よく言われる」
ブライトは手で銃のような形を作り、それを頭の真横に当てて撃った。
「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私達も、希望をもっていいんですよね?」
「そうだね、希望が見えてくるかもしれない」
その時、静かに廊下から舌打ちの音がしたのを、ブライトは聞き逃さなかった。
なんか真面目ブライトになった……まあ本家でもたまに真面目だし良いか
登場SCP
Seibai作
SCP-871 - 景気のいいケーキ
2011
http://scp-jp.wikidot.com/scp-871
CC BY-SA 3.0
会話について
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もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
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このまま