ブライトが最近恒例となってきたアビドスへの登校を行っていると、その時間帯には珍しいアヤネの姿を確認した。
「やあ、アヤネ。君にしては早いじゃないか。どうしたんだい?」
「えっと、今日は利息を返済する日でして」
「回収員をぶっ倒すための準備?」
「違います!」
誰もいない町中にアヤネの叫びとブライトの大笑いの声だけが響く。あまりにも素頓狂な発言に驚いた反動でずれてしまった眼鏡の位置を修正しながらアヤネは再び口を開く。
「返済の準備に時間がかかりますし、何よりも今後の計画見直しが大変なので」
「ひゃー、頑張るねぇ!」
「ありがとうございます……あ、そういえば。昨日の方々の情報が見つかりました」
「噂をすれば、じゃないかな?」
ブライトが後ろを振り向く。するとすぐそこにはそこそこ大きなバックを片手に持ち歩いている少女、ムツキがいた。ムツキはブライトに対して少し悪戯っぽい微笑みを向けながら近づいていく。
「どもどもー! こんなところで会うなんて、偶然だね!」
ムツキはブライトへと急接近し、寄り掛かろうとしたが、研究者の勘が働き避けてしまった。ムツキは一瞬体をふらつかせたが、咄嗟に動いたアヤネが支えたことで倒れることはなかった。
「ひゅ~、助かった~……と、誰かと思いきや、アビドスのメガネっ娘じゃーん? おっはよー、昨日ラーメン屋であったよね?」
「戦闘もしたね。そっか、君達公私はしっかり分けるのか」
「そそ」
ムツキはアヤネから支えられている状態から立ち上がり、アヤネと少しの間を顔を合わせる。何を見たいのか、はたまたただの気分か、どちらにせよ、ブライトにはその真意を読み取ることはできない。
「ま、いいや。いつかうちの便利屋にも遊びにおいでよ、先生。アルちゃんもみんなも、きっと喜ぶからさ。そんじゃ、バイバーイ。アヤネちゃんもまた今度ね」
「ま、また今度なんてありません! 今度会ったらその場で撃ちます!」
「はいはーい」
ムツキは足早に何処かへと向かって行った。アヤネは額に手を当て、小さな溜め息をつく。
「なんですか、あの人は……!」
「まあ、『便利屋』を名乗ってる以上、どんな仕事でも受けないといけないだろうし、ちょっと優しくしたら良いとおもうんだけどねぇ」
「それもそうですが……」
その後も、二人は雑談しながら学校へと向かった。
学校に到着してからは現金の確認や書類の整理、更にはそれらの運搬と中々に大変な仕事を終え、今月の利息の支払いが終わった。
「はぁ、今月も何とか乗り切ったねぇ……」
「……よく学生が七百万も稼げるよねぇ。でもさ、三百年ローンはぁ……キツくない?」
「三百九年です先生」
「細かいところは気にしない主義でね」
「ということは……残りローンは……」
「言わなくていいわよ! どうせ死ぬまで完済できないんだし!」
ブライトが頭の中の黒板に数式を書き始めた途端セリカによって数式が消されてしまい、ブライトは少々不服感を覚えた。
「ところで、カイザーローンは何故現金でしか受け付けないのでしょうね?」
「……確かに。ATMとかでも良い気がする……資金洗浄……」
ブライトは再度頭の中の黒板に自身の考えを書き始める。今度は誰にも邪魔されずに書き加えられる。書き加えている間に何やらシロコが不穏な思想を得ていたようだが、今のブライトには関係ない。
「ま、とりあえず先に解決するべきは目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろう~」
ホシノの発言によってアビドスメンバーは皆教室に戻っていくが、ブライトだけは何かをぶつぶつを呟くのに夢中で戻れていない。そしてそれに気がついたシロコがブライトを背負い、教室へと連れ戻していった。
教室に戻ると始まったのは会議であった。議題は二つあり、最初に出された議題は便利屋の襲撃について。アヤネが調査した便利屋の情報を皆に共有する中でもブライトはただ呟くばかり。右から左へと情報が流されて行く内に、次の議題にセリカを襲ったヘルメット団が出される。その時、ブライトは突如として立ち上がり、叫ぶ。
「全ては闇市に繋がってる!」
「先生、急にどうしたの?」
「丁度その話をしようと思ってました。先日セリカちゃんを襲ったヘルメット団の戦車破片を解析したところ、廃盤となった戦車であることが判明しました」
「その取引元が闇市って話?」
「そうです。正確に言うならばブラックマーケットですね」
ブライトは回答を聞くや否や、お得意の指パッチンをして、生徒全員に聞こえるようにして言う。
「じゃあ、闇市に行こうではないか」
「確かにそうだね~。意外な手がかりがあるかもしれないしね」
「じゃ、善は急げだ!」
ブライトらはそれぞれの準備を行い、ブラックマーケットへと出陣した。
ブラックマーケットは普通の商店街のように賑やかだった。生徒が道を行き交い、取引の声さえ聞こえてくる。周囲を見渡せば、都市では違法とされているものが堂々と陳列されている光景が見て取れる。
「いやぁ……中々におm……酷い所だね。やけに賑わっているのも闇を感じるよ」
「本当に。小さな市場を想像してたけど、街一つぐらいの規模だなんて」
「まさに無法地帯! 私の性分に合いそうだ」
軽い雑談のような会話をしながらマーケットの道を歩いてゆく。とてもそこが違法武器や兵器の売買が行われているとも知らずに歩いてるかのように。
そうして歩いていると、マーケットを銃声が横切った。
「待て!」
「まずっ、まずいです! ついてこないでください!」
その後すぐに聞こえてきたのは荒々しい声とか弱い少女の声であった。少女は白を基調とした制服を着用し、何らかの、恐らくは鳥を模しているであろうキャラクターのバックを肩に掛けていた。
「あれ……あの制服は……」
「間違いなくトリニティだねぇ」
ブライトは聞いていた。トリニティはキヴォトス有数のお嬢様校だと。ブライトは知っていた。逃亡していた彼女はそのトリニティの中でも極々一般的な生徒だと。
少女は逃亡の最中、偶然シロコとぶつかってしまった。
「大丈夫? なわけないか、追われてるみたいだし」
そうして足を止めていると、後ろから追っていた者、どうやらチンピラであろう者達が少女へと近づいていく。どうやらチンピラは彼女を誘拐し、身代金を奪おうとしていたようで、シロコとノノミが瞬間的に懲らしめてしまった。
「悪人は懲らしめないとです☆」
「うん」
「……何をしたんだ……全く見えねえ」
「えっ? えっ?」
一瞬の間に何が起こったかなど、当人の間でしか分からない。
困惑する観衆を横目に、シロコは尻餅をついていた少女の手を取り、立ち上がらせる。未だに混乱は解消していなかったようだが、少女はシロコのみならずその場にいた皆に感謝を伝えた。
「ところで…………なーんでお嬢様学校のお嬢さんがこんなところにいるのかねぇ……ヒフミさん?」
「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……もう販売されていないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているという情報を掴みまして……」
そう言いながらヒフミは自身のバックの中に手を突っ込みながら漁る。
「もしかして……戦車?」
「もしくは違法な火器?」
「化学兵器とか?」
「ならあのバックは四次元ポケットか?」
ヒフミは質疑そっちのけで探す。そして目的の物を見つけたようで、勢いよくバックから購入品と思わしき物品を取り出した。それはバックのデザインともなっている鳥─ヒフミ曰く、ペロロという─がフォアグラのようにアイスクリームを口に突っ込まれている、何とも言えないぬいぐるみだった。
「限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ。ね? 可愛いでしょう?」
「ええっと……宗教は自由だがそn」
「わあ☆モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ! 私はミスター・ニコライが好きなんです!」
予想外の反応にブライトは驚きから少し硬直する。ブライトにはその良さを理解することはできなかったが、どうやらヒフミとノノミの間では理解できているらしく、二人の間では語りが成立していた。ブライトはもしもペロロがオブジェクトとして存在し、果たしてライツ博士がペロロに反応するかどうかが気になってしょうがなくなった。
「……いやぁー、何の話だか、おじさんにはさっぱりだなー」
「同感」
「ホシノ先輩はこういうファンシー系に全く興味ないでしょ。先生はファンシーだけど」
「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」
「歳の差、ほぼないじゃん……」
「そうだそうだー! 私なんてこう見えて██たぞー!」
歳の差戦争を繰り広げている間に、ノノミヒフミ間語りは終幕していたらしく、ヒフミが再度感謝を伝えると共に、とある疑問を投げ掛けた。
「アビドスの皆さんは、何故此方へ?」
「私達も似たようなもんだよ。探し物があるんだ~」
「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」
そうして事情説明を行っていると、確認し得る道から足音、恐らくは先程ノノミとシロコが懲らしめたチンピラの仲間達の足音が聞こえてくる。更にそのチンピラは武装しているようだ。
「まっずいねぇ……ま、やってやろうか」
「望むところ」
「全く、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私達、何か悪いことした?」
「愚痴は後にして……応戦しましょう、皆さん!」
そしてバトルは始まる。
今回もいつものようにすぐに終わると思われていたが、チンピラの他にもマーケットガードという機械兵のせいで少しバトルは長引いた。だが毎日のように学校を守るために戦闘を行っている者達には到底敵うはずもなく、更に此方には囮という何とも使える人形もあったため、チンピラや兵の鎮圧をすることができた。
「敵、後退していきます! ですがこのままでは……」
「まーた呼ぶのか?」
「良いよ、いくらでも相手してあげる」
「ま、待ってください! それ以上戦ってはダメです!」
「ん? どうして?」
「だ、だって……ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません!」
「へぇ……治安機関なんかが……」
ブライトは違和感を覚えた。ヒフミがブラックマーケットへ初めて来たとしたら詳しすぎる。そんな違和感を。
「ここのことはヒフミちゃんの方が詳しいだろうから、従おう」
「ちぇっ、運の良いやつらめ!」
「こっちです!」
ブライト達はヒフミに着いて行く。ブライトはお嬢様学校の生徒とはそんなに高貴なものではないのかと思ったが、自身の中にあるイメージを崩したくないためにそれを否定した。
ある程度ヒフミに着いて行くと、屋台が立ち並ぶ道に出た。案内中、ヒフミは道に迷うことはなかった。
「……ここまで来れば大丈夫でしょう」
「やっぱ詳しくない? 君?」
「えぇと……ここに来る前にしっかり調べたからでね……ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しているらしく、更にはこの中で様々な”企業”が違法な事柄を巡った利権争いをしているとも聞きました。それだけでなく、ここ専用の金融機関や治安機関もあるようです」
「違法銀行に違法警察……なんでもありだねぇ……」
「スケールが桁違いてすね」
「中でも特に治安機関はとにかく避けることが一番です……騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです」
「…………まるで自分の常連店のように詳しいね」
ブライトが呟くと、ヒフミは僅かに、そして確実に動揺する素振りを見せる。
「よし、決めた~。助けたお礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうね~♪」
「え? ええっ?」
ヒフミは聞かされていない見返りを求められ目を丸める。そこにヒフミを除いたメンバーによる賛同と、ヒフミ自身の半ば強引な承諾が重なったことでヒフミが案内人となった。
オブジェクトだせねぇ……博士で我慢してくだされ……
登場人物
agatharights
ライツ博士の人事ファイル
2008
http://scp-jp.wikidot.com/dr-rights-personnel-file
CC BY-SA 3.0
……何気に9年間翻訳されてなかったことに驚き
会話について
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もう少しブライトの台詞を増やして欲しい
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このまま