もこたん!
ちょっと遅くなりました。
では、第五話です。
「はははっ、こいつは気持ちいいな!」
「あ、危ないって妹紅!振り落とされちゃうよ!?」
「大丈夫だって、ここ全然揺れないし!」
とある田舎の麺屋を経営していた少年、麦野餅士は、銀髪ロングの少女、藤原妹紅と一緒に自転車に乗っていた。
男女が自転車に相乗り。現代の者ならドキドキのシチュエーションというものだ。
前の席ではもちろん餅士が運転している。そして荷物台の方の妹紅は―――
岡持ちを持ったまま荷物台に立って景色を見るという曲芸を行っていた。
「その乗り方はおかしいですよ!?」
「餅士!口調直せ!」
「あ、うん……いやまず座っててよ!!」
並々ならない人生の功か蓬莱の薬によるものなのか、はたまたそれ以外の理由からか…
良く分からないが、妹紅は人並み外れた身体能力を持っている。木の枝から枝へ飛び移ったり、崖を高速で登ったりなどもできるようでそれを見た時は餅士もひきつった笑いをした。現在も当の本人は余裕の表情だが、
「漕いでるこっちのことも考えてよ!」
「大丈夫だって!ほんとにここ揺れないもん!ほら、こんなことだって……よっと」
そう言うと妹紅は片手で岡持ちを持ったまま、もう一方の手で逆立ちをした。
「ホントそーゆーのやめてよもこおおおおおおお!!!」
餅士の全身から冷や汗が垂れる。
少したりとも車体を揺らすことができない。
日々の配達によって洗練されているため、ある程度運転の技術は高いとしても、何一つミスのできない事態に追い込まれた餅士の心臓は爆発しそうなくらいに脈打つ。
そんな中、餅士はテレビの言ってたとおり心臓がバクバク言っているなどという呑気なことを考えていた。
そんなやりとりをしながら数十分、進行方向に集落らしきものが見えてきた。
餅士は妹紅に言った後、少しずつスピードを落として自転車を止めた。
妹紅は地面に飛びおりて、車体の後ろに岡持ちを置く。
「いやー、楽しかったー。ほんとに人乗せて動けるんだなこれ。」
「こっちはもういろいろ疲れきったよ……」
「なんか餅士すごい興奮してたな。意外な一面を見れた気がするぜ。」
「誰のせい!?ねえ誰のせい!?」
妹紅は笑いながらその集落の方へ歩く。
餅士はふてくされながらも、もしかしたら自分は大丈夫だと安心させたいのかもしれないのかもなどと考えながら、自転車を引いて歩く。
集落の周りには沢山の広い田畑があり、
かなり沢山の種類の野菜や穀物が栽培されているのが分かる。近づいていくと、何人か村人も見える。
妹紅の表情が固くなる。それを見た時は餅士も覚悟を決める。
そして、二人は村の中へと入った。
二人に気付いた一人の女性がかけつける。
妹紅はビクッと体を震わせる。
餅士はそんな妹紅を慰めるようにもこうの手を掴んだ。そして、村人が正面に来た――
「まあ、まあまあまあまあ!なんて可愛らしい二人なの!見ない顔よね。迷子かしら!?迷子なのかしら!?」
あまりの衝撃発言に二人は硬直した。
その村の女性――歳は30程度だろうか――は、半ば興奮気味に二人を見ながら尋ねる。餅士はその気迫に気圧されそうになりながらも何とか答える。
「い、いえ。その…少しここから離れた場所に住んでいるのですが、食べ物がなくなってしまい、取れる見込みもないので、食料をもらいに人里を探しに来たんです……。」
あまりに正直に答えた餅士に驚く妹紅。
本当のことを言ったところで、相手には全くのメリットはない。ここは適当なことを言って何とかするしかなかったのに…まずいと思った妹紅は最悪の状況に備えて思案する。
しかし、村の女性は妹紅の意とは全く違った返答をする。
「そうなの!?若い子二人で大変ねぇ…ほら、とりあえず村の方にいらっしゃい。その服じゃ寒いでしょう?」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しさに幸せそうな笑顔を返す餅士。
それを見てその村の女性は
はぁ…私にもこんな夫か息子か何かいたら幸せなのにぃ…と独り言をつぶやきながら、こっちよと二人を案内する。
妹紅はあまりにすんなり話が通ってしまい、拍子抜けしたが、まだ安心はできないため、警戒を解かずにいた。
「?妹紅、目が怖いよ?」
「餅士、まだ安心するなよ。相手がこっちを騙してる可能性だってあるんだ。」
「うーん。そういうものなのかなぁ。」
そう言いながら、妹紅と餅士は村の女性について行く。そこでついたのは一軒の家であった。
「ここが私の家よ。さ、上がって上がって。」
「お、おじゃましまーす……」
村の女性に案内されるがまま、二人は家の中へと入った。そして、案内されたのは客間。大きくはなかったが、木板で作られた床の部屋の真ん中に机と座布団があり、きちんと人をもてなす用に整えられている。
「お茶をお出ししようと思ったけど、とりあえず服ね。そんなにボロボロじゃ外を歩きにくいでしょう?」
そう言われて、二人は互いの服を見る。確かに、どちらもボロボロになっていた。特に妹紅の服は、熊に襲われた時、服を破られていたので、後ろでくくったような形にしている。その為、お腹の部分が少し出ていて、この冬の初めの時期ではとても寒そうである。
「でも、そんな服なんてもらうわけには…」
「いいのよぉ!可愛らしい子に服をプレゼントなんて、こっちからお願いしたいわぁ」
ニコニコと嬉しそうにしながら、村の女性は客間を出る。
餅士はどうしようと妹紅の方を見るが、妹紅の方も戸惑っているようで、二人の目が合って、同時に苦笑いをした。
しばらくすると、服を取りに行った女性は、大量の服を持って、客間に戻ってきた。
「そ、その服の量はなんですかっ?」
餅士は慌てて問う。
すると、その女性はまだ興奮が収まらないようで、声を荒げて答える
「だって、可愛い子には着せ替えさせろって言うじゃない!?」
「多分ですけど言いません!!」
餅士は大声でつっこむ。しかし、本当に服をもらえるならとても嬉しい。先代もタダならもらっておくべきと言っていたので、ありがたくもらっておこう。妹紅もそう感じたようで、しぶしぶこの変な村の女性に付き合うことにした―――
変な村の女性――名前は幸さん(さっちゃんと呼んで欲しいと言われたが、断った)――は、
自分を客間から廊下に出して、客間を閉ざすと、おもむろに服を物色し始める。
呟きを聞くに、自分に合う服を選んでくれているようだ。
「あの……別に何でもいいですよ?」
「ダメよ!適当に服着せたらみんなになんて言われるか!」
遠慮しようとすると、すごい剣幕で怒られてしまった。これは静観しておいたほうがよさそうだ……餅士はそう思ってしばらく立ち尽くしていた。
数分後、幸は何かビビッと来たようで、これだ!という声と共に服の山から1つ取り出した。
「さ、これ着てみてちょーだい。」
それは、深緑の生地を基調とした服だった。
所々を白い麦の穂の形をした紋様があしらわれている。
「は、はい……」
言われるままにそれを羽織って着る。サイズはピッタシだ。少し体を動かしてみるが、苦しいところはなくとても快適だ。
「とっても着やすいです。」
「そうでしょう!?大きさと模様を見た時にこれだ!って思ったのよぉ。」
確かに。自分の名前とこの服の模様が同じだ。餅士も気に入り、上機嫌な笑顔で幸にお礼を言う。
「いいのよいいのよ。じゃあ次はもこちゃんの服を決めてくるわね!」
「あ、はい。」
そう言うと、幸は客間の方に入っていった。
――――――――――――――――――
「なんか、予想外の事態になったなぁ…」
くしゃくしゃと長い髪を掻きあげる。
私としては、餅士が事情を話した時に追い出されるか、最悪騙された挙句死ぬまで重労働をさせられるかなんてことも考えていた。
考え過ぎかもしれないとは思っていたが、やはり今までの人生経験が、疑えと…人を簡単に信じるなと命令する。
「でもまあ…いざとなりゃどうとでもなるし、ありがたくもらっておくか……」
餅士はいつものように、子供のような素直さで幸と名乗った女性を信用している。
餅士を置いていくことはできない。
ならば、今は様子を伺おう。
そんなことを考えていた。
すると、客間の扉から幸が入ってきた。
どうやら餅士の着るものが決まったようだ。
「さあさあ、次はもこちゃんよ!」
「その呼び方、やめてもらえないか…」
私はぐったりとする。自分の名を名乗った瞬間から、彼女は自分をもこちゃんと呼ぶと宣言していた。代わりに自分をさっちゃんと呼んでもいいと言っていたが、何が代わりなのだろうか…と、はぐらかされているようにしか思えなかった。
そんな幸――もといさっちゃんは、私のそばによって、私の髪を手で持ち上げて撫でる。
「もこちゃんの髪、ほんとに綺麗ねぇ……
輝くような銀の髪。正直何着せてもこの髪には見劣りしそうねぇ………」
少しくすぐったい気持ちになる。
この髪は、昔化物だと言われた理由の一つでもあるのだ。銀色の髪の人間などいないと。
それから、この髪は自分のコンプレックスとなって心にへばりついていた。
だから、この髪を褒められると心が救われたような気がして、信用しそうになる。
まあ、今まで見る限りでも、さっちゃんは変な人ではあるが悪い人ではなさそうだ。
「うーん…もこちゃん、お顔も可愛らしいしねぇ。お肌もすべすべプニプニしてて、とっても若々しいわぁ。あぁ私にも分けて欲しい!」
「ちょ、やめ。ぁっ……く」
さっちゃんはおもむろに私の体を触ってくる。人に身体を撫でられる感覚がくすぐったくて、思わず変な声が出そうになる。そうなる前に私はさっさと本題を切り出す。
「それより!服決めるんじゃないのか?」
「そうねぇ、もこちゃんに合う服、あるかどうかわからないけど……」
さっちゃんはすぐに体勢を整えて、バッと服の山へと向かう。そして、服を物色し始めるが、難航しているのか天井を見上げてうーんと唸る。
正直なんでもいいのに……と思う中、とある服が私の目を惹いた。私はその服を持ち上げる。
「この服は?」
「ああ、それ私の部屋着にしようと思ったんだけれど、色が派手過ぎてねぇ。私には似合わなかったのよ。」
私はもう一度その服を見る。色は白。模様などはなく、襟と前をしめるための留め具がついているだけのシンプルな服だ。
一方ズボンの方は、袴の様なだぼったい感じのものの袖をしぼった形になっている。
腰のところには長めの布紐がついており、肩から書けるように着ることができる。
非常に着やすく、動きやすそうだった。
しかし、目を惹くのはその色だった。
炎のように明るい赤色。そして、所々に御札のような模様が描かれている。
普通の人なら派手だと目を背けたくなるかもしれないが、私は不思議とその服に目を奪われていた。
「それがいいの?変わってるわねぇ」
さっちゃんは不思議そうに聞く。
私が頷くと、さっちゃんは服の山を片付けながら言う。
「でもまあ、もこちゃんならなんでも着こなしちゃいそうだし、大丈夫そうねぇ。さ、じゃあ着替えちゃって頂戴!お姉さんあっち向いて服片付けとくから!」
私はまた頷いて、着替える。服を脱いで、新しい白と赤の服を着る。
そして、脱いだボロボロの服を見下ろす。
今までずっと着てきた服だ。名残惜しいが、仕方ない。私は心の中でお礼を言ってから、さっちゃんの方を向く。
「着替えた。」
私は服の山に向かうさっちゃんに言う。
すると、さっちゃんはこちらを向いて静かな声で話す。
「もこちゃん……サラシ巻いてたのね…残念」
「見てんじゃねえか!」
私は大声をあげてぐったりとする。
はぁ……やはりこの人はどこか掴めない…。
さっちゃんはからからと笑うと、ニッコリ笑顔で私に話しかける。
「じゃあ、餅士くんにお披露目ねぇ。
彼気に入ってくれるかしら?」
その言葉に少しドキッとする。
餅士が気に入るかなんて全く考えていなかった。いや、あいつなら別に何を着ていても文句は言わないだろう。大丈夫だ。
よく分からないものと葛藤していると、さっちゃんは扉の方へ行き、餅士を呼ぶ。
(…餅士、気に入ってくれるかな……)
―――――――――――――――――――
妹紅が着替えている間、餅士はずっと客間の外よ廊下にいた。
(………落ち着かないです……。)
幸が客間に入ってから、中から妹紅の艶やかな声が聞こえてきたり、衣擦れの音が聞こえてきたりと、さっきから心臓に悪い音が多い。早くしてくれないかと願いながら、餅士はこの時間が過ぎるのを待っていた。
そして、客間から幸が顔を出す。
「着替えが終わったわよ?お披露目の時間よぉ。」
「あ、はい。」
餅士は客間の中に入る。
そこには、白と赤の服を着た妹紅が立っていた。色合いも服装も妹紅にぴったりでよく似合っていた。妹紅は餅士を見るやいなや、すこし目を見開いて顔を赤らめるが、遠慮がちに聞いてくる。
「ど……どうだ?」
「すごい、似合ってるよ?」
餅士は思ったとおりの事を言う。
妹紅はその言葉を聞いて、ぱっと明るい笑顔になる。幸はそんな妹紅をみて青春ね……と独り言をつぶやくが、二人には聞こえなかった。
「まあ、一応僕の方もどうかな?おかしいところない?」
「いや、ないと思う。その、すごい、似合ってると……思……う。」
餅士の質問に答える妹紅は、言葉を言うに連れて恥ずかしくなってきたのか、どんどん音量が小さくなり、顔もだんだん地面の方を向く。餅士はニコッと笑った。
「そう?ありがと妹紅。」
妹紅はさらに俯いた。幸は再度青春ね……と呟いたが、やはり、二人に聞こえることはなかった。
そう時間も立たないうちに、幸は二人に提案する。
「やっぱり、こんなところでくつろいでいるのもなんだし、村を案内しましょう!ちょうど服も着替えたところだし、どうかしら?」
「ほんとですか?ありがとうございます。」
そうして、餅士と妹紅の二人は、二つ返事で幸と共に村を散策することとなった――
麺が出ない?
気のせいじゃないですか?(すっとぼけ)