東方麺祭伝   作:CLAM

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一部、間違った知識があるかもしれませんが、そのへんはご了承下さい……。

書き終わった時の終わったーという充実感と次書かなきゃという使命感はなんとも言えません。

では、第七話です。




七杯目...麺屋と麦野餅士について

「多分……こっちですね。」

 

ザクザクと土を踏みしめ、道を歩む。

現代から昔にタイムスリップしてしまった少年、麦野餅士は、一緒に近くの村に来た銀髪の少女、藤原妹紅とその村で出会った女性、幸との行動から一旦離れ、女将さんに聞いた川の方へと向かっていた。

 

「もうすぐです……。」

 

足に力を入れて、グッと丘を登っていく。

そもそも、餅士がその川に向かっている理由は、この川の水、ひいてはこの川の源流である湖について、あることを確かめるためである。

餅士は、生粋の麺うちであるが、その麺を打つためには、やはり材料が必要である。

運命であるのか、餅士はその材料などを見分ける力が非常に優れている。

例えば小麦。小麦から取れる小麦粉は、その種類に応じて成分比などの様々な特色があり、様々な違いが生じてくる。現代では、大きく分けて薄力粉、中力粉、強力粉というふうに分かれているが、餅士はその小麦や小麦粉を見るだけで、どのように打ち、どの太さで切り、どのくらいの時間茹でれば美味しくなるかが自然と分かる。

一流の者でもできることは稀であろうが、

餅士はそれを一瞬で行う。

それは、麺に関して言えば共通であり、

蕎麦粉などでも同様である。

そしてその超人のような勘がはたらくのは、

麺に使われる粉だけではない。

それに使われる水についてもである。

水と言ってもやはり違いがあり、溶けているものの種類や量で用途が変わってくる。

そして、餅士は女将さんが使っている水を見て、ある特徴があると感じた。今、それを確かめようとしているのである。

 

「……つきました!」

 

緩やかな丘を登ると、そこにはさらさらと静かに流れる小川があった。

餅士は川べりに近づき、そこでかがむ。

冷たく澄んだ空気が、餅士の顔にあたる。

両手で川の水をすくって飲む。

冷たい感触が餅士の喉を潤す。心地よい感覚とともに、餅士はある確信を得る。

 

「やっぱり、この水は鹹水ですね。」

 

鹹水。元々ははモンゴルの鹹湖という湖特有の水のことを指し、炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩を含む水のことである。

それは、中華麺の独特なコシの強さやちぢれを付けるため、長く中国などで使われていて、現在でも中華麺を作るために、工業的に鹹水を生産し使用されている。

つまり、この川の水があればラーメンを作る最低条件はクリアしている。

餅士は確信と同時に、ワクワクとした気分で考えを募らせる。

とりあえずオーソドックスに醤油ラーメンにするべきか。それともこの時期ならばやはり味噌ラーメンで体を温めようか。あっさりとした鶏ガラなども新鮮かもしれない。

ほわほわとした気分で、妹紅たちの下へ戻ろうと立ち上がる。その時、川の向こう側に静かにたたずむ女性が見えた。

美しい容貌であるのは間違いないが、特に目を引くのは、鮮やかな金色の長髪。

風になびくその髪は、ゆらゆらと揺れ、その美しい容貌をよりいっそう映えさせる。

服は、この時代さながらの着物服で、その服の薄紫の生地や、夕桜を思わせる装飾からは、遠目から見ても貴族のような上品さを帯びているように思えるのに対し、頭には細いリボンのついたつばなし帽子をかぶせている。雰囲気の違うものを身につけているせいか、どこか奇妙な服装であった。

 

「……誰、でしょうか…、」

 

餅士は彼女を見つめる。

美しさに見とれていたのもあるのかもしれないが、それ以上に餅士が感じていたのは違和感であった。

服装などの問題ではなく、どこか人とは違う、そんな空気が漂ってくる。

餅士の背中に冷や汗が垂れる。

とりあえず、この場から去ろう。そう思って背を向けようとした時、タイミング悪くその女性と目が合う。

すると、その女性は口を扇子で隠して怪しげに目を細める。笑っているような、そんな表情。そして、その女性は餅士に向かって声をかける。

 

「ねえ、貴方にとって私は何かしら?」

 

「へ?」

 

唐突に不可解な質問を投げかけられて、素っ頓狂な声をあげてしまう餅士。

その質問の意図も、どう答えたらいいのかも分からなかったが、とりあえず質問で返すのも憚られたので、素直に答える。

 

「ただの他人だと思うんですけど……。」

 

「そうね。」

 

女性はさらに目を細める。餅士は何がなんだか分からなかった。女性はさらに質問をする。

 

「じゃあ。貴方にとって貴方は何かしら?」

 

「僕にとっての僕ですか……?」

 

餅士は顔をしかめる。いよいよ質問の意味が分からなくなってきた。

自分にとっての自分など、答えるべきことがあるのだろうか?餅士は先程と同様に、素直な意見を言う。

 

「僕は、麦野餅士です。それがどうかしたんですか?」

 

「いえ、どうもしないわ。ただ――」

 

―――それは、本当に貴方なの?―――

 

餅士の背筋が凍る。意味はわからない。その質問に何かが隠されているのかどうかなど、判別できるはずもなかった。しかし、その言葉に、その女性の問いに、なにか重要なものが隠されているように思わずにはいられなかった。

心をかき乱された餅士は、口をわなわなと震えさせながら、それでも何とか言葉を紡ぐ。

 

「それ、は、どういう意味ですか…?」

 

「貴方の思う麦野餅士は、本当に麦野餅士を表しているのか?ということよ。」

 

動揺したまま、餅士はその女性の顔を見る。

今の餅士には扇子で半分隠された表情から、何一つ伺うことはできなかった。

 

「自分以上に、自分を知っている人なんていない、と思います。」

 

「そうかしら?他人に言われて気付くことなんてよくあるでしょう。」

 

身体が強ばる。頭の中で、これ以上話すなと、今すぐ逃げろと警告が鳴る。しかし、恐怖からか、はたまた他の感情からか、餅士の身体は一向に動かない。

女性は扇子を閉じて愉しそうに、妖しそうに微笑む。

 

「ごめんなさい。別に貴方の心を折ろうとしたわけではないわ。ただ、貴方の心があまりにも無垢で、不安定だったから少し揺さぶりたくなっただけなの。」

 

愉しげな口調からは、一切の心理も読み取れない。餅士はただ、呆然と女性の言葉を聞くのみとなっていた。

 

「ふふ、本当にごめんなさいね。こんな馬鹿げた話に付き合ってもらって。とても愉しかったわ。じゃあね。」

 

――でも、貴方が本当に何者なのかは、一度考えてもいいんじゃないかしら?――

 

そう言い残して、怪しげな女性は去る。

餅士は、その後ろ姿をただただ見つめるばかりだった。

 

(自分が、何者か…ですか…)

 

餅士は綺麗な青空を見上げる。自分について、自分が知っていることを思い起こす。

自分は、麦野餅士。前は麺彩屋の店主で、現在は妹紅と一緒に暮らすただの麺職人。

麺彩屋先代店主によって育てられて、

たしか、捨てられてるのを拾われて――

 

「あれ、僕はどこから生まれたんでしょう…」

 

そして餅士は、自分が何も知らなかったことに気づく。自分が生まれた場所、自分を生んだ親、自分が捨てられた理由。麦野餅士という存在の根本を何も知らないことに気づく。

麦野餅士が、麦野餅士たらんとする根拠が、空白となっている事実に餅士は気づく。

知らなかったわけではない。ただ、そういうものだとして受け流していた。考えないようにしていたのだ。いや、餅士にはまだ考えられなかったのだ。

 

「……どうしよう。」

 

その事実に気づいた瞬間、世界ががらっと変わって見えた。自分だけが疎外されているかのような感覚、自分だけが無知であるかのような劣等感。黒い感情が、餅士の純粋な白い心に混ざる。

 

「さっきの人は、知ってるのでしょうか…」

 

餅士はもう一度空を見つめなおす。

何一つ変わらないはずの空は、さっきほど澄んだ青には見えなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

餅士は、結局結論を出さないまま、妹紅たちの元へ戻るために村へ向かった。

村についたあと、通りを歩いていた餅士だが、あることに気づく。

 

「あれ、そう言えば集合場所とか決めてないです……」

 

餅士は焦る。このままでは、離れ離れになったままである。

うーんと考え込みながら、餅士はそのままトボトボと通りを歩いていった。すると、端の方から声をかけられる。最初は聞き間違いかと思ったが、どうやらそうではないようだ。餅士はそちらを見る。

 

「そうだよあんちゃん!ちょっくら俺の店を見ていかないか?」

 

「え、店ですか?」

 

威勢のいいおじさんに勧められ、店内に入ってみる。雑貨屋というか、布屋のようなものだろうか。餅士は悩んだが、焦って探しても仕方ないと思い、少しの間店内を見て回ることにした。

店内には、様々な布があった。布を使った服や装飾品も売っていた。

白い簡素な布や、綺麗に刺繍の施された服などたくさんの物がある中で、餅士はひとつの布に目をつけた。

 

「この布……綺麗な紅白ですね。」

 

その布は、赤と白の縞のような模様をした布だった。

その布を優しく持ち上げながら、餅士は言う。知らない間に、誰かさんのせいで自分は赤と白が好きになってしまったのだろうかと思い、少し微笑む。

すると、店主の人が近づいてきて話す。

 

「その布を気に入るとは珍しいな。

鮮やかな赤は風流じゃないって、みんな避けたがるせいて、こいつぁずっと売れ残り状態さ。」

 

「そうなんですか、もったいない…こんなにも綺麗な布なのに。」

 

餅士は残念そうに顔を俯ける。

その様子を見て、店主の人は提案した。

 

「なんなら、あんたがもらってくれるかい?」

 

「え、でも僕何も交換出来るもの持ってませんし……」

 

「いいってことよ!どうせ置いてても残るだけだ。気に入ってくれたやつの手に渡る方がその布も本望ってもんだろう!」

 

「えっと……じゃあ、ありがたくいただきます。」

 

恐る恐る餅士は布を受け取る。

なんだか申し訳ない気持ちになりながら、この布を何に使おうかと考えを巡らせる。

この布で何か作って、妹紅にプレゼントでもしようか。このままにするのももったいないし、妹紅なら、自分と同じようにこの色を気に入ってくれるだろう。

店主の人の御好意で、縫い針と縫い糸、そして持って帰る用の麻袋まで貰って、餅士は店を出る。

気分転換になったのか、さっきまでのモヤモヤとした気分も、少し晴れていた。

 

そして、そのまま通りを歩いていると、

団子屋の外席で女店主と楽しく会話する幸と妹紅を見つけ、そのまま合流した。

声をかけた時に、妹紅がとても慌てていたことを問いただしたが、妹紅は答えずに、餅士の頭をゴツンと叩いて終わった。

その頃には日も傾いて、帰った方がいい時間帯になっていたようで、そのまま幸と別れた。幸は泊まっていくといいと言っていたが、これ以上迷惑をかけるのも悪いと思い、明日も来ることを約束に諦めてもらった。

そして、幸の家に置いたままだった自転車を引いて、妹紅と帰路に着く。

その途中で、餅士は妹紅に、今日生まれた疑問について、聞いてみることにした。

 

「ねえ妹紅。」

 

「なんだ?」

 

単純な返事を返す妹紅。いつもどおりの変わらない妹紅に少し安堵する餅士。

 

「妹紅にとって、藤原妹紅ってどんな存在なの?」

 

「私にとっての私?」

 

そう、と答える。妹紅は難しいなと少し顔をしかめるが、すぐにはっきりとした声で答えた。

 

「自分にとっての自分なんて、日々少しずつ変わっていくものだろ。他人が自分をどう思うかが変わるように、自分にとっても自分をどう思うのかは変わっていくはずだ。

むしろ、毎日向き合わないといけない分、いつもいつも変わっていると思う。」

 

「そっか、なるほどなぁ……」

 

妹紅のその答えの明確さに餅士は感心する。妹紅は長く生きた分、そういう事を何度も考えたのであろうか。餅士は、自分の考えの少なさに改めて思い知らされ、恥じた。

妹紅はなんでそんなことを聞くんだと言うように、不思議そうに餅士を見る。

餅士は、そのまま妹紅に問う。

 

「じゃあ、妹紅にとって僕ってどういう存在なのかな?」

 

「へっ!?」

 

妹紅もまた、素っ頓狂な声をあげる。

しかし、餅士とは違ってすこし顔を赤らめている。

 

「な、いきなりなんだよ。」

 

「いや、ちょっと気になってさ…。」

 

妹紅は顔を赤らめたまま考え込む。

そして、恥ずかしいのか小声で答えた。

 

「……た、大切な人……だよ…。」

 

その言葉で、餅士はすっと肩の荷が降りたような気がした。そして、妹紅に話してよかったと、心から思えた。

餅士は優しく妹紅に微笑んで、返事を返す。

 

「ありがと。ぼくも、妹紅をすごい大切な人だって思ってる。」

 

「………!…あ、当たり前だろ……。」

 

赤い袴のポケットに手を突っ込んで、気恥ずかしさを紛らわせるように顔をそらす妹紅。

ふふっと笑って餅士は空を見上げる。

紅くそまった空は、餅士を包むように広がっていた。

 

「そういや、その麻袋の中身はなんなんだ?」

 

「うん?これは日頃の感謝を込めて妹紅にプレゼントするためのものだよ。」

 

「それ、本人前にして堂々という事じゃないぞ……?で、中身はなんなんだ?」

 

「完成するまで教えないよ?」

 

「ちぇ……まあ、楽しみにしてるよ。」

 

「うん。でさ、妹紅。僕から一つ提案あるんだけどさ。」

 

「なんだ?」

 

「小麦を――育ててみない?」

 

 

 




流れ変わったな……。というように見せてあまり変わってない的な話でした。
名前の出てない怪しい女性は、あの人です。ほら、あの人ですよ。

良ければ感想を書いてもらえると嬉しいです。読んでくれた人達がこの物語をどう感じているのか。どのように展開を予想してるのか、教えてもらえると今後の励みになります。
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