人工天使4姉妹のキヴォトス体験記   作:アキラゼミ

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第1話:その頃のゲマトリア

 

「クックックッ……これはこれは……」

 

「一体全体……」

 

「どういうこったぁ!?」

 

「……すまない、今は何も言わないでくれ……」

 

 ある日のゲマトリア本部では、とある「作品」を完成させたマエストロが、お馴染みのゲマトリアのメンバーに囲まれて小さくなっていた。

 というのも、彼の手掛けた「芸術」が、予定とはかなり大きくズレた内容の……それはもう、凄まじいモノになってしまっていたからだった。

 

「『先生からの依頼を完遂させた』と聞きましたがまさか……コレ(・・)の事でしょうか……?」

 

「……そうだ」

 

「あまりに依頼内容と乖離しすぎでは?先生からの依頼とは『教義の人工天使シリーズ(ヒエロニムス)を擬人化させたラブドール』……でしたよね?」

 

 ゴルコンダに困惑気味に尋ねられ、マエストロもギギギと重苦しい音を立てつつ、無言で首肯する。黒服は彼の「作品」を見た時から、可笑しいとでも言わんばかりに小さい声で「クックックックッ」と殆ど絶え間無く笑っている。

 普段のマエストロなら「芸術への敬意が無いぞ」などとキレ口調で返しただろう、しかし今ばかりは彼も口が裂けてもそんな事は言えなかった。

 

「先生に進捗報告した際*1はまだラブドールの(てい)を保っていましたが……これは……」

 

「しかもコレ、もしかしなくとも生きていません?睡眠中にはヘイローが消え失せるだなんて、それはまぎれもなく『生徒』の特徴ですよ?いや、まさか無機物に『神秘』を宿らせる技術、のようなものを独自に会得したのですか、マエストロ?」

 

「そんな事は私の与り知らぬ事だ」

 

「そもそもあなたの作品でしょうに……」

 

「いえ、お待ちください黒服。どうやらこの人形、いや生徒モドキ(・・・・・)──無機物ではなさそうですよ?」

 

「……ほう?」

 

「どういう原理かは見て取れませんが、彼女()は、紛れもなく生身の肉体を有していますね。いやはやマエストロの芸術魂もここまで昇華しましたか」

 

「芸術、魂……ククククッ、クックックッ……」

 

 完成した「作品」の完成度は、誰が見ても極めて高いものであった。それ自体は黒服もゴルコンダもデカルコマニーも承知している。

 しかし「ラブドールを」という依頼内容で見ればもはや依頼内容達成とも言えるし、逆に依頼失敗と言えなくもない状態なのであった。

 それというのも、依頼内容は「ドール」なのに、マエストロは勢い余って「生身」でヒエロニムスを擬人化させてしまったからだった。

 しかも、それだけではなく────。

 

「しかも『ヒエロニムス』だけではなく、他の人工天使まで製作してしまうだなんて……」

 

「……何がどうしてこうなったのだ……」

 

「「それはこちらのセリフですよ?」」

 

「そういうこったぁ!!」

 

 マエストロは、先生から依頼されたヒエロニムスだけではなく、かつて自分から「失敗作」と断じたアンブロジウス、更にはつい先日、新しい総力戦に使う芸術作品として先生にお披露目したばかりの、新作の人工天使「グレゴリオ」までも擬人化させてしまったのだ。

 しかもだ。グレゴリオは指揮者と演奏者────2人で1つであるが故に、擬人化した彼女もまた、双子として製作されていたのである。

 ヒエロニムス、アンブロジウス、グレゴリオ──並んで眠る4人は、さながら姉妹のようだった。

 

「しかも何ですか、この衣服は……」

 

「面影があるの、ヒエロニムスくらいでは……?」

 

「言うな。……それ以上は、言わないでくれ」

 

 ヒエロニムスは赤褐色のシスター服に似た造形の衣装──ただし、頭部を覆うものは着いていない。アンブロジウスは黒色がメインのゴシックロリータファッションであり、グレゴリオはそれぞれの色がモチーフであろうドレスに似た衣装であった。

 

「いつの間にか、こう作っていたのだ……。気付けば完成を迎えていた、そうとしか言いようが無い……」

 

「「えぇ〜……」」

 

「どういうこった……」

 

 気分が盛り上がり興奮すれば、誰もが我を失う。それ自体は古今東西、種族思想老若男女を問わず、誰もがそうであろう。

 しかしマエストロまでもがそうであるとは恐らくこの場に居る誰も予想し得ない事だったハズだ。

 

「────どうするのですか、これ?」

 

「廃棄……とはいきませんよね。生きている以上は、それはすなわち、彼女達を殺すという事になる」

 

「誰が廃棄などするか!これは私の人工天使擬人化シリーズなのだぞ!?」

 

「それ以前に先生の依頼品ですよ」

 

「ぐうッ……!」

 

「あ、ぐうの音が出ましたね」

 

「フッ。……おやめください黒服、笑ってしまうではありませんか……フフフッ……」

 

「まぁ何にせよ、先生に進捗報告くらいはするべきでしょう。話はそれからだと思いますが」

 

「……!それだ黒服ッ!やはり皆に一旦見せておいてよかった……そうだそれこそが必要なのだ!」

 

「?」

 

「……?」

 

「どういうこった……?」

 

「クククッ、見ていろ。先生ならば私の作品に理解を示してくれるハズだ────!!」

 

「流石にここまで依頼内容とズレていては……」

 

「さしもの先生も苦言を呈するのでは?」

 

「そういうこったそういうこった」

 

 デカルコマニーすら投げやりな同意をするくらい皆が当たり前に同意見だった。マエストロ以外は、全会一致だ。

 しかし結果はマエストロの予想、いや願い通り。

 芸術鑑賞会*2と称され呼び出された先生は、彼にこの4人の人工天使擬人化シリーズを見せられて、好意的な反応を示した。

 それから更に機能を付与、調節などしたりして、最後にはシャーレの先生率いる生徒との総力戦*3を経て、遂に、彼女達4人はシャーレへと送られて、そこで新たな生活を始める事となった。

 

 ◆

 

「────どうしてこうなった……」

 

 といった上記の言葉は、溢れんばかりの芸術魂、そして(勢い)に任せて人工天使の擬人化シリーズを製作していたマエストロ本人の言葉である。

 そして、ヒエロニムスのラブドールを依頼したが何故か命を宿していた上、アンブロジウス、更にはグレゴリオまで命を宿した上で擬人化されていたと知ったときの、先生こと私の心の声でもあった。

 彼女達をシャーレに迎えたその時、マエストロの助言によって彼女達に名前を付けた。4人は揃って人工天使であるが故に、苗字は「天使(あまつか)」と。そして名前はそれぞれ────。

 ヒエロニムス──間の字を取り、ローニィ。

 アンブロジウス──頭の字を取り、アン。

 グレゴリオ──総力戦として戦った時の彼女達のEXスキル名を参考に、青髪の双子の姉をグレイ、赤髪の妹をリンゴと名付けた。

 

 ◆

 

 彼女達4人をシャーレに迎えてしばらく経った、ある日の事だ。4姉妹の上2人、ローニィとアンに追加で仕事を教えていた最中に、ふと、あることを思い付いた。

 

「──ね、2人共。いつも、シャーレで掃除とか、何かの仕事や……私の性処理だとか、色々と手伝ってくれてるけどさ。どこかに行ってみたいなーとか、そういうのってあったりしない?」

 

「……?私は特にありませんが……」

 

 と、ローニィ。

 

「お姉様に右に同じですわ。そもそも、マスター・マエストロによりそのような感情は生まれないよう設計されていると思いますし?」

 

 と、アンが言葉を続ける。

 そうか、マエストロならばそのように設計してもおかしくはない。余計な感情は余計な挙動を生む。ある程度の自我は与えども、完全な自由ではない。箱庭であると知らぬ者を箱庭に解き放つ事で自由を得たと錯覚させるにも近いようなものだ。

 彼女がそれと異なるのは、箱庭(不自由)であると知りつつそれに反逆しないよう設計されている事────。

 

「──実はね。こうして仕事は教えてはいるけど、最近はカヤもしっかり仕事できるようになってるし効率も上がってきているから、そこまでサポートが必要になる場面は無いかもしれないんだ」

 

「だからこそ、先生が出張される際などに備えて、ですよね?」

 

「カヤさん1人と当番の生徒では回せない仕事も、それなりにあるでしょうし?」

 

「そう、出張とか私の不在の場合に備えてこうして教えてるワケなんだけど、そうなってくると、逆に

『私が出張じゃない時』──2人は何してる?って話になってこない?」

 

「…………掃除、とか?」

 

「……掃除、しか思いつきませんわね」

 

「そうだね。なんていうか、人手を持て余すんだ。今でさえ、グレイとリンゴはユウカが建てた教会に入り浸ってる*4くらいには人手が余ってるでしょ」

 

 ユウカ、教会とか建てちゃうんだもんなぁ。株やFXだっけ?上手くすればそんなに儲かるんだね。調べたけど私にはできなさそうだ。

 

「でも……掃除が私達の仕事だから……」

 

「それは違う。私は、掃除や仕事させる為に4人をここに受け入れたワケじゃないよ」

 

「言ってしまえば、マエストロに私達の製作を依頼したのも、ラブドール目当てですもんね?つまり、セックス以外に私達に存在意義は無いハズですわ」

 

「でもこうして1人1人が人形ではなく少女として生まれたんだ。──折角生まれたんだ、セックスや仕事ばっかりじゃなくて、色んな事をキヴォトスで体験してほしいなって、私は思ってるよ。私もさ、このキヴォトスに来て色んな事を体験して、見て、知って──それで今に至っているんだ」

 

「「なる、ほど……?」」

 

「私の半生の追体験、じゃないけどさ。同じように君達にもキヴォトスで色んな事を体験して、見て、知ってほしいんだ」

 

 2人はきょとんとした表情で、しばらく私の顔を見つめる。そして2人で顔を見合わせ、沈黙の後、困惑混じりに相談を開始する……。

 

「それで……どう、する?どこか、行ったり……?」

 

「うーん。体験して、見て、知って、ですか。特に私達にはそういう欲求が無いので、自分達からは、アレがしたいコレがしたいと言いにくいですわね」

 

「ふふっ……私とアンは、そうだね。でも、その辺はグレイとリンゴの方が分かりやすいかもね」

 

「あの2人はまだまだ子供ですの!だから、単純にワガママなだけですわ!」

 

「そうとは言い難いんじゃないかな。まだまだ幼い子供だからこそ、大人になりつつある少女や大人と比べて、また違う視点を持ちやすいんだと思うよ。少なくとも私はそう思っているよ」

 

「先生はそう言えるでしょうけどっ……」

 

「じゃあさ。2人の好きな事とかを挙げてみよう。好きな事を挙げた上でそれを主体に活動してる所に行ってみるっていうのは、どうかな?」

 

「「!!」」

 

「言わば、体験学習ってヤツだね」

 

「戦闘!戦闘ですわっ!血湧き肉躍るバトルッ!!これを真っ先に挙げずして他に何を『好きな事』と言えるでしょうかっ!!それから、裁縫も好きではありますわね!」

 

「……料理、かな……?それから、妄想する事とか、古語のお勉強────」

 

「お、いいねいいね。その調子で好きな事、物とか挙げていってみよう」

 

 ◆

 

 それから、グレイとリンゴも呼び戻して、4人と私でワイワイと話し合いを進めていった。そして、それぞれが向かう体験学習先がとうとう決まった。

 

「──ローニィは給食部、アンはC&C、グレイとリンゴはセミナーか。グレイとリンゴに関しては、ユウカに会いに行きたいだけじゃないの〜?」

 

「バレた!」

 

「バレちゃった!」

 

 ちょっとのんびり屋さんな所があるローニィに、給食部に行かせてもいいのかな。フウカたん、絶対忙しいと思うんだよな。問い合わせるのすら、少し申し訳なく思える。

 アンは好戦的だ、ネルと気が合うだろう。これはまず間違いない。機動力はネルに劣るが、火力やら殲滅力に関してはC&Cにも負けない。というか、普通に追い付けるレベルだと思う。

 グレイとリンゴでセミナーの仕事は……いやまぁ、その辺の事はユウカとノアに聞いてみよう。

*1
第2部の第8話参照

*2
第2部の第48話参照

*3
第2部の第82、83話参照

*4
第2部の第85話を参照

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