人工天使4姉妹のキヴォトス体験記 作:アキラゼミ
「────シャーレから来ました、
朝も早い内にゲヘナ学園に到着したローニィは、仕込みを開始する前に給食部の面々に挨拶をする。面々──と言っても、たったの2人なのだが……。
「こちらこそよろしくね。あなたのことは先生から聞いてるよ。私は給食部部長の愛清フウカ。それでこっちは……」
「牛牧ジュリですっ!趣味は自己流の料理の研究をする事です!1年生ですっ!」
「アレンジもさる事ながら『パンちゃん』なる謎の生命体が生成される事もある────という話を、私達の生みの親から聞かされていますけれど……」
「はぅっ!?」
「フフ……流石に、パンちゃんは有名過ぎるからね。外部に知られてるのも仕方ないよ」
「そ、そんなぁ〜……」
「私、卵料理以外は平均並みなので、色々とご教授頂けたらと思っています。そちらにつきましても、よろしくお願い致します」
「任せて!教えるのはジュリで慣れてるから」
「はうっ……」
「あなたの事は……ローニィさん、でいい?」
「呼び捨てでも構いませんよ?」
「いや〜……雰囲気が大人っぽいから、呼び捨てでは呼びにくいなって」
「雰囲気……ふむ、そういうものですか。まぁそこはフウカさんとジュリさんにお任せしますけれど」
それから僅かばかりの雑談を挟んで、早速今日の給食をまずは仕込みから開始する。ジュリは準備、ローニィは既に一定以上の料理スキルがあるからと先生から聞かされていた事もあり、メインで調理を担当するフウカの補佐に回される。
「本日は何人分を作る予定でしょう?」
「いつも通り4000人分くらいかな。あっ、そうだ。ローニィさんはだし巻き玉子をお願いできる?」
「……?………………カシ……?コマリマシタ……??」
「急にカタコトになった!?」
「もしかしてだし巻き玉子が分からない感じかな?それなら、溶き卵に出汁を混ぜるだけだけど……」
「まに……あうのです、か……?」
「?……あぁ、4000人分って所にビックリしたの?大丈夫だよ、何が何でもお昼休憩に入る前に調理を終えなきゃいけないワケじゃないからね」
「そう、なのですね……」
「見ての通りだけど、この食堂に4000人なんて人数入らないからね。けど、回転率を上げる為にも予めできるだけ多く作っておかなくっちゃ」
「……理解しました。では────
フウカに任されただし巻き玉子を調理していく。途中、ジュリと共にフウカのサポートに入ったりもするものの、基本的には、任された仕事をそつなくこなしていった。
そして迎えた、お昼休憩──給食を求めた生徒が食堂に集まり出す。中には、ローニィと面識のある生徒もチラホラ見受けられた。
「……あれ。先生の所の……」
「ご無沙汰してます、ヒナさん」
「どうしたの、
「先生が私達姉妹に『見聞を広めてはどうか』と。人造人間とはいえ、折角、人形ではなく人間として生を受けたのだから……と」
「そう……それは良いと思う。でもその為にゲヘナに来る必要は無かったと思うけれど」
「フウカさんの料理スキル、私も身につけたくて」
「!……成程ね。妹さん達もゲヘナに来ているの?」
「3人はミレニアムです。アンはC&C、グレイとリンゴはセミナー……の予定ですね」
「ミレニアムなら、姉としても安心できるわね?」
「ええ、本当に」
「ゲヘナで何かあったら、料理の事ならフウカに、それ以外なら私に相談してくれていいからね」
「いえ、ヒナさん忙しいですから……」
「副委員長を設置したから、少しは楽できてるわ。それに、問題解決も私の仕事だから」
「……では、自分で解決できなさそうな事があれば、その時は頼りますね」
「うん。遠慮なく、そうして」
やんわりと微笑んだヒナは、早々に昼食を食べ、足早に風紀委員会の本部へと帰って行く。やはり、彼女は忙しそうだ──と少し寂しげな目で見送る。
そしてヒナが危惧した通り、問題が起きた。
「──失礼。フウカさん?」
「げっ、ハルナ」
「本日のだし巻き玉子ですが、出汁の加減が普段のそれと全く違いましてよ?塩味が強すぎます。多く入れ過ぎていませんか?」
「あー……そうかも、ちょっといつもよりも急いでてバタついちゃってたからかな〜……」
「急いでいたからと調味料のバランスを崩壊させたままで調理を進めるなど、美食のみならず、食への敬意が欠けてます!今一度、給食部の車両を拝借しフウカさんを
「ちょっ、やめ……新人教育もあるのにっ!」
「新人教育?」
皿洗いをしていたローニィは、騒ぎを聞きつけて現場に到着。フウカは安堵から頬を緩ませハルナは見たことのない生徒の登場に「この子が新人か」と直感的に感じ取る。
「今日のだし巻き玉子は私が作った。フウカさんは関係ない」
「……ふむ?確かにいつもの味とは異なる、と思って食べていましたが。あなたが作ったのですね」
「先生は、ちょっと濃いめの味の方が好きだから。だからそのクセが抜けてなかった。ゲヘナ学園流の調理方法をフウカさんに確認していなかった、私のミス。フウカさんの邪魔はしないで」
「ローニィさん……」
フウカを縛りかけたまま、ローニィをジッと見るハルナ。もしもの事があれば──とハルナから見て死角になる所で愛銃ウルガータを構えている。
しかし、そんなローニィの警戒に反し……ハルナはフウカの拘束を解いた。
「あれ……ハルナ?」
「新人さんであれば──恐らくまだ初日でしょうし仕方ありませんわ。あなたと先生がどんな関係は、よく知りませんが……今の発言は、有益な情報として受け取っておきます。それでは、御機嫌よう」
御機嫌よう──といった上品な言葉とは裏腹に、どこか不機嫌そうな表情を取り繕いきれないまま、ハルナは食堂を去っていった。
拉致されなかった事、爆破されなかった事など、フウカは安心からか足の力が抜けてしまいその場にへたり込んでしまった。
「フウカさんっ……!」
「あぅ……あ、ありがとうローニィさん……いやぁ、助かったわ。いっつも拉致するんだもん……」
「ゆ、誘拐犯が堂々と食堂に来るなんて……。流石はゲヘナ学園です……」
「あはは……まぁでも、誘拐犯というよりテロリストなんだけどね……」
「尚更では?」
フウカのその謎の訂正で逆にローニィの頭の中はハテナマークが爆増してしまった。
◆
「お疲れ様でした、フウカさん、ジュリさん」
「お疲れ様ですっ!!」
「そちらこそお疲れ様。初日だってのに、最後まで付き合わせちゃってごめんね?」
「私がやりたくてやったんです。……また、お世話になってもいいですか?」
「もっちろん!ね、ジュリ?」
「はいっ!私も色々と参考になりましたし!また、来てくださいね!」
「では……明日も先生が出張など無ければ来ますね。その時はよろしくお願いします」
「「こちらこそっ!!」」
こうして、ゲヘナ学園を後にしたローニィ。初日ながらも、平均以上によく働いたと自覚していた。帰りの電車の中で、震える足をさすりながら今日の出来事を回想する。しかし……。
(あの子達は……大丈夫かな……?)
初日ながらヘトヘトになるまで働いたローニィ。しかし頭にあるのは、本日の仕事の事と、愛すべき妹達のことだけであった────。