人工天使4姉妹のキヴォトス体験記 作:アキラゼミ
翌日。カリンを近隣の建物の屋上に配置し、他の2人も現場から近くに配置した上で、ネルとアンは正々堂々と正面から乗り込まんと正門前に立つ。
「ふん……中小企業の割に妙に大きいですわね。予め地図も把握しておきましたけれど、大企業とあまり変わらない敷地面積でしたわよ?」
「ヴェリタスが抜き出した情報が正確ってんなら、大企業の皮を被った中小企業で間違いはねェ。敵の数もそうは多くない見込みだ。この敷地は、ただ、下らない見栄を張ってンのか、目的があンのか──よく分かんねーけどな」
「ま、中小企業と大企業の区分は従業員数の違いで定められると聞いた事がありますし。敷地の広さはアテにならないのかもしれませんわね」
「……そんなら、どーしてこんな、だだっ広い敷地にしてるのか?……っつー疑問は残るが……。表向きはただの技術屋のハズだろ」
「気にしても仕方ないですわ」
「それもそうだ。さっさと敵戦力を潰して……」
「『調査はしつつも、周辺の無関係な施設に被害を及ぼさない程度に敵施設を破壊する』、ですわね」
「へッ。あたしのセリフ取るんじゃねーよ」
ニッと口元を釣り上げたネルは愛銃を肩に乗せ、正門の前に寄る。警備員がそれを見つけネルの傍へ寄ってくるが──それを横目で見るや、ネルは門を銃撃で破壊してしまう。
警備員は2人をただの子供だろうと思っていた為唐突に始まった銃撃への反応も遅れてしまった。
『な、なんだおま……ギャ!』
『お、おイッ!?』
「……ケッ、張り合いが無いな」
「そりゃあ、たったの2人ですし。寧ろあの程度で張り合いがあったら問題ですわ」
「お前も可愛げ無いな」
「……。さっ、行きますわよ」
「おい、コラ待て!体験学習ならあたしに従え!」
通常の倍の弾丸を装填できるゲマトリア製の特殊ガトリングを持ち上げて、走り出す。ネルも彼女を追い、敵の拠点へと足を踏み入れる。
『侵入者ヲ確認、排除シマス』
「はぁああああっっ!!」
『排除、排除』
『排除シマス排除シマス』
「うっさい、ですわぁぁぁあああっ!!」
自動ドローンや警備ロボが集まってきた。既に、場内の監視カメラで位置を補足されているようで、敵は2人を探すような素振りも全く無く、迷いなく2人へ向かってきている。
ドローンや警備員を破壊し尽くし、施設の方へと向かおうとする。しかしその時、構内放送から機械音声が流れてくる。
『AA、AB建屋ノ従業員へ通達。即刻、侵入者ヲ排除セヨ。繰リ返ス。AA、AB両建屋ノ従業員ハ至急侵入者ヲ排除セヨ』
「あら。2つもの建屋から一気にくるんですのね。こちらから出向く手間が省けましたわ?」
「AA、ABっつーと……」
「この構内の全ての建屋には、正門から近い順に、アルファベット2文字からなる識別番号が振られていますわ。AAとABと言うと『一番近い建屋』と
『その次に近い建屋』ですの。……つまり……」
「
「……そういう事ですわ」
そんな会話をしている内に、敵戦力はドンドンとそのAA、ABらしき建屋から飛び出てきていた。2人が戦闘を繰り広げた正門通過地点からも、既に大量の敵が目視できる程度には、敵の出現は早く、数も多かった。
『居たぞ!あいつらだ!!』
『あんなガキがか?』
『いや待て!アイツ、メイド服だ!』
『──!聞いた事があるぞ!ミレニアムサイエンススクールには、メイドに扮した女スパイが居ると!確かにそう聞いた事がある!』
『スパイだっけ……?いや、というかアレが
『やるしかねェだろ!迷ってる暇ァ、無ェ!』
従業員は、それぞれが銃を構えて一斉に2人へと襲いかかってきた。しかし、射程はアンの方が上。弾数もそうだ。お陰で、大半はアンの掃射で対処ができてしまう。
「オラオラオラオラァァッッ!!」
『『『ぎゃあああああああああ〜〜〜ッ!?』』』
しかしネルもネルで、アンが撃ち漏らした敵や、遮蔽物に身を隠していた者を遮蔽物ごと撃ち抜き、的確に敵勢力を削り取っていく。
次から次へと襲いかかってくる敵戦力。減る毎に構内アナウンスが入り、護送車のような車で戦力を前線に送り込んでくる。
『AL建屋の──』
「ちっ、どんだけ多いんだ、クソッ!雑魚だが数が多い!調査どころか、施設の破壊すらもできねぇ!それどころか社長や幹部格を逃がしちまう……!」
「アルファベットは全26文字。敷地の地図によるとZZ建屋の存在までは確認済みですわ。その全てに戦闘可能な従業員が待機していると仮定すると──えぇと……26²=676個の建屋がある……と」
「アホみてーな解説、感謝しねーよバカ!つー事は最低でも676WAVEかよ!……ふざけやがってッ!!上等じゃねーか……やってやるァッ!!」
無論、
「あら、ネル先輩はもうギブアップですの?ふふ、それならこれから現れる敵は私が屠りますけれど」
「『
水が噴き出す間欠泉のように、敵が次々と現れ、今にも2人を包囲せんばかりの勢いで、陣形を固めようとしている。
それを阻止する為か、時間経過によってノーマルスキルを発動させたネルは「怒り」状態で敵の中へ飛び込んでいく。
ネルは範囲攻撃より単体攻撃に向いている。故に一点突破する力だけで言うならC&C随一なのだ。
『逃がすな!囲め、
『あのメイドが本命だ!!』
『白黒のガキはどうする?』
『放っとけ、まずはちょこまかと動くアッチだ!!このままだと重管理区域に行かれちまうだろ!!』
『そ、それもそうか……!』
包囲を突破したネルは、敵を引き付けて敷地内を暴れ、敵戦力の殲滅を開始する。敵の殆どはネルの追跡、追撃に向かい、場にはアン1人だけポツンと取り残されてしまう。
「………………」
『……もしもし、アン?聞こえてる?』
「カリン先輩?どうかなさいました?」
『いや……置いてかれて呆然としてたから……』
「呆然と?……フフッ、違いますわ、先輩。今一度、確認していたんですの。己の役目というものをね」
『アンの、役目?』
「敵は、ネル先輩が引き付けてくださっています。私は、敵を引き付けるネル先輩を追い掛け、先輩と挟み撃ちにするべきなのか────否か」
『……挟み撃ちにする方が、確実ではあるとは思う』
「そうですわね。敵を倒す時間を考えれば。そして時間効率的にも挟撃に持ち込むのが得策でしょう。しかし私、
『────ッッ!?!?』
「ま、そういうワケで。ネル先輩が敵を引き付けてくださっている隙に──私はもう1つの目的である敵施設の調査と破壊……を、完遂してやりますわ」
(アンの殲滅力、範囲が部長より広いのはあるとは思うけど、それを差し引いても部長とあまり大きく変わらない活躍ぶりに見えた──それで『苦手』?屋外戦の適性は、他2つよりも低い……?)
「そこで──カリン先輩には補佐をお願いしたいのですけど。ドローンでもなんでもいいので、爆弾を届けてくださいます?内部調査後に爆破しますわ。無論、戦闘には手を貸して頂かなくて結構ですの、それは私の役目ですので」
『了解。どこから
「AA建屋から順に、
◆
「ハァッ、ハァッ……!ハハッ、どーしたテメーら!あたし1人相手に戦車まで動員しておいて、あたし1人すらも満足に倒せないってかァ?」
『なんだコイツ、しぶといぞ!』
『これ以上、先に行かせるワケに────』
ネルはネルで、敵を引き付けながらも、敷地内の奥の方にまで進んできている。もう少しで、最奥に届く。本社らしき建物もすぐそばだ。すると……。
「……ハハッ……マジかよあいつ」
『なんだッ!?』
『ウソ、だろ……!?』
ネルが苦笑いするのも、無理は無かった。
敵を引き付けたネルが現場を離れた結果、アンは
「施設の調査と破壊」に舵を切り、カリンの補佐を得て、施設の破壊を始めたからだ。
アカネのように派手に。アスナのように自由に。カリンのように柔軟に。ネルのようにパワフルに。
アン単独の「調査」を終えた施設を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。その爆音や爆風、黒煙なんかは構内の最奥──今ネルが立っているZZ建屋の前に居ても目視が余裕なくらいだった。
「あいつ、無茶苦茶するな……!」
負けてらんねー、と口元を釣り上げたネルは弾を装填、自分を追ってきた敵を吹っ飛ばしてしまう。アンの手がZZ建屋に及ぶ前に、ネルが内部調査を開始。
まさかこの為だけにアスナ達を呼ぶワケにも……と葛藤したが、その葛藤は一瞬の事だった。
「……成程な。
『援護必要かな!?リーダー!突入する!?』
「言ったろアスナ、今日は待機してろ。工場自体はあたしが扉を破壊した時点で停止してる。配線とかそういうのも丸ごとブッ飛ばしたんだろうな」
『一応、爆破しておくのも手かと……?』
「……念の為にそうするか。カリン、あたしが
『了解』
遠くからの爆音が迫る中、兵隊を片付けたネルはアンが来る前にと早々に調査を開始。ただ、殆どの建屋は、建屋毎に全くジャンルの異なる機材などが稼働しており、とても同じ会社だと思えなかった。
ある建屋ではロボット兵を製造し────
ある建屋では装甲車を製造し────
ある建屋ではカバンを製造し────
ある建屋ではパンを製造し────
ある建屋では紙を製造し────
本当に「何のジャンルの会社なのか」が、見ても分からないような有様だった。
色んな会社の寄せ集めとも思えるこの会社が何故ミレニアムの技術を狙うのかも、よく分からない。そもそも本気でないネルと、本気を出せないアンの2人だけで制圧されるような、民間の会社だ。
下手をすればエンジニア部やゲーム開発部などが手を組めば難無く突破できそうだな、と、ネルにはそう思えるくらいだった。
『うわぁぁぁ!あああああああっ!!オレの会社が燃えていく!こんな事ならいっそ、消防車の工場も作っとくんだったぁぁぁ!!!』
「…………」
ネルがとある建屋を出ると、普段街中で見掛けるような細身の、ラグビーボールのような頭のロボが地面に膝をついて慟哭していた。
「おい。テメー、幹部か役員か社長か何かだな?」
『う、うわぁ!?一体どこの誰だ!?何が目的だ!もっ、もも、目的を言えぇっ!』
「テメーらがウチの技術を盗もうと企んでいる──なんて情報を掴んだものでな。潰しに来たぞ」
『ッ!ミレニアムのエージェントか……ッ!!くっ、わ、分かった、ミレニアムサイエンススクールには手を出さないから、どうか許してくれぇぇ!』
「さぁて、それはテメー次第だなぁ?」
『ひ、ひぃぃ!うちはしがない技術屋なんだよぉ、少し仕事で無茶するだけで食うのに困るような生活なんだ、見逃してくれぇ……』
「ざけんな!そんな零細の底辺みてーな金銭事情のクセにどうやってこの大企業クラスの規模の会社を維持してるってんだ!素人から見ても分かんぞ!」
『ち、違うんだ!違うんだよぉぉ!オレの運営する
「ガザーカンパニー」はただの技術屋で、この広い施設だってカジノで大勝ちして築いたオレの資産を全投入しただけで────』
「か、カジノの賞金で起業したのかよ……?ホントの事ならバカじゃねーの……」
その時、2人のそばにふわりと、背中に白い翼を生やしたアンが舞い降りた。ネルは思わずその姿に見惚れ、社長は、救いの天使だとアンに擦り寄る。
『おおおぉ、天使よ!オレを救いたもれぇぇ!!』
「キモいですわ」
『あふん』
ガシャンと頭を踏みつけて、動作を停止させる。
それから、2人による社長への尋問が始まった。しかし構内の殆どを破壊された社長には、もはや、逆らう気力も無く……すぐに情報を吐いた。
『──オレは、物作りが趣味なんだ。ジャンルとか関係ねェ、とにかく「物を作る」のが趣味であり、生き甲斐なんだ。だから、カジノで得た金を元手に土地を購入し、自作の建設ロボで建設し、材料すら自分で調達して「物作りの技術」を兎に角ひたすら練り上げていった……』
「テメーの来歴なんざどうでもいい、ミレニアムに手ェ出そうとした理由だけ話せ」
『……んだ』
「あ?」
『欲しかったんだよ!ミレニアムの超技術がッ!!ミレニアムの技術さえ手に入れりゃ、オレの有するその他の技術力も底上げできる!社員なんか居ねェオレの会社に守るものなんか存在しねェ!捨て身でミレニアムに挑むつもりだったんだっっ!!!』
「……あん?」
「社員が……居ない、ですって?」
『?あぁ……そうだが?』
「あたしらがブッ潰したアイツらはここの従業員か何かだろ?それとも傭兵でも雇ったってのか?」
『アイツらはオレの自作のロボだよ。世間的には、それを社員にカウントして企業登録してるが、金で雇ったワケじゃねぇなら社員じゃねぇと思ってる』
「「!?」」
『ここにはオレ1人しか居ない。だがそれでいい、オレは物に、物作りの技術に囲まれて過ごしたい。ただそれだけなんだからな』
「……技術を得て、何をするつもりだったんだ?」
『言ったろ。オレの有する技術を底上げするのさ。もっともっと技術を高めた暁にゃあ、市場にオレの製品を今より大々的に売り出すのもいいかも、とは思ってたけどな』
「悪用する気は?」
『無いね。オレは物作りが好きなだけの善良な一般市民さ』
「善良な一般市民ってんならカジノで大勝ちしても工場なんざ建てねえんだよ、バカが」
『う……。…………なぁ、オレはどうなるんだ?』
「さぁな。ブタ箱に送るのも悪かねェが……。アン、お前はどう思う?」
「!私に聞くんですの?全ては先輩の独断で決まるものと思っておりましたわ?」
「聞くだけだ、聞くだけ。さっさと答えろ」
「んー。悪用する気が無いのであれば、許したって構いやしないのでは?まっ、ここは、折角ですし?ミレニアムのエンジニア部と提携し、互いに技術を交換し合うのも悪くないと思いますけれど?」
『その手があっ……』
「テメーは黙ってろ。……おい、アン。もしコイツに反逆の兆しが見えたらどうするつもりだ?もしも、エンジニア部と提携しミレニアムの技術がコイツに盗まれ、それが悪用されるとしたら?」
「そしたらブチ壊せばいいのです。コイツも工場も発明品も、その全てを。4姉妹で最も火力を有するこの私に、それができないとでも思って?」
「最も火力があるかは知らねーが。……まぁ、いい。一旦、連れ帰るだけ連れ帰ってみっか」
「ええ。コイツの処分についてはそれから考えても遅くないですわ。ねぇ、社長さん?」
『……分かった。もしオレを罰するんなら、ブタ箱に送るんじゃなく、この工場内で殺してくれ。どうせ罰を受けるなら、自分の世界で死んでやる』
「あァ、爆発物とか仕込んでないか確認したらな。テメーの機能停止と連動して、工場も爆発するかもしれねーからな」
『仕込むモンかよ。んなモン仕込んでたらお前らを撃退するのに使ってたさ。特にその白黒──前半の建屋をトコトン、徹底的にブチ壊してたんだから。少しでも破壊を防ぐ為に起爆させてたさ。
「その結果がこのザマってワケですわ」
『だが、エンジニア部と提携できるとなれば、この無様な格好をするのも悪くねェ。技術を得る為なら基板に泥水すら浴びる覚悟さ』
決死の覚悟を見せる、ガザーカンパニーの社長。
結局、彼はミレニアムに護送され、生徒会であるセミナー、情報を掴んだヴェリタス、現場で対処に当たったC&C、提携先に選ばれたエンジニア部の会議が行われ──監視下ではあるものの、見学学習という名目で、エンジニア部とガザーカンパニーの提携が決定された。
────これは後になって判明した事だが、彼の会社「ガザーカンパニー」の「ガザー」は、英語の
「gather」……「集める」から来ているのだそう。
彼が「技術を集める」事に心血を注いで、人生を捧げているのは真実であり、エンジニア部の面々はそこにロマンを感じたそうな……。