人工天使4姉妹のキヴォトス体験記 作:アキラゼミ
「え。配達、ですか……?」
「うん。仕事や研究とかで忙しくて食堂に来れない生徒に向けて、配達もしてるの。向こうから注文があった限定ね。それでね、今日は結構多めに配達の注文が来てるから、配達はジュリとローニィさんに任せようと思って。食堂を空けるワケにはいかないからね。……どうかな?」
「分かりました。徒歩で行きますか?可能であれば自転車をお借りしたいのですが……」
「原付バイクと車とかもあるよ。免許は持ってる?まぁ免許は無くてもいいか。運転はできる?」
「……すみません……」
「ううん、いいのいいの。じゃ、ちょっと大変かもしれないけど、自転車で大丈夫かな?」
「それでお願いします」
「分かった。ジュリ、ローニィさんに付いてって。駐車場とか……配達先とか案内してあげてね」
「はいっ!」
こうして、揃って給食部から出発するローニィとジュリ。しかし中央広場に差し掛かった頃、2人は不良生徒の一団に包囲されてしまった。
「……何か、用?」
「用ならあるさ!」
「その給食、ここに置いていきなッ!腹ァペコペコなんだ!」
「もう半日も食べてないからなー!キャハハハ!」
「もしかして注文者さん?それならそうと……」
「注文んん?するかよ、そんなメンドーなこと!」
「!」
「お前らがここを通りそうだから、待ち構えていただけだっつーの!」
「痛い目に遭いたくないだろ?さっさと置いてけ。配達に行きたいなら、それをここに置いて行って、新たに作ってそれを持って行きゃいいのさ♪」
「ギャハハ!時間の無駄過ぎてヤバ!」
銃を肩に乗せ、犬歯を見せるような獰猛な笑みを貼り付けて、ジリジリと2人へ寄ってくる。
これは配達品だ、客でもないヤツに渡す義理などありはしない────ローニィはそう考え彼女達を退けようとしたが。
「は、はい!足りるか分かりませんがこれでどうか見逃してください!」
「お。物分かりが良いな?上出来、上出来♪」
「……ジュリさん。どうして?」
「こんな所で止まってられませんからっ!それに、作り直す方がまだ早いかなって……!」
一理ある。戦闘に及んだとして、敵はざっとだが20人は居るように見える。対する配達組はジュリとローニィの2人だけ。この人数差で、しかも給食を守り抜かなくてはならないとなると……。
普通に考えて不可能だし、無理難題だと言える。ジュリの判断は迅速であり、そして、正しかった。
「……そうするのが、いい。ジュリさんが、正解だと思います。……ですが…………私は、嫌です」
「ローニィさん……?」
「ヘェ?あたしらに逆らうっての?」
「……」
ゴッ、と銃口をローニィの額に押し付ける不良。しかしそんな事にもローニィは動じず、懐から愛銃ウルガータを取り出す。
不良達はそれを見て吹き出し、ゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
「ギャハハハハハハ!!うっそだろ!おい!?」
「こんな人数差なのに逆らおうとするから、どんなゴツイ銃なのかと思えば!!」
「ただのハンドガンじゃねーかっ!!」
「しかもたった1丁で!見たところ
────否。大いに、否である。
確かにローニィの愛銃ウルガータはハンドガン。けれども、ただのハンドガンにあらず。その威力は彼女達の知るハンドガンではなく、その他の性能もキヴォトスのどんなハンドガンをも上回っている。
4姉妹の武器は全てゲマトリア製である。アンの有する特殊ガトリング・リンガリングディスベアもそうだが、下の双子の武器、そしてローニィの武器なんかも、そうだ。
「『あたしらに逆らうっての?』……って言ったね」
「あん?」
「その言葉、お返しするね」
「ッッ────ひっ……」
「『
◆
「い、委員長っ!ヒナ委員長ぉーっ!!大変です!中央広場でまた暴動が……っ!先に、十数人は鎮圧に向かいましたが……殆どは返り討ちにされて……」
「暴動?全く……今度は何なのかしら……」
「な、なんでも、給食の配達を妨害されたからと、自分を襲ってきた生徒を返り討ちにした上、鎮圧に向かった我々にも銃を向けてきて……!」
「給食部?フウカ……じゃないわね。フウカは、自ら銃を持って戦うタイプではないし。とはいえジュリでもないハズ……一体誰?」
「分かりません!見た事ない、金の長髪の生徒で……というかエプロンはありましたが制服ですらなく、どう見ても、給食部を名乗る
「ッ!!その者とはまだ交戦中?」
「え。あ、はいッ、まだ戦える者が居るなら、まだ交戦中だと思われます!」
「すぐに止めて。
「!?で、ですが我々にも銃を向けてきて……!公務執行妨害では!?」
「聞こえなかった?
「え、えーと……?」
「とりあえず現場に向かうわよ」
「は、はいっ!!」
急遽、中央広場へ向かうヒナ率いる風紀委員会。しかしそこには、ボコボコにされ目を回した不良とその上に積み重なる風紀委員達の姿しか無かった。
それを見るやローニィへ銃を向ける風紀委員達。おせちのように積み上がった給食は、無傷だった。ローニィが給食を銃弾から庇っていた為だ。しかしそのせいで彼女は全身に傷を作り血を流している。
「ろ、ローニィさん!さ、流石にまずいですって!ヒナさん来ちゃいましたよぉぉっ!!」
「……ヒナ、さん」
風紀委員達を引き連れるヒナの登場を見届けて、銃を下ろす。荒れに荒れた呼吸を深呼吸で整えて、ヒナの目を真っ直ぐに見据える。
「やっぱりあなただったのね。一体何があったの?部下にまで手を出しているようだけれど……。これは流石に、見過ごす事はできない」
「話は……後で。後で、必ず話します。だから、今は行かせてください……お願いします」
「配達中、だったのよね。だけど、それよりまずは手当てを……」
「傷はどうでもいいです。私は
「ローニィさ──」
「ローニィさん。ダメ。まずは手当を受けなさい。受け取る方も、配達員がそんな血だらけでは食事も喉を通らなくなってしまうでしょ」
「ッ……」
「そ、そうですよっ、ヒナさんの言う通りですっ!配達は私に任せてください!こういう場合に備える為に、2人で行かせてくれたんだと思いますし!」
「……でも……1人じゃ運びきれないと思います……」
「風紀委員会から何人か人数を回す。それで人数はカバーできるわ」
「……でも」
「『でも』じゃない。まずは手当てよ」
「…………はい」
再出発するジュリを見送りながら、ヒナと数人の風紀委員に引きずられるように保健室へ運ばれる。
セナからの簡単な手当てを受けながら、ヒナとのマンツーマンにて、軽い事情聴取がスタートした。
ローニィが言うには「配達を邪魔してきた不良を倒したが風紀委員会が遅れてやってきた。事情聴取すると言って聞かないが、給食が冷めてしまうので倒して先に進もうとしていた」────とおおよそそんな事をヒナに説明した。
「さ、冷めてしまうから返り討ちに……ね……」
「フウカさんの料理は美味しいんです。私の今日の役目は、それを皆さんに届ける事、でした。だからそうする為には……ああするしか無かったんです」
「……まぁ、実際問題、それができてしまうものね。とっても強いもの……
「でも……ダメらしいです」
「?」
「……任せられた仕事も……満足にできない……。私がもっと……もっと、強ければ良かったのに…………ッ」
目元に涙を浮かべて、吐き出すように呟いた。
常に無表情か微笑を浮かべている彼女がここまで感情を表に出すのは、あまり無い。それこそこんな姿はシャーレの先生くらいにしか見せないだろう。
それでも、今の彼女には、想いを吐き出す衝動が抑えきれなかった。こんな衝動はまさに、生まれて初めての事だった。
「私はお姉ちゃんなのに、ダメなお姉ちゃんで……」
「あなたは立派なお姉ちゃんよ」
「だけど、私は……妹達の見本にならなきゃいけない存在で……」
「最初から完璧な人なんて存在しないわ。誰しも、負けも失敗も経験して成長していくものよ」
「……」
「というより。さっき、ジュリ達が給食を運ぶのを見届けたけれど──あなたが守ったからでしょう?フウカの作った給食、無傷だったじゃない。立派に守れていたって事よ」
「っ……でも私の役目は、配達する事で……。それができてなかったら……!仕事できていないのと、同じじゃないですか……」
「あなたが給食を守り抜いたお陰で、皆がフウカの給食を食べれる。これは間違いなくあなたの功績。あなたのお陰で、フウカの時間が、給食が、微塵もムダにならずに済んだ。ただ配達するより凄い事をしているのだから……もっと自分のした仕事に自信を持ちなさい」
「ヒナさん……」
「……ね?」
「……はいっ……♪」
ヒナは妹達と殆ど変わらない
幼い外見に似合わない程のその「大人」らしさにローニィは初めて今日の自分の行いを肯定できた。
「あなたの事だし──と言えるくらいあなたと長く付き合いがあるワケじゃないけれど。でも、きっとあなたの事だから、部下に銃を向けたのも『給食が冷めてしまうから急がないと』──とか、そういう理由なんでしょう?さっきの言葉に全く嘘偽りなくホントにそういう理由なんでしょ?」
「は、はい……全くその通りです……」
「まぁ……うん……こちらも悪かったわ。どうにも、柔軟な対応が苦手な部下が多くって……」
「あ、いえ、私の方こそ……。その……公務執行妨害なんですよね……?」
「そうではあるけれど、別にいいわ、そんなの」
「え?」
「だって、
「そうだったんですね……」
「だからあなたの配達の邪魔をしたところで、後で冷めた給食を食べる事になるのは私達の方なのよ。温め直すのは手間だし……味も落ちると言うしね」
「そうですね……。ワインでもあるまいし時間経過はあまり良くないです。……見逃してくれてありがとうございます」
「いいの、気にしないで。──とはいえ、あなたも一応、気を付けるのよ」
「はい。私も、もっと柔軟に対応できるよう、色々頑張ってみます」
柔軟な対応────それがきっと、今後の自分の課題になる。今回の件を経て、ローニィは、柔軟な思考を持てるようにならねばと、強く心に決めた。
給食の配達については、ローニィから引き継いだジュリと風紀委員会の部員達が全て滞りなく行い、時間内に全ての配達を終える事ができたそうだ。
◆
「そっか、ヒナさんが庇ってくれたんだ……」
「はい。元から知り合いではあるんですが、その、ゲヘナに来てからも色々と気にかけてくださって。今回はちょっと迷惑をかけてしまいましたが……」
「いえいえ!ローニィさんが正しいと思いますっ!だってあの時の風紀委員会の人達、横暴でしたし!既に傷だらけだったローニィさんにも、問答無用で銃を向けてきたくらいですし……!」
「正しいなんてことは……」
「今回のは、『お互いの正義が衝突してしまった』みたいな感じなんだと思う。私達としては、配達を迅速に済ませなくちゃいけない。風紀委員としては事情聴取をしなくちゃいけない。──だからまぁ、どちらかが正しくて、どちらかが間違ってるなんてことはきっと無いんだと思う」
「……そう、ですね……」
「うん。その辺の折り合いの付け方とかもこれからゆっくり覚えていけばいいと思うんだ。ゲヘナ学園だしね、どうせこれからも戦闘に巻き込まれたり、今日みたいに戦闘に発展する事もあるだろうし……。まっ、気楽にね!」
「そうです!肩の力を抜いていきましょ!」
「……ふふ。そうですね。これからも、頑張ります」
ゲヘナ学園だし、どうせこれからも戦闘に──。
フウカの言葉を脳内で何度も反復させ、これから起きるであろう戦いに、どう対応するか思案する。しかし今日の失敗がノイズになり、どうも、妙案は浮かびそうにない。
「……」
────その時の事は、その時に考えよう。
オレンジ色に染まる空を見上げ、小さな溜め息を零した。
フウカも割と頭ゲヘナなんだよな、と分かる部分がグループストーリーで軽く描写されてたので、多分
「無免許でもいいか」くらい言いそうな気がした。
自治区内なら、権力が及ぶ範囲内(敷地内)だとも言えるでしょうし、それならリアルの法に照らして考えてもどちらにせよ無免許でOKですしね。