pixivより転載
自衛官の結婚は早い、と言うのが定説だ。現に新人と言っていい中隊のひとりの男性が結婚することになった。相手は民間の会社に勤める女性だ。
自衛官を結婚相手にする是非については論議を避けることにして、少なくとも世の婚活に勤しむ女性にとって、サタケリュウジと言う男は非常に魅力的らしい――二次会の会場で、彼は色とりどりの花々に囲まれていた。常にである。
「隊長モテるねぇ」
とは、同僚として参列したヒビキの言だ。
「……そうだな」
イサミはむっつりとグラスを呷りながら答える。
「あれで30代後半って言うんだから余計に入れ食いになっちゃったところある」
「同じ年頃の女性が必死なんだろうな」
主にサタケに絡んでいるのは花嫁側の招待客だ。サタケは主賓として挨拶したのだが、儀礼服を着こなした水際立った男前が出て来たとあって会場が色めき立った。なんなら主役のはずの新郎新婦がかすむほどだった――「だから隊長を招きたくなかったけど直属の上司だから招くしかなくて」とのちに新郎の隊員は嘆いた――。のちに彼らは知る。サタケは同期から結婚式クラッシャーと呼ばれていると。
披露宴で目をつけられていたサタケは、二次会がはじまるなり女性に食いつかれた。さながらピラニアの池に生肉が放り込まれたが如く。サタケも慣れた様子でのらりくらりと彼女たちの猛攻を躱しているが、年を聞かれてうっかり正直に「38歳です」と口を滑らせて女性が増えた。今度はもっと必死な女性たちだ。さすがのサタケの笑顔にも苦いものが混じるようになった。
しかし中隊の面子には助けようがない。彼女たちの恨みも買いたくない。そう言う訳でピラニアに食い漁られる上官を、中隊の面々はグラスを片手に眺めるしかなかった。
酒が入り、やや頬を赤らめたヒビキはぼんやりと言う。
「でも隊長だって結婚相手あの中から選んだっていいはずなのにね。もしくは恋人でもさ」
「……そうだな」
「そう言うアンタは女からはモテないね」
「煩いヒビキ」
そのサタケの恋人は自分なのだと、イサミは声を大にして言いたかった。
「どうしたイサミ」
「別に」
その日の夜。サタケの自宅にて2人きりの三次会をしていたイサミだったが、その顔は非常に面白くなさそうだった。缶酎ハイ片手に、ローテーブルの上に乗せられたつまみを食べる。その隣に座るサタケは苦笑して彼の頬を摘んだ。
「別にって顔じゃないだろ。まったく……しかし今日は疲れた」
「でしょうね」
「そうだ。イサミ。虫よけ作るか」
「はひ?」
名案を思い付いた、と言わんばかりにサタケは言う。イサミは頬を摘まれたままだ。
「左手の薬指に指輪つけときゃ寄ってこないだろ。揃いで作ろう」
「……いやいや、隊長。隊長が出席する結婚式っつったら俺らだって出席……」
不意に、頬を摘んでいた手が優しく添え変えられて、サタケの方に向き直される。サタケの目は優しく、真摯だった。
「口実だよ。わかれ」
「はひ」
「俺が女にモテてるの見て面白くなさそうな顔してたの、知ってるんだからな」
「ぐぬぬ……」
ふっと笑われ、イサミは思い切り顔を顰める。その自信が憎い。事実だから憎い。イサミが顔をくしゃくしゃにしているのを見て声を上げて笑ったサタケは、そのまま彼に口付けた。
後日、宝飾店に連れ立って歩く2人の姿が見られた。
End.