皆様、前回の投稿の際には、沢山のコメントをありがとうございます。
2年も放置しちゃってた訳だし、精々感想一つ来れば良い方だろとか思ってたし、なんなら低評価の嵐だろうなとか思ってたんですけど、もう温かい内容のコメントばっかりでリアルに泣きそうになりました(笑)。
相変わらずの遅筆ですが、どうか今後ともよろしくお願い致しますorz
感想の返信も今の所全然出来てませんが、少しずつやっていくつもりなので気長にお待ちください。
あとごめんなさい、今回繋ぎ回って事で薄味()。なのに文字数14000超え()。意味ワカンねぇ……()
「ふぅあふいいぃぃぃぃぃぃぃ」
「……排熱か?」
「排熱じゃないです~~。メルトダウンです~~」
「そっちの方が億倍ヤベーじゃねえか」
現在時刻は午後9時40分ちょい過ぎ辺り。
各国からの留学生の多種多様なニーズにもバッチリ応える、IS学園が誇る大食堂。その夕飯時の利用可能時間は午後6時から10時半迄とかなり融通の利く仕様になっている。
正しく今日の僕の様に、夜遅くまでISの訓練に励んでいる生徒が夕飯を食いっぱぐれない様にする為の配慮との事だ。毎日長時間厨房で働いてくださっているおっちゃん方には本当に頭が下がる。
頭が下がると言えば如月先輩もだな。訓練後、そのまま一緒に食堂へ行く流れだと思っていたのだが──
『諸々の片付けは
──という感じで気を利かせてくれたのだ。
実際疲れてたし、って云うか現在進行形で疲れ果ててるし、食事をする場所に赴くならその前に
如月先輩マジで最高過ぎるんだが。あれに惚れない人間を僕は同じ男とは認めねー。どっから見てもモテる要素しか無いんだが、何であれで彼氏がいない──
(いや待てよ?)
ナチュラルに彼氏が居ないと決め付けていたが、如月先輩にその辺の事実確認を一切していないという事に僕は気付いた。
いやまあ、今日知り合ったばかりの相手の恋愛事情にいきなり首突っ込むとか常識的に有り得ないので当たり前っちゃ当たり前なんだが。
ひょっとして学外に彼氏とか居るのかな。もしそうなら納得と同時にちょっぴりショックでもある。如月先輩とは只の先輩後輩ってだけで、別に付き合ってる訳でも何でもない。だからNTRだなんだと見当違いな事を言うつもりは毛頭無いが…あれだ、学校、或いは会社で見掛けた良い感じの娘に既に恋人が居た、若しくは結婚してたって知った時のちょっとした失恋感と云うか喪失感。うん、正しくあれである。
まだ何も確定した訳じゃないが、もしそうだった時の為にちょっと心構えを作っとくか───と結論を出そうとした瞬間思い出した。
「いや来週デートじゃん…」
うん、デートするんじゃん。
しかも向こうから誘ってきたんじゃん。
なーんだ、だったら彼氏なんて居る訳ねーな。
既に得ていた確定事項から僕はソッコーで真逆の結論に辿り着く事が出来た。何を長々うだうだと考えてたんだ馬鹿かな?
んまー、もしかしたら如月先輩は彼氏持ちでありながら他の男ともデートするヤリチンクズ男ならぬヤリマンクズ女という可能性も……いや、有り得ねーわ。そんなもん万が一どころか億が一以下の可能性だ、自分で言ってて違和感半端無かったし。
よしっ、ちょっと気が早いが、今の内から先輩とのデートプランを考えておくか! 今の所、僕の中の純粋な好感度では如月先輩が単独トップを爆走している。つまり正式な恋人関係になる可能性が一番高い人という訳だ。今後どういった関係になっていくかはまだまだ未知数だが、好きになってもらえる努力も、好きになる努力も、両方頑張っていきたいと思う。
───え、簪? あの、あれは、あれです。色んな意味で番外の立ち位置って云うか評価点付けづらいって云うか、今んとこ
よしっ、オーケー、終了、閉廷!
「そろそろ動けよー。待ち合わせに遅れるどころか普通に夜ご飯食べ逃すぞ」
そんな風に如月先輩の恋愛事情とかについて一人で勝手に脳内議論していたら、真上から声を掛けられた。
ああ……見たくなかった現実がそこにある……。
「無理。立てない」
「
「やーーもーーほんっっとーーに疲れたんだってば……勘弁してよパトラッシュ……」
「誰がパトラッシュだ。どっちかって言ったらお前が
「いやこれはたぶん倉持の人達が変態なんだよ。今の所僕にそういう趣味無いからね」
そこだけは真実を伝えておきたい。今後、学内でのトーナメント等で周りの目に触れる
「そりゃ一夏は見てるだけだったんだからいいじゃん。僕は普段使ってなかった筋肉を酷使しまくってさー、もー…」
「だからこうやってマッサージしてやってんだろうが、オラッ」
「ぬああ~~~そこぉ~~~」
一夏が親指を僕の背中に押し込んでくれるのに合わせて融け切った声が喉から漏れ出てくる。めっちゃ気持ちいいわ。
そう、僕は今ベッドに寝そべって一夏にお風呂上がりのマッサージを受けている。訓練後の満身創痍だった僕を気遣った一夏が申し出てくれたのだ。快諾しない理由は無い。
うーむ、織斑先生の補習を受け終えた後は一夏の方が断然グロッキーだったのになー。体力ゲージが綺麗に逆転してしまっている。まあ、それも
いやもうさー、ほんっっっっとに訓練疲れたんよ。
如月先輩の言う通り、歩いて飛んで剣振って銃撃って…ISの基本である動作を一通り
ただ歩く、ってだけでも生身のそれとは大分感覚が異なっていた。人の手足の数倍はサイズが大きい装甲を四肢に身に付けているが故の歩幅やリーチの違い…五体の稼働範囲の差が中々のもので。
───そして、それにも拘わらず
専用機持ちの僕はIS学園入学前に当然
だからこそ初訓練と云う事で、緊張して無意識に体が強張ってしまっていた僕のぎこちなさもダイレクトに反映されてしまい。
イカンイカンびびり過ぎだ、普段通り普通に動きゃいいんだよと自身に言い聞かせたが、生身との四肢の長さ及び大きさの違い、明らかに重そうな見た目の金属装甲を身に付けてるのにそれをまるで感じない違和感、それ等を調整しようとやっぱり無意識に力が入り過ぎてしまう全身の筋肉etc……という感じに。
要は頭の中の動きと実際の現実がまるで噛み合わず思うように動けなかった訳だ。
簪や如月先輩もわかるわかると云った感じで苦笑していた辺り、割と初心者あるあるな現象なのだろう。取り敢えず決闘迄には最悪でもこの状態を脱しておかなければね。じゃないと文字通り話にならない。
…うーむ、こうして実際に自分でISを動かしてみると、原作の一夏君のヤバさがよーく解る。
原作はあれ、作中での戦績がなんかパッとしなかったり
だが、原作セシリアさんとの決闘に
今の僕にはこれがどんだけイカれた所業かが実によーーく解る。主人公補正と言えばそれまでだが、才能が有るか無いかで言ったら間違いなく有る側の人間だ。なんか原作でも楯無さんが才能有る的な事言ってた気がするし。
そう考えると、きっと僕に戦闘の、或いはIS操縦者としての才能は無いのだろう。
今の所、比較対象が原作一夏君しか居ないが、今日の訓練で我ながら光るモノは感じ無かった。まあ論外ってレベルでは無いが、純粋な才能で云えば凡人、長じても精々が秀才クラスで頭打ちだと思う。
たぶん一夏が専用機を手に入れて訓練に励む様になれば、僕なんかあっという間に追い抜かしてしまうんだろうなぁ。
───ああ、そうだ、そう云えば。
一夏とIS、二つの事柄について考えていたからだろう。昼休みと補習時に
「ねえ、そういえばさ一夏」
「ん?」
「一夏は何で僕の訓練に付き合う気になったの?」
そう。昼休みの際、話が纏まりかけた所で一夏が急に、どこか焦った様子で僕の訓練への随伴を申し出たのが印象に残っていたのだ。
「正直昨日までの一夏は…いや、それこそ昼休み前まで、ISに対しての情熱とかやる気とか…何なら興味自体ほぼ無かった様に見えた。そもそも
そこまで言って僕は一夏の言葉を待つ。
暫く、生返事すら返さずに黙々と僕へのマッサージを続けていた一夏だが、やがて考えが纏まったのか、おずおずと口を開いてくれた。
「……涼の言う通り、俺、ISに対するやる気とか、そういうの全然無くてさ。興味の方は、まあ一応、千冬姉の事があるから少しは持ってたけど、千冬姉自身が俺をISに関わらせたくなかったっぽいから、結局は興味止まりで、碌に調べたりとかもしなかった」
一つ一つ。自身の中の何かを確かめる様に一夏は言葉を紡いでいく。
「───それなのに、急にIS学園に入学する事になっちまって、求めてもいないモノをいきなり与えられて押し付けられて、周りはそれを面白おかしく見て騒いで好き勝手に期待して馬鹿にして囃し立てて……一気にマイナスの方向に振り切れた。勘弁してくれよって」
一言一言。世間の有象無象と理不尽な状況に対する鬱屈とした感情が吐き出される
「───でも、涼は違った」
その
「涼だって、
ありゃ、千冬さんだけじゃなく一夏本人にも悟られてたか。
こういう部分は普通に察しが良いんだよな……いや、僕が分かりやすいだけかもね。
「こんだけでも充分凄いのに…一番凄いと思ったのはさ、昼休みの時、更識さんの、何で頑張るのかって質問に、自分の立場には責任が生じてるからって答えた奴。……入学出来なかった人達の分まで頑張るなんて、俺にはそんな発想、浮かびもしなかった」
一夏の言葉に籠った熱が、
自分にとって有りの
「そうやって、色んなモン背負って頑張ってるお前の事見てたら、さ……
「…それで、少しでも何かをやらなくちゃって?」
「おう。涼の姿勢を見習わねーとって思ったのと…うーん、なんつーのかな………同じ境遇の人が、何をどうやって積み上げて、何に成っていくのか…なんか、そういうのを近くで見ていたいって思った…んだと、思う、たぶん」
「ふふっ、何それ。なんか最後の方凄い自信無さ
「ぅ、うるせーなっ。自分でもよく分かってねーんだよ。昼の時は、咄嗟だったって云うか…なんか、殆んど衝動的なあれでっ」
後半になるに連れて、どんどん言葉が曖昧になっていく一夏が可笑しくて、思わず僕は笑ってしまった。一夏はそんな僕の態度に焦ったのか怒ったのか、これまた曖昧な言い訳を並べて───イッッテ、こんにゃろ、指の力急に強めやがった。
───でも、そっか。
「良いんじゃないかな」
「? 何がだよ」
「そうやって、何かを始めようとする事」
僕の一言に一夏は──顔は見えないが、苦笑を溢した様な気配と声色で応じる。
「思っただけで、実際にはまだ何もやってないけどな」
「いいじゃん。まだ入学したばっかりだよ。これからだってこれから」
「なんだよそれー、もーー。他人事だと思ってテキトー抜かしやがって。そりゃ涼には専用機も立派なコーチも付いてるからいいだろうけどさー」
「そんなんじゃないよ、そのままの意味」
「そのままぁ?」
「急な入学で、本来なら身に付けておくべき事前知識は皆無、それどころか周りの人ほぼ全員が異性っていう慣れてない状況…土台も足場も全然整っていないんだから。何も出来ないのは当然だよ。今はまだ焦る様な段階じゃないさ」
「…でもさぁ」
「───でも逆に言えば、そうやって
僕の言葉に、それでもと反論を言い募ろうとする一夏を遮って僕は自身の考えを告げた。
「え?」
「世の大半の人は、焦る事すらしない。
僕が前世で見てきた、大多数の平凡な人は皆そうだった。って云うか僕だってそうだった。
リスクとリターンを天秤に掛けて、無駄に労力のかかる事はせず、楽して程々の報酬を得られる道を行く。そうして安全を保証された安心な人生を歩んで行く。
愚かなのではなく、賢いからこそ人は費用対効果の良い道を選ぶ。
「───でも一夏は違った」
「何かを始めなきゃって思い立って、実際に行動を起こした。未知の領域に向かって踏み出すって行為は、とても怖い事なのに、君はそれをやってのけたんだよ。その時点で、君は大多数の凡人を超えた立派な才人だと僕は思うな」
そう。何かをしたい、始めたいと思っても、もし失敗したらどうしようという想像と、実際問題として立ちはだかる現実の前に膝を屈してしまう人の方が断然多くて。
自分の心に正直に生きるっていうのは本当に難しい。───それが成せるからこそ、原作の一夏君はきっとあんなにもモテたのだろう。
自身が正しいと思った事を曲げず、貫き通す…そんな真っ直ぐな強さが周りの女の子を惹き付けていったんだ。
人の精神性は周りの環境、常識に左右されてしまうものだ。男女の価値観が逆転したこの世界に於いては尚更それが顕著だと感じる。
けど、それでも変わる事の無い根っこの
だから僕は織斑一夏という人間を心から信じて、尊敬する事が出来る。
「…いやぁ、そんな高尚な
「そんなのは別に大した問題じゃないよ。口だけの夢想家じゃなく、実際に動いて何かを遺した者をこそ、人々は偉人と呼ぶんだから」
照れた様な声色で謙遜する一夏に僕は引き続き語り掛けてゆく。
「物事はやる事自体に意味と価値が有る。切っ掛けそのものは何だっていいんだ。現状の自分や環境に対する不満でも、周囲と己の差に対する焦燥でも、ほんのちょっとした興味でも、何なら特に理由の無い気紛れでも。───何かを始める理由は、どんなに下らなくても構わない。何かに対して努力を始めた人は、その時点で勝ち馬さ」
いや~~めだかボックスは名言たっぷりの名作だったよね。西尾維新先生は偉大ですよほんと。あ、台詞は若干弄ってあるので元ネタが気になった人は『めだかボックス 勝ち馬』で検索してね。
「だからさ、誇りなよ一夏」
「誇り?」
「うん。自分がISを動かせる才能を持った男だって事を、超絶アウェーな場所でも逃げずに努力する道を選べる人間だって事をね。───大丈夫。もし一夏の事を悪く言う人現れたとしても、僕が絶対に言い負かしてやるから。約束する」
まあ、そんな場面が実際に来たとしても、それこそ楽勝である。普段から一夏に対して思ってる尊敬ポイントを並べ立ててやるだけでいいのだから。
僕の友達はこんなにも素敵な人間なんだぞ、ってね。
───と、そこまで言い終わった所で、唐突に一夏の手の動きが止まった。少し待ってもマッサージが再開される気配が無い事を疑問に思った僕は首を動かして後ろに振り向いてみる。
そこには呆然とした表情で固まっている一夏が居た。なに、どしたん。
「………俺、周りの女子が皆、涼に首ったけな理由解ったわ。はは、そりゃこんなん誰だってほっとかねーよな」
「はぁ? 急にどうしたの」
「別に。お前はとんでもねぇ人たらしだって話だよ」
そう言って笑いながら、上機嫌でマッサージを再開してくれる一夏の内心が読めず、僕は首を傾げる他なかったのであった。
あ、夕食の方は、ちょっと真剣に話し込んでたせいで若干遅れかけたが、無事に間に合って普通に談笑しながら平和に済ませました。大変
え? ほんとに普通の夕食だったのかって?
うん、普通だったよ平和だったよ。別に毎度毎度イベントの度にトラブル起こさなきゃ生きられない生態って訳じゃ無いよ僕。悪いのは僕じゃなくて世界観の方だよ。*1
∵∵∵
4月10日、水曜日。IS学園入学から三日目。
時刻は午前8時15分程。登校完了時間、及びHR開始まで約15分。
昨日の放課後から就寝迄の時間、その約八割を費やして用意した資料を読み返しながら、私は数分後に発生するだろう会話のシミュレートを脳内で繰り返していた。
大丈夫、既に決闘の事は学園中に広まった周知の事実──いや、それ以前に、このクラス内で、私の目の前で起こった事。もっと言うならそれに関する会話だって朔晦君と直接したのだから。私が決闘の詳細を把握している事に何等不自然な点は無い。
大丈夫、この資料は試合映像から得られた客観的な事実と、それに
大丈夫、決闘の話が決まったのは昨日の朝のHR。放課後は織斑先生との補習、その後はアリーナでの訓練に丸々時間を費やしたとの情報を得ている。
大丈夫、
(───本当に?)
胸の内に響いた、自問自答。
……ああ、うん、そうだね。
有る。
裏は、と云うか、下心は有る。
いやしょうがなくない? って云うか有って当たり前じゃない? だってあんな顔良しスタイル良し性格良し、おまけに趣味が料理と裁縫って言ってたから推定男子力良し。
激烈優良物件じゃん。もうタワマンじゃん。都内50階建てレベルは余裕でいっちゃってるじゃん。大家になれたら人生勝ち組確定じゃん。
健全な女子高生としては下心を抱かないなんてマジで不可能と言っていい程の、美少年。
これを機にお近づきになれたら…そこまでは高望みだとしても、今よりは仲良く、せめて只のクラスメイトからよく話す友達くらいにはランクアップ出来たら…そしてゆくゆくはより親密な間柄に…なんて捕らぬ狸の皮算用をしてしまうのも仕方が無いだろう。
(でも、それだけじゃない)
そうだ。決して、下心だけじゃない。
『僕と一夏のイレギュラー二人が入学した事で、本来なら合格だった方が二人、IS学園に入れなかった───今の僕の立場には、罪は無くとも責任が生じているんです』
『自分は悪くないと突っ撥ねてしまうのも有りです。けど、僕はそうは思えませんでした』
『イレギュラーの存在というのは、その周りの正常な流れを歪めてしまうものです。そのせいで、真っ当に努力してきた人が不利益を
昨日の昼食時、朔晦君が述べた
こんな、周りは女だらけの、全く気の休まらないと云っても過言じゃない環境に在りながら、自分以外の誰かの為に責任を背負って努力出来るなんて、と。
ふと、私だったらどうなるだろうと、朔晦君の立場を自分に置き換えて想像する。
周りの異性全員が自身の、文字通り一挙手一投足に無遠慮な視線を浴びせて、寄越して、注目してきて。ほんのちょっとした行動一つですら面白おかしく騒ぎ立てて来る。その上で同性の人間が──ある程度心を許せる、警戒する必要の無い相手と云うものが、周りにほぼ居ない。そんな環境。
地獄だ。
そんなの、自分だったら絶対無理。
ノイローゼからの不登校待った無し。百歩譲っても、出来るだけ目立たない様にと縮こまりながら、自身の殻に
想像がつくからこそ、朔晦君の凄さが実感出来た。
実感出来たからこそ、手を貸してあげたいと思った。
この気高い男の子の力になりたいと、ほんの少しでもその責任を共に背負いたいと。
そう思ったからこそこれを──
「おはようございます」
──とかなんとか、誰に対してなのかも分からない言い訳の様なモノを内心で
物思いに
「お、おはよう朔晦君っ」
「朔晦君おはよー」
「さくさくおっは~」
「──お゛っ、おは、よう朔晦君っ!」
あ、やっちまった。
そう思うも後の祭り。
派手に肩を跳ねさせた事で手中で
皆が次々に挨拶していく中、出遅れてたまるかと慌てた勢いのまま、妙にでっかい声を出してしまった。
周りの皆から
ミスった。初手からミスった。
私のシミュレートでは席に座った朔晦君に後ろから話し掛け、朝の雑談の一部くらいのノリとトーンでさらっと済ませてしまうつもりだったのに。
アカン。ほんと、いきなり無駄に目立ってしまった。あーもー何でよ、何で焦って挨拶しに行っちゃったの私。そんな必要無かったじゃん、朔晦君が席に座った後に挨拶してそこから会話に繋げれば良かったじゃん、そういうつもりだったじゃん。
嗚呼、やっぱり内心で幾ら自分に言い聞かせても緊張というものはそうそう
「あの…鷹月さん? どうかしましたか」
だが、それも此処までの様で。
名指しで呼び掛けられてしまった以上、最早撤退という選択肢は潰された。
ならば突っ込むしかない。こうなれば腹を括れ。大丈夫、懸念事項に対する確認は何度もしただろう。何等
「あの……朔晦君っ、これ、良かったら使って」
「? これは…」
「セシリアさんのIS、ブルー・ティアーズの戦闘データとその対策、纏めてみたの」
席から立って紙の束とUSBを渡すと、朔晦君は驚きの表情で私に目を合わせてきた。
「ぁ、や、えっと、あのねっ、セシリアさんとの決闘、私もクラスメイトとして何か協力出来ないかなって思って…それでねっ、一応、素人なりに作ってみたっていうか、いや要らなかったら全然捨ててくれていいっていうか…う、うん、それだけだからっ。ほんとそれだけだからっ。別にお礼とかそういうのは期待してなくて…ぁ、や、違うよ!? ほんとっ、これを機にお近づきになりたいとかそんな事全然思ってなくて!」
クラス中から注目されているという状況、加えて
う、うわああーーーっ! 何言ってるの私! 全然違わないじゃん! こんなのもう自白じゃん! 内に秘めた欲望駄々漏らしにしちゃってるじゃん!
なんで? ほんとなんで!? わ、私は自他共に認める確り者キャラの筈なのに、こんな……あああーーもう終わった最悪終わったキモがられた絶対キモがられた帰りたい実家帰りたいって云うか死にたいもーーお願い誰か殺して──
クスクスッ
──己の馬鹿さ加減に羞恥と後悔と絶望とその他諸々を
音の発生源は、目の前の男の子で。
「ぇ、ぁ…朔晦、君?」
「ああ、ふふっ、ごめんなさい。鷹月さんの慌て
「う、ぐ、そ、そんな笑うこと…」
「ああ、もう、ごめんなさいっ、ちょっとツボに……ぅ、ふふふっ、あははは」
「だ、だから笑い過ぎだってば!!」
よっぽど私の慌て
男子からのそんな反応に先程とは別種の羞恥が沸き上がった私は半ば逆ギレするかの様に声を荒げるが、それでも朔晦君は笑う事を止めなかった。
「ご、ごめんなさい。お待たせしちゃいましたね…ふふっ」
「謝りながら笑わないでよっ」
その後、たっぷり数十秒程かけて漸く笑いを収めてくれた朔晦君だが、目元及び口元のにやけの方は未だ収まっておらず。
謝罪の言葉を口にしながらもそんな調子の
「折角朔晦君の為に頑張って用意して来たのにっ」
「ああっ、ごめんなさい。それは本当に嬉しいです有難いです、ありがとうございます鷹月さん」
「もういいもんっ。舞い上がってた私が馬鹿だったっ」
そう言ってそっぽを向くと、朔晦君は慌てた様子で回り込んで私と向き合おうとしてくる。尚、口角はまだ上向きだった。腹立つっ。
「あーわー、ちょ、本当にごめんなさい。嬉しーなー、ほんとに嬉しーなー僕これ」
「棒読み過ぎるし、さっきからごめんなさいごめんなさいばっかりだし、まだニヤけたまんまだしっ! なんなの!? 本当に謝る気あるのっ!?」
「ありますあります本当です。ええ、僕にとってこれは、今間違いなく必要な物ですから」
そうやって朔晦君は謝罪と感謝を言い募ってくるが、私の怒りは全く治まらない。
当たり前だ。だって、口角はもう下がったけど目の方は未だに思いっきり笑ってるからね! 腹立つくらい綺麗な三日月を
こんなの寧ろ火に油だ。目は口ほどに物を言うなんて諺があるが正しくその通りだと思う。
私は頬を膨らませたまま再度反対方向にそっぽを向いた。
「あ、あーーっと、そう言えば鷹月さん、この資料ってどうやって作ったんですか?
絶対に許してやらないっ、と意地になっている私を宥める為だろう、露骨に話題を変えてくる。
あからさまだが、そもそもその資料を用意したのは私な訳で。であるならば最低限説明する義務は有る訳で。
私は溜め息を
「うん、既に第二回モンド・グロッソに出場済みの各国代表の第二世代機や量産体制が確立されてる機体はデータが開示、若しくは解析され尽くしてるけど、現在進行形で開発途上の第三世代機はその詳細の殆んどが秘匿されてる」
「ですよね」
「だから公開されてる公式戦の映像から分析したの」
そう。IS学園の生徒とは云え、私自身は日本の一般家庭で育った庶民に過ぎない。ならば
「詳細な機体スペックの
「……これ等を、昨日一日…いや、たった半日で?」
情報の出所とそれを元にどんな資料を作ったか説明すると、朔晦君は神妙な口調で表情で此方を窺ってきて。
その中に含まれていた一言が、やけにハッキリと耳に残った。
(半日…)
そうだ…たったの、半日だ。
「う、うん……ごめん、昨日の放課後だけじゃそれくらいしか出来なかった」
朔晦君の言葉が頭の中で反芻され…何だか本当に、先程迄の浮かれ切っていた自分が恥ずかしくなってきた。
この程度の資料、IS学園に合格した者なら誰だって用意出来るレベルの物だ。
所詮は素人の浅知恵…それなのに、こんなものを渡すくらいの事であんなに緊張して取り乱して、
そうだ。本当に朔晦君の為を思うなら、クラスの誰かに協力して貰って、もっと多角的な視点からの意見を取り入れたり、先輩方に頭を下げて知恵を貸して貰うべきだったんじゃないの? そうしてもっと手間を掛けた完成度の高い物を渡すべきだったんじゃないの?
それをしなかったのは……結局、一人でこれを作って渡せば、私個人の点数としてアプローチになる…そういう下心があったからで…。
(恥ずかしい…っ)
こんな、たかが二束三文の代物を用意したくらいでなんて恩着せがましかったんだろう。
自分が余りにも浅い人間だったと気付いて、さっきまでの二種とはまた別の羞恥心、それに加えて
そしてそんな浅ましさで塗り固められた紙屑を朔晦君の手に握らせているという事実にすら嫌悪感が沸き上がり始め。
「あの、朔晦君…やっぱりそれ、返して──」
「───ありがとうございます、鷹月さん」
資料を返して貰おうと伸ばした手が、朔晦君の両手で包み込まれた。
───え。
「え───えぁっ、しゃ、かいくんっ!?」
「決闘が決まったのはまだ昨日の事なのに…たった半日で、こんなにもちゃんとした資料を、自主的に作ってきてくれるなんて……本当に、ありがとうございます。鷹月さんって、とても優しくて真面目な方なんですね。素敵です」
素敵。
至近距離から真っ直ぐ私の事を見詰めて微笑みながら、朔晦君はそんな言葉を紡いでくれた。
その意味を認識した瞬間、心拍数が跳ね上がったのが自覚出来て。
って云うかこれ絶対顔真っ赤っかになってるんだけど!!
嘘、ヤダ、え、何これ。や、ヤバイ! 口角が! 口角が勝手に吊り上がっちゃうっ!!
「は、や、そ、そそそんなこと…」
「さっきは笑ってしまって、本当にごめんなさい。これ、作るの大変でしたよね。何のデータも無い状態から映像だけを頼りに詳細を詰めていって、更には対策まで考える…放課後の時間を殆んど費やさなければ作れなかった筈です。それだけの苦労を掛けて資料を作ってきてくれた鷹月さんの事を笑うなんて…僕は最低です」
「やっ、そんな事、ないよ! か、勝手に作って持って来たのは私なんだし、ほんとっ、気にしないで!」
私を持ち上げる感謝の言葉から一転、今度は朔晦君自身を責める謝罪の言葉に内容が切り替わった。
そんなっ、私の勝手なお節介で朔晦君が罪悪感なんて憶える必要無いのにっ。
そう焦った私も言葉を投げ掛けるが、朔晦君はそれに応えず暗い表情で目線を落としたまま黙り込んでしまい……何時の間にかクラスの全員が私達のやり取りに注目していたのだろう、教室全体が気不味い空気に支配されてしまった。
嫌な沈黙が10秒以上。いよいよ以て耐え切れなくなった誰かが何かしら声を上げようとする、そんな気勢を徐々に感じ始めた時。
「───鷹月さん」
「はいっ」
朔晦君が私の名を呼んだ。私は反射的に返事をする。
顔を上げて真っ直ぐ私を見据えるその表情には、昨日私が感銘を受けた誠実さが有り有りと浮かんでいて。
「改めて、この資料を作ってきてくださった事、ありがとうございます。何時になるかは判りませんが…このお礼とお詫びは必ずしますから。待っていてください」
「いいよ、そんな、今言ったけど、私が勝手にした事で…」
「なら僕も、勝手にさせて貰いますね。ええ、受け取った分は、必ず返す主義ですから──
そう言って、朔晦君は微笑んだ。
…その微笑みに撃ち抜かれて二の句を継げずいる間に、朔晦君は私から離れて自分の席に戻る──途中で、何かを思い出したかの様に此方へ振り返り。
「───ああ、鷹月さんの方から、何か具体的なリクエストがあるなら、それでも構いませんよ。遠慮せずに仰ってください。
「ぇ……な、なんでも?」
「ええ───なんでも」
そう言って口角を上げた朔晦君の表情。
とても、とても綺麗なのに。
何故だろう。
私にはそれが、女を手玉に取る、生粋の悪漢のモノに見えた。
その後。
「何抜け駆けしてんのちょっと」「何今のズルくない? 唐突にイベント発生させないでよ」「ラブコメの主人公じゃん」「っていうかめっちゃ羨ましいんだけど」「それな」「なんでもってちょっと! あんな美少年からのなんでもってちょっと!」etc…
てな感じで大勢のクラスメイトから詰められる事になった。
詰めて来なかった娘達も、此方を妬ましそーな表情で睨んできたり、或いは生暖かい眼差しとニヤニヤした笑みを送ってきたりで…。
取り敢えず、異性へのアプローチは周りに人の目が在る状況下では止めておいた方が良いという教訓を、私は自身に刻み込んだ。
・『鷹月さん√』が解放されました。
・『一夏君√』が解放されました。←!?
簪ーーー!!!! 早く(こいつをワカラセに)来てくれーーー!!!!