それは4.6〜5.9フィート程の生物だ。人間に擬態している。 作:極道師
金剛フニのプロローグ(1)/あなたが目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。
「痛ぁぃ……」
頭打った……。寝てる間に壁に寄ってた……?というか、あちこち痛い……。関節や筋肉なんて飾りなのに……硬い感触……床で寝た?いや、そもそも、
「私に家が有ったの何て随分と昔だよ……」
「はぁ……最悪の目覚めだ……うぼぁ」
寝惚けた頭が覚醒して、先の行動の黒歴史っぷりに身悶えする。
幸福な夢、然し自ら捨てた何かを享受するソレは、目が覚めたなら悪夢より悍しい。夢の中の自分が幸福を感じるほど肥大する自己嫌悪、取り戻せぬモノへの未練、執着。あの時の決意、覚悟がどれほど薄っぺらいのか自身で証明したのだ。連鎖して浮かぶ大小様々の失敗、失態、己を責める己の声が頭の中で響く。私の思考が埋まっていく。手足が動かぬほど重くおもく──
「……いや、そんな場合じゃあないだろ私。」
深呼吸を一つ、二つ、三つ──。
幾度も繰り返して思考を停めていく、深く吐いて、吐いて、吐き尽くして、ゆっくり吸っていく、肺が空気で膨らんでは萎む感触だけに集中する。吸って吐いてを一セットで一、二、三──、九十八、九十九、百。
「……さて、…………ここ何処?」
うん、全然見覚えが無いんだ!
人の住む地域を離れて、されど未練を断ち切れず、人の居るとこの境をフラフラ彷徨ってたけど……。
スラムなんかは余所者への警戒がスゴイってイメージだから、あからさまな廃墟には近づか無かったのに、今いるのは立派(?)な廃墟だ。
今居る場所に見当を付けようと、目覚める前の記憶を手繰る。
「…………?私、どのくらい彷徨ったんだ……?」
何か、時間感覚からして曖昧だ。寝落ちして丸一日寝てたような、ブラックな働き方をしてた時のような?
ともかく、えいやっ!っと都市部近郊を飛び出して体感数日だが…………。
不確かな記憶の中、数日では説明が付かない程に衰退した風景、何故か必死に人の姿を探す私、何処まで行こうとも誰も居ない自然に呑まれた街並み。
──────────────────。
「おぼえていないなら、かんがえてもしかたないな」
うん、そうだ。周辺を探索して此処が何処なのか判別しよう。これからどうするかはその後に考えても遅くないだろ。
□□□□□
私、金剛フニ(自称)!年齢はヒミツ(百までは数えた)!ごく普通の住所不定無職(戸籍は偽造してた)!しいて言うなら不定形生物で人型なのは擬態ってだけの何処にでも居る女の子(生やすことも出来る)だよ!
ある日、目を覚ますとそこは見知らぬ場所だったからさあ大変!慌てて周辺の探索を終えた私を待ってたのは衝撃の事実!
なんと!ここは異世界(推定)の学園都市『キヴォトス』!今までの常識が通じないこの世界で私、どうなっちゃうの!?!?
「いや、脳内だけだとしてもこのテンションは無いな。考えてるだけなのに妙に疲れるし……」
あれからしばらく、私の姿は人々が思い思いに憩う公園に有った。
幸いと言って良いのか、私が目覚めたのは廃墟と都市部の境だったようで直ぐに人気の有る場所に出れた。
が、私を出迎えたのは一目で異様さの伝わってくる光景だ。
犬、猫、鳥、エトセトラが服を着て二足歩行で闊歩し、人型ロボットまで市民生活を営んでいる。謎生物はさておいて、ロボットや信号、街頭ビジョンを見るになにやら未来都市っぽさが溢れている。
人類はどうやら少女だけらしい。その少女たちもケモミミやらトンガリ耳、少数だが鳥の羽が有る者、悪魔っぽい角やら羽やら尻尾やらを生やした者までいる。一応それらの特徴が無い少女も居るが、彼女たちを人類だと断言していいものなのか……。
さらに少女たちに共通して頭の後ろに天使の輪とも後光ともつかぬ何かが浮いている。それだけなら未来都市な街の様相と、少女たちが一様に学生っぽいことも相まって流行りのアクセサリーだと断定するだけだったが…………。
「なぁにこれぇ……」
私にもついてるんだよなぁ、謎の輪っか…………。
街中までの道中、廃墟に転がる壊れたスマホやらスクラップ同然の拳銃やらを拝借したが、ぱっと見て用途の解らぬ物を拾った覚えはない。アクセサリーなぞ言わずもがなだ。
ガラスに映る自身の頭に追従するソレに、すわ、ここは死後の世界也や、と血迷うも──。
「仮に地獄だとしても、銃弾の飛び交うクライムアクション染みた死後の世界は嫌だなぁ……」
カワイイ動物やロボ、美少女などが行き交う光景の衝撃から立ち直った私が真っ先に行ったのは、人の目や監視カメラを避けつつ拳銃の形に成形した自分を装備することだった。
なにせ目にする人々、一人残らず武装しているのだ。
せめて反撃の手段をアピールして少しでもトラブルを遠ざけたかった。
拳銃にサブマシンガン、ショットガン、ライフル、アサルトライフル辺りはまだ可愛い方で、対物ライフルやマシンガンを竹刀袋か肩掛け鞄のごとく持ち歩く者までいる。
個人的には銃器より警戒すべきグレネードをストラップのように鞄へ鈴生りにしていたり、グレネードランチャーを携行したり、アサルトライフルに装備されていたりするのを見つけては戦々恐々とした。
そして唐突に始まる少女その他による銃撃戦。
テロか何かかと思えば聞こえてくる怒号の内容は、きのこたけのこ論争染みた愛好するお菓子の主張合戦。
あんまりと言えばあんまりな原因と結果の落差に呆然とする私に命中する流れ弾。
こんなことで人外バレ!?、急ぎ都市部からの離脱を、いや、この混乱だ、まだバレてはいないかも……、いやいや、可能性が僅かにでも有るなら安全をとるべき……、
立て続けの状況変化に思考が追い付かず、先とは違う理由ながらもまたしても動きを止める私。
そんな私に声が掛けられた。誰何の声。咄嗟に逃げようとするも続く幻聴に動けなくなる。何時かの罵声、この人でなし!化け物め!怪物め!何処に行く!逃げるな!殺してやる!お前の所為だ!お前が盗んだ!お前が殺した!お前に奪われた!耳に痛い言葉、身に覚えの無い罪、ああでもあの人は私を庇って死んだ、あの子も私と仲が良いから探してもらえ無かった或いは見捨てられた、あの人は私を知らなければ盗まなかったのでは殺さなかったのでは、私を愛して死んだ人、私が愛して死んだ人、私を嗤って罪を押し付けた人、私を探して誰かを殺した人、私の代わりに殺された人、ああ何だ私の所為じゃないか、私が怪物で化け物で人ではないから、皆を殺したのは私、皆を罪人にしたのは私、私が殺して、私が犯した、私が、私が、私が──────。
悪い怪物は退治されなきゃ、また誰かを不幸にする前に、今度こそハッピーエンドを、めでたしめでたしで物語を終わらせよう、今ここで、このまま、まだまだ私はたくさん有るけどきっと大丈夫、神さまが慈悲をくれたんだ、自死を選べ無い私に、私を殺せる道具、私を殺せる人々、そうか私は楽園に辿り着いたんだ──────。
手を強く引かれた。たたらを踏む。手にはプニプニの肉球の感触。私の手を掴むその先にはモフモフが、もといカワイイワンコ、もとい犬の市民だ。投げ掛けられたのは無事の確認、私を、心配する声。
犬の顔だというのに妙に表情豊かだ。こちらを気遣っているのがよく分かる。
彼(?)の友人だろうか、猫の市民が怒鳴っている。言葉は罵倒だが、内容はひたすら犬とついでに私の怪我の有無を確かめるものだ。怒り心頭といった表情に涙を浮かべて、というか半泣きで彼女(?)は犬市民と私に危機感の欠如を叱ってくれている。ツンデレにゃんこカワイイ。
強引に現実に戻されたことも相まって、辿々しく返事をする私に二人(匹?)の対応がなんだか優しくなっていく。というかあからさまに幼児へのそれだ。
いつの間にか空いていた方の手も猫市民に引かれていて、怒り顔からママみ溢れる慈愛の微笑みに変わってる。ツンデレデレにゃんこママ……。
ヘルメットを被った少女、時代錯誤(ここでは現役なのか……)なスケバン少女、ロボットとアニマルが入り乱れる暴徒たちは、これまた少女その他の治安部隊に速やかに鎮圧されていた。
容赦無く行われる斉射に惨劇を予見するも、痛みを訴える声が響くだけだ。
よくよく観察すると煤やらで汚れているものの服すら穴などは無く、露出する手足にも赤い跡やすり傷切り傷ぐらいしか無い。
私の手を引く二人の会話から個人差はあるもののこの都市の市民たちは銃弾程度では死なない程度に頑丈らしい。この犬市民は幼い頃は病弱で幼馴染な猫市民は、未だにその頃の感覚が抜けず過保護気味なようだ。……決して私は関係性オタクではないが、唐突に尊みをぶつけて来るのはヤメて欲しい、ウソですもっと下さい!
ともかく此処の銃事情と治安の度合をなんとなく察して、ついでに人気の無い廃墟付近に壊れているとはいえスマホやらなんやらが落ちている背景もそれとなく見えてしまった。あそこ溜り場になってたのか……、初接触がこの二人で本当に良かった。
さて、いい加減に情報収集の目途を立てなくては……。
さしあたっては、私を迷子と判断して親を探そうとしている二人を止めて誤解を解かないとだ。
いや、ホントに見た目大人な子供とかじゃないんだ……
とっくに成人なんて過ぎているんだ……
お願いだから信じて欲しい……!
その大人に見られたい子供を見るような、優しい目もヤメてくれ!
もっと能天気でノリノリでJKです☆とか言っちゃう、子供っぽい大人になるはずだったのに……
あらすじといいどうしてこうなった……
プロローグも一話だけのあっさり終わらせる予定だったのに……