竜と戦った九人   作:小沼高希

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お知らせ: しばしば地理の話が出てきます。訳す際に語を挿入するなどして原文の雰囲気を変えない範囲で情報を入れることを心がけましたが、必要に応じて「序章」内の地図を参照してください。



アラク・アゥ=ウワチの骨格
アラク・アゥ=ウワチの骨格 一


日が照りつける荒地に作られた天幕に案内されたファルゼイは、いくらか年上であるヒゲを生やした大柄の男に背中を痛いぐらいに叩かれていた。

 

「よう久しぶりだなぁ!元気だったか?」

 

そう言って、彼はファルゼイを案内した男に人払いを頼んだ。

 

「ええ、バーント先輩も……痩せましたか?」

 

天幕の中の雑多に散らばった小物と丁寧に整理された発掘記録の書かれた紙は、ここの主の目的物以外は無視するような性格を表現していた。

 

「かもなぁ!」

 

バーントは東方学者として、そして考古学者として少しは名の知れた博士であり、ファルゼイの学院時代の先輩でもあった。

 

「……しかし、ヴァドキンス大佐が送り込んできたのがまさか君とは」

 

声を潜め、バーントはファルゼイに言う。ここはアラク・アゥ=ウワチ。現地の言葉で「大きな柱の廃墟」を意味する、ロイハム荒地南端の場所だ。バーントは支援や技術協力の名の下に送り込まれたヴォール出身の専門家として、ここに半年ほど前から送られていた。その背後には軍の意向がある。

 

「こちらも驚きましたよ、いきなり大佐に呼び出されたかと思ったら、()()()()依頼をされたので」

 

そう言って、ファルゼイは先程バーント博士が開けていた大佐からの信書をちらりと見た。

 

あくまで、この旅はファルゼイの個人的なものである。ヴァドキンスは彼を知る()()として紹介状を書いたし、()()()()面倒を見ているファルゼイの旅の資金を提供した。そういう事になっている。

 

ただ、ここにいる二人はその裏の意味を読み取れないほど無能ではなかった。このナクゥド国でヴォールの軍服などを堂々と着用していれば物陰から石を投げられても仕方がない程度には、面倒な感情が二国の間に存在した。だから、ここに訪れたファルゼイはあくまで一般人なのだ。

 

「……今、発掘資金を止められるのは困る。大発見としか言いようがないものがあるからだ」

 

「ならそれを伝えればいいではないですか。ヴァドキンス大佐の人となりはそれなりに知っているつもりですが」

 

「その大佐が直々に暗号電文を送ってきた」

 

「……ここまで届くんですか?」

 

「最寄りの電信所までは隊商なら片道で十日だ。良く鍛えた駱駝乗りの子でも二、三日はかかる」

 

そういう会話をしながら、バーントは折りたたまれた通信用紙と解読結果が書かれた紙を見せた。ファルゼイは素早く目を通し、使われているのが軍が提供する暗号であることを把握して問題の厄介さに息を吐いた。

 

「カルコツィク国が動いている?」

 

「ああ、フェナゾン国あたりにでも唆されたんだろう」

 

大陸南西の大国、フェナゾン国は北西のヴォールと西方における覇権を争う国だ。特にこのアラク・アゥ=ウワチはカルコツィク国やフェナゾン国とも近く、過酷な気候から防衛も難しいために軍事的な問題が起こった場合に被害を被る可能性が高い場所であった。

 

「……それを踏まえて、実際に判断できるように、ということですか」

 

ファルゼイが見た紙の電文送信日は、彼が故国のヴォールを出た数日後であった。高速鉄道と言われようとも、電信の速さには敵わないのである。

 

「だろうな。隠すつもりはない。できるだけ多くのものを見て、記録していってくれ。母国からの支援が無くとも、俺は発掘を続ける」

 

「無茶な、どれだけの額がここに注ぎ込まれているかわかっているんですか?」

 

現地で雇う人足と定期的に荷物を届ける隊商のためにどれだけの資金が必要か、軍での経験からファルゼイはおぼろげではあるが察することができた。

 

少なくとも、個人で出せる金額ではない。名家の出身であるヴァドキンス大佐ですら、秘密裏に出せるのは個人の旅銀程度なのだ。科学のためという大義名分だけでは、国境付近での牽制という政治的目的が消失してしまった時には動けなくなる。

 

「……それでも、やらねばならないのだ」

 

ファルゼイはこの日の記録として、先輩であるバーント博士に対してかなり痛烈な言葉を残している。狂気に取り憑かれる研究は珍しくない。特にこのような寒暖の激しく乾燥した場所であれば、生気と精神を病むことはおかしくない、と。

 

「まあ、旅も長かっただろうししばらくはゆっくりしてくれ」

 

「……そうさせて頂きます。ところで、一体何が見つかったのですか?ヴァドキンス大佐からは聞いていないのですが」

 

「……竜の骨だ」

 

「珍しいですが、こういう場所であれば残りやすいのではないですか?」

 

古来より、竜の遺骨は英雄の証として、あるいは、もちろん否定されて久しいものであったが、万病を癒やす薬として扱われてきた。

 

「ただの骨ではない。人の手によって作られた骨だ」

 

「意味がわかりません。加工がされているということでしょうか?」

 

「違う、一から作られたんだ。模型というべきだろうか?」

 

そう言って、バーント博士はファルゼイに紙挟みを差し出した。

 

「……この長さの表記、間違ってはいませんよね?」

 

取り出された薄紙に丁寧に描かれた素描を見て、訝しげにファルゼイは言った。

 

「ああ。君は竜についてはそれなりに知識があるだろう?」

 

「叔母に鍛えられましたからね。仙椎が二つ……この細長いのは指骨でしょうか?」

 

「詳しくはわからん。もし良ければ、その分析も頼めるか?」

 

「任されました」

 

ファルゼイが軍人らしくした敬礼を、バーント博士は首を振って止めるように促した。

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