side:アクア
「本日はよろしくお願いします。苺プロの星野アクアです!」
「よろしくね。君も出演するのかな? 偉いねぇ~、アクア君」ナデナデ
「お兄さんは何て言うの?」
「自己紹介がまだだったね。僕は四宮颯真。これ名刺ね。これからよろしく~」
さて、俺がなぜこんな茶番を親父と行っているを説明するべきだろう。簡単に言えば親父の命令であり、趣味であり、欲望だった。
結論、息子が賢いと周囲にアピールしたくてやらされています。
……これほど酷い仕事は初めてかもしれない。いくら表立って親子だと言えないからって、こんなところで欲望を発散するなよ……なんて思ってると、アイが近寄ってきた。
「アクア偉いねぇ~♡」
前言撤回。最高の父親だ。こんな仕事なら、5億回は余裕。
「そうか。こいつはアイの事務所の子役か」
「そうだよ☆ 私にとっては家族だから!」
「はっはっはっ。養護施設出身からすれば、家族は嬉しいものだからな!」
「そうでしょ? しかも可愛くて、賢くて、良い子で、最高だよね!!!」
「そうだな!!」
そして、アイと親父によるチキンレースが始まった。公共の場で仲が良い様子を見せつけ、だが男女の仲だとバレない様にする愚かな行為だ……だが! 両親から手放しで褒められ、アイに抱きしめられる感覚は素晴らしいッ!! きっと前世で真面目に生きてきたご褒美だな! 今度から神様にお祈りでもしよう。
「ママぁああ! ママぁああ!」
「この子は妹ちゃんかな? 俺があやしてあげよう!」
「ルビーはママが大好きだね☆」
「ルビー、そろそろ止めろ」
俺に嫉妬したルビーが泣き出した。今度はルビーとも仲良しアピールをしようと親父がルビーをあやしている。なお、アイも俺を抱きしめたままルビーの様子を見ている。
「なあ。なんかあいつら……」
「素晴らしい姿だな!」
「颯真様はお若い頃にご両親を亡くされ、そこから施設で育った」
「その際、年下の子の面倒を見ていたというからな。その頃の気持ちが蘇ったのだろう」
「あのアイとか言う超絶可愛らしいアイドルも、同じ施設で子供たちの面倒を見ていたと聞くぞ?」
「二人とも子供が好きで、泣いている子を見ると放っておけないのだろう」
『『『『『なんと素晴らしいんだろうなぁあああ!!!』』』』』
何かに気づいた監督を牽制するために、広域暴力団・龍珠組の武闘派が援護してくれている。発言の内容は酷いが、数十人のカタギじゃない連中の圧で全員黙ったようだ。これほど頼りになる人間、ベビーシッターをしている時の奈央さん以来だ。
「………………よしっ。飲み込んだ」
監督は賢い選択をしたな。好奇心は猫を殺すと言うし。
ここまでは平和な時間だったのだが……。
「ここはプロの現場なんだけど! 遊びに来ているなら帰りなさい!」
なんか、幼女が来たんだが……。
「えと……どちら様?」
「私は有馬かな。今日の共演者よ」
有馬かな。どこかで聞いた気がしなくもない。整った顔立ちをしていると思うのだが、アイやその遺伝子を受け継いだルビーと暮らし、四宮かぐや・早坂愛・早坂奈央といった美人と交流があるとなんとも思わないのだな。前世なら多少はドキドキしただろうが、今世では性格が悪いせいかムカムカするくらいだ。
「……あ、この子あれじゃない?」
「知ってるのか?」
「たしか……重曹を舐める天才子役?」
「銃創を舐める天才子役だと!?」
「重奏を奏でる天才子役?」
「10秒で泣ける天才子役!! ドラマでの泣きっぷりが凄いって皆言ってるの! 凄いんだから!」
どこが凄いんだ? 俺は子供に嫉妬して、自分も妻(仮)と赤ちゃんプレイをしようとしている2m超えの大男を知っているぞ。しかも赤ちゃんの物まねが上手すぎて、たまにアニメの声優で赤ちゃん役やっているレベルの。
「私、この子あんま好きじゃないのよね……。なんか作り物っぽくて生理的に無理」
「たまに子役に対して異様にキビシー奴っているよな。なんでなん?」
「まあ、子役なんてごく一部を除いて親のエゴだからな。実際、活躍している俳優って、思春期を謳歌していた奴らが多いし」
「わかる~。人生経験が豊富? な人って、演技の幅が広いよね。説得力というか、演技で殴られる感じがする」
「人気子役ってマジで稼げるからな。その給料を親が使って豪遊するんだけど、それでも足りないから子供に働かせるとかあるんだよ。子供が逃げ出そうにも法律的に難しいし」
「失礼なこと言わないでよ!!」
いや、結構納得できたぞ。子役に悪感情持つ人間って、そういう雰囲気を感じ取ってるって事か? それか、そういう噂を聞いたやつなのだろうか。
「知ってるわよ。あんたらコネの子でしょ!」
えっ? 今、こいつ、誰に対して言った?
「本読みの段階じゃ貴方もアイドルの子も巨人も出番もなかったのに……監督のごり押しってママも言ってた! そういうのいけない事なんだから!」
「いや、そういう訳じゃ……」
というか、巨人って親父の事か? この人この国……ってか、世界でも屈指の危険人物だぞ? 芸能界で絶大な影響力を持つ存在――大手スポンサーの元締めみたいな存在なのに……。
「こないだ監督が撮ったドラマ見たけど、アイドルの方、全然出番なかったじゃん。どうせカットしなきゃいけないほどへったくそな演技したんでしょ。媚び売るのだけは上手みたいだけど!」
あ゛?
「巨人の方だって、まともに演技しているところ見ないし。どーせスタントマンみたいな”まともな演技ができない奴”なんでしょ」
おい、それは全世界のスタントマンを敵に回す発言だぞ……!
「本人の前で良く言えるなぁ~」
「自信満々だねぇ~」
言われた本人たちはどうでもよさそうだが……
「お兄ちゃん」
「分かってる。相手はガキだ……殺しはしない……」
俺たちは違うッ!!!
―――――――――――――――
「じゃあ撮るぞー」
生意気なガキを分からせると誓ってから数十分後、ついに俺たちの撮影シーンが始まった。
今回の映画のあらすじをざっくり言うと、『自分恩容姿にとことん自信のない女が、なぜか山奥にある怪しい病院で整形を受ける』という話。
そして俺とガキは、その村の入り口で出会う『気味の悪い子供』だ。
「ようこそおきゃくさん。かんげいします……。どうぞごゆっくりしていってください……」
……ただのビッグマウスかと思ったが、さすがに天才子役だ。演技の上手さは想像以上だ。同じ事をしても実力差で目も当てられないだろう。ズブの素人でもそれくらいは分かる。
(もし、親父から言われてなかったら悩んでいただろうな)
撮影開始前、クソ親父から言われたシンプルなアドバイス。きっと、普通の子どもなら、親から言われたことで泣き喚いてしまうであろう”最低な助言”。それは――
「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を探索すると良いでしょう」
『演じるな。お前が普段喋っている様に、”一般的成人男性の会話”としてただ喋れ。それだけで、世界で一番”気味の悪い子ども”の完成だ』
急遽差し込まれたシーン。それも監督の独断ならば、このシーンで求められていることは”星野アクア”というキャラクター。俺の”素”こそが求められている!
―――――――――――――――
「カットOKだ!」
「ホッ……」
やっぱり合っていたのか……。
「いつものお兄ちゃんだったね~」
「そだね~」
「あれでいいだろ。アカデミー賞並みの『不気味な子供』だったし」
「……それ、褒めてます?」
外野がうるせぇ……。
「凄いねー。お姉さん、ぞくってきちゃった」
「そうですか? 良かっ「良くないわ」……は?」
なんだ? 何か問題でもあったか?
「監督、撮り直して」
「ん? いや問題なかったから」
「問題大ありよ!」
撮影が終わったと思ったら、例の子役が何やら喚きだしたな。
「今のかな……! あの子より全然だめだった……!」
「……演技は他人と比べるものじゃない。お前とあいつの”正解”が違っただけだ」
「やだ! もっかい!! お願いだから!! 次は上手にやるから! もいっかい! ねえ!!!」
俺は彼女の顔を一生忘れないと思う。『演技の上手い役者』『売れている役者』は数多くいるが、あれほど自分の演技と向き合える”天才”は、前世でも知らなかった。その後、彼女はスタッフ達に連れられて、別の場所で説得を受けることになった。
「早熟。役者に一番大事な要素は何だと思う?」
「んー……実力とかセンス? やる気と努力の量? 後はコネとかかな?」
「まぁそれも大事なんだけどな。結局の所、”コミュ力”だ」
なんか就活の講演会みたいだな。納得できるけど。
「他の役者やスタッフに嫌われたら、仕事なんてすぐなくなる。小さいウチから天狗になって、大御所気取りしてたら未来はねぇ」
「もしかして、あの子にお灸を据えたかったの?」
「そんな偉そうな事は考えちゃいねえけどよ。こういうのも栄養だ。お前の演技、俺の想像にぴったりの演技だったぜ」
「あの子の方が演技凄かったよ。俺はいつも通りやっただけだし……それに――」
「それは関係ないぞ」
「っ! 四宮さん!!」
俺と監督が話していると、親父が会話に混ざってきた。……かっこつけているところ悪いが、ずっと会話に混ざろうと様子を覗いていたの、バレてるからな?
「アクア君に分かりやすく言うなら、『3×3が9になる理由を分かりやすく説明しろ』って問題があったとする。アクア君は『リンゴ3個で1セットの商品が3セットある。だからリンゴの合計個数は9個になる』って答えた」
よくある説明だ。小学校で何度も聞く掛け算の説明だな。
「一方、有馬かなは『専門用語や難しい言い回しをして、A4用紙何枚も使って説明した』ってとこだ。それがダメだと指摘されたら、『こんな簡単な事も分からない聞き手が悪い!』と逆切れするんだ」
「……なるほど」
俺も医者として、患者やその家族への説明で苦労したことを思い出した。医者達が使う専門用語なんて、一般の人からは意味不明だ。俺だって産婦人科医としての業務以外、例えば脳外科の専門用語なんて分からないことが多かったのだから。
「もちろん、演出や意図を理解して演じるのは役者の基本だ。だが、言語化できない意図まで読み取ってくれる役者なんてそうはいない。いるなら喉から手が出るほど欲しい人材だ。自分の中にある”正解”を再現できる人間なんて、誰だって欲しいんだからな」
「まあ、そんな感じだな」
「すまないな。あなたの言葉を奪ってしまったようで」
「いえいえ! 滅相もない!」
「アクア君も頑張りな。君は”凄い演技”より”ぴったりの演技”が出来る役者に向いていると思うよ」
「おっ、良かったな。日本最高、世界でも屈指の役者のお墨付きだぜ?」
「いや……役者にならないし……」
こうして、俺はこの業界に片足を突っ込むことになった。
「ただその前に、共演者に挨拶してきな」
「挨拶? そんなの最初に――」
「違う。彼女に、だ」
そう言って親父が有馬の方に指をさす。
「将来はともかく、彼女は”現在は天才子役”なんだ。コネを作っておいて、損はないぞ?」
「そりゃいい! おいアクア。名刺でも渡してやれよw」
監督まで……だが、これも何かの縁か。
「おい」
「ぐすっ……。なによ?」
ギロリッとこちらを睨むように見てくる女。これだけでも周囲から嫌われると確信できるな。
「一応、挨拶でもしておこうと思ってな。これをやる」
「はあ? 名刺? しかも星野アクアって……一人前に芸名なのね」
「別にいいだろ」
本名は星野愛久愛海なのだが、さすがにそれでは可哀そうだと親父が説得し、『星野アクア』という芸名になったのだ。……ゆくゆくは改名したい。マジで。
「覚えたわ。次は絶対負けないんだから!」
「次……があるかは知らないが。機会があれば」
「そこは『受けて立つ!』くらい言いなさいよ!!!」
嫌だよ。そんな厨二っぽいセリフは前世で卒業したんだ。
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side:ミヤコ
「それにしても、なんであの子にも名刺を渡すように言ったんですか?」
「あ? そんなの十年後に使い勝手のいい駒が手に入りそうだったからだけど?」
「へ?」
撮影終了後、私たちはアイさんの家で夕食を食べていた。そこで颯真さんに、なぜアクアに有馬かなへ名刺を渡すように言ったのか聞いたら、耳を疑うような返答が……。
「奴は潜在能力もそうだが、なにより演技が好きで、そのための努力を楽しめる『本物の天才』だ。だがこのままだと業界と事務所に潰され、家庭崩壊を起こし、周囲の人間関係も滅茶苦茶になり、最終的に独り寂しくロープで――」
「もうやめてぇえええ!!!」
嫌だ! あんな幼い子供がロープでなんて……っ!
「それなら引き取りましょうよ!」
「心が壊れてから優しくすれば、絶対に裏切らない奴れ……手駒になるんだぞ?」
奴隷って言った? 今、奴隷って言ったよね?
「アクアにもそういう駒が必要だからな。チュートリアルに丁度いいから、適当にチヤホヤしてから壊すぞ」
「言い方は悪いが、芸能界なんてそういう人身売買が前提の業界だからな。俺が現場に居ても同じことするだろうし」
「だよなぁ~。むしろ斎藤は優しいわ。他の事務所ならアイやミヤコさんを奴隷にしてからべん……性接待要員にしたり、AV堕ちさせた後にアニマルプレイくらいさせるもんなぁ~」
「そうそう。アイはチョロいし、ミヤコは芸能界とか男を舐めてたからな。その気になれば誰でも奴隷にできるくらいだったわ」
……えっ? 私って、そんなに危なかったの?
私は自分が身を置いてしまった業界の闇を再認識し、芸能界の恐ろしさを実感するのだった。
小説の表現はどちらが良いでしょうか。4章では試験的に「〇〇〇(コクコク)」表記を試そうかと思っています。
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「〇〇〇」コクコク
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「〇〇〇(コクコク)」