Dies irae -Ars nva Elysion-   作:湯瀬 煉

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お久しぶりです。
呪術廻戦と神座万象シリーズの共通点を語っているスレを眺めているうちになんだかやる気が復活しまして、なんとかシリーズ再構成、加筆修正、設定の整理など出来ました。
ただなんだろう。思ったより直すところ多いなって。


プロローグ
PROLOGUE


 君は永劫、誰とも結ばれない。

 君は永劫、誰とも関われない。

 友誼を結ぶことも、恋慕が通じることもない。君は永劫、独りのままだ。

 生まれながらの孤独とは違うだろう。孤高ともいわない。君は外れているのではなく、避けられているのだよ。なぜなら君は、近付いたものを悉く傷付けるのだから。

 こんな経験はないかな?

 何気ない善意が相手をむしろ邪魔していた、なんの悪気もない疑問が相手の心を踏みにじっていた……などと。無論、この程度であれば君でなくても経験したことはあるだろうがね。ふむ、君であればこんなところかな?

 善意も悪意も、差し向ける相手がそもそも()()()()()()()()という体験を、君は繰り返しているのではないだろうか。

 またしても君は繰り返しているのだよ、その経験を。既に十三名、役者は揃っている。君が我々の一員となるならば、本来ならば、それこそ名も無き一兵卒だろうね。だが君に聖遺物の使徒となる素質があることは確かだ。君の存在があるいはなにか重要な因子の可能性も、完全に切り捨てることは出来そうもない。ゆえ、ここで一石を投じるとしよう。

 歓迎するよ、夜鷹の星(ツィーゲン・メルカァ)。君という一本の(たてがみ)が私にとって価値あるものだったと思わせてくれ。

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■

 

 

  1945年5月1日──ドイツ、ベルリン。

 AM0:27……。

 

 

  第二次世界大戦の最終局面は、空前絶後の総力戦と化していた。

 いや、殲滅戦というべきか。

 圧倒的物量に押し潰され、孤立したベルリンは陥落寸前である。

 帝都を包囲する赤軍五十万は徐々にその輪を狭めていき、生きてそこから脱出するなど不可能と言って構わない。

 悲鳴と銃声と爆音の狂想曲は絶え間なく、かつ容赦なく鳴り響き、街を人を根こそぎ壊し、鏖殺していく。

 鏖殺───老若男女鏖殺。世界の敵を根絶やしに。

 正義、復讐、愛、平和、制圧、解放、自由、平等──お題目は何でもいい。

 依る大義さえ手に入れれば、人はどこまでも残虐になれるという見本のような状況だ。それがいたる所で起きている。

 既知感、とはいわない。おそらく軍属なら多少なりとも予想は付いていただろう結末だ。破竹の勢いで快進撃を続けていた我らが第三帝国は、千年王国の夢と共に今宵粉砕される。総統閣下と長官殿の夢想は悪くはなかったが、相手と時勢というやつに恵まれなかったのだろう。

 しかし、このベルリンで起こっている悲劇は、少し性質が違う。

 第三帝国そのものは、赤軍及び連合国の皆々様方が正義を振りかざして徹底的に踏み潰し、悪魔だの蛇蝎だのの類いのように勝者の歴史に刻まれるのだろう。他の戦場にしても然り。ドイツは現在進行形で、連合国に敗戦している。

 しかし()()()()()()()()()()()

 なぜなら、同胞に滅ぼされ、獣に喰らい尽くされるのだから。戦勝国や赤軍五十万人など足下にも及ばぬほど恐ろしい、黄金の獣に。

 世界の終わりといえば、そうだろう。正しく今日のベルリンはダビデとシビラの予言のごとく、一つ余さず燃え去り消えるのだ。

 

 赤軍は矮小なる勝利を与えられ、

 帝国は一時的な屈辱を与えられ、

 我々は未来の勝利に歓喜を謳う。

 

 聖櫃(スワスチカ)を起こすための大虐殺(ホロコースト)。 “魔城” 起動の儀式は、確かに長い目で見れば必要なことではあるのだろうが、同じ祖国を持つ民衆とそれを蹂躙する赤軍とを区別なく殺す作業には気が滅入る。特に前者など、知り合いも少なくないのだから。

 かといってサボるわけにはいかない。 

 聖槍十三騎士団 黒円卓第 “零” 位。

 聖遺物の使徒でありながら団員には数えられず、資金源を探し回ったり隠れ家を探し回ったりと、雑用を行うのが私の役目だ。生まれつき人から認識されづらいという特性もあり、実に私向きの職務ともいえるだろう。

 そんな雑務担当の私であるが、一応は彼らの仲間なのだ。これは団員総出の儀式であると同時に、カール・クラフトという男に出会える最後の機会でもあった。そもそも私にとっては聖櫃や黄金錬成など、どうでもいいことである。重要なのはそこにカール・クラフトが関わっているという事実のみ。だが、あの男がここでの殺しを欲しているのであれば、それには応えねばなるまい。

 隕石衝突のような衝撃と共に吹き飛ぶ市街、戦車が鉄屑に変わる音、人肉の焼ける匂い、周囲から絶え間なく聞こえてくる恐怖と絶望の音に耳を傾けてみる。それは祖国が栄光への道から転がり落ちる音であり、黒円卓が勝利への道を突き進む靴音だった。

「私も、仕事するか」

 目の前に敵軍が見える。武装からしておそらく赤軍だろう。ライフルを抱えた歩兵で編成された部隊は、私が彼らを発見するのと同時にこちらを発見した。きっと相手は驚いたことだろう。相手の装備はバラライカ短機関銃なのに対して、こちらは棒切れのような剣一本である。射程云々以前に前時代的すぎる武器だろう。軍刀やサーベルですらなく、紀元前の戦争でしか用いられないような両刃剣を携帯した女軍人など、小説か歌劇でもお目にかかれない珍物だ。

 だが相手も軍人。敵を敵と見定めたのなら容赦はない。一斉に銃口がこちらへ向いたのを見て、私はにこりと微笑んだ。相手がそのつもりならば、こちらも容赦なく動けるというもの。私は剣を垂直に振り上げたまま動きを止めた。

 私はそのままの姿勢で弾幕を浴びた。兵士一人の射撃のみでも人命を奪うには十分すぎるほどで、ならば一斉射撃などオーバーキルに違いない。客観的に見て、次の瞬間には私が無様な踊りを晒す姿が予見されるだろう。しかし実際には、そうはならなかった。

 永劫破壊(エイヴィヒカイト)と呼ばれる高等複合魔術による霊的装甲は、聖遺物による攻撃以外のすべてを無力化する。私が浴びた弾幕もまた、例外ではない。相手方の驚いた顔に満足した私は、私だけの祝詞を呟きながら剣を振り下ろした。

Natura(自然は) non facit saltum.(飛躍する)

 

 そろそろ、世界が終わる。

 黄金の獣による宣戦布告が為され、皆はそれに賛同し、死者の魔軍が行軍を開始する。ベルリンのスワスチカは開かれた。

 止まらない、終わらない。障害物は蹴散らし、敵は蹂躙し、世界の総てを破壊し尽くす──。

 世界はいずれ思い知ることになるだろう。

 この日の勝利など、所詮ぬか喜びも甚だしいということを。

 怒りの日(ディエスイレ)に、この日の勝敗など容易くひっくり返るということを。

 肉の焦げた匂い立ち込めるベルリンの街で、私は天を仰いだ。

「……ああ。証明してみせるとも、メルクリウス。私がお前にとっていかに価値ある女か、知るがいい」




こうして書いてみると
「たとえば、己の一生が全て定められていたとしたら、どうだろう」
の始まり方の秀逸さをしみじみ感じます。お隣のライン含めて、始まりの一文でぐっと読者をひきつける作品は大好きです。「──勝利とは、なんだ?」とかね、めっちゃ大好き。
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