Dies irae -Ars nva Elysion-   作:湯瀬 煉

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出たな、主人公みたいなラスボス!!!


第十話 REINHARD HEYDRICH

 まず初めに感じたのは重圧。空から圧倒的質量を持ったモノがこちらを見ているという感触。

 死の恐怖に頭からつま先まで犯され、一切の希望が粉砕された。この重圧、ああ、そうだろう。間違いはない。

「儀式をご破算にしたいのか、あの人は!」

 戦闘の真っ只中。周囲の悉くを破壊しながら激突する私とベイはほとんど同時にその気配を感じ取った。

 彼が降臨して無事で済む者など存在しない。強いていうならば聖餐杯は上手く流せるだろうが、それ以外は瞳を向けられただけでも砕かれるだろう。少なくとも今の重圧を感じて、楽観視などできはしないし、無視など尚更不可能。ゆえに我々の気配察知能力がどうというより、相手が圧倒的すぎたのだ。

「またな、ベイ。私は今すぐツァラトゥストラを追う」

 返事は待たない。形成にて生み出した太陽の船──メセケテットに乗り音の速度を超えて藤井蓮の居場所へ、橋へと突撃する。そこで私が目にしたものは───

 五色に輝く瞳。金色の長髪。優しく、頼りなさそうな笑み。着ているのは僧服で誰もが人目で彼の職業を看破できるだろう。即ち、聖職者と。

 邪なる聖職者──ヴァレリア・トリファがそこに居た。先ほどまで気配など微塵も感じさせなかったくせに、きちんと接触した瞬間に膨れ上がる存在圧。

 藤井とは既に知己であったらしい。彼が黒円卓の一員という事実──いや、彼のひとつ上の先輩である氷室玲愛とかいう少女がこちら側だったことにか、ショックのあまり嘔吐している。

 そして、彼にとって日常が、すなわち綾瀬や遊佐、そして例の先輩含めた友人がどれほど重い価値を持っているかを知っている上で、そこに自分すら入っていたと知った上で、トリファは彼と語りかけていた。つまり、氷室玲愛(テレジア)は黒円卓に関わっている人物だと、そうはっきり告げた上で。

「あなたはテレジアを殺しません(愛しています)か? それとも殺します(愛していません)か?」

 そういう、残酷な問いを投げるのだ。儀式全体からすればどうでも良く、しかしトリファとしては確認しておきたいことなのだろう。いうなれば、儀式にどのような気持ちで臨むのかという話で、日常の中に隠されていた真実とどう向き合うかという選択肢。

「俺は……」

 前者を取れば、確かに大切な友人は守れるだろう。だが人はたくさん死ぬと、彼は思うだろう。逆に後者を取れば、大切な友人をその手で殺すことになる。

 藤井蓮が大切に思っているのは、大切な友人たちとの日常。時を止めたいとすら思う次元で、つまらない日々を永劫味わっていたいと思っている。

 喧嘩した遊佐司狼、いつも鬱陶しく思っている綾瀬香純、電波全開の氷室玲愛……誰一人として失いたくはないだろう。だからといって、これから起こる災禍、その元凶の一員かもしれない人を放置するのはどうなのか……。

 選べまい。即決できるようなものでは無いし、即決できるならばどこか壊れている。

 

 ──俺はあの人たちに、誰も殺させない。

 

 そうして出されたそれが、藤井の答え。そういう考え方だからこそ。その第三の選択肢を取った藤井を、私は喜び半分呆れ半分で眺めるのだ。

 それはつまり、黒円卓という、元凶組織を倒して、彼らを元の日常に組み込むという答えだから。

「ふふ、ふふふははは、ははははははははははははははははははははははははは───ッ!」

 そして邪なる聖職者は、その返答に大爆笑した。

 今こうして転がされている青年が、これからベイを、マレウスを、レオンを、聖餐杯を、そして何より、黒円卓第一位、あの獣を、倒すと言ったのだ。地を這う虫けらが天空を舞う鷹を殺してみせると言っているのに等しい。実力差を知っているからこそ、恐ろしさを体感しているからこそ、ヴァレリア・トリファは笑いが止まらない。

「くくく、なるほど、なるほどそうですか。ははは、これはこれは、なんともはや勇ましい!

 負けぬと、勝つと言いますか。この私に? 我々に? あなたが? ははは──愛を信じて? 打倒すると? なんて眩しい!

 美しく羨ましく妬ましく愚かしい! 実に実に実に至高! 流石は流石、副首領閣下はあいも変わらず狂しておられる!」

 一通り笑い散らかした後、トリファは静かに告げた。

「ではならば、彼の言葉はお聞きになりましたか、()()()

 その一言が、どうしようもない絶望の呼び水だった。

「彼があなたの盟友が代替──ツァラトゥストラですよ」

 その刹那、天が落ちてきた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────。

 

 

 一瞬、意識が吹き飛んだ。

 再び意識が回復した瞬間に、そこには長身の男がいた。否。背景は微かに透けており、ゆえこれが実態でないと看破するのは容易いだろう。

 だがそれでも。実態のある人間以上の圧が、彼から放たれていた。

 黄金の瞳、髪も黄金。苛烈な輝きは見る者を焼き尽くすだろう程。だが分かる。こんなものは、本体の数十分の一未満の、いわば一部だけが此方側に干渉しているに過ぎない、ということが。

 圧倒的、かつ絶対的。いかなる悪魔、魔獣が跳梁跋扈しても、この恐ろしさには到底敵うまい。

 藤井は地面に平伏し、私も無様に四つん這いになっている。正確には、それ以外にしょうがない、というべきか。

 絶対的な王者が発する覇気にあてられ、自然と平伏してしまいたくなる。というか、平伏せずにはいられないほどの圧力がある。

 証拠に、今も鋼鉄で作られたこの橋は軋み、へし折れかけているのがわかるだろう。世界が、たった一人の存在感によって壊されかけている。

 聖槍十三騎士団黒円卓第一位、ラインハルト・オイゲン・トリスタン・ハイドリヒ=愛すべからざる光(メフィストフェレス)。曰く、もっとも地獄に近く、悪魔のような男。

 そう彼は名乗った。とても優雅な所作で。その様は上品であるというのに。

 どうしてか、()()()()()()()

 彼がその気になれば、この場にいる全員、瞬く間に死ぬと直感した。

 いや或いは、この場で────などと考える間もなく、事態は突き進んでいく。

 藤井が、立ち上がったのだ。

「ほう……」

 ハイドリヒ卿としては予想範囲内、いや、“おもしろい”といったところか。そうして、得てして行われた一騎打ちは。

「なッ───!?」

 過去最高の速度、威力を発揮した断頭台が黄金の獣の首をまったく傷つけられないという結果に閉じた。わずか一瞬。一撃。ハイドリヒ卿は躱しもしていない。首に断頭台は迫り、あたり、そしてガツン、という音を立て止まったのである。

 信じられないのも無理はない。先ほど斬り結んだゆえ分かっているが、藤井の断頭台は特別なのだ。

 ギロチンとして最高峰。つまりは、首を誤たず断つという行為に特化している。不死身が相手だろうとも、あの刃は首を刎ね飛ばせるだろう。それが通らないということはつまり、相手の存在強度は別格なのだ。

 保有する魂の総量、その質、ともに最高峰ゆえに、現段階の藤井蓮では倒せない。

 だが、本当の悪夢はここからだ。ハイドリヒ卿の手が、黒い刃に迫り、そして掴む。

「ひとつ、愛し方というものを教授しよう」

 気軽な言葉が聞こえた。

 次の瞬間、マリィそのものであるギロチンの刃が、藤井の、そして私の目の前で、握り潰され、そして消えた。

 それの意味するところは───




ここらへんはだいたい原作通りなので、前身であるElysionと変わりませんね。
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