Dies irae -Ars nva Elysion- 作:湯瀬 煉
でも頑張ります。
第十一話 NACH DER FLUCHT
藤井はその後、トリファ──クリストフに担がれて、教会の地下牢に繋がれた。今も彼は、そこで眠っている。
別におかしな話ではない。聖遺物と人は一心同体。ゆえ、聖遺物が砕かれれば本体も強く損傷する。人器融合型である藤井などはそれこそ即死だろうが、今も生きているということは、つまり。
「聖遺物はまだ生きてるってわけね。ふぅん」
「マレウス……」
牢の外から藤井を眺める影は二人。つまり、私とマレウスである。
「んー、可愛いなあ、いまのレンくん。いじめたくなっちゃう」
「常時発情期かよ、ロリババア。おまえ、いくら何でも特殊性癖すぎるだろう」
ロリで年増、最年長、貧乳で、魔女で、逆レで拷問好きで? 属性がごちゃごちゃしすぎている。男は、逆に萎えるんじゃなかろうか、こういう属性過多。
「分かってないわねえ。そこがいいのよ、そこが。そんなんじゃ、一生モテないわよ?」
少なくとも私が好きな男は幼女趣味は無さそうだから、そういう奴らにモテたいとは思わない。マリィが爆乳で、メルクリウスは彼女が好き。つまり私も爆乳になればよかろうなのだ。
「そんなより、バストアップできる魔術かなにか───あンッ、おいこら」
「うへ、デカいとも小さいとも言えないサイズね。もみもみ、ふぅむ、やわらかさは十分。あとは感度カナ? ──ふぎゃっ」
軽口を叩こうとしたら、その前にマレウスに胸のリンパを刺激、まあつまりおっぱいを揉まれた。何だこの痴女、まさか同性愛にも目覚めたのか。
危機を覚えたので、とりあえず肘を鳩尾に叩き込んでおく。
「だいたい。なんでお前はここにいるんだよ。用事ないだろうが。学校行けよ、しっしっ」
私があからさまに嫌がると、マレウスは面白いものを見た、というように微笑み、むしろ擦り寄ってきた。
「いやねえ、そんな嫌がることないじゃない。女同士なんだし。
私はレンくんと遊びたかっただけ。なのにアンタがいるからさー。この視姦魔」
ドイツにいた時から乱行パーティーに参加してたような生粋のビッチにだけは言われたくないセリフである。そもそも視姦もしていない。藤井は大切な共闘相手ではあるが、メルクリウスではないのでそこまで興味は湧かないのだ。ここできちんと理解らさなければなるまい。
私がああいえばマレウスはこういうという攻防はしばらく続き、
「二人とも邪魔なんだけど、さっさと退いてくれない?」
終わらない言い合いに辟易とした様子で、彼女はやってきた。白い布を裸体にまとっただけ、という格好の彼女はかなり扇情的で、大胆に開いた肩やへそは同性としてうへ、となる。せめて胸部はもっと隠せよ。貧乳じゃなかったら危ないぞ、その服。実際のところ、この扇情的な衣装は彼女にとっては死装束のようなものであり、笑えない恰好ではあるのだけれど。
「すごく失礼なこと考えてない、キミ。容姿で女を見るなんて最低だよ」
「私は持たざる者に同情をもって接しているだけだよ。Dカップだぞこちとら」
「藤井くんは絶対Bカップが好きだっていうもん」
私はあえて茶化す。今回の儀式でこの少女を犠牲にするつもりだったという事実から目を逸らすように。
さて、この藤井への好意を欠片も隠さない女こそ、先日、橋の上で話題になったテレジアである。日本名は氷室玲愛。きれいな白髪をショートカットでそろえ、胸も尻も表情も実に控えめな少女である。容姿は人形といって良いほど整っているが、近寄りがたい雰囲気があらゆるプラス要素を反転させてしまっている。いろいろな意味で、綾瀬とは真逆の存在だと思う。そう、根っこが同じなだけに、まるで正反対のベクトルを持った美少女だ。
ちなみに、遊佐司狼曰く学校での男受けは『裏一位』とのことだ。コアなファンが多いのだろう。……ほんとに、ちなみにな情報である。
基本的に他人に対して淡泊な対応をするらしいのだが、特に黒円卓を見る氷室の目は冷たい。彼女にとって日常の終わりを告げる存在であると同時に、想い人である藤井の敵だからだろう。私としてはこれから藤井との信頼関係を構築していく中で彼女とも仲良くなりたいのだが。
「はあ、そうでございますか。……それで、おまえはどんな用事なのさ」
ひとまず会話の手口を掴んでおきたいと声をかけたのだが。
「藤井くんの子供を作るの」
特級の爆弾を投げつけられた。固まる私に対して、マレウスは冷たく、あるいはそれよりも悪質な、粘着質な言葉を放つ。
「言っとくけど、処女を散らしたところで、たぶんどうともならないわよ」
その言葉に、はかない笑みを浮かべた彼女は
「…………そう」
とだけ、小さく、つぶやいた。
結局、私とマレウスは地下牢を出ることにした。というか、私が立ち去ろうとしたところで、マレウスもついてきたのだ。彼女としても、氷室が来たことで目的は果たせなくなったとか、そんなところだろう。
「アンタは、これからどうするの?」
教会の扉の前まで来ると、突然背後から尋ねてきた。
「あん?」
彼女にしては少し不安そうに、珍しく可愛いという形容詞が似合うような様子だ。不安そうに眼は泳ぎ、うつむいている。
やはり、この前のタワーでのことを引きづっているのだろうか。あの時のおかしな様子は、間違いなく藤井蓮の名前を起因としたもので、ならばどうしてああなったのか、彼と彼女の間に、本当になんの因果も絡まないのか、きちんと確かめなければならない。
「……だから。この後あんたはどうするのかってこと。スワスチカを解放するために、もう少し黒円卓に協力するの? それとも、もうレンくんたちの仲間に紛れるの?」
「正直、ハイドリヒ卿の黄金錬成は私には魅力があまりないからな。不死身も死者蘇生も、どうでもいい。ゆえにクラブに戻って、藤井たちと合流するつもりだよ。おまえこそどうなんだ? ……どうせ藤井が起きるまで時間はあるだろうし、アイツに関して気になることがあるのなら、タワーデートでも誘ってみてはどうかな。黒円卓の情報を話すとか言えばうまいこと乗ってくれるだろう。戦争そのものを止めようとしなければハイドリヒ卿も何も言うまいし、私も別に、とって食おうとでもしない限りは見逃してやるよ」
私の言葉にマレウスは
「なによ、ベルンのくせに偉そうにしちゃって」
とだけ言って、教会の地下室から出ていった。
ボトムレスピットにて。
エリ―は綾瀬宅に来るだろう藤井へ向けて、綾瀬を拉致監禁保護したことを告げた上で、私の渡した台本を読み上げていた。
「可愛い可愛いロリババアが、レンくんとデートしたいってさ。タワーで待ってると思うから、行ってやんな。
あ、このメッセージは五秒後に爆発するから、そこんとこよろしく」
芋虫香純。……はっ!? 天魔常世のフラグか!!!!!?????