Dies irae -Ars nva Elysion- 作:湯瀬 煉
なぜなら細かい戦闘描写を考えるのが苦手だからです。
「さーて。これでいいのかね?」
「オーケイ。ありがとう、エリー」
いつものボトムスピットのVIPルーム。綾瀬の部屋に留守電を残し終えた私たちは、そろそろ次の段階へと進もうとしていた。
「さて。蓮が来る前に色々準備しとかないとな。おい香純、ベルン。おまえら買い物行ってこい。適当にメシ作ってくれ」
「えー、パシリかよう」
藤井が仲間に入れば大幅に戦力は増す。遊佐司狼の実力はまだまだ未知数なところがあるし、仲間は多いに越したことはないと思う。ただ肝心の、どのように彼と手を組むかはシロウに一任していた。私と藤井の付き合いはまだ浅いし、シロウ本人が任せておけといっているのだから、任せるほかない。それに、私と綾瀬はほぼ初対面だ。たぶん、転校してきた女子高生、ルサルカ・シュヴェーゲリンのお友達くらいにしか思っていないだろう。
「……それじゃ、一緒に行こうか、綾瀬さん」
「あっ、香純って呼んでください。しばらく一緒に過ごすことになりそうですし、仲良くしましょうね! ほんっと、バカ司狼に付き合わちゃってすみません……」
うわ可愛い。なんていい子なんだろう。
ボトムレスピットを出てしばらくして、私はぞわりと背中を這うような悪寒を感じた。この感覚は、スワスチカが開放されたときによく似ている。そう、
「まさか……!」
思わず振り向く。香純に驚かれたが今はそれどころじゃない。クラブの方からスワスチカが開いた気配の方が問題である。
「ごめん、香純。ちょっとクラブに忘れ物した」
「えっ、あ、はいっ!?」
返事を待つことなく、私は全力で来た道を戻って行った。
一方、ボトムレスピット。VIPルームから見られる、クラブ各所に設置された監視カメラ映像には無数の死が写っていた。ただし、死体はない。すべて、初めからなかったように。エイヴィヒカイトによる殺人とはそういうもので、ならばここで何が起こったかなど語るまでもないだろう。
「結構やるじゃねえか、ガキ」
白髪の男だ。鬼気を発する男だ。無数の死を纏う男だ。──聖槍十三騎士団、黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイが、クラブを襲撃していた。
既にスワスチカは解放されてしまっている。だが、生存者は皆無ではなかった。
遊佐司狼と本城恵梨依。ボトムレスピットに君臨する二人だけは、生き延びている。二人だけ別室にいたからもあるだろう。だがそれ以上に、遊佐司狼という男の異常性がこの状態を生んだと言っていいだろう。
「悪いね中尉殿。俺、デジャヴってる間は死なないんだわ」
恵梨依を抱き寄せながら、踊るようにベイの杭と拳を回避している。ひとつも掠ることなく、無傷でやり過ごし続けている。彼に聖遺物は無く、ベイを殺すことは出来ずとも、ベイから生き延びるには十分すぎる能力だろう。ただ彼は、決して逃げようとしなかった。今もハンドキャノンと呼ばれる大口径の自動拳銃をベイ目掛けて連射している。抵抗か、逃避か、敵討ちか、ヤケクソか──そのどれでもない。
彼はそうすべきだと感じたし、そうしたいと思った。今ここでこいつを仕留めてみたいと、そう思っているから挑戦する。第一、ここで退いてみたところで行く先なんてないんだから。自ら破滅の道へ進むことが、あるいはこのデジャヴを超越する手段なのかもしれない。
当然ながらベイに銃弾は通らない。彼を傷つけるには、聖遺物でなければ意味が無い。だがそれでも遊佐司狼は笑っていた。その様を眺めるベイもまた、興味を惹かれて笑顔で攻撃を続けている。
「ははッ。いいぜ、おもしれえ。その舐めたツラぶっ潰して、お望み通りここで死なせてやるよォォーー!!」
遊佐司狼と本城恵梨衣は同時に、各々の愛銃をベイへ突きつけた。弱者は彼彼女の二人であるのに、まるで全て計画通りというように。二人こそが、この場の全てを支配していると確信しているように。その笑顔は、最期まで絶えることなく───。
今日の日はさようなら
また会う日まで