Dies irae -Ars nva Elysion- 作:湯瀬 煉
わたし、ルサルカ・シュヴェーゲリンには、好きな人がいた。名前は■ー■ス。かつて、同僚だった男の子だ。一世紀以上生きてきた自分にしてみればガキ同然なんだけどね。
「はあ……。なんなのよ、アイツ」
すっかり忘れてしまっていたが、だいぶいい顔をするだけして戦死した気がする。実に気に入らない。何が気に入らないのかよく分からないけれど。そういうストレスがたまっていたからだろうか。完全に油断していたし、らしくもない独り言が漏れていた。
「ルサルカ」
背後からする声に反応したわたしの顔は、果たしていつも通りの”ルサルカ”だっただろうか。
「へえ、レンくん。来てくれたんだ?」
「来なけりゃ、おまえが何をするか分かったもんじゃないだろう」
「ひっどーい」
どうやら調子も出てきたらしい。軽い調子で相手の肩を叩くと、どうやら怒ったような視線を向けてきた。あんまりからかいすぎるのも良くないかもな、と、変わらずいたずらっ子のような笑みを向けるだけ向けて、内心で
「まあいいわ。来てくれただけでも感謝してる。
そうね………まぁとりあえず話だけでも付き合って。テレジアちゃんとも約束したから、取って食ったりはしないわよ。そんなことしたら、今度はベルンが怖いし」
それは半分嘘で、半分本当。個人的な興味が割合としては大きいのが正直なところだ。こんな胸の高鳴りは初めてで、この出会いは何かあると確信している。それが例え、メルクリウスのクソ野郎の計画通りだとしても。
「わたしは今、レンくんのことが知りたいの。その代わりに
わたしの冷たい戦争は、今ここに始まったのだ。
私が戻った時、そこには一人しかいなかった。
シロウも、エリーも、その他クラブにたむろしていた不良たちもおらず、ひとり、白髪の男が立っている。あくまで常識的な速度で走ることを意識していたからかもしれない。ここに来るのは遅すぎた。
「もう終わったのか」
「おう、遅かったな。ベルン」
ここに来るまで五分。確かに、黒円卓対ただの人間なら、むしろ時間をかけた方とすらいえる。
「ここのガキが思いの外出来る奴でよ。五分も足止めされちまった。まあ、悪くはなかったよ」
肩をポンポンと叩き、退室していくベイの背中を見つめる。今ここで戦っても意味はない。既にスワスチカは開かれており、遊佐司狼らの魂はこの地に、そしてベイに取り込まれている。
「ま、機会があったら公園のときの再戦でもしようや。あのガキの敵討ちはそのときしろ」
彼の姿は、暗影の中に紛れ、消えていった。
「じゃあレンくん、名前の由来は知らないわけ?」
「まあ、そうなるな」
タワーの上で、わたしたちは雑談を続けていた。特別新しい話題があった訳では無い。わたしはレンくんの趣味とか、どうして戦うのかを聞いて。レンくんはわたしたちがどうしてここに来たのかとかを聞く。つまらない情報交換。
どうやら、レンくんは両親というものがよく分からないらしい。実の親を知らなくて、ゆえに気にすることでもないと捉えてしまっている。重要な話では無いが、なにか聞かないといけない気がして聞いた話題がとんだ地雷だったわけだ。
「でも自分の名前は知ってるのよね。ああ、それはカスミの家族のおかげなんだっけ。
レンってどう書くの?」
「………蓮の花だよ。ハス。えっと、ドイツ語でなんて言うんだ?」
「ハスの花ね。えぇと、それはロート………ス」
その瞬間だった。
頭の中で、記憶が弾けた。
わたしが好きな男の名前を、彼との記憶を、思い出したのだった。
これはラブコメです