Dies irae -Ars nva Elysion-   作:湯瀬 煉

3 / 18
バトルタグ付けてる割に全然戦闘しないなあ………。
いや、活発に戦闘してちゃ駄目なんだけども。

追記
予約投稿していたら三話と二話の投稿日逆にしてました。
いやほんと……すみません。


第二話 VORWORT

 首切り殺人。

 夜出歩く者を無差別に襲う猟奇殺人。凶器は日本刀のような長尺の刃物だと推測される。当然、平和な日本で普通に持ち明けるような代物ではない。

 考えずとも分かる。ツァラトゥストラによる犯行だろう。犯行の粗や、殺人の質の低さが、メルクリウスの代替として考えると怪しいところもあるが、この時期に起こる猟奇殺人など、黒円卓(我々)絡みでないと思う方が難しいだろう。

 既に七件。人死にが起こっている。

「ギロチン、か」

 シュピーネのいない部屋で一人呟く。思い出すのは、博物館で見かけたギロチン。あの異物感、異質な気配。まず間違いなくアレは聖遺物だろう。現在起きている殺人の手口も、ギロチンという凶器で説明が可能だ。問題はその使い手が誰かということ。あの博物館にいた青年がツァラトゥストラであると私の勘は囁いているが、メルクリウスの気配は隣にいた少女からも感じていた。

 当たり前だが、ツァラトゥストラは一人である。黒円卓に補欠枠は無い以上、代行は代行に過ぎず、まして黒円卓の仇役となる、つまりは儀式の要たるツァラトゥストラの代行を用意するなどありえない話だろう。あくまでメルクリウスの癖の問題となるが、あれは重要なものほど代役、代案を立てず、そもそも替えがきかないと信じている。彼にとって黄金の獣が唯一無二であるように、彼にとってツァラトゥストラも唯一無二であるはずである。

 考えてはみたものの答えは得られず、そもそも実践する他に答えを知る方法がないゆえに、私は再度、街へ繰り出してみることにした。

 ツァラトゥストラと思わしき者の犯行は、毎回夜に行われている。ならば奴を探すには夜がふさわしいだろう。

「さて………。どうしたものかな」

 拠点から出て数時間後。誰に向けたわけでもない呟きは、手持ち無沙汰を意味しない。人気のない公園に響く轟音。数百、数千の人間がまとまって動いているような気配。そして微弱なメルクリウスの気配。

 ツァラトゥストラと思わしき青年、藤井蓮は現在、マレウスとベイに遊ばれていた。ツァラトゥストラの捜索を任されている二人だ。

 これは遊びだ。藤井の方が死にかけていようとも、公園設備がところどころ素手で壊されていようとも、遊びでしかない。恐らくどちらか一人がやる気ならば、既にこの公園は枯れ落ち、藤井は死んでいるだろう。

 白髪の男──仲間内ではベイと呼ばれる男は、適度に引き締まった両腕と両足のみで藤井蓮を圧倒していた。見た目からして奴は大人で藤井は高校生なのだから当然に思われるかもしれないが、ベイの暴力はあまりに非常識だ。拳の一撃で鉄製の遊具が壊れる、足を振るえば生木がへし折れる、そのレベルの暴力。そしてもう一人、赤毛の少女──マレウスは藤井蓮が転がされている様子を眺めているだけだった。彼女は肉弾戦をがっつりとやるタイプではないし、ベイのように荒々しく拳を交えるよりは、観察して相手を測るタイプなのだろう。

 問題は、これに介入すべきか否か。

 如何にベイが加減しているとしても、このペースではきっと彼は死ぬ。一般人のリンチですら、軽い遊び気分で命を奪うことがあるのだ。魔人といって差し支えない彼がやればどうなるかは、想像に難くない。しかし現時点で私が彼らを邪魔すれば背信とも取られかねないだろう。彼が本物のツァラトゥストラであるならばやるだけの価値はあるかもしれないが、今のところは不確定。加えて、私と違ってシュピーネはあくまでツァラトゥストラと敵対する立場であって、守る側ではないのだ。ならば今回は、無視するべきか───。

 そう思って立ち去ろうとした私は、次の瞬間感じた強烈な水銀の気配に振り向いた。私の中で、不確定だったものが確信へと変わっていく。

「──ッ!!」

 無意識に私は踵を返し、ベイを押しのけ藤井へと手を伸ばそうとした──瞬間。

「ベイ、カレイヒ。おまえたちは何している」

 黒髪の少女の細腕がベイと私の手首を掴んでいた。櫻井螢──レオンハルト・アウグスト。黒円卓の新入団員である。

「……悪い。少し興奮した」

 私が先に謝ってしまうと、ベイの方も反駁する気力が削がれたようで腕から力を抜いていく。私も、それを以て後退した。

 だから。これに対処できたのは奇跡だろう。

「それで───おまえ、なんで俺に触れてる?」

 それは、唐突。

 これはいけないと思った。反射的に藤井の襟首を掴んで飛び退く。そしてその直後、殺意が爆発した。

「てめぇは、劣等の分際で、何を馴れ馴れしく俺の体に触ってやがるって言ってんだよォッ!」

 藤井がいたところ、レオンハルトがいたところ。ついでに私がいたところに杭がある。間違いなく、ベイのエイヴィヒカイトがもたらした現象だろう。

「……私も巻き込むつもりだったのかよ」

 私の非難に、彼は嘲るように笑うのみだ。

「悪い悪い。人の獲物掠め取るような奴はよ、予めぶっ殺したくなるんだよ。そういうのは一番ムカつくからな」

 レオンハルトとも、私とも睨み合いを続けるベイ。恐らく残存戦力で一番強いのはこのベイだろう。マレウスも強いには強いが、戦闘者というよりは魔術師であるがゆえに。だが、だからこそ不味い。ここで暴れれば藤井が死ぬ。私が思い切り引っ張ったせいで地面に投げ捨てられて呻く藤井を横目に、私は呼吸を整えて“降参”のポーズを取った。

「……悪かった」

「あ?」

「降参降参。殺し合うなら、後でスワスチカとなる場所でやればいい。どちらかの命で開けるんだしな」

 ゆえに。こういうときに取るべき選択肢は降参以外にあり得ない。私がド派手に動くのはもう少し後になるだろうから。

「は、イイねぇ。そういやてめぇ、零位だもんな。スワスチカは八つ。残された団員は九人。ってこたぁ一人くらい死んでも構わねぇよなあオイ」

 殺意がヒリヒリと伝わる。内心興奮を覚えながら、それを押さえ込んで鼻を鳴らす。相手の興が、醒めるように。

 此処で競って良いことはない。今は相手の好きなように取らせて退かせるまで。

 相手の意図を勘で嗅ぎ取ったのだろう。つまらなそうに相手も鼻を鳴らし、両手を掲げた。

「ああ、もういい。後は好きにしろ」

 

 

 

「さて………。どうしたものかな」

 先程と同じ文。だが状況も違う。私とマレウスとレオンハルトは倒れ伏している藤井を中心に立っていた。

「取り敢えず、レンくんとは少し話したいことがあるんだよね。水銀マニアさんは?」

「少々。興味がないといえば嘘になるな。マレウス、おまえには下手な嘘を言うよりこちらの方が良いだろうから話すが。コイツは五割方、ツァラトゥストラだ」

「うーん、やっぱりそうなのね」

 零位(番外)ではあるものの、メルクリウスへの嗅覚は人一倍優れている自負がある。ゆえに、団員、ことに魔導に通じるマレウスは私の意見を重んじていた。そういうこともあってあまりバラしたくはなかったが、ボロを出すよりはマシ。

「レオンハルト。おまえはどうだ。同年代の縁で話すことでもあるのか?」

「……いや、別に」

 こうなれば後は藤井が起きるまでフリータイムだ。公園に転がっていた死体回収はマレウスが、壊れた公園設備は何とか私が修復を試みる。

 聖槍十三騎士団において、魔術師は三人いる。

 一人は、我らに共通する魔術、エイヴィヒカイトを開発した副首領、メルクリウス。

 一人は、目の前にいる幼女─の外見をした魔女。少なくとも百年以上は生きているというマレウス。

 そしてもう一人が、私ことベルン・カレイヒ=ツィーゲンメルカァというわけだ。私は錬金術を専攻しており、物質の復元などは専門分野に当たる。

 魔女二人による証拠隠滅作業が終わったタイミングで、藤井がむくりと起き上がった。何故かレオンも残っている。とはいえ、もうちょっと語り合ったら必要事項はだいたいマレウスが言うそうなので二人とも帰れと言われたのだが。つまり私が残っているのもおかしいのである。

 いや、別におかしくはない。あのビッチと藤井を二人きりにしたら何をしでかすやら分からないという判断である。

 頭を強打したこともあるんだろう。まだ、藤井は周りにいる団員に気付いていないようだ。まあ、レオンハルトもいる。私はそれを以て、公園から立ち去ることにしたのだった。

 

 

 

 後日。

「えーーー? なんでだよぅ」

 私は珍しく、素っ頓狂な声を上げていた。いや、だってさ。だって。

「レオンは分かるぞ。レオンは! でもさぁ。マレウス。学園行くなら私だろ!? おまえ、イタいぞ!」

「はぁ? ちょっと失礼しちゃうわね。あたし並の魅力ある美少女ならともかく……あなたなんて中学生にしか見えないでしょう!?」

「ならおまえは小学生だろうがロリババア!!」

「あー! あー! 女の子に歳の話しちゃ駄目なんですけどー。デリカシーとかないわけ? そんなだからあんな男好きになってあんな男にすらフラれんのよストーカー!」

 そう、学校のスワスチカに入る人員を決めていたのだが……。よりによって、ロリババアのマレウスと現役学生の櫻井螢という人選なのだ。これなら、これなら私選ばれてもイイだろう! と、先程から講義しているのだが。

「あ、あんな男だと!? メルクリウスの良さも分からん節穴め。あのミステリアスさとか声の妖艶さとか気付けない無感女! そんなだから変な奴に付きまとわれたり好きな奴に置いてけぼりにされるんだろうが! 股広げて馬乗りになって子どもが欲しいくらい言ってみやがれッ!」

「それは!! あなたの愛が!! 重いのよ!!」

 実に、実に平行線である。よりによってお互いの趣味の悪さまで罵り合うのだが……ペット嗜好の私と拷問嗜好のマレウスではほぼ互角の衝突であり。ここで鶴の一声を発せるのは一人しかいない。

「まあまあ、お二人とも。ベルン、あなたはクラブの方が馴染みが良いでしょう。これも必要なことなのです。それに……ほら」

 あん、と眉をつり上げる私に神父──クリストフは囁いた。

 ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリン。聖槍十三騎士団黒円卓第三位、首領代行を任されている人物であり、現在の黒円卓のリーダー的な存在といえるだろう。

「マレウスでは、あの治安の悪い場所で乱交パーティーなど始めかねませんし。貴方の方がお行儀が良くあそこに溶け込めるでしょう」

 なお、マレウスには

「ベルンは負けず嫌いですし、ゴリラのような方ですから。何かしら勝負を生徒から持ちかけられて捻じ伏せる、なんて事もあり得ます。そこらへん、貴方なら安心して、周囲とコミュニティを作れるでしょう」

 ……と、お互いへ都合良いことを言っていやがった。

「誰がビッチか──!」

「誰がゴリラか──!」

 クリストフが女性団員二人から回し蹴りを喰らったのは、まあ、必然といえるだろう。




最後のシーンはお気に入りなのでそのまま残しました。
トリファは雑に殴っていいってシスターリザが言ってたもん。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。