Dies irae -Ars nva Elysion- 作:湯瀬 煉
クリストフから招集を命じられたのは、展望タワーで解散したあとすぐだった。
「いやあ、申し訳ありませんね」
彼がかしこまった態度で接してくるのは常である。しかしかといって敬意とかそういった類のものがあるかといわれれば、否。彼の本性を知る身としては大変胡散臭く感じる。いやそもそも、彼の恭しい態度を好意的に受け取れる者など何人いるのか。
ゆえに、マレウスも私も素っ気ない対応になる。
「別に申し訳ないとは思ってないんだろう」
「まどろっこしいから、ちゃっちゃっと要件言いなさいよ」
そしてクリストフの方も、その態度を意に介していないように答える。
これが私たちの会話の常で、彼とにこやかに談笑できる者などいないのでは無いかと思う。私たちのように真っ直ぐに殺意を放つというよりは、狂気じみた執念を穏健という皮で包んだ彼の性格がどうにも、彼と深く関わることを避けている。
それはともかくとして。
「少々、藤井さんと話してみたくてですね。よろしければお迎えにでも行ってくれませんか」
という司令がここに下った。
「先陣は俺が切る。てめえは邪魔すんじゃねぇぞ」
人選はベイとレオンハルトになった。マレウスは今は藤井の相手はしたくないとのことで辞退し、バビロンやクリストフはまだその時ではない、とのことで消去法で彼らになった。そして私はといえば、今日から黒円卓の敵である。
私が黒円卓を離反して藤井側につくことは既定路線であるゆえに、クリストフは二つ返事で許可してくれた。まあ、そういうところがより一層胡散臭く見えるのが、彼の業というか、人徳なのだが。
私が藤井の気配を辿って着いたのは、例の公園だった。ここでの戦闘は無意味であり、だからこそ試し撃ちだと感じられた。私はシロウに今から蓮に助太刀に行くと連絡をしてから、遠くからじっとベイたちの動きを観察する。
藤井とマリィが並んで座っていたところを、ベイは容赦なく急襲した。不可視の杭の発射。間違いなく聖遺物による攻撃であり、人間ならば耐えられない。
果たして藤井は一撃で死ぬことなく、直前に殺気を気取ったのか、
「少しはやれるようになったか、ガキ」
ベイは楽しそうに笑っていた。骨のある相手とめぐりあえたと喜んでいるのだろう。あいつの生涯からして、対等に殺し合える相手など数少ない。
ベイが銃弾のように突撃する。飛びかかるような掌底突きは素人がやれば隙だらけの、鋭さなど本来はないはずなのだが。技量を高めて人外の域に出るのではなく、
ベイに食らいついていく藤井も藤井で怪物であろうが、これは彼もまた人外域の身体能力を体得したからに他ならない。つまりは同じ土俵で、互いに剛の中にある柔こそ至高としている。
ゆえに今この時。戦場の利はベイにあった。
だから、気に食わないんだよ。
百戦無敗の戦鬼であるベイは、確かに常識外れだ。あらゆる兵法を覆す一騎当千として構わないだろう。だが、だからといって力任せの大技ばかりが戦場の花とは思わない。
「ふッ────!」
ゆえに、その女は男の戦場に飛び込んだ。
地を蹴って藤井の横にまで駆け右足を払う。それで藤井の体制を崩すと、左の掌底突きを脇腹に叩き込んで吹き飛ばした。レオンハルトである。
ベイ自体は不服そうだが、相手からすれば厄介この上ないだろう。大技重視のベイに、小技中心のレオンの二人組。対応するのに神経を使う。
だがそれでも、藤井は決定的な一撃だけは回避し続けていた。やはりツァラトゥストラ、別格らしい。だがしかし───
「そういえば、おまえシュピーネを
何気ない言葉。
「別に恨んじゃいないぜ。ああ、ほら。眼を開け。肌で感じろ。古い目玉は抉って捨てろや。今ならてめえも見られるだろう」
だが、これ以上ない不吉な言葉。
刹那、ベイはマシンガンのように不可視の杭を放ってきた。射撃の軌道上にいたレオンは慌てて横に飛んで躱し、藤井も上手いこと躱していた。
相手の実力を見るようなセリフよりも。仲間を巻き込んだこと。その事の方が意味合いがでかい。少なくとも、私にとっては。
要するに、不可視の杭とはいうが、練度を高めれば軌道などを見ること自体は不可能ではないのだ。ゆえに私たちも不可視の『杭』だときちんと認識できている訳だし。そう、そんなことは問題ではない。
「レオンも殺す気か」
こいつは殺して構わない、と。そういう意思が伝わる。一切容赦しないその姿勢には、いっそ惚れ惚れするほどだ。ならばこそ、再びベイが突撃を仕掛けようとしたその時。
「
状況をリセットしよう。二対一ではあまりに対等じゃないのだし、私はこの日から始まる戦いのために今日まで生きたのだから。
「
祝詞と共にベイの前に飛び出した私が、手元に光り輝く剣を生じさせながら逆袈裟にベイの体を斬りつける。不意打ちの一撃、それも相手は突撃直前と、こちらが圧倒的有利であったにも関わらず、ベイはとっさに飛び下がっていた。傷は浅く、彼のSS隊服わずかに裂いたのみ。だが、攻撃の中断には成功だ。
「邪魔すんな。今てめえに用はねぇぞ」
静かな怒気が伝わってくる。ベイはこの手の乱入が一番嫌いで、ゆえに乱入者に容赦がない。そして当然、レオンハルトに任せるという選択肢も、またない。
「用ならあるはずさ。今晩のお前の相手は私だからな。ツァラトゥストラは、お前にはやらん」
「……別に俺は、お前に貰われるつもりもないけどな」
藤井が私の横に立つ。
「とりあえず、仲間ってことで良いんだな?」
「そう思ってくれて構わんよ。少なくとも、黒円卓の連中とは敵対しているからな」
今宵、ようやく私は藤井蓮と共闘することに成功した。ゆえ、もし私の戦いがいつから始まったのかと問われれば、今この瞬間からとなるのだろう。劇的、英雄的で実に私好みな開戦である。
「私は強いぞ。存分に背中を預けるがいい」
とりあえず共通ルートが終わるまでは毎日投稿を頑張ろうと決めているので、次の話も多分明日出ます。……たぶん。