一度地に墜ちた天馬は、再び翼を広げ、青空を駆ける。 作:桐山たかふみ
「えっ!? あの子達アビドスだったの!?」
「あはは〜、やっぱアルちゃん気付いてなかったじゃ〜ん。」
「ど、どうしましょうか……私、行って倒してきましょうか……?」
「いや、もう距離も遠いし、それにわざわざここで事を構える理由もないよ。」
「でも、アル様の敵は──」
「ハルカ、そこまでよ。」
アビドス生徒達を襲うため、飛び出そうとしたハルカを、カヨコが言葉で止めさせる。ハルカはそれでも飛び出そうとしたが、アルから止めろ、との言葉が出たところで、ようやく大人しくなった。
(それにしても、アビドスは全部で5人……って情報にもあったけど、ラーメン屋にいたあの大人は一体……?)
カヨコだけは唯一そんな事を考えていたが、時間が経つにつれて頭の隅に思考は追いやられ、然程注意を払うような認識には至らなくなっていった。
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アビドス対策委員の面々は、柴関から校舎に帰って来ていた。いつもの会議室で、雑談をしていた。
「それにしても先生、良い食いっぷりだったね〜」
「? そうか?」
「いや〜、凄かったよね〜? ……ありゃ?」
ホシノが賛同を求めて周りを見たが、他のみんなはいまいちピンと来ていないようで、ポカンとした目をしてホシノを見つめている。
「うへ、これじゃあおじさんが先生に夢中だったみたいじゃ〜ん!」
「そうじゃないの? ホシノ先輩。」
「シロコちゃ〜ん!」
「……?」
ホシノがシロコをポコポコと叩いている。その姿を微笑ましそうに見る他の三人と、良く分かっていなさそうな星矢。何はともあれ、何時ものアビドスの日常だ。
「っ!?」
アヤネがタブレットを確認して、驚きの表情を浮かべている。声が小さいながらも聞こえたことから、余程の事なのだろうと他の皆が悟るのにそう長くは掛からなかった。
「アヤネ、どうした?」
「校舎南方、15km付近で大規模な兵力を確認しました!」
「まさか、またヘルメット団が?」
数日前にやってきたヘルメット団、シロコがまた来たのかと聞くと、アヤネは首を振って違うと答え、続いてその正体を口にする。
「傭兵、おそらく……日雇いの傭兵です!」
「傭兵? 結構高い筈だけど、誰だろうな〜」
「これ以上の接近は危険です! 先生!」
出撃を求め、星矢を見て頼んだと言わんばかりに声を上げるアヤネ、他の面々の顔を覗いたが、もう準備は出来ているようで、目から溢れ出るような熱意を、意志を感じた。
「あぁ、行くぞみんな!」
その一声で、対策委員会は出撃するのだった。
「傭兵を率いている集団をはっけ──ん?」
出撃し、校舎を出てすぐの所で敵集団を発見した。だがその姿を見て、アヤネが首を傾げる。
「あれ、柴関の……?」
ノノミも見覚えがあると言った反応を見せる。なんなら数時間前に見たばかりで記憶は新鮮なまま、くっきりと脳内に保存されている、その顔触れだった。
「ぐ、ぐぐっ……」
一番前に立っている、赤い髪にコートを羽織ったリーダーらしき子は、何か納得出来ていないのか、顔を歪ませて唸っている。相当悩んでいるのか、額からは汗が滲み出て、唸っている口が元に戻ることを知らないようだ。
「だっ、誰かと思えば! あんたたちにラーメンも無料で大盛りにしてあげたのに! この恩知らず!!」
セリカが罵るように声を張り上げて叫ぶ。
当然だろう、タダであれ程のものを、それも善意からのものだったのだから。
「あはは、ごめんね〜、でも、それはそれ、これはこれだから〜」
「受けた恩ではあるけど、それはそれで別、仕事の公私は分けないとね。」
「……その仕事が、便利屋だったんだ」
「他にも何か健全なアルバイトはなかったんですか! 便利屋を選ぶなんて、学生として!」
「ちょ、ちょっと! アルバイトじゃないわ! れっきとしたビジネスなの! 私は……」
何か喋っているが、他の面々が呆れたような顔をして彼女を見つめている。
「誰の差し金……答えないか、力尽くで……!」
「ふふ、そんなこと答えるとでも思って? 企業秘密よ、企業秘密。」
「はぁ、二回も言わなくていいと思うんだけど……」
「いいんじゃなーい? アルちゃんカッコつけたがるし〜」
「あ、アル様、カッコいいです!」
「話し合いじゃ、終われねぇみたいだな」
「話がわかるわね、それじゃあ──!」
そう言って、アルが手を振り上げて。
「やってやるわよ! 便利屋68!」
その一声で、お互いの銃口から、火花が散った。
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「アロナ!!」
「皆さんとの戦術采配同期、既に完了しています! 先生、指揮を!!」
さて、どうしようか、前線では既にシロコ達が障害物に隠れながら戦っている。目の前に見える敵はこっちの五倍はいる。それも割と密集していて、攻撃に身を乗り出そうもんなら蜂の巣にされちまう。なら……
「ノノミ、いけるか!」
「もちろん、お任せください〜☆」
ノノミがその手に持つミニガンの銃口を温めながら、その身を乗り出す。これが火を吹こうものなら、相手は密集しているから、大打撃を受ける事は間違いない。ただ……
「きゃっ!」
「っ、大丈夫か!?」
「あ、当たってはいません、けれど……」
身を乗り出し、敵を薙ぎ払おうとしたノノミの足元に、パスンと銃弾が跳ねる音がして、直ぐ様ノノミは身を隠す。やはり敵もその可能性は警戒しているらしく、向こうを覗くと、先程まであれ程慌てていたリーダーのアル? がこちらにスナイパーを向け、真剣な眼差しで一挙手一投足を警戒している。
下手に顔を出せばスナイパーに、そうでなくても傭兵が前進してくる。更に前線には紫色の帽子を被った子がいて、ショットガンをなりふり構わず乱射している。中衛には小柄な白髪の少女が鞄から爆発物を投げながら、もう片方の少女は交戦しつつ、冷静に周りを見回している。
「これは、骨が折れそうだな……」
万全な敵の布陣を見て、そう呟く。
どこを突いても、敵は対応が可能。だからこそ、それを逆手に取って崩すことも出来るということ。
「アヤネ、作戦を思いついた。大丈夫か?」
「はい、どうぞ!」
念の為アヤネに確認を取って、それから作戦を皆に伝達する。
「皆も見て分かると思うが、相手はかなり盤石に攻めて来ている。これを逆手に取る。ホシノ?」
「なぁ〜に?」
「相手の前進を少しでもいいから、止めてくれないか? セリカ、ノノミはホシノを援護してやってくれ。」
「分かった!」
「了解です〜☆」
「シロコは俺と一緒に、後衛のアルを崩す、あれが親玉だろうから、倒すか捕らえるか、どちらでもいいから何とかする。いいな?」
「ん、分かった。」
「それじゃあ皆、必ず勝つぞ!!」
「「「「おぉ〜!」」」」
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「敵さん、あんまり反撃してこないね〜」
「だけど、それはそれで好都合。このまま進んでいけば、あちらは詰みに近くなるからね、流石に黙ってはいないと思うけど……」
あまりにおかしい。さっきあのミニガンを斉射しようとした以外の動きがなにもない。このまま進めば、乱戦になって数が多いこちらの優位が確定する。それなのに動きが──いや、動いたね。
目の前、と言っても私達は中衛だから、実際にはもう少し距離があるけど、盾を構えてこちらに向かってくるのが一人。後ろの障害物から顔を覗かせているのが、さっきのミニガンの子と、ラーメン屋のバイトをしていた子。残り二人はどこに行ったのかな、でもこの三人を蹴散らしてしまえば、あと二人で何か出来ることは限りなく無に近くなる。
愛銃のデモンズロアを取り出して構える、もちろんサイレンサーは付けている。付けなければ発射時に、あまりの轟音に敵味方問わず混乱を巻き起こしてしまうから。
盾を構えている相手は、盾で攻撃を防ぎつつ、時折銃撃が途切れた一瞬の隙を見て、こちらの傭兵を何人か撃ち倒していく。絶妙なタイミングを見て反撃してくるから、対応がしにくい。
更に後ろにいる二人もやりにくくしている要因だね。
黒髪で獣耳がある子は盾の子と同じタイミング、攻撃されないのを見計らって大胆に反撃してくる。そしてそうなるとその分の照準がそっちに向くから、盾の方が動きやすくなる。
そしてミニガンの方が一番厄介で、撃つ素振りを見せたかと思うと陰に隠れる。これをされ続けるといつ撃ってくるのか分からなくなるし、撃たれたら撃たれたで損害は馬鹿にならなくなる。誰かが指揮しているみたい、と思ったけど、それでもまだ私達が優勢、このままいけば……と、思ったんだけど。
「きゃっ!?」
「っ、社長!」
後ろから声がしたと思って振り返ったら、そこには。
「ん、奇襲成功。」
「ここまで近付けばスナイパーは使いにくいだろ……!」
私が見失った、銀髪の子と。
「ヘイローが、ない……?」
外から来たと思われる大人……? の二人が、社長と戦っていた。
▲
「よし、上手くいったな!」
あの作戦通達から暫くの間、俺とシロコは敵の視界を外して後衛への奇襲の為に動いていた。幸いアロナの支援のお陰で、最短かつ最も安全なルートを選んで進んだ。
道を抜けた先には、前線への狙撃に目を光らせているアルがいた。シロコが銃を撃ち掛け、ハッとした様子でこちらに目を向けてくる。
「なっ、どっから来たのよ!?」
「秘密」
驚きつつも、こちらに銃を向け撃とうとするアル。だが、シロコもそれを察しているようで、距離を取らずに白兵戦に持ち込んでいる。至近距離で銃弾が炸裂し、きゃっ、とアルが声を上げる。その隙を見逃さず、シロコが身体を上手く使って組み伏せる。
「わっ!?」
「制圧完了」
アルは抑えた、次は……そんな事を、思っていると。
不意に、パスンとした音が聞こえたかと思うと、弾が頬を掠める。流れてくる血を手で拭いながら、音が聞こえた方向を見る。
「へ〜、アルちゃんにそんなことするんだ〜」
「……お前らのリーダーは抑えたぞ、抵抗を辞めるならいまだぞ」
「生憎、リーダーが抑えられただけで、戦えなくなるような腑抜けじゃなくてね」
そんな事では怖気づかないと、こちらにピストルを向ける怖い顔の少女。もう片方の小柄な少女もやる気満々のようで、少し目が血走っているようにも見える。
「む、ムツキ……カヨコ……」
「待ってて、社長。今助け出すから」
「アルちゃんにそんなことするなんて〜くふふ、覚悟は出来てるんだろうねぇ!!」
「覚悟? もちろん、やるならとことんやってやるぜ!」
二対一、シロコはアルを抑えているから、戦いには参加出来るか怪しい……なら、俺だけでやらないとダメだな。
二人から放たれる銃弾を避けつつ、何とか反撃に移ろうとする、だけど、なんだ? この銃弾の緩さは……致命的な、それこそ頭や胸を狙わずに、足や腕を狙っているような軌道をしている。違和感を抱いたが、直ぐ様に振り捨てて、一瞬で加速。銃弾、いや空間を置き去りにする。
驚いた二人の表情を横目に確認、そして武器を手元から蹴り飛ばす。
「っ!」
「あれぇ?」
更に驚く二人。弾き飛ばされた銃を拾いに行こうとするも、
「ん、動いたら撃つ」
シロコがどこから取り出したのだろうか、ピストルをアルに向けている。しかも手榴弾をアルの側に置いており、爆発させるのも厭わないぞ、という姿勢を見せている。
「あちゃ〜……」
「万事休、いや、まだか。ハルカと傭兵がまだ……」
カヨコと呼ばれていた少女が諦めず、ちらりと見た方向では、まだ前衛とホシノ達が戦っていた。
「あ、アル様!? よ、よくもアル様を……!」
「はいそこ〜、余所見しない〜」
ホシノの強烈な蹴りが、ハルカにヒットする。当たったハルカはよろめいたと思いきや、譫言をブツブツと呟きながらショットガンをホシノに向けて乱射する。それに続いて傭兵がホシノに集中砲火を浴びせる。このままでは、そう思った刹那。
「行きますよ〜☆」
戦場には似合わない、ほんわかとした声が響き渡ったと同時に、ギュルギュルとミニガンの銃口が周り始める。
「まずっ、伏せ──!」
事態を察知した傭兵達が伏せようとするが、もう遅い。
ミニガンが傭兵の集団を薙ぎ払う。半数のヘルメット団が意識を刈り取られたようで、その場に横たわっている。そこにハルカの姿が見えないな、と、そう思っていたら。
「アル様をよくもよくもよくもよくもよくも」
怨嗟の声が近づいて来たと思えば、直ぐ側にハルカが接近していて。
「死んでください死んでください死んでください死んでください!!」
ショットガンを乱射してきた。アロナのサポートで銃弾の軌道は読める、だがこれは──回避運動を取った、ああ、取ったんだが。
「ぐっ……」
「先生!?」
何発かが身体を貫く。しくった、小宇宙を燃やせばどうにでもなかったものを。
「このまま死んでくださ──!」
追撃が飛んでこようとしたところで……
戦場に、学校のチャイムが鳴り響く。
「あっ、時間だ。」
「疲れたー」
「帰りに飯でも寄ってく?」
「ちょ、ちょっと!」
組み伏せられているアルが、声を上げる。傭兵達はそれを聞こえていないかのように、続々と去っていく。
「……こりゃ、マズイね」
「どうする? アルちゃん?」
「くっ、ぐぬぬ……」
抑えられながら、アルは呻く。不意に、シロコが弾き飛ばされたと思うと。
「こ、これで終わりと思わないことね!! アビドス!!」
そんなセリフを吐き捨てて。アル達は去って行った。
「敵兵力、退却確認。お疲れでした、皆さん」
「何なんでしょう……便利屋にも狙われるなんて。」
「まあまあ、その内分かると思うよ〜?」
「……っ、あいつら……」
「意外と強かった、アル」
「とりあえず、皆さん一度校舎に帰還してください」
「一旦、整理しようぜ」
アビドスの面々と、星矢は校舎に戻って行った。
一月空けて申し訳ない、ここから挽回します
なんとか時間確保します……ナンとか……
パヴァーヌかエデン、どっちを先に見たい?
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パヴァーヌ編(2章は後で)
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エデン条約(やるならフルで4章まで)
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普通にパヴァーヌ1章→エデン条約フル
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アビドスの後にミニストとか挟んでほしい