一度地に墜ちた天馬は、再び翼を広げ、青空を駆ける。 作:桐山たかふみ
と、意気揚々と出ていったはいいものの。
「…もう足が動かねぇ…ほんとに街ん中で遭難しちまうもんなんだな…」
…結局、星矢はアビドスで遭難していた。
アビドスへは公共交通機関を通して割と順調に来れたものの、アビドスに着いてからが問題だった。駅には人がある程度いたものの、駅から別の、例えばバスやタクシーを使ってアビドス高校まで行こうと考えたものの、そもそもそんなものは無く、皆歩きで駅まで来ているようだったため、仕方なく歩くことにした。
そこからが地獄だった。駅の周りから一度外れると、いくら歩けど歩けど風景に変わりは無く、風景と言えば、誰も住んでいる気配がない家の数々と、砂漠化が進んでいることを証明するように時折吹いてくる砂程度で、店も何もなかった。気付いた時には完全に道に迷ってしまっていた。
おまけにほぼ手ぶらで、何の準備もなく来てしまったため、水も食料もすぐ無くなってしまい、それでも歩き続けたものの、早2日。
星矢は座り込んで、もう足も動かせなくなっていた。
戦いの中で死ぬのではなくて、まさかこんな飢え死にという聖闘士としての本来の死に方ではない死が迫ってくるのを、星矢は薄れ行く意識の中で目を閉じて、死への覚悟覚悟を決めていた…俺もここまでか。と。
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星矢が死の覚悟を決めた、丁度その時だった。
音が、聞こえてきた。何の音かと思って耳を澄ますと、自転車が走る音が聞こえてくる。砂が吹く音以外の音を聞くのはいつぶりだろうか。そう思ってしまう程には長くここに留まってしまっていたのだろう。
自転車の音はやがてどんどんと近付いて来て、やがて目の前だろうか。そこで止まったように聞こえたので、そのまま永遠に閉じてしまいそうだった、その目を力の限り開けて、顔を上げて目の前にいるであろう人の姿を視界に入れる。
目の前に居たのは、銀色の髪をして、獣のような耳がある少女…が立っていた。自転車から降りて、こちらを覗き込むようにして見ている。そんな中、丁度見上げた眼と眼が合った。銀色の髪をしたその娘は、あ、生きてたんだ。と言わんばかりの表情をして、
「あの…大丈夫…?」
と、問い掛けてきたのだった…
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「…え〜と、用事があってこの街に来たけど、お店が一軒もなく脱水と空腹で力尽きた、と。ただの遭難者だったんだね。」
彼女の俺を見る目が死にかけていた謎の人から遭難していた人に変わった気がする…良いことかはさておき。
「…み、水は…」
「水…ん、ちょっと待って。」
そう言って彼女はカバンの中を探ると、中から何か飲み物の缶が出てきた。
「はいこれ、エナジードリンク。今はこれくらいしか手持ちが無くて…でもお腹と水の足しにはなると思う。コップは…あった、はい。」
コップに注がれるエナジードリンク。色はエナドリだが、一日まるっきり水を摂取出来なかった目が、身体が注がれる光景に釘付けになり、はい。と手渡された瞬間に口を付けて一気に飲み干す。…嗚呼、こんなに水分とは素晴らしいものだったか。身体中に染み渡るような感じがする…
「えと…まだ数杯くらいは行けるけど…いる?」
その問いに、コクリと頷いて、一日ぶりの水分を身体中に行き渡らせたのだった。
ある程度水分を取って、落ち着いてきたところでアビドスについての事を聞こうと思ったため、今さっき潤った口を開いて、目の前の彼女に問う。
「…その、ここってこんな感じなのか?砂が舞ってて…家があっても誰も居なくて、店も何にもなくて…」
「ここは元々そういうところだから。店なんかとっくに無くなってるよ。こっちじゃなくてもっと郊外の方には市街地があるけど…あ、初めて来たんだ。じゃあ土地勘がないのは仕方ないね。」
元々そういう場所だった、と言われて少し驚く。
ということはこの住宅にはかつては人々が住んでいたのだろうか…広さに比べてあまりにも人がいなさすぎる。
あ、助けてもらったお礼の言葉を言うのを忘れてた…
「助けてくれてありがとう、君が来なかったら俺は野垂れ死んでたところだったよ…」
「ん、どういたしまして。ところで…」
「…?」
「その服…汚れてるけど、連邦生徒会のものだよね、連邦生徒会から来た人みたいだけど…学校に用があって来たの?」
学校に用があるのは本当なので、別に隠す必要もなくその為に来たと告げる。
「この近くだと、うちの学校しかないけど…もしかして……「アビドス」に行くの?」
「そうだ、アビドス!そこに行きたいんだけど…」
「……そっか、久しぶりのお客様だ。」
アビドスに行くと告げた途端、彼女の表情が柔らかいものに変わって、少し嬉しそうな声色でそう言った。
久しぶりのお客様…久しぶりといっても、どれくらいの久しぶりなのだろうか、この嬉しそうな感じは本当に久しぶりの来客なんだろう、でなければこの反応は演技では到底出てこないはずだ。本心から喜んでいるのがこちらにも伝わってくる。
「それじゃあ私が案内するね。すぐそこだから。」
「じゃあ行くか…っ!?」
彼女に案内してもらってアビドスに行こうと立った途端、唐突に目眩がして足元がふらついた。それに加えて平衡感覚をぐちゃぐちゃに掻き回されたように足元が覚束ない。
…これでは歩くことは厳しいな…
「大丈夫…?その、かなりふらふらしてるけど…」
ロードバイクに乗掛けていた彼女から心配する声が飛んでくる。実際歩くことはままならないので、ここは彼女に助けてもらわねば…
「…肩を貸してくれないか」
「肩?分かった、ロードバイクはここに停めて…と、よいしょ、これでいい?」
「ああ、これでいい。ありがとう……そういや名前を聞いてなかったな…名前は?」
「アビドス対策委員会2年、砂狼シロコ。」
「シロコか、よろしくな…んで俺は」
「シャーレの星矢先生、でしょ?その首から下げてるカードに書かれてあるのを見たよ。」
「…言われた…」
そんなやり取りを交わしながら、二人はアビドス校舎へ向かっていった…
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「ただいま。」
シロコがそう言い放ちながら、ガラリとドアを開ける。
ドアを開けた教室の中には机や椅子、ソファーにホワイトボードが置かれていて、ここが彼女らの活動場所なのだと一目で分かるようになっていた。
「おかえり、シロコせんぱ……い…?」
黒い長髪を左右で束ねた獣の耳を持つ少女が、先輩の帰りを確認した…と同時に、その先輩の横に砂に塗れた謎の人が、先輩に肩を貸してもらっているのを見て、途中から声が疑問の色に変わっていく。そして次の言葉は
「うわっ!?シロコ先輩、その肩貸してる人は誰!?」
と、その娘が騒げば、次はどこかふんわりとした雰囲気を纏った少女が
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致して来ました〜!」
その言葉を聞いた、眼鏡をかけた生真面目そうな娘が
「拉致!?もしかして死体!?まさかシロコ先輩、ついに犯罪に手を…!!」
そう怪しめば、次には黒髪の獣耳の娘が
「みんな落ち着いて!速やかに死体を隠せる場所を…」
「……」
生きてるのに、この言われよう。この娘達は一体どんな環境で過ごして来たんだよ、しかも拉致?死体?しかも確認してから行動までが早すぎないか、もうどう隠蔽するか話してるんだけど。
心の中でそう思っていた星矢。そして隠蔽しようか話し合い始めている面々にシロコは一言。
「いや…普通に生きてる人だから……。」
「えっ、死体じゃなかったんですか…?」
「うん、アビドスに用があるんだって。」
「すると…お客さん…ってこと?」
「ん、そうみたい。」
シロコが生きていると告げてくれたおかげで、なんとか埋められるのは回避出来た。出来る限り元気に声を出して挨拶をすると、戸惑いながらも返事をしてくれた。
「わぁ、ビックリしました。お客様がいらっしゃるなんて、と〜っても久しぶりですね。」
「そ、それもそうですが…でも来客の予定って……」
「…俺がシャーレの顧問だ、みんなよろしくな。」
と、首から下げてあるカードを見せながら、そう告げる。
その「シャーレの顧問」という言葉を聞いた瞬間に、三人の俺を見る目が一気に変わり、各自それぞれの感情を顕にしていた。一人はあのシャーレの先生!?と驚き、もう一人は支援要請が受理されたのですね!良かったですね☆、と喜び、そしてもう一人は少し涙を流しそうになりながら、これで弾薬や補給品の援助が……と感極まっていた。
「あ、ホシノ先輩にも知らせてあげないと……ホシノ先輩は?」
「多分屋上で寝てるはず…私起こしてくるね!!」
そう言って、ドアをバァンと勢いよく開けながら、獣耳の娘が駆けて行った。
そうしてこの部屋にいるのは四人になったわけだが、ここでシロコが口を開いた。どうやら対策委員会の五人を紹介してくれるらしい。
「この人はアビドス対策委員会二年の十六夜ノノミ先輩。」
「よろしくです〜☆先生☆」
「よろしくな、ノノミ。」
「そしてこっちが…」
「アビドス対策委員会の一年、奥空アヤネです!先生、これからよろしくお願いします!」
「おうよ!よろしくな!」
「それでさっき駆けて行ったのが、対策委員会の一年、黒見セリカ。それで連れてこられる人が対策委員会の三年生、小鳥遊ホシノ先輩。あ、私のことはもちろん知ってると思うけど…」
「砂狼シロコだろ?もちろん覚えてるぜ。よろしくな。」
「…ん。」
「し、シロコ先輩…」
「わぁ〜☆」
何か他のメンバーより優位に立っていると示しているような気がしたが…もしかしてこの娘、こんな感じなのか…?
そんな事を思っている内に、廊下から騒がしい声が響いてくる。その声が近くなったと思ったら、ドアが開かれて、セリカと、そして…
「うへ〜。小鳥遊ホシノだよ〜、よろしく先生〜…ふあぁ」
だら〜んと、というか手足をぶらぶらさせながら、小鳥遊ホシノは挨拶を済ませた。そしてこれで対策委員会全員が集まった機を見計らって、星矢が改めて挨拶をし直す。
「俺はシャーレの顧問を務めている…星矢だ。これから先、世話になると思う。だからみんな、よろしくな!!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
元気な声が三つ、だらけた声が一つ、何か不満気な声が一つ聞こえた気もするが、そんなことはどうでもいいと、星矢が次に口を開こうとした、その時だった。
タタタタッ!!と、銃声が外から鳴り響く。
何かと思い、窓から外を覗くと、ヘルメットを被った一団が銃を打ち放しながらこちらの校舎に向かって来ているのが見えた。
「…カタカタヘルメット団が学校に接近しています!」
「またカタカタヘルメット団!?あいつらほんとに懲りないんだから…!ほらホシノ先輩、寝ぼけてないで行くよ!!」
「ふぁ〜これじゃあお昼寝も出来ないじゃないか〜…」
「ん…!どうしよう、弾薬が…」
「まだ補給を受けられるのは時間がかかるみたいですから、とりあえず皆さん、ここをなんとか凌ぎましょう!!」
「これ以上好きにはさせませんよ〜☆」
「それじゃあみんな、アビドス〜!」
「「「「「出撃〜!!」」」」」
号令後、各々が自分の役割を理解して、外へと飛び出していく。呆気にとられて立ちすくんでいると、一瞬絶対零度かと勘違いするほどの強烈な視線が向けられたような気がして、彼女らの背を見ると…小鳥遊ホシノ、彼女と目が偶然か、合った。その鋭い目はおそらくだが、こう言っていた。
私はまだ信用してないから。アヤネちゃんに何かあったら…ただじゃおかないよ。
先程まで纏っていただらりとした雰囲気は跡形もなく吹き飛び、まるで狩りをする際の獣のような、鋭い眼光と強さを思わせるオーラを、ホシノは纏っていた。
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「って、アヤネは行かないのか?」
ホシノの眼光に気を取られていたが、アヤネが飛び出していかないのを不思議に思い、本人に聞いてみる。
「え〜と、私は先輩方のように身体が強い訳ではないので…オペレーターとして、皆さんをサポートします。先生も同じように指揮を取ったと聞いたんですが…」
「なるほど…」
戦場には向かない身体故、後方支援に徹しているのか。
それもそうだが、俺が指揮を取った?誰がそんな噂を流したのか。指揮なんて一切していないし、やったことと言えば不良を殴って鎮圧して、戦車の足止めをしたくらいだ。
あの暴徒達を鎮圧出来たのは、ほとんどユウカ達のおかげで、俺自身は何もしていない。そんな男が、この対策委員会の後ろを持っていて良いのか?…いや、後ろで指揮だけしているなんて…性に合わねぇ。
「アヤネ、後ろは頼めるか?」
「え、先生、それはどういう……先生!?」
アヤネが顔に驚きの色を浮かべ、咄嗟に手を伸ばして引き留めようとするも、その手をするりと躱して廊下を走り抜けて行く。
「ちょっと!?先生!!待ってください!!」
すまないアヤネ、俺にはこれしかないんだ…と心の中で呟きながら、拳を握り締めながら校舎を走り抜けていこうとした途端、いきなり懐から聞き慣れた声が廊下に響いた。
「もう!!先生はアロナのことを信頼しなさすぎです!!このスーパーアロナちゃんに、ここはお任せください!!」
「お、おう…?」
「指揮も、先生が戦うのも、ぜーんぶ!アロナがお助けします!!」
頼れる秘書が、胸を精一杯に張って、そう言っているのを、星矢は疑問と少しの期待が入り混じった目をして、アロナを見つめていた…
次からが本番だ、頑張れ俺!!
次は戦闘回です。戦闘の描写に苦戦して更新が遅れるかも。
んで星矢が戦闘したがるんでそこの描写もこだわらないといけなくなっちゃうじゃん!?でもこの道を選んだのは己なのでね、星矢と一緒に苦しみますよ、ええ。
アニメに追い付けるかなとか言ってましたが、これじゃあ厳しいかな…でもまだ諦めてない!目指せ毎日更新だ!!
パヴァーヌかエデン、どっちを先に見たい?
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パヴァーヌ編(2章は後で)
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エデン条約(やるならフルで4章まで)
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普通にパヴァーヌ1章→エデン条約フル
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アビドスの後にミニストとか挟んでほしい