春はよく、出会いと別れの季節と言う。
俺はそれを、ずっと経験している。
1年ごとに、離任、着任する教師、卒業する先輩、入学する後輩。
小学生の時だったら「○○先生いなくなっちゃうのやだぁ~!!」とか言っただろうが、変に達観した考えを持ち合わせてしまった中学、高校時代は「まぁ、そんな時もあるよな」と変に強がって、泣くことも悲しむこともなくなってしまった。
「…もうそんな時期か」
品出しをしているとき、やけにピンク、というより桜色のパッケージを見て、そんなことを呟いた。
客足はなし、真面目にレジに立ってるのは足腰が悪くなるので、合法的にしゃがめる品出しに赴いている、という訳だ。
「卒業、ね」
「どしたの~?」
「…いや、何でもないです」
「意味深に『卒業ね』とか呟いといて?」
「その無駄にうまい声帯模写は別にとっといてください」
バイトの先輩、今井リサ。
入りたての頃から割とこちらを気に掛けてくれていて、なんだかんだ一緒に働いて2年になる。
「今井先輩こそいいんですか、レジ立ってなくて」
「今お客さんいないし、エルとも話したいし?」
「…まさかずっとエルって呼ばれるとは思ってなかったです」
今の時代に言うと差別と言われるかもしれないが、少し女性味を帯びた名前。
「えるか」と呼ばれるのは抵抗があったので、出勤初日に「灯縁」か「エル」で呼ぶようにお願いしてたのだが、ずっと名字呼ばれだった俺にとって、彼女の距離感は近かった。
「だってエルがエルって呼んでって言ったじゃん?」
「…初対面でエル呼びはなかなかいなかったんで。もう慣れましたけど」
「それならよし、仕事にもだいぶ慣れてるみたいだし、将来は安泰かな~?」
「俺が辞めずにあと2,3年経つのと、このコンビニがつぶれるの、どっちが先ですかね」
反射的に返した後、少しの寂しさを覚えた。
そうだ、今井先輩は大学生になる。
そして先輩は、ガールズバンド「Roselia」のベーシストでもある。
そうなれば、バイトも。
「なーに寂しそうな顔してんの~?」
「…いや、別に」
「もしかしてアタシがいなくなっちゃうの、寂しかったりする?…なんて」
「…少し、寂しいです」
俺がそう言ったのが少し意外だったようで、先輩は目を丸くする。
「2年も一緒にいるんですよ。寂しいに決まってるじゃないですか」
「あ、はは~…そんなにまっすぐ来られるとお姉さんちょっと反応に…」
「先輩そんなキャラじゃないでしょうに。というか、もしかしてプロデビューしても続ける気ですか?」
「あれ、バレた?まぁ、ここのバイトは楽しいし?」
「そう、ですか。無理はしないでくださいよ」
言ってから、先輩がいなくならないことに安堵した自分に、少し驚いた。
「お、なになに?アタシがいなくならなくてよかった~って顔してるね?」
「…まぁ、多少は」
多少なんて、かっこつけてしまった。
だいぶ良かったと思ってる。
特に何か特別な感情を持ってるわけではないけれど。
先輩と過ごす時間が好きなんだ。
この時間がバイト以外になったら、どうなるかはわからないけれど。