女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 アンヴァルの変その1

 

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

私とエーデルガルト、そしてヒューベルトによって、フェルディナントに彼の父親、エーギル公…そして、アランデル公のこれまで行ってきた、後ろめたい事実の数々を語られたフェルディナントは、衝撃を受けた顔で打ちひしがれていた。

そして暫く椅子にもたれかかって放心した後、掠れた声で呟いた。

 

「………そんな、まさか。そのようなことを父を含めた六大貴族が行っていたというのか!?信じられん…。」

 

ヒューベルトはそんな彼に淡々と答えた。

 

「…貴殿の気持ちも分かりますが、これは紛れもない事実です。」

 

「忌まわしいことに、我が父を含め、六大貴族は前皇帝の実権を奪うばかりか、そのエーデルガルト様を含めたご子息達に血の実験を行っていました。そして…」

 

段々とヒューベルトの言葉に熱が灯っていく。その言葉には、間違いなく怒りの感情が込められていた。

エーデルガルトははっきりとフェルディナントの眼を見て、その残酷な真実を告げた。

 

「…私以外は皆死んだか正気を失ったわ。そしてその首謀者が、アランデル公であり…。」

 

フェルディナントは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「我が父も…その中枢に絡んでいると。………なんてことだ。民の模範となるべき貴族が、そのような愚行を…!!」

 

フェルディナントの言葉と目にも、段々と失意から怒りの炎が灯り始めた。

そして淡々と話し始めた。

 

「…………父が、貴族としてあるまじき罪を行なっている、ということは察していた。それが何なのかまでは詳細は把握していなかったが。」

 

「…いずれ、私が家督を継ぎ、その罪を裁くつもりだった。だが、まさかこんな…。」

 

 

私は正直言ってこの会話に混ざれるほど情報を知っているわけではない。帝都の内部事情なんてまずエーデルガルトから教えられた知識ぐらいなものだ。ただ、これだけは言える。

 

「フェルディナント、アランデル公を始めとした闇に蠢く者は、決して許してはいけない存在だ。それだけは、私にもよく分かるよ。」

 

「真の貴族として、何をすべきなのか考えてみてくれ。」

 

 

 

その私のでき得る限りの説得を聞いて、フェルディナントは少し寂しそうな目つきをした後、覚悟を決めた顔になって答えた。

 

「……先生とエーデルガルトを信じよう。確かに、話の筋が通っている。そして何より…君達がこんな嘘をつく人間ではないと、私は知っている。」

 

そう言って、彼は力無く微笑んだ。

 

 

 

「だが一つ約束してくれ。父は私が拘束する。そして、貴族として正当な裁きの場を用意してもらう。…彼とて、貴族なのだ。その程度は、けじめとして許して欲しい。」

 

ヒューベルトは乾いた口調で呟いた。

 

「貴殿らしいですな。あくまで公の裁きに拘りますか。」

 

「当然だ。そうでなくては、民に示しがつかない。」

 

 

…ヒューベルトは自分の父親を自分の手で暗殺しようとしている。いや、もう手を回して実行しているかもしれない。

色んな意味で対照的だが、それでも己の信念を持っている二人なら、きっと上手く付き合えるだろう。

根っこの部分は、何となく似ている気がした。

 

 

エーデルガルトはフェルディナントの覚悟に感心したようで、丁寧に胸に手を当てて宣言した。

 

「……ありがとう、フェルディナント。貴方の覚悟に敬意を示すわ。無論、そうしましょう。」

 

「貴殿であれば、エーギル家の兵を障害にせずにエーギル公に近づけるでしょう。期待していますよ。さて、では細かく作戦を詰めますか…。」

 

 

私は真剣に頷いて、少し緊張しながら告げた。

 

「そうだね。これが、最後の作戦会議だ。」

 

 

 

 

********************

 

 

 

そしてついにその日が訪れた。日の出の早朝から帝国兵達に見送られて、私とエーデルガルト、そしてジェラルトを始めとしたセイロス聖教会の騎士達が帝都アンヴァルへと入る。

 

「…………………」

 

フェルディナントは終始無言で思い詰めた表情で馬を走らせている。

 

「…流石に帝都ですね。久しぶりに来ましたが、やはり盛況さが違います。エーデルガルト様を出迎えるなら当然ですけど。」

 

そうモニカが湧き立つ民衆の群れを見て満足そうに呟いた。

…確かに壮観だ。無数の石のレンガで出来た帝国風の建物の周りに、人がごった返している。

 

正面の立派な宮城までの道沿いには、もはや人がいない場所を探す方が難しいぐらいだった。

 

あまりの人の群れに若干度肝を抜かれていると、隣で馬を走らせているエーデルガルトが柔らかく微笑んで、そっと囁いた。

 

「大丈夫よ、師。微笑んで手を振りましょう。それが人の上に立つも者の所作よ。」

 

そう言って、彼女は黄金の鎧を太陽の光で輝かせながら、にこやかに手を振っている。

 

…すごいな、エーデルガルトは。流石に人の上に立つのに慣れている。私もぎこちなくだが微笑んで、彼女の真似をして宮城まで向かった。

 

…ちらりと後ろを見ると、レアもセテスも手慣れたものだ。落ち着き払って民衆と接している。

私も慣れないとな…。

 

ソティスが嬉しそうに無邪気に周りの歓声を上げる人々を眺めている。

 

「うむ!わし達に相応しい活気よ!」

 

 

 

「………できればここは戦場にしたくないな。」

 

「そうね。宮城で全ての決着をつけましょう。」

 

 

私の懸念の呟きに、エーデルガルトはそう覚悟を決めた顔で答えた。

いよいよ、敵の本拠地に入るわけだ。

立派な宮城の門にまで来ると、帝国の儀仗兵達が双頭の鷲の刻まれた角笛を鳴らし、盛大に私達を出迎えた。

その正面から、上等な絹の式典様と思わしき服を着て橙色の髭を生やした、禿頭で小太りの男性が現れた。

彼はにこやかに私とエーデルガルトに礼をすると、丁寧に語りかけた。

 

 

「大司教猊下、お初にお目にかかります。私はアドラステア帝国の宰相である、ルートヴィヒ・フォン・エーギル。…長旅お疲れでしょう。式典までどうかおつくろぎください。」

 

…この男が、現エーギル公…!正直、毛の色以外フェルディナントと似ている所はあまりない。彼は母親譲りの美形なのだろうか。

私は警戒を顔に出さない様に努めて、にこやかに言葉を返した。

 

「歓迎のお言葉痛み入る。貴方のご子息から話は聞いている。帝都にいる間よろしく頼むよ。」

 

そう言って握手を交わすと、今度はエーギル公はエーデルガルトの方へと話しかけた。

 

「殿下も実に立派なお姿で…実は少々尋ねたいことがあるのですが。ベストラ侯の姿が今朝から見えぬのです。彼の部下は問題なく働いているのですが、何処にいるかご存知ありませんか?」

 

「ヴァルデマーとゲルズの奴ももう戻っているのですが。奴の姿だけ見えんのです。」

 

すると、エーデルガルトはチラリとヒューベルトの方を見た。彼は不気味に笑うと、淡々とその疑問に答えた。

 

 

 

「父はどうも少々体調が優れぬようでして。代わりに私が式典に出るようにと、言伝を預かっています。部下についても同様に私が指揮せよと。」

 

「む。そうであったか。…まあ、くれぐれも慎重に頼むぞ。今日は…。いや、まあ良い。」

 

 

 

そう口淀んでエーギル公は納得すると、今度はセテスやレアの方へと歩み寄っていった。

…エーデルガルトから聞いた話では、ベストラ侯の工作兵達が私の暗殺を実行することになっている。それを息子に預けて大丈夫なのか、と、そう問いたかったのだろう。

 

…まあ実際はもうベストラ侯はこの世に居らず、部下達は逆にエーギル兵達とアランデル公を監視しているのだが。

 

私達は乗ってきた馬をエーデルガルトの兵達に預けて、控え室へと向かう。その際に、フェルディナントが意を決した様子でエーギル公に話しかけた。

 

「父上!式典の前に、少々お伝えしたいことがあるのですが、後で部屋でお時間よろしいでしょうか。」

 

「おお!フェルディナント。何の話だ?…まあ、良いが。では二人で話そう。…お前の士官学校での暮らしぶりも聞いておきたい。元気にしていたか?」

 

 

その顔つきは、どこまでも穏やかな父親としてのもので。フェルディナントは歯痒そうに苦しんでいるかのような顔を一瞬した。

…私は咄嗟に話に入るかと思ったが、フェルディナントは無言で父に礼をして私の後に続いた。

 

 

「…安心したまえ。確かに彼は私の父だ。…今でも敬愛、している。」

 

「だが、それ以前に私はアドラステア帝国の貴族なのだ。やるべきことは、分かっている。」

 

 

…覚悟を決めた戦士の目だ。この目をした人間は、強い。私は自分の生徒の成長を頼もしく思いながら頷いた。

 

 

控室の間は、私とレア、そしてセテス用の豪華な一室と、連れ添ってきた文官用の大きな広間が与えられた。騎士達と護衛の生徒達は別の部屋に案内された。

…騎士と生徒達の部屋と私たちの部屋の位置が遠い。

これはまず援軍がすぐに駆けつけられないようにしているな。

この部屋で私達を暗殺する手筈だと聞いている。まあその暗殺要員はもう私達の手の内なのだが。

 

…私達が控室に入ると、やがて部屋の陰からシャミアが現れた。レアが真剣な顔でシャミアに問いかける。

 

「首尾はどうですか?」

 

「問題ありません。ベストラ侯と教団の暗部で宮城は8割方監視下にあります。」

 

「エーデルガルトの言う通り、得体の知れない魔導士…闇に蠢く者も多数見られます。その指揮官らしき者は、やはりアランデル公。」

 

セテスは顔を険しくしてその報告を聞いていたが、忌々しそうに呟いた。

 

「…これでいよいよ確定したな。ならば計画を実行に移すのみだ。暗部の総員とヒューベルト…それに精鋭騎士達に伝えよ。動くは今だ!」

 

「はっ。」

 

即座にシャミアはまた影に消えていった。

…本当に優れた密偵だ。彼女以上に気配を消すのが上手い人間はあまり見たことがない。

 

「いよいよですね。後はうまくいくことを祈りましょう。いざとなれば…。」

 

「ああ。戦闘準備は万端だ。問題ない。」

 

私はそう天帝の剣を掴んで、レアに不敵に笑った。

 

 

**********************

 

指令は下された。

フェルディナントがまず動き出す。

彼はエーギル家の屈強な兵隊の警護を素通りして、エーギル公の豪華な自室の扉を叩いた。

 

「父上、フェルディナント・フォン・エーギル、参りました。」

 

「うむ。入れ。」

 

フェルディナントは木製の扉を開けて、煌びやかな金細工の入った椅子に座る父親と対面する。彼はにこやかにフェルディナントの羽織っている外套を見て、満足げに頷いた。

 

「私が仕立てた外套はやはりよく似合っているぞ、フェルディナント。さあ、座って士官学校での生活を聞かせてくれ。」

 

「……………父上、お許しください。」

 

「ん?」

 

次の瞬間、フェルディナントはエーギル公に掴み掛かると、不意を突かれた彼を一瞬で床に組み伏せた。

 

「な、何をする!?どういうことだ!?」

 

「……エーデルガルトから話は聞きました。貴方のやったこと、やろうと、していることを。」

 

「なっ!?まさか、殿下がお前を差し向けたのか!?私を今更裏切ろうと…!」

 

騒ぎを聞きつけて、部屋の扉を開けてエーギル家の鎧を身に包んだ護衛達が入ってくる。

だがよりによって下手人は自分たちの次の当主だ。呆気に取られた家臣の一人が叫んだ。

 

「何のおつもりですか!?フェルディナント殿!」

 

「聞け!父は大罪を犯した!今から私こそがエーギル公である!エーデルガルト殿下も認めてくださった!!」

 

その言葉に、エーギル家の家臣達はさらにざわめきを強める。そして、組み伏せられているエーギル公ははっとしたように叫んだ。

 

「まさか、ベストラの奴も…!…己の子供に、追い詰められるとは…!」

 

 

**********************

 

 

さらに同時刻、書庫番のトマシュは、騎士達と同じ控え室で式典に関する最終確認を文官達と行っていた。

そこに、一人の聖騎士…カトリーヌが声をかけた。

 

「トマシュの爺さん、悪い。どうもうちの若いのが儀礼の所作ってやつを忘れちまってな。」

 

「騎士の控室まで来てくれないか?」

 

何気ない風を装ったカトリーヌの言葉に、トマシュ…否、ソロンは僅かに違和感を覚えた。普段なら見逃すような違和感。だが今の彼は違った。

 

 

 

「…あのソティスの依代、タレスのノロマ爺に勘づいてるかもしれねえ。次の帝都での式典、てめェも行くんだろ?気をつけとけよ。それだけだ。」

 

(…なぜ騎士をここに連れてくるのではなくわしをわざわざ呼びに来た?…まさか。)

 

クレオブロスの忠告を聞いていた彼は、やんわりと鎌をかけることにした。

 

「カトリーヌ殿。では文官の一人を行かせましょう。わしは申し訳ありませんが少々手を離すのが難しいので…。」

 

カトリーヌは少し焦ったかのように答えた。

 

「いや、あんたにお願いしたい。評判なんだよ、あんたの説明は分かりやすいってさ。」

 

トマシュは暫く無言で黙ると、低い声で小さく呟いた。

 

「…もしや、気づいているのか?」

 

瞬間、カトリーヌは雷霆を即座に抜いた。

凄まじい殺気を放ち、トマシュの首を切り飛ばさんと横凪に凄まじい斬撃を放つ。

 

「ぬっ…おおお!!」

 

だが相手も警戒していた闇に蠢く者。咄嗟に後ろに仰け反って躱そうとする。が、相手はセイロス聖教会の聖騎士。ソロンの首の中ほどまで刃は届き、赤い血飛沫を撒き散らした。…致命傷だ。

 

ソロンはトマシュの擬態を解き、虫のように歪なほど大きくなった頭部の邪悪な闇に蠢く者へと姿を変える。

カトリーヌはさらに斬撃を叩き込もうとするが、ソランは瀕死になりながらも闇の魔道を展開した。

 

「わしは…わしが死んでも、せめてタロス様を…!」

 

ソロンは転移の魔道を展開し、瞬時にその場から消え去った。カトリーヌは大きく舌打ちし、騒然とする文官の中で叫んだ。

 

「クソっ!!しくじった!!急いでレア様とエーデルガルトに連絡しねえと…!」

 

 

**********************

 

同時刻、アランデル公は皇帝の間で、エーデルガルトの父である現皇帝、そしてエーデルガルト、その側近のヒューベルトと打ち合わせを行なっていた。

 

 

 

「…貴様はただここで悠然と座って居れば良い。」

 

そうアランデル公は皇帝に吐き捨てるように言った。

現皇帝は病弱そうな土気色の顔を青くして、咳き込みながらもアランデル公に尋ねた。その姿は皇帝と呼ぶにはあまりに弱々しかった。

 

「ほ、本当に大丈夫であろうな?エーデルガルトに危害が加わることは…。」

 

「有り得ん。ただ無様に女神の狗が朽ち果てるのみよ。…我らの悲願を叶えるため、こんなところで死なれるわけにはいかん。」

 

 

 

エーデルガルトはそのアランデル公の言葉にふっと笑って答えた。

 

「ええ、そうね。愚か者が、無様に死ぬだけよ。」

 

その頭上では、影に潜む美しき暗殺者、シャミアが弓矢を構えていた。

静かに狙いをアランデル公の脳天に定める。

 

「終わりだ。」

 

そう小さく呟くと、シャミアは狙いを定めて弓を引いた

 

 

次の瞬間、転移の魔道の暗い光が玉座の間を包んだ。

首から夥しい量の血を流しているソロンが膝をついて現れた。

 

その場の全員が、目を見開いた。

そして、アランデル公にソロンは即座に叫んだ。

 

「これは罠です!お逃げを!タロス様!!」

 

瞬間、エーデルガルトが斧を振り上げ、ヒューベルトは闇の魔道であるドーラをアランデル公へと向けた。

 

「……血迷ったか!炎帝!」

 

その攻撃を闇の障壁で受け流し、タレスは変身を解いて叫んだ。

瞬間、タレスの合図で万が一に備えていた魔獣と闇の魔導士達が大広間でエーデルガルト達を取り囲んだ。

 

「…これは、想定外ね…!」

 

後にアンヴァルの変と呼ばれる血みどろの戦いの火蓋が、ここで切って下された。

 

 

 

 

 

 

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