「え。リサ先輩、バイトやめちゃうんですか」
「うん、大学に入ってからバンド活動が忙しくなったから、バイトと両立するのが厳しくなっちゃって。ちょっと寂しいけど、金子くんならきっと大丈夫☆だって、アタシが育てた最強の後輩だからね」
「嫌です、どうして……」
「ごめんね、もう退職届出しちゃったんだ」
「今からでも取り下げてください。だって、リサ先輩がバイトやめたら、僕とリサ先輩の接点、なくなっちゃうじゃないですかあ〜……」
春は出会いの季節であるとともに、別れの季節でもある。それはアタシも同じで、バンド活動に集中するためにアタシは今まで続けていたコンビニバイトをやめることになった。
今日が、最後の出勤日。一緒にいるのは長い間一緒に働いてきた後輩の金子くん。金子くんはいつもアタシを慕ってくれて、すごいかわいい後輩だったなあ。
そんな金子くんに会えなくなるのは寂しいけど、前を向かなくちゃ。正直、すごく寂しいけど……そんな気持ちを抱えながら、アタシはレジに立つ。そんなアタシに、金子くんはこう言った。
「えっと……僕、今高校三年なので、来年はリサ先輩と同じ大学に入ります。その時はまた仲良くしてくださいね」
「いやでも金子くん、男の子だよね? アタシが通ってるの女子大だよ?」
「なんとかして来年までに女の子になります」
「そこまでする!?」
「えっ、もしかして今から同級生として進学してくればいいですか?」
「えーっと、そうじゃなくて……」
うーん、金子くん、すごく寂しがってるみたいだなあ。女の子になってうちの大学に行きたいって言ってるの、相当だもん。
でも、そんなに大切に思ってもらえたのは嬉しいかも。ちょっとだけ、口元が緩む。
「ねえリサ先輩、どうしてやめちゃうんですか! 考え直してくださいよ〜! 僕、まだまだリサ先輩と働きたいです! 全然お茶汲みも肩揉みもしますから、もっと一緒にいましょ?」
「気持ちは嬉しいんだけど……アタシは、Roseliaに全てを賭けたいんだ」
「なら僕にも全てを賭けてくださいよお!」
「アハハ、ワガママだなあ……」
──ああ、こんな日も、今日で終わっちゃうんだなあ。少しだけ、寂しくなる。
このバイトを通じて、アタシはモカと出会って、金子くんと出会って、うん、本当にいろんな出会いをした。
それも今日で、最後なんだ。ああ、ダメだ。ちょっとだけ、目がかゆいかも。
「僕、このバイトが初めてのバイトで、すごく緊張してたんです。でも、リサ先輩は、そんな僕にも優しく仕事を教えてくれて、すごく嬉しかったです」
「金子、くん……」
「それからずっと、リサ先輩と一緒だったので、寂しいなって。リサ先輩は、ずっと、僕に優しくしてくれたから。このコンビニには、リサ先輩との思い出がたくさん詰まってる。それがなくなるのは、イヤだなって」
「もー、せっかく最後の日なんだから、名残惜しくなるようなこと言わないでよ〜!……アタシ、泣いちゃうじゃん」
……だめだ、だめなのに。涙が溢れて、止まらない。アタシは前に進まなきゃ、なのに。今まで過ごしてきた日々を、たくさんの思い出を、アタシはこのコンビニに置いていくのかな。
どうにか、心の中に保存しておけないかな。ずっとずっと離れない、思い出にできないのかな。
「リサ先輩、泣かないでください」
「……ごめん、金子くん、なんだかアタシ、今日ちょっと涙脆いのかも……」
「いいんですよ。そんなリサ先輩が、僕は好きなんですから」
「うん、ありが……って、えっ!? 好き!? 金子くん、お姉さんを揶揄うのはあんまりよく、ないんじゃない……かな?」
そんな時、金子くんがいきなり口にした「好き」の言葉。思わずアタシは大きな声を出してしまう。
いや、別にそう言う意味じゃないのかもしれないけど、単純な好意なのかもしれないけど。アタシの心拍数は、どんどん上がっていく。
「僕、気づいたんです。リサ先輩がこのバイトを辞めるのと同時に縁が切れると思ってたんですけど、無理矢理にでも縁を繋げばずっとリサ先輩と一緒にいられるってわかりました」
「だからこれ、僕の連絡先です。メッセージアプリでも電話でもいいから、これからも毎日僕に話しかけてください。バイトがあっても、バイトがなくても、僕はリサ先輩と一緒にいたいです」
「ねえ、リサ先輩。ここで過ごした思い出ごと、僕を連れて行ってください。それだったら、寂しくないでしょう?」
金子くんは、そう言って一枚の紙切れをアタシに差し出す。ああ、完敗だなあ。
そっか、そうだ。何でこんな簡単なことに気づけなかったんだろう。無理に思い出を置いていかなくても、思い出ごと一緒に連れて行けば、寂しくないわけだし。
金子くんは、本当にすごいなあ。アタシ、思わず感心しちゃったよ。アタシはその紙切れを受け取ってポケットにしまって、改めてレジに立つ。
これからのアタシの未来が、よりたくさんの出会いに満ちていることを願って、アタシは明るい未来について考える。なんだか、それだけでワクワクしてきちゃうな。
「ってわけで今週の土日空いてますか? デートしましょう」
「気が早すぎ!」
……ただ、とりあえずは金子くんとの関係をどうするかから考えた方がいいかも。