タイトルは語呂合わせ。

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2023年3月9日 ハーツクライ死去

多少ネタ的な描写がありますが、共に戦った彼等の事は今も尊敬しています。


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 ◇

 

「奴の居場所がわかった」

 

ここは日本中央トレーニングセンター学園。ここには日本全国から集まったエリート揃いのウマ娘達がレースで天下を取らんと某世紀末漫画かの如く日夜争いを繰り広げている……なんてのは誇張し過ぎだ。あの漫画の様な血生臭い雰囲気は無く、皆ライバルでありながらも仲良く切磋琢磨していると言い換えておく。学園の正式名称が長ったるく語呂も悪い為か、周辺に住む人々や大概のイベント事などでは『中央トレセン学園』という略称で呼ばれている。

 

その中でもトレーニング専用の競技場や食堂と並んで多くの生徒で賑わうラウンジで談笑していた三人の内の一人のウマ娘が冒頭のセリフを吐いた。

 

しかしこの三人、姿形こそ紛う事なきウマ娘なのだが実は学園の生徒ではない。厳密に言えばかつては競技者として数多のレースに出走していたが、現在は現役を退いた"元"生徒である。

 

そして現役時代に培った知識や経験を後輩ウマ娘達に教えとして指導するトレーナーという立場で今もこの学園に関わっている。

 

「…なぁタイド、こいつが誰の事言ってるか検討付くか?」

 

「いや、私にはさっぱり…」

 

一番はっきりして欲しい固有名詞の部分がごっそり抜け落ちた発言一つで答えを導き出すなど無理に等しい。彼女の言う"奴"が一体誰の事なのか二人の頭に?マークが浮かぶ。

 

とりあえず二人共に頭の中で思い当たるウマ娘を割り出してゆく。その内の一人、タイドと呼ばれたウマ娘が口を開く。

 

「もしかして私の妹とか?」

 

「はぁ?」

 

「あからさまに嫌な顔するなよ。私が傷付く…」

 

タイドことブラックタイド(以下タイド)の妹は皇帝や芦毛の怪物、世紀末覇王や金色の暴君などと並んでトレセン学園の伝説として語られる事の多いウマ娘の1人。衝撃という名を与えられたその娘は皇帝シンボリルドルフ以来史上二度目となる無敗の三冠ウマ娘となり、引退までに積み重ねたG1勝利数は七つにも及ぶ。しかもラストランを圧勝で飾るというオマケ付きだ。

 

姉である自分とは天と地ほどの差がある戦績ではあるが、そんな妹の事を誇らしいとタイドは思っている。しかし彼女の反応を見るにどうやら正解ではないようだ。

 

「あいつはしょっちゅう学園に顔を出すだろ。何せ会長様と理事長のお気に入りなんだからさ。それに…」

 

顔を合わせる度に絡まれるんだよ…

 

これまで何度も同じ目に遭っているのか、今で言うダル絡みを喰らわせられる情景を思い出すだけでも頭が痛むようで本当にほんっとおおおおおおおに面倒くさそうにそう吐き捨てる彼女の目はどことなく遠い彼方を見つめている様にも見える。

 

「そりゃ"あっち"からしてみたらクラシック無冠の平々凡々なウマ娘に出し抜かれたんだからよっぽど根に持ってるんじゃないのか?ハハハ」ケラケラ

 

タイド「…おいメジャー、ウチの妹を陰湿な奴扱いするのやめろ。少なくともこいつよりかは愛嬌はあるよ」

 

「…お前ら私の事を何だと思ってるんだ」

 

メジャー「天然ウマ誑し」

 

タイド「ポンコツイケメンウマ娘」

 

「お前ら本当に……」

 

タイド、メジャーことダイワメジャー(以下メジャー)双方からあんまりな事を言われ彼女は頭を抱えた。本人にとってこの評価は大いに不満だが、実はこれがあながち間違いという訳でもない。

 

というのも彼女は生まれつき端正な顔立ちで見てくれが非常に良い事は学園内ではかなり有名である。それでいて立ち振舞いもクールで常に落ち着いているからか、道行くウマ娘達から黄色い悲鳴が飛ぶのも一度や二度といった話ではない。

 

だがこの場に居る二人の彼女に対する評価は違う。確かに見た目も言動もイケメンそのものではあるのだが、前者はともかく後者は決して狙ってやっている訳ではない。それに性格は自分ルール絶対主義の頑固者で天然ボケ魔人属性(今は少しマシになったらしい)を併せ持つ面倒な奴との事(メジャー談)。

 

そんな問題児(これもメジャー談)がトレーナーとしての道を歩む事を知った時は割と本気で不安を覚え、彼女の担当になるウマ娘達に憐れみの視線を向けた程だ。だがここでメジャーの言う天然ウマ誑しの性分がプラスに働いたのか、彼女の教えを受けたウマ娘は国内外のレースで悉く成果を挙げていき今となっては数多くのG1ウマ娘を輩出する名トレーナーという地位を不動のものとした。

 

そして現在の彼女の担当ウマ娘がジュニア期の頂点を決める朝日杯FSを勝利し早くもG1を獲ったかと思えば生涯一度の夢舞台と言われる日本ダービーを制して早々と名ウマ娘の仲間入りを果たした事は記憶に新しい。

 

ダービーを獲った事で気分を良くした彼女は日本のウマ娘が未だ成し遂げていない『凱旋門賞の制覇』を次なる目標に定め、それに向けて担当ウマ娘と調整している所だと言う。

 

メジャー「…っていうかよぉ、今さら奴とやらの居場所を知った所でどうするつもりなんだよ。後少し経てばお前もおフランスに行かなきゃいけないしそれどころじゃなくなるだろ」

 

「いや、そいつは今そのフランスに居るって話なんだ。だからタイミングとしては寧ろ丁度いい」

 

彼女がトレーナーとして凱旋門賞に挑むのはこれが二回目となる。前回挑んだ時も自信はあったしそれまでに幾つもG1を獲っていた事から意気揚々とフランスへ乗り込んだのだが、元々不安視されていた距離適性の問題が表面化した上に、当時担当していたウマ娘の友人である破天荒な浮沈艦がトレーナーをとある森に置き去りにした事件の対応に神経を持っていかれた結果本番では全くと言っていい程力を発揮出来なかった。

 

そんなこんなで一度は凱旋門の分厚い壁に跳ね返された彼女は虎視眈々と逆襲の機会を伺っていたのだが、そのタイミングで奴の事を知るウマ娘と偶然出会えた事がフランス行きを決めるもう一つのきっかけとなった。

 

「いつまでも勝ち逃げされたままじゃあ気分が悪いし……ダービーの時の借りを返す機会がやっと巡ってきたんだ」ゴゴゴ

 

((あ、あいつの事か…))

 

メラメラと業火の如し闘志を漲らせる彼女を見て2人は奴と呼ばれたウマ娘の正体を突き止めた。

 

後に『死のダービー』と語り継がれるあのレースは気温もさる事ながら、観客の熱気も凄まじかったからか実際の気温以上の暑さを感じたレースであった。

 

日本ダービーと言えばクラシック三冠レースの内の一つ(後の二つは皐月賞と菊花賞)でURA主催で開催されるトゥインクルシリーズのG1レースにおいて最も格式の高いレースと言われている。『ダービーウマ娘』という肩書きは全ウマ娘達が喉から手が出る程欲しい大変箔が付く称号でダービーを獲る為にレースをやっているウマ娘も存在する程だ。それ故にダービーで燃え尽きてしまうウマ娘も一定数存在する訳だが。

 

もちろん彼女もダービーウマ娘の称号は欲しい。皐月賞でメジャーの後塵を拝した事もあってこれ以上無い位完璧に仕上げて臨んだのだが、そんなダービーに彗星の如く現れた"大王"においしい所を持っていかれた。上がりの3ハロンでは最速タイムを記録し意地を見せて大王に差し迫るも、最後まで影を踏む事は叶わず結果として2着に終わる。

 

それ以来大王をライバル視して「次の菊花賞では必ず…」と意気込んでいた彼女だったがこのダービー以降、大王は菊の舞台はおろか二度とレース場に姿を現す事は無くリベンジを果たす機会は失われた。原因はウマ娘には付き物とも言える脚部の怪我との事らしい。

 

同期として鎬を削った2人だからこそ分かる事だが、それ以降彼女はシニア1年目のジャパンカップ(以下JC)を迎えるまでレースに対するモチベーションを完全に無くしていた。そんな折に彼女の今後を大きく左右する事件が起きる。

 

ジャパンカップ前に当時彼女を担当していたトレーナーが過労で倒れた。練習でもレースでもやる気を出さない彼女を焚き付けようと躍起になっていた最中の事であった。

 

原因が自分にあるならば、せめてレースで勝ってトレーナーを勇気付けたいと臨んだJCだったが真面目にトレーニングをしてこなかったツケはあまりに大きく、またそれで勝てる程レース…ましてやG1の舞台は甘くなく、結果は僅差の2着に終わった(それでも充分凄い事だが)。

 

しかもその負け方が大王に煮え湯を飲まされたあの時のダービーとひどく酷似していた為に余計に悔しさと情けなさに苛まれ、レース直後に人目を憚らず泣き叫んだ。その時はメジャーもタイドも掛けるべき言葉が見つからず、彼女を両脇に抱えて黙ってその場を去る事しか出来なかった。

 

だがタイド曰くこの敗戦が彼女の人生を大きく変えたと言う。その後の有記念、そしてドバイシーマクラシックの勝利はこのJCでの敗戦があってこそだと分析好きのタイドはそう思っている。

 

そういう訳で彼女と大王との間には少なからずの因縁がある。向こうが彼女の事をどう思ってるかどうかは彼女にとっては知った事ではない。

 

「あいつの居場所がわかったから私は今からフランスに行く。向こうのお土産が欲しがったら一言頂戴、考えてあげる」

 

タイド「買うかどうかは気分次第なんだね…」

 

メジャー「…凱旋門の事忘れてない?」

 

「そんな訳ない」

 

担当を勝たせる事が最優先事項、大王とのリターンマッチはあくまでついでだと後半部分を強調して彼女は言う。その割には上がった口角を全く隠しきれていない。こいつ絶対忘れてただろとメジャーは思う。

 

『強きを挫け』。これは彼女がトレーナーとなった時に競走ウマ娘として自身の価値を高める手っ取り早い手段は何かと考えた際に誕生したいわば彼女の座右の銘だ。彼女は言う、レースとは『どれだけ勝つか』ではなく『誰に勝つか』が最も重要であると。

 

彼女が最終的にトゥインクルシリーズで残したG1勝利数は前述の有記念とドバイシーマクラシックの2つ。数多の名ウマ娘達と比較すればこの戦績は少々物足りないと思うかも知れない。

 

しかし、負かした相手が凄かった。有記念では無敗の三冠ウマ娘となったタイドの妹を半バ身差で破り、ドバイでは当時の欧州年度代表ウマ娘を千切り捨てた。JC前のどん底の状態から一気にスターダムの階段をのし上がっていった。

 

ところがトレーナーやタイドの分析から今まさに本格化したと思われ、これからトゥインクルシリーズでの栄光の日々を送ると思われていた彼女の全盛期は突然終わりを迎える事となる。

 

シニア2年目の中盤、正確にはドバイシーマの後に参戦したイギリスの格式高いG1レースで三つ巴の叩き合いを演じた(結果は3着)直後、かねてより不安を抱えていた呼吸器系統が悲鳴を上げた。

 

それでも騙し騙しやってきたが日々症状は悪化していき、秋を迎える頃にはとうとう日常生活にも支障をきたす様になってきていた。トレーナーの制止を振り切って強行出場したJCでは有記念以来となるタイド妹との再戦という事で大きな盛り上がりを見せたが結果的に見せ場すら作れず惨敗。掲示板に載る事はおろか完走すらやっとの状態であり、この時観戦していたメジャーはレース終了直後に喉元を押さえてその場に座り込む彼女の痛々しい姿を悲痛な面持ちで見る事しか出来なかった。

 

結局彼女はこのレースを最後に現役を退いた。その後彼女は1から勉強をし直して中央トレセンでは特に狭き門と言われるトレーナー採用試験を合格して現在に至るという訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「…さてと、そろそろ行こうか」

 

そう言うと彼女…もといハーツクライはスクリと立ち上がり歩き始めた。タイドとメジャーも後に続き、彼女を見送る為に学園の正門へと向かう。その際あくまでも最優先は担当ウマ娘の凱旋門賞挑戦である事を忘れずに釘を差しておく。

 

メジャー「吉報を待ってるぞ。後土産も忘れんなよ」

 

ハーツ「あぁ、今度こそ大王を負かしてみせる」

 

タイド「違う、そうじゃない」

 

彼女の意気込みを聞いて景気よく送り出すはずだったが、肝心な所でハーツの天然ボケ魔人っぷりが炸裂してしまい、三人の間に微妙な空気が流れる。ちなみにハーツが担当するウマ娘は既に空港へと向かっているところである。

 

最後の最後でなんとも締まらない空気感にはなったが、これも3バカトリオ(タイド「解せぬ」)らしくて良いかと割り切って見送る事にした。メジャーは高々と、タイドは控えめに手を振ってハーツを送り出す。ハーツは暫し二人を見合った後に視線を前方に向けて後ろ手でヒラヒラと手を振りながら歩を進めてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その刹那、見送る側の二人の横を猛スピードで駆け抜けてハーツに迫る人影が。その者はスピードを殺さぬままハーツの背中目掛けて勢いよくダイブ…

 

ハーツ「ぐわぁ!!」

 

突然襲った背中への()()()()に変な声を上げて前に倒れそうになる。しかし例え現役を退いた身であったとしてもそこは人並み外れたフィジカルを持つ事に定評のあるウマ娘、寸での所で耐え忍び彼女自慢のイケメンフェイス(メジャー談)に傷が付く様な事態は免れた。

 

タイドを除いて何一つ状況を飲み込めてない二人を他所にハーツに突撃をかました張本人は彼女の腰にしがみついたまま、誰が見てもそれと分かる程の膨れっ面でハーツに抗議する。

 

「酷いじゃないですかぁ!!私に挨拶の一言も寄越さずフランスに行くつもりですか!?」

 

ハーツ「なんで私が挨拶しなければいけないんだ!大体お前には関係の無い話だろ!」

 

「ズルいですズルいです!私もフランスに連れて行って下さい!!」

 

ハーツ「誰が連れてくか!!っていうかなんで私がフランスに行く事を知ってるんだ!?」

 

「ドヤ顔で「奴の居場所がわかった」って言ってたじゃないですかぁ!」

 

ハーツ「ほとんど最初っからじゃねえか!!」

 

よりにもよって一番関わりたくない相手に知られてしまったとハーツは心の中で舌を打つ。懸命に振りほどいて逃げようとするも、腰にしがみつくウマ娘のパワーは凄まじく一向に離れる気配が無い。

 

後ろの二人に目で助けを求めるが、メジャーは「ドンマイ!」と言いつつサムズアップ。タイドに至っては微笑ましげに見ているだけ。土産は絶対に買わないとこの時ハーツは心に誓った。

 

ちなみに余談だが、ここでの押し問答を長々と続けてしまったが為に大幅に時間をロスしてしまい危うく飛行機を乗り過ごすところであったと付け加えておこう。

 

「いーやーでーすー!ハーツさんが首を縦に振るまで絶対に放しませんんん!!」ジタバタ

 

ハーツ「だあああああああ!!クソ面倒くせえええええええ!!」ジタバタ

 

ハナシヤガレコノチビスケェ!!

 

アー!イマワタシノコトチビスケッテイイマシタネ!?モウゼッタイハナシマセンカラァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと会えたな大王…いやキングカメハメハ。『死のダービーの』続き、始めようか」

 

「WAO!!ハーツさんやる気に満ち溢れてますネ!でも、今度も勝つのは私デース。

 

ところで隣のポニーちゃんはどなたデスカ?」

 

「ポニーじゃないです!でもよくぞ聞いてくれました!私はーー」

 

「勝手に付いてきただけだからこのちんちくりんの事は無視していい」

 

「あー!また私の事をチビ扱いしましたね!?酷いです酷いです!」

 

【完】




本来なら去年の今頃に書くべきでしたが、ウマ娘から競馬を知りそして史実のハーツクライ号を知った時には既に彼は虹の橋を渡っていました。なのでこれは今日という日が来るまでずっと温めていた話です。

特に覚醒の夜明け前となった05年ジャパンカップの描写には苦労しました。史実での彼の活躍…そして道を繋いだジャスタウェイを始めとした産駒達の存在を知れば知るほど、何故彼の事をもっと早く知っておかなかったのかと思うばかりです。執筆してる途中に色んな想いがこみ上げてきて思わず泣いてしまいました。

彼の同期達…特に同じSS産駒のダイワメジャーとブラックタイドには1日でも長く生きていて欲しいと願うばかりです。

そしていつの日か近い将来、彼等がウマ娘に登場する事を願って締めの挨拶とさせていただきます。それでは


R.I.P.

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