下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい   作:百合好きの獣

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毎日投稿ラッシュ、継続――!

またまたまたFAを頂いております

【挿絵表示】

カワイイ。
カワイイしか、言葉が出てこない。完全に主婦だね♡式はいつ挙げるのカナ?


#20 おさななじみ と 夏休み

 後藤ひとりは動画投稿者である。

 大手動画投稿サイトに、ギターヒーローという名のアカウント名でギターを演奏した動画を投稿しており、その並外れた実力とセンスでチャンネル登録者数が四万人を超える人気を誇り、ここ数日でさらに数字を伸ばしている。

 

 この四万人という数字は、決して低い数字ではない。むしろ、非常に高いものだ。

 

 昔と比べ、スマホで誰でも手軽にインターネットを閲覧したり、動画を撮影・編集して投稿することが可能な今、動画を投稿しているチャンネルだけでも星の数ほどある。

 その中で四万人のチャンネル登録者数があるというのは、全体の1%未満であり、動画投稿を本業として食べていくことも不可能ではないだろう。

 しかも、ひとりは顔出しをしているわけでもなく――本人に自覚は無いが整った容姿を売りにせず――ギターの演奏という、ゲーム実況や企画系等の万人受けをするものではないコンテンツのみで活動している。

 もっと言うと、投稿者コメントが一目見て嘘とわかるイキリコメントというデバフ状態で尚、それだけの注目を集めているのだから、その実力の高さも推し量れるというもの。

 

 かつてはバンドに参加することを夢見ながらも行動に移せず、無聊を慰めるために始めた――承認欲求を満たしたかった――動画投稿だった。それが、毎日動画を投稿するうちに少しずつ少しずつ実力が上がり、それに応じて再生数が増えたりコメントを貰ったり高評価がついたり――といった事を繰り返すうちに、ひとりの日常に動画の撮影や投稿が加わった。

 

 これは、そんな彼女の日常の1シーンである。

 

(前に動画を投稿してから時間が空いたし、そろそろ撮影しようかな……)

 

 スターリーでの初ライブ――ひとりにとっては二回目だが――から数日。8月に入り、本格的に夏休み突入したひとりは絶賛暇を持て余していた。

 ひとりとしてはいつでも誘ってきてくれて構わないのだが、今のところ結束バンドのメンバーからお誘いは無く、部屋のカレンダーはバイトの日以外が全部空欄となっている。自分から誘えばいいじゃんって? そんなことが出来ればひとりは”ぼっち”というあだ名をつけられたりはしない。言葉を慎みたまえ。ひとりが傷ついてしまう。

 なので、ライブ後から今に至るまで、ひとりはバイト以外で外出しようとする素振りが無く、後藤家からは「あの時見たひとりの友人達はやはり幻だったのでは……?」と思われ始めていた。悲しい。

 

 そんなことをつゆとも知らないひとりは、「まあまだあと1か月もあるし、これからお誘いの連絡がくるはず」と楽観的に考えながら、自身の投稿した動画を確認する。

 マイページの通知欄を見ると、沢山のコメントが付けられているのが分かり、ひとりの自尊心が大いに満たされていった。

 投稿したての頃と比べると、コメント欄はずいぶんと賑わっている。前のようにひとつひとつのコメントをしっかりと見ることは難しくなってしまったが、出来るだけ目を通していく。

 

 その中で、いくつかのコメントが目に留まった。

 

 それは、「〇〇を弾いてほしい!」という演奏曲のリクエストだ。

 ひとりの投稿者マインドは承認欲求を満たすことに重きを置いているので、こういったリクエストには積極的に答えるようにしていた。

 一番新しいモノから順に拾っていくと、リクエストコメントはその殆どが一つの曲を指している事が分かった。

 

「ライ〇ック……? どんな曲なんだろう。こんなにリクエストがあるってことは、最近流行ってるのかな」

 

 ひとりはそのまま検索窓に『ライ〇ック 曲』と入力し、表示された動画の一覧を見て――爆散した。

 

 ライ〇ック。

 Ms.Gr〇enAppleというアーティストがリリースした曲である。

 そして、ひとりにとっては劇毒とも言える――ゴリゴリの青春ソングだ。

 そも、アーティストの時点でいけない。彼らは押しも押されぬ若手バンドであり、ビジュアルからリリース曲まで陽の化身のような存在なのだから。

 その対極に位置すると自認しているひとりにとって、それはアーティスト名を目にしただけで七度は死ねるものだった。

 

 だが。

 

「ぐっ……ぎぃ……」

 

 なんと、爆散したはずのひとりだった欠片たちが、徐々に元の姿に戻ろうとしていた。その輪郭はノイズ交じりで頼りなく、風が吹けば無くなってしまいそうな弱さではあったけれど、それでもひとりは歯を食いしばり、存在を保とうとしていた。

 

「ま、まだだ……!」

 

 血反吐をぶちまけそうな表情であっても、ひとりは耐えきった。

 危ない所だった、とひとりは思う。もし、百合に甘やかされたり、ライブで大成功を収めたプラスの思い出が無ければ、このまま死んでいた、と。甘やかしはプラスなのか?

 

(今の私は、この前の私よりもちょっと強い……! 虹夏ちゃん、百合ちゃん、リョウさん、喜多さん……! 皆との思い出が、私に力を与えてくれる――!)

 

 結束バンドのメンバーがこの様子を見れば、曲を聴くどころか動画のサムネイルを目にするだけで死の縁を彷徨う、マンボウよりもか弱いひとりの生態に呆れと憐みを覚えるだろうが(無論、一人を除いて)、今この場には自分を客観視してくれる第三者は一人として居ない。

 

 こうして孤独に盛り上がっているひとりは、そのまま勇んで公式MVであろう動画をクリックし、再生した。

 

 ――結論から言うと、曲を聴き続けようとしたひとりが七度死んだ。多少強くなったところで所詮はぼっち。絶え間なく注がれる陽の力に耐えきれるはずもなかったのだ。

 

 ひとりは本日都合七度目の自己蘇生をしながら頭を抱えた。

 

「だ、ダメだ……何度繰り返してもサビまでたどり着けない……!」

 

 大分初めの方で躓いていた。陽への耐性が無さすぎる。吸血よりすぐ死ぬくそ雑魚タイムルーパー。

 

「と、とりあえずイントロだけでもコピーしよう……」

 

 ライ〇ックはリードギターのみで始まるイントロが特徴的だ。なんならこの部分だけを弾いてみた動画は山ほどあり、手本には困ることは無いだろう。

 

 同じフレーズをゆっくりと何度も繰り返して指に覚えさせ、それを徐々にテンポを原曲に近づけていく。

 

 

 ひとりは百合のように化け物じみた絶対音感を持ちえない為、幾度もトライ&エラーを繰り返す事で習熟していくタイプだ。

 速いテンポかつタッピング(ピックではなく指で弦を叩く奏法)もありスライド(弦を弾いた後に抑えた指を離さず滑らせる奏法)やらなんやらで指の移動が多い。さらに時折ブリッジミュート(弦を完全に抑えずに弾く奏法)も組み合わさる事で非常に難易度が高い。しかし難しいながらも疾走感や爽やかさを感じるフレーズがこの曲の魅力的な部分の一つであり、なるほど確かに人気が出るわけだとひとりは思った。

 それでも数年間毎日何時間もの練習を欠かさず続けてきた熟練者であるひとりは、元々の才能もあり、然程試行回数を熟さずモノにすることが出来た。

 

「うん、とりあえずイントロはなんとか……。あとは……」

 

 しかし、ここから先が手につかない。

 

 ひとりの投稿している演奏動画は、原曲のリードギターをそのままコピーした物ではなく、メロディラインをギターに落とし込んで弾くもの。

 つまり、ボーカルの歌を何度も聞きながら練習するしかないのだ。

 

(何度も聞く? これを……? 一曲フルで聞く事すら出来ずに死んだ私が……?)

 

 無理。絶対に無理だ。

 サビにすらたどり着けないのだから、これをフルで聞き続けるとなると存在自体が崩壊し、人類の歴史から”後藤ひとり”が消えてしまうかもしれないとひとりは恐怖に震えた。急にファンタジーのスケールを大きくするな。現代日常コメディを大切にしろ。

 

 ところで、ひとりは以前虹夏に対して「ここ数年の売れ線バンドの曲は一通り弾ける」と豪語していた。

 この発言自体は誇張でもなんでもなく、マジで弾ける。そうでなければ毎日弾いてみた動画の投稿など出来やしない。

 

 皆さんも疑問に思うだろう。この陽耐性逆カンストのくそ雑魚ナメクジがどうやってあまたの曲を習得していったのかと。

 売れ線バンドの曲というなら中には当然、アップテンポな青春ソングもあったはずだと。

 

 その答えは簡単だ。

 

 そのたびにゲボ吐きながら練習していたのである。

 

 というのは半分冗談であり、実際は青春コンプレックスを刺激しかねない曲に関しては市販されているスコアブック(楽譜のようなもの)を購入して、歌詞は見ないようにして練習していたというのが真相だ。

 じゃあライ〇ックも同じようにやればいいじゃんと思うかもしれないが、残念ながらひとりが調べた限りではまだ発売されていないようだった。スコアブックはその音源を解析して譜面に書き起こし、そこから校正、出版と段階があるためリリースから数か月を要する場合があるのだ。

 

 なので、ひとりがこの曲を習得する為には動画サイトに上げられている原曲か、他の投稿者のカバーを聞いて練習するしかない。

 現状、原曲を聞く事は不可能なので、となると残った手段はカバーのカバーという方法だけ。

 

 しかし。

 

 しかし、である。

 カバーとは、原曲に自分なりの解釈や表現を加えた創作物である。ただ真似して弾いたものではない、とひとりは考えている。

 

 故に、カバーのカバーという三次創作のようなものになってしまうのは、ひとり――いや、ギターヒーローとしてプライドが許さない。原曲をロクに聞けない雑魚が何を一丁前に。

 

 なので、最終手段を取ることにした。

 ひとりがこういう時に頼る相手は、いつも決まっている。

 

「えっと……『百合先輩、おはようございます。お休み中でしたらすみません』――だめだ、固い……ここはもっとフランクに……あっ、でもこれだけだとつまんないやつだと思われるかも……少しキャラ付けして、顔文字とかもつけて……」

 

 おい、余計な事をするんじゃあない。

 

 

 

 

 

 

『百合チャン! もう起きているカナ?!(^^)! もしまだ寝てたらごめんネ!"(-""-)"』

 

 言わんこっちゃない。

 変にフランクにしようとしておじさん構文になってしまっている。

 

 ロインのポップアップ通知が目に入った瞬間、百合は飲んでいたジュースを噴き出してお腹を抱えて蹲った。

 

「ゆ、百合!? 大丈夫!?」

 

 百合は特に理由が無い限りは虹夏と一緒にいるため、当然近くでドラムパッドを叩いて自主練していた虹夏が慌てて駆け寄ってくる。

 それを百合は蹲ったまま片手で「大丈夫」とジェスチャーを送るが、ツボに入ったのか引きつり笑いを起こしながらプルプルと震えていた。

 

「んふっ……ふふっ……ふぃ……ひぃ……っ」

「だ、大丈夫……? 珍しいね、百合がそんなツボに入るの。そんなに面白いもの見たの?」

 

 百合が消えそうな声で「ぼっ、ぼっちちゃん……ロインが……」と口にしたため、虹夏は「みていい?」 と一言断りを入れてから百合のスマホのロックを解除する。

 そしてひとりから送られてきたロインを見てしまった虹夏も撃沈。横隔膜が痙攣し腹筋が崩壊する。

 

 お腹が攣りそうになりながらもなんとか復帰した百合は、ひとまずスタンプを投下して時間を稼いだ。恐らくひとりはこのロインを送ってからずっとトーク画面を開いてそわそわしているはずで、既読がついたのに返信が無ければ不安に思っておじさん構文の追撃をしてくるかもしれないと読んだからだ。

 ちなみにその読みは大正解で、百合がスタンプを投下した瞬間に既読がついていた。

 

 さて、百合が稼いだ時間で解読した内容は、要約すると『ライ〇ックという曲を知っていたらキーボードで弾いて聞かせてほしい』というものだった。

 

 これに訝しんだのは虹夏だ。

 

「ラ〇ラックってミセスの新曲だよね? ぼっちちゃん聞いたら死んじゃわない?」

 

 大正解。ひとりは既に原曲を聞こうとして七度命を落としている。しかもサビまでたどり着く事も出来ずに。

 百合も同じく「おや?」と思ったが、そういえばこの曲は弾いてみた動画が山ほどオーチューブに上がっていたなという事を思い出し、合点がいった。

 

「……動画投稿する為、じゃないかな」

「………あっ、もしかしてギターヒーロー?」

 

 【悲報】後藤ひとり氏、イキリ散らした投稿者コメントをしている動画アカウントがバレている。

 

 事の発端は、前話の後に行った全体練習に遡る。

 どうもあのライブでみせたひとりのアドリブが引っかかっていた虹夏が、直接尋ねたのだ。「ぼっちちゃんって、ギターヒーローだったりする?」と。

 これに動揺したひとりが「どっ、どどどどうして私がギターヒーローって証拠ですか!?」と言語と顔面を崩壊しながらしらばっくれようとするも、虹夏は冷静に「あのキレのあるストロークがギターヒーローそっくりだったよ。そもそもギター、服が同じ。あとぼっちちゃんの部屋って和室だったよね? ギターヒーローの動画の背景と同じ襖のある」と全ての証拠を突きつけ、敢え無く白旗。

 隠していた理由については、人前ではまだまだ上手く弾けず胸を張ってギターヒーローと名乗れないということだったので、虹夏もそういう事ならしょうがないと納得を見せた。

 

 で、百合の方はなんなら『セッ!事件』の時に気づいていたという。本人が言い出さないなら黙っておこうと思っていたなどと供述しており、虹夏は百合のおもちを好き放題することで留飲を下げた。

 

 閑話休題

 

 ひとりのお願い事に関しては快く承諾する事にして、まずは原曲を一度聞いてみる事にした二人。

 タブレットで再生された曲を聞き終えると、虹夏がほうと感嘆の息を吐いた。

 

「いい曲だ……」

「……うん。結構、好き」

 

 何度かリピート再生して、メロディだけでなく歌詞にも意識を割いてみる。明るい曲調とは裏腹に、青春を歌った曲ではあるのだが、希望と不安を行ったり来たりする人間の複雑な感情の揺れ動きや、青春の有限性といったメッセージが込められており、特別な人間ではない不完全な自分を肯定してあげようという、今青春を送っている人や、過去青春を送っていた人達の背中を優しく支える歌だった。

 

「百合、弾けそう?」

「……もち。けどもうちょっと深掘りする」

 

 そう言って、百合はインターネットで情報を検索すると、どうやらアニメのオープニングで使用されているという事が分かったので早速アニメを視聴し始めた。

 放送開始から間もない為数話で見終わり、そこでようやく百合はキーボードの前に立つ。

 

 百合の演奏は音の強弱や間の取り方などで色――音が色として認識出来る百合の特技――と感情を結び付けて表現する。

 これはメロディラインを右手で再現する『弾いてみた』と非常に相性が良く、百合の投稿した動画ではしばしば「ピアノが歌っている」というコメントも見られるほど。

 そのため、百合は曲をコピーする時にはそれが使用されたアニメやドラマ等を視聴してその背景を深掘りする手法を取るのだ。

 

 完コピだけならここまですることは無いのだが、可愛い後輩の頼みだからと気合を入れて原曲を表現する。

 

 半日ほどかけて、ある程度満足が行く出来となった動画を百合はひとりへと送信した。

 

 後日談。

 

 どうせならと虹夏が「あたしも一緒にやる!」という事でドラムとキーボードの合奏となり、それを投稿したところ驚異的な伸びを見せ、百合は広告収入で懐があったかくなった。

 そしてひとりは百合が気合を入れて青春を表現してしまった為、原曲を聞いた時と同じく爆散したが、自分で頼んだのだからという強迫観念により死と生を反復横跳びをしながらなんとかコピーして動画投稿に漕ぎつけたという。最終的なデスカウントは108であった。

 




・オーチューブ登録者数4万人
コロナ前でこの数字かつギター演奏のみかつイキリ投稿者コメントは正直異様のひと言だと思う。現環境なら10万以上は登録数あるんじゃなかろうか

・ライ◯ック
アニメ『忘却バッテリー』のオープニング。キャッチーなイントロでアニメは知らないけどこの曲は知ってる人は多いんじゃなかろうか。
ちなみにリリースは2024年。ぼざろ1巻発売が2019年。
時 空 の 法 則 が み だ れ る!

・108回死んだぼっち
ぼっちが青春耐性を少しあげた結果、辛うじて完全消滅しなかった。
その結果輪廻を繰り返す羽目になった。
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