OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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[notice]
リアルのお仕事があまりにブラックで執筆時間が取れないため、次章の開始まで少々間が空きます。




▼幕間:深淵なる軀、八人目の内陣(2)

 ミハネが主催する〝勉強会〟の前半部は予定通り、世界情勢についての報告・共有が主となった。

 

 妖巨人国・オログルシュの帝王が禁域(ダンジョン)の〝試練〟に失敗し、崩御。代わって改革派の有力者『融けぬ氷のモザ』が、女帝として推戴されたこと。

 

 西方の人間種国家・スレイン法国が、竜王(ドラゴンロード)三柱との同盟を結んだこと。

 彼らが『人類憲章』なるものを掲げ、外交的窓口の設置と、医療巡礼団の派遣を()()()()()()()にも開始したこと。

 

 大陸中央、とりわけ中原(ちゅうげん)地域の戦乱は小康状態にあること。

 小国家群を一気に呑みこまんとする大国の介入も、謎めいた武装組織『国境なき騎士団』が幾度となく頓挫させていること。

 

 大陸地下の大空洞網、通称『下方大地(アンダーアース)』において猖獗(しょうけつ)を極めていた〝八欲王の残穢〟は、地上と地下の諸国有志が連携して駆除を進めていること。

 エトセトラ、エトセトラ――

 

 初めはあからさまに興味のない態度をとっていた者たちも、さすがに〝軀〟に所属できるだけはあり、知性は高い。そこで交換される大陸各地の情報が、値千金のきわめて()()()なものと理解すると、以降は積極的に耳を傾けた。

 より目端の利く者は、新顔ながらに発言力の獲得を――というよりは、()()()()()()()()()()ことを――目論んで、自分が持つ情報を進んで提示しに行きさえした。

 

 そうして参加者から寄せられた報せに、ミハネは生身の少女のような驚きを示してみせ、かと思えば機知に富んだ補足や訂正を返しもする。

 

「――へえ、そうなんですね! 東方のことには疎いので、たいへん助かります。

 (シェン)皇国に、神竜教団ですか……私も情報を集めてみますが、先輩も気を付けてくださいね。大手の宗教団体には必ずと言っていいほど、不死者(アンデッド)祓いの司祭(クレリック)が所属していますから」

 

「――位階魔法とも、竜の魔法とも異なる、〝巨人の魔法〟……ですか?

 興味深いですね。ひょっとして、ルーンと関係あったりしないでしょうか。山小人(ドワーフ)の魔法鍛冶さんたちに、お話を聞いてみたいところです」

 

「――八欲王の、魔法で……現実性が、破綻して? ()()()()()()()()の場所がある?

 それはその、いわゆる〝残穢〟とは別の現象……なんですよね? なにかの環境効果(フィールドエフェクト)かな……ちょっと一度、実物を見てみたいですね!」

 

「――あ、先輩。それは百年近く前までの話ですね。スレイン法国はそのあと、()()()()()()()()()()のようなものがあって、人間種以外も包括可能な『人類』という概念を()()しています。

 接触の仕方さえ間違えなければ、今の彼らは不死者(アンデッド)であっても『人類』と認めてくれますよ。私も何人か、六大神教の高位神官と個人的なコネを持っています。もしご希望なら、あとで紹介しましょうか?」

 

 そんな調子で、有益な情報を提示しつつも先輩として敬ってくれるミハネに対し、参加者たちはすっかり協力的になってしまう。いつの間にか、そういう〝場〟が出来上がっている。

 

 その勢いと熱を保ったまま、休憩もなく――不死者(アンデッド)には不要のものだ――後半部の魔法談義へ移っていくのだから、もはや自分の研究を隠しておこうなどと勿体ぶっていられる者は少ない。

 各々、議論に置いて行かれぬよう己の知見を総動員して、火花散る叡智の宴に飛び込んでゆく。

 

「であるから――巻物(スクロール)の暴発とは本来、ただの失敗で片付けられる現象ではなく――」

 

「アンデッドの連鎖的発生。これを統計的に制御し、狙った種を選択して生み出すことが――」

 

「やはり、物質要素(マテリアルコンポーネント)の利用による詠唱補助理論を――」

 

「しかしねぇ、君……私の仮説においては魂をエネルギーでなく、その器と看做しているのだから――」

 

「何……!? 位階を持たないということは、第零位階ではないのか――」

 

「いっそ系統を見直すべきではないか? たとえば武技だ。あれも一種の――」

 

 表の世界では可能性すら発見されていない理論が、実用化を前提として多角的に検証される。数十年秘匿されてきたデータ同士が互いに結びついて、まったく新しい考察の扉を開く。

 その知的快楽を、驚嘆の感覚(センス・オブ・ワンダー)を、知ってしまえば非効率な単独研究にはもう戻れない。

 

 喧嘩は御法度。互いに礼節を忘れぬこと。ルールに守られ、余計な心配を忘れて知と知が鎬を削る、魔法研究者たちの机上舞踏会。

 時折その中に混ざって意見を述べつつ、熱くなって脱線しかけた議論を軌道修正するなど、ミハネは調整役もこなしている。

 甲斐甲斐しく場を盛り上げ、整え続ける彼女の姿を、一歩引いた位置からバネジエリとグラズンが見守っていた。

 

「大した奴だ……内陣はともかく、外陣の連中相手なら力を見せつけて威服することもできようものを。敢えてそれをせず、純粋な知力と魅力だけで場を掌握している。

 流石は、我らが認めた期待の後輩よ……」

 

「おっと。〝深淵〟先輩も、ミハネちゃんの圧倒的な後輩力に灼かれてしまったか……」

「自分だけは違うと言いたげだな、〝白の聖女〟()()

 

 苦笑するグラズン。片鼻を鳴らすバネジエリ。

 地下に潜った不死者(アンデッド)の集会にしては、あまりにも賑やかで、活気と熱気を孕んだ異質な場ではあるが……

 しかし死んでいるからといって、好きなことを楽しくやってはいけないという法もあるまい。

 

 二人の〝先輩〟もまた、変革の原動力たる後輩に手招きされて、新たなる知の深淵へと身を沈めていった。

 

 

 

 アンデッドの学者というのは不眠不休で研究を続けられるものだから、とかくこのような会議も、いったん参加者が腰を据えてしまうと長くなりがちである。

 此度の〝勉強会〟も、地上で丸一昼夜が巡るほどの時間をぶっ続けで開催された。ミハネがタイムキーパーとして閉会を宣言しなければ、いつまでも延長されていただろう。

 

 好き放題に発散と脱線を繰り返していた無数の議題を、いかにしてかミハネはすべて拾い上げ、記録し、その場でまとめ切って、今回の内容と次回に向けた課題事項などを要約してみせる。

 これがまた解りやすく、参加者たちは新たな発見と研究にもたらされた進展の多さに驚愕する。そして必ず次回も参加しよう、と決めるのだ。

 

 名残惜しそうにしつつ帰ってゆく者、「次はいつやるんだ」などと詰め寄ってくる者……様々な〝先輩〟を見送り、宥めすかし、ミハネは資料などの片づけに入る。その表情は、人間種でいえばホクホクの満足顔である。

 そこで彼女は、まだ退室していない二人に気づいた。

「あれ? グラズン先輩に、バネジエリ先輩。どうしましたか?」

 

「なに、ちょっと()()()()()()()をしたくてね――バネジエリもだろう?」

「ああ。開会前には充分な時間が無かったのでな。

 ……おそらく、こちらの方が短く済む。グラズン、先に話しても?」

「構わないさ。だが、ボクが聞いてもいい話かな」

「問題ない――もとより内陣には共有するつもりだったことだ。注意喚起としてな」

 

 バネジエリは六本の腕のうち三本を使い、懐とローブのポケットから、それぞれ一枚ずつの巻物(スクロール)を取り出した。

 魔法が封じられたものではない。純粋な、書物として作成された巻物。バネジエリ・アンシャスが手ずから記した、調査結果のレポートである。

 

「〝図書委員〟よ、お前が知りたがっていた例の件について、こちらでも独自に調べてみた。これはその要約だ。

 結果はお前の予測を裏付けるものだった――中央のいわゆる〝六大国〟のうち、少なくとも二つの国家は、公的な権力機構の外部から()()()()()()()による干渉を受けている形跡がある」

 

 ミハネは巻物を受け取ると、開いて空中に並べ、さっと目を走らせて言う。

 

「……なるほど。あのとき、妖巨人国(オログルシュ)が不自然な出兵に踏み切ったのは……やっぱりそういうことですか。

 わざわざ私のために危険な調べ物を……ありがとうございます、バネジエリ先輩」

 

「お前からは多くを受け取っている。これはその返礼に過ぎん。

 やはりと言うからには、干渉している上位者の目星はついているのか?」

 

「まだ分かりません。かつての大戦を生き延びた竜王(ドラゴンロード)か、八欲王のような来訪神か……あるいは私たちのような、世に隠れた組織という線も考えられます。

 本格的に探るなら、これ以上ないというほど慎重を期す必要があります。先輩も、あまり深入りなさいませんよう」

 

「同意見だな。我々は強者だが、絶対者ではない。上には上というものが、存在する……。

 ともあれ、こちらの伝えるべきことは伝えた。

 待たせたな、グラズン。そちらの話に入っていい――私はこれで失礼する」

 

 ではお言葉に甘えて、とグラズンが優雅に一礼し、前へ出る。白のベールとドレスが、(かそけ)く囁くように波打った。

 

 バネジエリが出て行き、少し間を置いてから、彼女は話し出した。

 

「さて、ミハネちゃん。ボクの要件はちょっとした相談だ――他言は無用に頼むよ。

 百年近く前に出現した禁域(ダンジョン)、『無明樹海(ナグド・フィガイ)』の伝説は知っているかな? 〝大雲嶺〟の下の樹海に、周辺地域で姿を消した奴隷や難民が集まって、『霧の王国(ミスティラント)』なる秘密の魔法王国を築いているって話さ。

 表じゃ与太話と思われているんだけど――ボクはどうもこの国、()()()()んじゃないかと思ってね。そこの住人と接触できないか、色々な手段でアプローチしていたんだ」

 

「――へえ、伝説の真相に迫ったなんて、すごいじゃないですか!

 それで……進展が、あったのでしょうか?」

 

「うん。霧の向こうを、占術で探れないかと試していたときにね……なんと相手の方から、〈伝言(メッセージ)〉を送ってきたのさ。〝『霧の王国(ミスティラント)』の者〟を名乗ってね。

 これは凄いことだよ。知っての通り、〈伝言(メッセージ)〉は術者の力量と彼我の距離によって、通信可否と音質が決まる。もし〝彼〟が本当に、霧の向こうからボクに〈伝言(メッセージ)〉を繋げてきたのだとすれば、あれほどクリアな音をあの距離で届けられる術者は見たことがない。

 

 それどころか、ボクは相手の顔も知らないのに、向こうは一方的にボクを魔法の対象にできた。つまりこちらの占術探査を何らかの魔法的手段で察知して、いわば()()()とでも呼ぶべき離れ業をやってのけたんだ。そうとしか考えられない。

 

 想像を絶する高みだよ、ミハネちゃん――あの森には何か、()()()()()()()がいる。声は人間種の子供みたいだったけれど、まさか本当に子供のわけはないから、多分あれは魔法で声を変えているんだろうな……」

 

「それで……相手は何と?」

 

「ああ、そうだった。なんとね、これが意外なことに友好的だったんだ。

 こちらの目的を訊かれて、魔法研究のための取材に伺いたいという旨を伝えてみたら……正直、罠じゃないかと思わないでもないんだけど……()()()()()()()()()()()、と。

 どう思うかな、ミハネちゃん? 意見があれば聞きたい。ボクは危険を承知で、行ってみようかと思い始めているところでね――」

 

「行っていいと思いますよ。()()()()()()()()()()()のなら」

 

 たっぷり数秒、希代の魔法研究者であるグラズン・ロッカーの知力を以てしても、その言葉の意味を理解するには時間を要した。

 

「…………ミハネちゃん、ひょっとして……()()()()なのかな?」

 

「はい。――黙っていてごめんなさい。私の拠点の一つは、元々あの国にあるんです。

 内陣の先輩方は、そのうちご招待しようと思っていましたが……グラズン先輩だけでも話が通っているなら、ほかの方々も思ったより早くお呼びできそうですね!」

 

 〝勉強会〟で使った巻物(スクロール)類や魔法の黒板を、謎めいた魔法で虚空に収納しながら、こともなげにミハネは言う。

 衝撃と、様々な感情が去来する中――グラズンは頭の最も冷めた部分で、納得を呑み込んでいる。

 

「そうか。君は……最初から、〝おとぎ話の国〟の住人だったんだね」

「その表現は、『霧の王国(ミスティラント)』の女王陛下が喜びそうです。機会があればぜひ、聞かせてあげてください」

 

 期待の新人。理想の後輩。〝図書委員〟。

 いま、微笑むミハネはそのどれでもなかった。〝深淵なる軀〟の誰も見たことがない新たな顔を、初めて見せようとしているのだ。

 

「ああ、楽しみです……先輩がたに、『霧の王国(ミスティラント)』を案内してさしあげるのが。

 きっと気に入っていただけますよ。あの国の魔法技術は既に、一般国民が触れられるものに限っても、周辺国より二百年は先を行っていますからね」

 










[memo]
本編中で解説可能なネタが少ないので、マハナとの模擬戦回で触れられなかったスキル等を紹介。

■〈魔軍召集〉
・ミハネの保有クラスの一つ、奈落の葬儀屋(アビサル・アンダーテイカー)のスキル。他にもいくつかのクラスで修得可能。
・悪魔系モンスターを1体以上召喚する際、同じモンスターを追加で1体召喚する。元が複数種召喚の場合は1種類を選択。
・レベル制限もなく非常に強力だが、代償として悪カルマのモンスター以外は召喚できなくなる。(中立~善は不可)
・ミハネは別のスキルとの組み合わせにより、アンデッドも追加召喚の対象としている。破滅の王(ドゥームロード)などを二体同時召喚していたのはこれによるもの。
・カルマ値による召喚制限は強制適用だが、追加召喚は任意でON/OFF可能。マハナとの模擬戦では見せなかったものの、やろうと思えば〈魔軍逬発(パンデモニウム)〉にこれを適用して、魔将16体召喚も可能だった。

■〈魔軍暴溢〉
奈落の葬儀屋(アビサル・アンダーテイカー)奥義(キャップストーン)スキル。ちなみに奥義(キャップストーン)スキルとは、種族や職業(クラス)の最終レベルで修得できるスキルのこと。
・召喚等で場に出した悪魔系モンスターの、本来なら封じられる別モンスター召喚能力を任意で解禁できる。二次召喚されたモンスターは味方判定だが、直接生成物でないため一次召喚者が持つ種族強化スキル等の対象にならず、また直接指示もできない。
・三次以降の召喚は解禁されない。
・ミハネは別のスキルとの組み合わせにより、アンデッドも二次召喚解禁の対象としている。また、コントロールを得ない状態で召喚・創造されるモンスターに対し、自動的に制御権を掌握するタイプの能力が複数あるため、物量と統制を両立した運用が可能。

■〈蒼炎殺陣〉
・ミハネの保有クラスの一つ、陰府の女主人(ミストレス・オブ・シェオル)のスキル。前提スキルとしてオーラ型能力〈陰火〉を覚えている必要がある。
・〈陰火〉のオーラ範囲(最大半径20m強)内の敵に対し、自分とその召喚(創造・作成等を含む)モンスターが与える全ダメージに無属性のボーナスを加算する。このスキルで強化された攻撃は蒼い焔のエフェクトを発生させる。
 またオーラ範囲内でクリーチャーが死ぬ(or破壊される)と、陰府の女主人は死んだ個体が最後に受けたダメージと同値のHPを回復する。敵味方判定なし。異世界では味方殺しによる回復も可能。
・ダメージボーナスはクラスレベル依存の固定値なので、〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉のような単発大ダメージ攻撃よりも、多数の召喚モンスターで囲んでタコ殴りにするなど手数で攻めた方が恩恵は大きい。〈魔法の矢(マジック・アロー)〉などの小ダメージ多段ヒット技も、実効火力を爆発的に跳ね上げることができる。
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