OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
リアルのお仕事があまりにブラックで執筆時間が取れないため、次章の開始まで少々間が空きます。
ミハネが主催する〝勉強会〟の前半部は予定通り、世界情勢についての報告・共有が主となった。
妖巨人国・オログルシュの帝王が
西方の人間種国家・スレイン法国が、
彼らが『人類憲章』なるものを掲げ、外交的窓口の設置と、医療巡礼団の派遣を
大陸中央、とりわけ
小国家群を一気に呑みこまんとする大国の介入も、謎めいた武装組織『国境なき騎士団』が幾度となく頓挫させていること。
大陸地下の大空洞網、通称『
エトセトラ、エトセトラ――
初めはあからさまに興味のない態度をとっていた者たちも、さすがに〝軀〟に所属できるだけはあり、知性は高い。そこで交換される大陸各地の情報が、値千金のきわめて
より目端の利く者は、新顔ながらに発言力の獲得を――というよりは、
そうして参加者から寄せられた報せに、ミハネは生身の少女のような驚きを示してみせ、かと思えば機知に富んだ補足や訂正を返しもする。
「――へえ、そうなんですね! 東方のことには疎いので、たいへん助かります。
「――位階魔法とも、竜の魔法とも異なる、〝巨人の魔法〟……ですか?
興味深いですね。ひょっとして、ルーンと関係あったりしないでしょうか。
「――八欲王の、魔法で……現実性が、破綻して?
それはその、いわゆる〝残穢〟とは別の現象……なんですよね? なにかの
「――あ、先輩。それは百年近く前までの話ですね。スレイン法国はそのあと、
接触の仕方さえ間違えなければ、今の彼らは
そんな調子で、有益な情報を提示しつつも先輩として敬ってくれるミハネに対し、参加者たちはすっかり協力的になってしまう。いつの間にか、そういう〝場〟が出来上がっている。
その勢いと熱を保ったまま、休憩もなく――
各々、議論に置いて行かれぬよう己の知見を総動員して、火花散る叡智の宴に飛び込んでゆく。
「であるから――
「アンデッドの連鎖的発生。これを統計的に制御し、狙った種を選択して生み出すことが――」
「やはり、
「しかしねぇ、君……私の仮説においては魂をエネルギーでなく、その器と看做しているのだから――」
「何……!? 位階を持たないということは、第零位階ではないのか――」
「いっそ系統を見直すべきではないか? たとえば武技だ。あれも一種の――」
表の世界では可能性すら発見されていない理論が、実用化を前提として多角的に検証される。数十年秘匿されてきたデータ同士が互いに結びついて、まったく新しい考察の扉を開く。
その知的快楽を、
喧嘩は御法度。互いに礼節を忘れぬこと。ルールに守られ、余計な心配を忘れて知と知が鎬を削る、魔法研究者たちの机上舞踏会。
時折その中に混ざって意見を述べつつ、熱くなって脱線しかけた議論を軌道修正するなど、ミハネは調整役もこなしている。
甲斐甲斐しく場を盛り上げ、整え続ける彼女の姿を、一歩引いた位置からバネジエリとグラズンが見守っていた。
「大した奴だ……内陣はともかく、外陣の連中相手なら力を見せつけて威服することもできようものを。敢えてそれをせず、純粋な知力と魅力だけで場を掌握している。
流石は、我らが認めた期待の後輩よ……」
「おっと。〝深淵〟先輩も、ミハネちゃんの圧倒的な後輩力に灼かれてしまったか……」
「自分だけは違うと言いたげだな、〝白の聖女〟
苦笑するグラズン。片鼻を鳴らすバネジエリ。
地下に潜った
しかし死んでいるからといって、好きなことを楽しくやってはいけないという法もあるまい。
二人の〝先輩〟もまた、変革の原動力たる後輩に手招きされて、新たなる知の深淵へと身を沈めていった。
アンデッドの学者というのは不眠不休で研究を続けられるものだから、とかくこのような会議も、いったん参加者が腰を据えてしまうと長くなりがちである。
此度の〝勉強会〟も、地上で丸一昼夜が巡るほどの時間をぶっ続けで開催された。ミハネがタイムキーパーとして閉会を宣言しなければ、いつまでも延長されていただろう。
好き放題に発散と脱線を繰り返していた無数の議題を、いかにしてかミハネはすべて拾い上げ、記録し、その場でまとめ切って、今回の内容と次回に向けた課題事項などを要約してみせる。
これがまた解りやすく、参加者たちは新たな発見と研究にもたらされた進展の多さに驚愕する。そして必ず次回も参加しよう、と決めるのだ。
名残惜しそうにしつつ帰ってゆく者、「次はいつやるんだ」などと詰め寄ってくる者……様々な〝先輩〟を見送り、宥めすかし、ミハネは資料などの片づけに入る。その表情は、人間種でいえばホクホクの満足顔である。
そこで彼女は、まだ退室していない二人に気づいた。
「あれ? グラズン先輩に、バネジエリ先輩。どうしましたか?」
「なに、ちょっと
「ああ。開会前には充分な時間が無かったのでな。
……おそらく、こちらの方が短く済む。グラズン、先に話しても?」
「構わないさ。だが、ボクが聞いてもいい話かな」
「問題ない――もとより内陣には共有するつもりだったことだ。注意喚起としてな」
バネジエリは六本の腕のうち三本を使い、懐とローブのポケットから、それぞれ一枚ずつの
魔法が封じられたものではない。純粋な、書物として作成された巻物。バネジエリ・アンシャスが手ずから記した、調査結果のレポートである。
「〝図書委員〟よ、お前が知りたがっていた例の件について、こちらでも独自に調べてみた。これはその要約だ。
結果はお前の予測を裏付けるものだった――中央のいわゆる〝六大国〟のうち、少なくとも二つの国家は、公的な権力機構の外部から
ミハネは巻物を受け取ると、開いて空中に並べ、さっと目を走らせて言う。
「……なるほど。あのとき、
わざわざ私のために危険な調べ物を……ありがとうございます、バネジエリ先輩」
「お前からは多くを受け取っている。これはその返礼に過ぎん。
やはりと言うからには、干渉している上位者の目星はついているのか?」
「まだ分かりません。かつての大戦を生き延びた
本格的に探るなら、これ以上ないというほど慎重を期す必要があります。先輩も、あまり深入りなさいませんよう」
「同意見だな。我々は強者だが、絶対者ではない。上には上というものが、存在する……。
ともあれ、こちらの伝えるべきことは伝えた。
待たせたな、グラズン。そちらの話に入っていい――私はこれで失礼する」
ではお言葉に甘えて、とグラズンが優雅に一礼し、前へ出る。白のベールとドレスが、
バネジエリが出て行き、少し間を置いてから、彼女は話し出した。
「さて、ミハネちゃん。ボクの要件はちょっとした相談だ――他言は無用に頼むよ。
百年近く前に出現した
表じゃ与太話と思われているんだけど――ボクはどうもこの国、
「――へえ、伝説の真相に迫ったなんて、すごいじゃないですか!
それで……進展が、あったのでしょうか?」
「うん。霧の向こうを、占術で探れないかと試していたときにね……なんと相手の方から、〈
これは凄いことだよ。知っての通り、〈
それどころか、ボクは相手の顔も知らないのに、向こうは一方的にボクを魔法の対象にできた。つまりこちらの占術探査を何らかの魔法的手段で察知して、いわば
想像を絶する高みだよ、ミハネちゃん――あの森には何か、
「それで……相手は何と?」
「ああ、そうだった。なんとね、これが意外なことに友好的だったんだ。
こちらの目的を訊かれて、魔法研究のための取材に伺いたいという旨を伝えてみたら……正直、罠じゃないかと思わないでもないんだけど……
どう思うかな、ミハネちゃん? 意見があれば聞きたい。ボクは危険を承知で、行ってみようかと思い始めているところでね――」
「行っていいと思いますよ。
たっぷり数秒、希代の魔法研究者であるグラズン・ロッカーの知力を以てしても、その言葉の意味を理解するには時間を要した。
「…………ミハネちゃん、ひょっとして……
「はい。――黙っていてごめんなさい。私の拠点の一つは、元々あの国にあるんです。
内陣の先輩方は、そのうちご招待しようと思っていましたが……グラズン先輩だけでも話が通っているなら、ほかの方々も思ったより早くお呼びできそうですね!」
〝勉強会〟で使った
衝撃と、様々な感情が去来する中――グラズンは頭の最も冷めた部分で、納得を呑み込んでいる。
「そうか。君は……最初から、〝おとぎ話の国〟の住人だったんだね」
「その表現は、『
期待の新人。理想の後輩。〝図書委員〟。
いま、微笑むミハネはそのどれでもなかった。〝深淵なる軀〟の誰も見たことがない新たな顔を、初めて見せようとしているのだ。
「ああ、楽しみです……先輩がたに、『
きっと気に入っていただけますよ。あの国の魔法技術は既に、一般国民が触れられるものに限っても、周辺国より二百年は先を行っていますからね」
[memo]
本編中で解説可能なネタが少ないので、マハナとの模擬戦回で触れられなかったスキル等を紹介。
■〈魔軍召集〉
・ミハネの保有クラスの一つ、
・悪魔系モンスターを1体以上召喚する際、同じモンスターを追加で1体召喚する。元が複数種召喚の場合は1種類を選択。
・レベル制限もなく非常に強力だが、代償として悪カルマのモンスター以外は召喚できなくなる。(中立~善は不可)
・ミハネは別のスキルとの組み合わせにより、アンデッドも追加召喚の対象としている。
・カルマ値による召喚制限は強制適用だが、追加召喚は任意でON/OFF可能。マハナとの模擬戦では見せなかったものの、やろうと思えば〈
■〈魔軍暴溢〉
・
・召喚等で場に出した悪魔系モンスターの、本来なら封じられる別モンスター召喚能力を任意で解禁できる。二次召喚されたモンスターは味方判定だが、直接生成物でないため一次召喚者が持つ種族強化スキル等の対象にならず、また直接指示もできない。
・三次以降の召喚は解禁されない。
・ミハネは別のスキルとの組み合わせにより、アンデッドも二次召喚解禁の対象としている。また、コントロールを得ない状態で召喚・創造されるモンスターに対し、自動的に制御権を掌握するタイプの能力が複数あるため、物量と統制を両立した運用が可能。
■〈蒼炎殺陣〉
・ミハネの保有クラスの一つ、
・〈陰火〉のオーラ範囲(最大半径20m強)内の敵に対し、自分とその召喚(創造・作成等を含む)モンスターが与える全ダメージに無属性のボーナスを加算する。このスキルで強化された攻撃は蒼い焔のエフェクトを発生させる。
またオーラ範囲内でクリーチャーが死ぬ(or破壊される)と、陰府の女主人は死んだ個体が最後に受けたダメージと同値のHPを回復する。敵味方判定なし。異世界では味方殺しによる回復も可能。
・ダメージボーナスはクラスレベル依存の固定値なので、〈