転生宇宙人は地球を楽しみたい!〜 Galactic Travelers 〜 作:D-Ⅸ
今回は小難しい説明回になります。
私たちのオフィスの中は白を基調とした内装で整えられており、かつての地球の様に雑然とはしておらず、むしろシンプルだ。
映像機器や収納スペースがある以外は大したものは置いていない。
その小ざっぱりとした部屋の中央に鎮座するのは、円形に配置された人数分の、おおよそ十脚程度のある特殊な椅子だった。
鶏の卵をティースプーンか何かでくり抜いて人が座れる様な形にした、宙に浮く椅子へと腰をかけると自動で私の体にフィッティングがなされ、同時に私の神経や脳に接続されて生体認証が行われる。
『識別完了。……ようこそ、ルウィ様』
自動的に椅子と一体化した仕事用の情報端末が起動し私の前にホログラムの画面が投影される。
起動と共に認証完了の音声が端末に搭載されているAIから発せられて私の脳内に直接響く。
この情報・通信機器が一体となった椅子こそが私のデスクだった。
その投影された画面にはこの星の複数の天文台や軌道上の望遠鏡、スペースコロニー、あるいは他の惑星や小天体に設置された観測所、他の銀河系や星団で活動している『連合』の観測船などからの情報がいくらかピックアップされる。
まずは連合に加盟している仲間や、友好的な文明の星系や銀河を写したものもあれば、逆に連合に対して非友好的だったり中立や不干渉を主張する文明の星系の様子が表示される。
次に近傍に存在する星雲やガス雲・分子雲の様子、そして現在探査中の銀河やその伴銀河にその他の球状星団の画像やそれらの観測データが次々に映し出される。
全て、私が昨日の仕事を終えて退勤した後に撮影、観測されたものばかりだ。
ここは様々な情報を収集してその内容を精査、分析するデータセンターの様な場所で、こうした無数のデータの山々の確認から私の1日は始まっていく。
「美しい……」
思わず言葉が漏れる。
何より、私は宇宙を見るのが好きだった。
遥か遠く、彼方に見える星々はどんな宝石や金銀よりも私の心を満たしてくれる。
千変万化、色とりどりの天体たちはいつ見ても、いつまで見ても飽きることはない。
だが、宇宙の神秘に見とれてばかりではいられない。
一応、仕事は仕事。
夥しい数のデータから新たに発見された遠い天体または銀河や、特異な天体現象を見つけては注視していく。
隣の星団の恒星から発せられた電波バーストや数千光年の彼方から放たれたガンマ線バースト、近隣の銀河で発生した超新星爆発の観測報告に、数光年先の近場で発生した小天体同士の衝突、新たに発見されたマグネターなどなど。
宇宙は広い分、ほんの些細な出来事から貴重な天体ショーまで毎日どこかで何かが起きていて、何かが発見され続けている。
ボイドと呼ばれる殆ど何も無い領域のど真ん中を除けば、宇宙は毎日同じ顔を見せることはない。
そのデータの中から他の天体から発せられた人工的と思われる電波現象や重力波現象などを見つけ出したり、生命の居住可能と思われる未知の惑星を見つけ出したりするのが私たちの仕事だ。
もしそうした現象や天体を見つけたら、実際に探査機を送り込んでその存在を確認したりすることもある。
また、その文明の存在が証明されれば、その文明との接触を図るために連合に加盟する他の文明の宇宙機関や政府と協働して、使節を含めたもっと大規模な船団を組んで送り込んだりすることだってある。
私の目標は、誰よりも早く地球を見つけ出してそこへの来訪を果たすこと。
それに尽きた。
そして、私が黙々と作業を続けるうちに、他の仲間たちも続々と出勤してくる。
その姿形も様々で、私の同族もいれば他の文明からきた別種の宇宙人もいる。
それがこの職場の、というかこの連合自体の特徴だった。
「ルウィ様、既にこちらに居たのですか。お早いですね」
「トゥー、今日もよろしくね」
まず最初に来たのはトールホワイトタイプにあたるヒューマノイド種の女性、トゥッラ・ワンズ・ナ・ンマトだ。
「ンマト族のワン家のトゥッラ」という意味らしい。
トゥーというのは愛称の様なものだ。
ちなみに部族の名前まで名前に含めると言う文化も、私の知る限りの星間文明の中ではまあまあある話だ。
男性系と女性系の名前があるそうで、性別により名前の形式が微妙に異なるようだ。
これは確か地球においては東欧系の名前でも見られた特徴と一致する。
彼女は私たちよりも新参となる他の星系の研究機関からの出向職員で、厳密に言えば少し違うが留学生に近い立場にある。
だが同時にプライベートでも付き合いのある私の友人でもある。
彼女の姿は、前世では広く知られていたリトルグレイタイプの宇宙人を、私よりも少し低いくらいの背丈にして肌を純白に近い白にしたイメージだろうか。
頭骨は楕円形に近い形で縦に長く、目は人間のものよりも大きくアーモンド型で少し吊り上がっている。
頭髪はない。
目は全体的に暗く深い藍色で、鼻は小さく少しのっぺりとした顔だ。
目の上には眉の様に見える部分があるが、これは肌の色が少し濃くなっているだけだ。
かつては薄く毛が生えていた様だが、今は毛はない。
先祖返りでほんのうっすらと産毛の様な体毛がまばらに生える個体もいる様だが、それも今となっては相当なレアケースだそうだ。
この眉の様に見える部分の形で男女を見分けることが可能で、この部分が太く丸い麻呂眉の様な形になっているのが女性で、やや細長くて一回りほどサイズが小さいのが男性となる。
鼻と同様に口もまた小さく、唇も小ぶりだ。
手も足も長く、それでいてかなりスレンダー。
足は人間の形状とさほど大きな違いはないが、手は人間の様に丸みを帯びておらず少し四角く、指は人間と同様に5本だが、人間よりも長い。
彼女たちの服は全身タイツに近いスタイルで、体に張り付く様なものとなっているが、これは高度な防護システムとして機能していて、首から下全てを保護する役割を持っている。
これは見た目の薄っぺらさの反面、半端な刃物程度であれば容易く防ぐくらいの防御力は少なくともあり、手にも同じ素材のグローブをはめている。
そんな彼女もまた手近な卵型の椅子へと腰をかけて仕事に臨む。
それから少しすると、今度はまた別の種族の仲間が入ってくる。
〈ディ・ゲー12369-8745……ただいま出勤いたしました。マスター、本日もよろしくお願い致します〉
〈えぇ、ディアノ。よろしくね〉
声帯を殆ど退化させてしまっている彼らはテレパシーで対話する。
頭の中に直接送られてくる言葉に対して私もテレパシーで返す。
私の3分の1程度、1メートルもない小さな体に薄い緑灰色の肌、筋肉の量が少ない細い胴と手足にそしてその手足から伸びる3本の指が特徴だ。
手の指は人間に例えるなら親指が2本、中指が一本といった様な感じで、指の数が少ないぶん可動域が広く、触るとヤモリの手のように独特な触感をしていてこれでグリップさせることでによって物をうまく掴めるようになっている。
この指の皮膚は指紋の様な個体識別にも使われており、同じ模様は無いらしい。
足は指と踵の部分が発達していてこれが不安定な足場でのバランスを取るのに貢献しており、形状としては哺乳類と言うよりはどちらかと言うとやや鳥類寄りである様に思える。
顔はトールホワイトと形状が似ているが、体に対する顔の比率が大きく頭蓋骨も大きい。
大体3頭身から3.5頭身程度だろうか。
アーモンド型の釣り上がった目に、白目がなく黒一色の眼球、潰れて殆ど退化した鼻と小ぶりな口はまさにリトルグレイ型のエイリアンそのものだった。
ただしその貧弱そうな外見とは裏腹に骨の強度は高く、彼らの背丈の5倍くらいのところから落ちた程度では殆ど折れる心配はないらしい。
頭骨が特に頑強で、やったことがないので分からないが恐らく当たりどころによっては拳銃弾くらいなら熊などと同様に弾いてしまうのではないかと思われる。
ちなみに、便宜上彼らと呼んでいるが性別はなく生殖器もなく、ついでに服を着ると言う文化もない。
これは彼らが既に滅びた他の文明の作業用バイオボット(体の一部に機械を組み込んだ半生体ロボットのこと)に起源を持つことに由来するそうで、生殖方法もクローンテクノロジーを応用した単為生殖に近い手法をとるらしい。
かつての文明において彼らは道具として扱われていた様で、重機や工作機械にファッションの概念がない様に、彼らも服を持たない。
以前に何か服を作ろうかと提案したこともあったが、やんわり断られてしまった。
彼ら自身が名乗る種族名も、彼らの言葉で「作られた働き手」と言う意味を持つ『ロノ・ワヌーシャ』と言うらしい。
彼の名前も、彼の母星で使われていたアルファベットの様な文字が2つと数の羅列という特異なものとなっている。
前半の「ディ」と「ゲー」という彼らの言語の2文字とそれに続く5桁の数は、ロット番号の様な意味合いに近いもので、後半の4桁は個体番号を示しているという。
ただし、それだけでは名前と言うにはどこか味気ない様な気がするため、私が彼のロット番号と個体番号の頭の音をもとに『ディアノ』という名を与えた。
紆余曲折あったものの、今は彼の口ぶりからも分かる通り私が所有者(マスター)というか、雇用主となっているので彼は私の直属の部下ということになる。
彼もまた空いている卵型の椅子にぴょんと飛び乗りそこに腰をかけ、私やトゥがした様に自身の神経を接続させて端末を起動させた。
ちなみに、私が個人的に彼らの種族の気に入っているところは行動が逐一可愛いところだ。
「あらあら姫様、今日もお早いですね。今日もシップではなくこちらにいらしたのですね」
「えぇ、船が改修で入庫してるからしばらくはこっちで情報収集ね。ラフィ、今日もよろしく」
次に来たのは私の知る人間と殆ど姿の変わらない姿の女性だった。
彼女はサラフィーネ・ロウラム・ユールというノルディック系ヒューマノイド種だ。
ただし身長は2メートルを少し超えた程度はあり人間基準ではかなり高い部類に入るだろう。
肌は真珠の様な透き通った白、髪は見ているこっちが羨ましくなるほどにサラサラとした黄金色の腰下まで伸ばしたロングヘア、瞳はサファイアの様な輝きを持つ青のウルトラ超美人。
だが決定的に人間と違う箇所もある。
頭骨の形が典型的なホモ・サピエンスよりも僅かに縦長で、発達した脳を収めて保護するために内部の容積もやや大きい。
また、額には言われなければ分からない様なレベルだが、皮膚が硬質化した様な小さな突起があり、そこで複数の神経が集まり交差している様だ。
ちなみに、触られるとくすぐったいらしい。
そしてそれを持つものは純血に近い個体で、高いサイキック能力を持つと言われている。
言うなれば、第三の目みたいな物だろう。
現に彼女もエンパスやテレパス、テレポート、発火、物体の突き放しや引き寄せなどなど、かなり高度なサイキック能力の使い手だ。
手足共に指は6本で人間のものよりも少しだけ長く、足はやや扁平に見えるが指の数以外に大きな違いはない。
彼女の服装は地球で例えるならローマ人の正装トガに近く、5〜6メートルほどの1枚布を体に巻き付ける様なファッションで、これは彼女たちの民族『ラエラル族』の昔から続く伝統衣装であるらしい。
これで背中に白い翼でも生えていればまるでおとぎ話の天使様の様に見えていた事だろう。
ちなみに彼女の話に出て来たシップというのは私がプライベートで保有している宇宙船のことだ。
全長2000メートル程度の標準的なサイズの艦で、来客をもてなすためのいくつかの客間と少数のクルーの居住区画、そして艦橋部や私の私室などのスペースがある。
その宇宙船に搭載されているカメラやセンサー類を通して宇宙空間から直接星々の観察をしていることもあるため毎日毎日ここのオフィスに顔を出す訳ではないのだ。
と、まぁそんなこんなで私の同族数人を含めて他にも何人かのグレイタイプやヒューマノイド種族が宇宙局のオフィスに集い各々の仕事を始める。
「あそこの星はよくフレアを出すから調査船は近寄らせない方がいい。どうせまた粉微塵にされてしまうから」とか「次はどの星に船を送り込むべきか」とか話し込んでいるうちに、ある一本の通信が私の端末宛てに届いた。
メッセージのカテゴリは……『緊急』。
それは徐々に拡張を続ける連合の勢力圏につい最近、この星の暦でほんの100年ほど前にようやく指が引っ掛かり出した程度の辺境中の辺境とも言うべき数百万光年以上の遥か彼方、周辺に矮小銀河をいくつか従えたそれなりに大きな規模な棒渦巻銀河。
私がその特徴からもしかしたら前世の天の川銀河なのではないかと目をつけていたその銀河に派遣した、連合の無人探査機からだった。
政府機関用の星間通信ネットワークを通じて送られて来たその内容は……。
「特殊な電波信号を受信。知的生命によるメッセージと思われる。複製したデータと解析した内容、送信予測地点他、詳細情報を各支部に送る」
もしかして……。
そう思った私は即座にその通信を開き、詳細を確認する。
この信号は1679個のビットからなっている。
これを受信した無人探査機のAIはすぐに解読方法に気づいてそのビットを73×23の四角形に並べ替えて中に込められたメッセージを詳らかにしている。
1から10までの数、そして水素や炭素などのいくつかの原子番号、DNAのヌクレオチドの数と糖と塩基の化学式、二重螺旋構造とこのメッセージを送ったと思われる知的生命の姿と平均身長、そして彼らの住まう星系の情報、電波望遠鏡とアンテナの口径について書かれている。
(……見つけた。……ついに、見つけた)
これはまさに、紛れもなく前世で何度も読み込んだ宇宙に関する本の中にあった『アレシボメッセージ』そのものであった。
(これは、地球からのメッセージだ!)
次回もお楽しみに。