読みたい人だけ呼んでください。
正月、それは我が陽務家にとってはあまり特別な日では無い。
もちろん普段と比べると多少家族で過ごす時間が増えはするが、一般的な家庭に比べればそれでも少ない方だろう。
仕事も学校も休みで、それなのに家族全員で過ごす時間は少ない、では一体何をして過ごしているのか。
答えは簡単、いつもの如く趣味に没頭しているのだ。
俺は言わずもがな、父親は新年初釣りに出かけているし、母親は部屋にこもって虫たちとの新年初コミュニケーションを図っている。
そんな中比較的まともな正月を過ごしているのが、我が妹瑠美だ。
ファッションを趣味とする彼女にとっては正月というものは買い物時らしく、毎年ショッピングモールまで出かけてついでに初詣に行っていたりする。
そして、そんな妹の買い物に荷物持ちとして付き合わせられる哀れな人間が、俺である。
瑠美さんや、ちょっと兄使いが荒くないですかね?
「じゃあそこのお店見てくるから、お兄ちゃんはここら辺から動かないでね」
「はいはい」
瑠美の念を押すような言い方に、わかってますよという気持ちを込めて返事をする。
正月だから仕方が無いとはいえ、あまりにも人が多すぎて、1度はぐれたらなかなか出会うことは難しいだろう。
さて、そうして瑠美が店に入っていくのを見送った訳だが、俺にとってこの時間は本当に暇な時間だ。
普段だったらスマホでもいじっていればいいのだが、今は両手に紙袋を抱えていてそれどころでは無い。
「……お?」
なにか暇つぶしになるものはないかと辺りを見回していると、すぐ目の前を見知った顔が目に入る。
「玲さん?」
「ひ、ひゃい!」
俺が今通り過ぎようとしていた玲さんに声をかけると、玲さんは謎の声を上げる。
うん、いつもどうりみたいで安心安心。
「ら、楽郎くん…?」
「うん、あけましておめでとう。買い物?」
年が明けてからは初めて会うので、ひとまず新年の挨拶をしながら、玲さんがここにいる理由を尋ねる。
「あ、あけましておめでとうございます!はい、親戚とうちの姉と一緒に」
どうやら玲さんは一人で来ている訳では無いらしく、後ろに目を向けてみると、件の人であろうボーイッシュな人と、スーツが似合いそうな女性がいた。
玲さんは姉と言っていたが、前にあったことのある仙さん?は居ないようなので、どちらかが俺も知ってるであろうあの人なのだろう。
「玲、知り合いか?」
「はい、学校の知り合いで陽務君です」
あ、こっちだな、声に聞き覚えがありすぎる。
「どうも、陽務楽郎です」
「玲の姉の斎賀百だ、よろしく」
やはりこちらが玲さんの姉だったらしく、その名前はペンシルゴンの口からも定期的に聞いている名前だ。
そうなるとこっちの親戚だという人は知り合いではないはずなのだが……何故だろう、どうしてか彼女の雰囲気には覚えがある気がするのだ。
こう、醸し出される妙なポンコツ感というか…
「あ、僕も言った方がいい感じ?僕は、龍宮院京極。よろしくね」
俺がじっと見つめていたからなのか、それまで黙っていた彼女は自己紹介を始めた。
それはそれとしてなるほど、苗字が龍宮院で玲さんの親戚、そして名前が京極ね。
いやもう確定じゃねえか
「玲さん、この2人って…」
「あ、分かります…よね」
間違いがあってはいけないと、念の為玲さんに確認するが、彼女の反応からやはり間違いないらしい。
つまるところこのふたりはサイガ-100と京極なのだ。
とはいえ、それがわかったところで俺が自分の正体を明かす必要は無いし、何かをする訳でもない。
ただ少し、ほんの少し脅かしてやろうと思うだけだ。
「百さんと京極さんですねよろしくお願いします!」
万が一にもバレないように、ほんの少しいつもよりも元気な声でそう話す。
話し方のイメージは秋津茜だ。
「いきなりなんですけど、僕初対面の人に披露できる特技があるんです!おふたりにやってみてもいいですか?」
「別に構わないが、どんなものなんだ?」
「そんな大したことでも無いかもしれないんですけど、相手の好きな物とか普段どんなことをしているかとかが何となくわかるんです」
「へぇ、ほんとに当たったら面白いね、是非お願いするよ」
特技などと言ってはいたがなんてことは無い、ただ自分が知っていることをわざとらしく話すだけだ。
あくまで自分の正体を明かさないように話すので、限定的なことを話すつもりは無いが、それでも多少は驚かせることが出来るだろう。
「それじゃあまず京極さんの方から、京極さんは普段はなにか武道…剣道をしているのでは無いでしょうか?趣味はゲームで、かっこいい言葉が好き、ついでに言うと好きな食べ物はうなぎ、と言った所でしょうか」
「すごい!ほとんど、というか全部正解だよ!」
よく考えてみると京極のことなんて対して知らないので、これ以上を聞かれると何も答えられなくなるのだが、これだけでもかなり驚いてくれているようなので一安心だ。
「それでは続いて百さんの方行きますね、百さんは普段はバリバリ仕事してそうですね、趣味は京極さんと同じくゲームで、好きな食べ物は意外とカップラーメンとかでしょうか?」
「ほう、確かに当たっている」
「それと、具体的にはわからないですが誰か有名人の知り合いがいたりしそうですね」
ここで天音永遠に限定したらさすがにバレるだろうし、家柄的に他にも有名人の知り合いがいてもおかしくないだろうから、限定はしない。
「なるほど、確かに有名人と言っていい知り合いはいるな。それにしてもこれだけ当たるなら特技と言って差支えはないだろう」
「ありがとうございます!」
こちらの正体がバレることなく2人をそれなりに驚かすことが出来て満足だ。
本当なら俺がサンラクだとわかった時の反応も見たいところだが、こんなところでバラしたら何を言われるかわかったものじゃない。
それは
「お兄ちゃん次行くよー」
そうして一通り話したところで、買い物を終えたのだろう瑠美が店から出てきて俺に声をかける。
「あ、それじゃあ御三方、自分は家族に呼ばれたので行きますね」
「買い物中だったのか、それは邪魔したな」
「いえいえ、自分も妹を待ってる間暇だったので。それじゃあ、玲さんまた学校で」
「あ、は、はい!また学校で」
そうして挨拶をした俺は玲さん達に背を向け手歩きだし……と、そうだ忘れてた。
「そうだ玲さん、後でネタばらししてあげて。それで後で反応教えてね」
最後に玲さんにだけ聞こえるようにそう話した俺は、今度こそ話すことは無いと瑠美の方へと歩いていった。
After
「それにしても、さっきの陽務君…だっけ?彼、面白い人だったね」
「そうだな、かなり不思議な特技を持っていたが、基本的には礼儀正しくて、良い青年だった」
「その事なんですけど、気づいてないようですけど、2人とも彼とは知り合いですよ?」
「え、そうなの?僕の記憶にあんな人はいなかったと思うんだけど」
「私も覚えていないんだが、どういうことなんだ玲?」
「楽郎君…もシャンフロをやってるんですけど、そのプレイヤーネームが、サンラクって名前で……」
「「は、はあああ!?」」
「ちょっと待ってくれ玲、サンラクってあのサンラクなのか?」
「は、はい」
「うっそでしょ。でもそれならあれだけ僕たちのこと当てられたのにも納得が…」
「つまりなんだ、あの話し方が本来の彼なのか?」
「あ、いえあれは多分2人に気づかれないように話し方を変えてたんだと」
こうしてあとから玲さんに話を聞いた俺は、その一部始終を聞いて笑い転げたのだった。