1日目
やっと岩手県遠野市の遠野駅に到着しました!
「・・・田舎だな」そう一言つぶやいていました。地元(住んでいるところ)と違う空気に驚いているようです。駅前に黒猫がいたのでかわいいと撫でていると、となりでムッとした様子でこちらをみていました。さてさて何処に行こうかと迷っていると、「こっちだ」と先頭をきって歩いてしまいました。初めての土地なのにまるで地元民のようです。
なんと着いた先は私が行きたかった博物館だったのです。本当に優しいよね。私が自宅でガイドブックに付箋を貼っていたのを、どうやらこっそり見ていたようです。見学後はすっかり夕方になってしまったので、私たちは宿に向かうことにしました。旅館というのでしょうか。とても日本らしい鄙びた感じがかなりグッときます。女将さんに案内された部屋はなんと、6畳1部屋で風呂・トイレは別だったのです。宿の手配も交通手段の手配も「俺がやる」といってまかせてしまいました。同居人とはいえ、部屋は別々でしたし・・・。まぁ兵長がいいならいいかと思い、「いい感じの部屋だね」というと「・・・そうだな」と返事をするだけでした。あれ?何か言い方を間違ったのでしょうか・・・。
宿で食事をとり(どれも美味しかったー)、あとは風呂に入って寝るだけです。お風呂は内風呂で男女1つずつだそうです。風呂の鍵は壊れていましたが、外の「入浴中」の札をかければ大丈夫だろうとそのまま入りました。ちょうど両方空いていたので同時に入りましたが、兵長の方が先に出て風呂の入り口近くのソファで座って待っていました。すると「鍵・・・かかったのか?」と言われたので「壊れていたよ」と答えたら「入るときは俺に言え」といいました。正直よくわかりません。もしかして、鍵が壊れているから誰かに覗かれたら・・・?なんて考えすぎですね。
お風呂から帰ると、布団が2組ひかれていました。6畳なのでギチギチです。そうしてこの部屋にしたのか謎です。夜はシンっと静まり返っていて、互いの存在がより近くに感じられたような気がしました。正直ちょっと寝にくいです。「静かだね」「そうだな」こんな会話しか生まれてきません。正直ちょっと気まずいです。でも不思議と安心感だけはあったので、目を閉じていたらいつの間にか朝になっていました。兵長はというと、身支度をすでに終え、日本の新聞を読んでいました。「起きたか」と声をかけられ、目やに、よだれ、乱れた着衣・・・なんだか気恥ずかしくて慌てて着替えました。
2日目
今日は1日遠野観光です!日本の免許は持っていないので、駅前の観光案内所でレンタルサイクルを使って遠野をグルグルまわります。兵長は普通のシティサイクルを、私は電動自転車を借りましたが、兵長の速度にはついていけません。車と並走しています(びっくり!)それにしても遠野はいいところです。戦争とは無縁で平和で、、、日本の原風景と言われる理由もわかる気がします。兵長の顔も心なしか穏やかに見えます。私たちには色々ありましたから・・・。日本の平和が羨ましいと感じてしまいます。
伝承園というミュージアムでは、昔の遠野の家がみられるらしいです。そこには何と昔映画で観た、「いろり」があるではありませんか。兵長と2人で「いろり」で暖をとっていると、日本昔話に出てくる夫婦みたいだな(照れ)と思ってしまいますね。そうそうここには「オシラサマ」という人形?が飾ってあって、部屋一面に天井までカラフルな布と人形があって、有名な観光地らしいです。布に願いをかけて、出っ張っている棒にかけておくみたいです。何を書こうかな~って迷っていると、隣で目にもとまらぬ速さで書き上げ、天井近くの棒までジャンプしてかけていました。「え?え?」ってなりましたよ・・・。何て書いたのか教えてはくれませんでした。何て書いてあるのか見ようとしましたが、視力1.0では見えません。いや、2.0あっても見えないかも・・・。双眼鏡を買ってくればよかったかな。私は「いつまでも平和でありますように」って近くの棒にかけました。
そのあとは、近くに河童が出ると言われる「カッパ淵」に行きました。竿にかじりかけのキュウリがつるされているだけでしたが、観光客は結構いましたね。何本か竿が置いてあって自由に使っていいそうです。やるかどうか聞く前に兵長はすっと2本抜いて、そのうちの1本を私に差し出してきました。(・・・やるんだ)と心の中で思ってしまいましたが、2人並んで浅い川に竿を投げてぼーっとしているのは、ちょっと滑稽で面白かったです。
帰り道の近くに茶屋があったので軽食をとったのち、福泉寺という寺に行きました。何でも紅葉が見事とかで。ただ急な坂はきつかったですね。私がハァハァいいながら登っていると、荷物を全部持ってくれました。「足は大丈・・・」といいかけてやめました。あの最後の戦いのとき怪我をした兵長は持ち前の回復力と、外国の最新の治療でみるみる良くなっていきました。でも一度大怪我をしていたのでちょっと心配だなと思っていたら、「これくらい何でもない」といい、スタスタと登って行ってしまいました。寺については詳しくはありませんが、静寂で厳かな感じは悪くなかったです。色々まわっていると、もう夕方です。遠野は夕方には真っ暗になるから気を付けるんだよって宿の女将さんが教えてくれたのを思い出しました。今日はここまでにして宿に帰ってゆっくり体を休めることにしました。私は引退してから身体なんて鍛えていないので、ぜぇぜぇハァハァしているのに、兵長は疲れた顔もせずポーカーフェイスでちょっとこの人体力やばくね?って思いながら、兵長の後ろで自転車を必死に漕いでいましたよ。さすが人類最強・・・・。明日はとうとう最終日、帰るだけです。
3日目
今日は最終日。兵長が行きたいところがあるそうでついていくと「神社」という何とも小さい社に赤い紐がたくさん括ってあるところでした。たしかここって・・・、ガイドブックでみた!あの!恋愛系!!のと。頭の中でどうしてここに行きたかったのか、ちょっと期待してしまうくらいパニックになりました。赤い紐に願いを書いて、片手で枝に結ぶことができれば願いが叶うそうです。兵長と私はそれぞれ赤い紐に願い事を書いて、兵長はなんて書いたのか見ようとしたら、またもや素早く何かを書き、高い枝にシュッと片手で結んでしまいました。私も願い事を書いて結ぼうとしたのですが、恋愛系を兵長に見られるのは恥ずかしいので、出入り口付近で待ってもらいました。それにしても簡単そうに見えて片手で結ぶのは難しいです。兵長は、私が何を書いたのか気にしているような、遠目からでももしかしたら視えていたのかもしれません。少し嬉しそうな顔をしていた感じがしましたから。でも片手で結べず、なんか面倒くさくなったので両手でやろうとしたら、「だめだ。できるまでやれ」と言われてしまいました。神も仏も信仰心のある人には全く思えないのですが、真剣な顔つきだったので私は一生懸命やりました。20分くらいでしょうか。不格好でしたがやっと結べましたよ。
電車の時間までまだもう少しあったので、神社の隣に五百羅漢というところへの道があったので試しに行ってみようということになりました。入口に黄色の熊注意という看板があるではないですか!林道を行くようで、何でも今年は熊の出没が日本全土に多いというではないですか。私が躊躇しているのもおかまいなしに「行くぞ」って。何の迷いもなく歩いて行ってしまいました。
私も兵長も同じ兵団でしたが、私は衛生兵で後方支援が主な仕事だったので、巨人との戦闘経験はゼロです。といいますか、怖くて戦えないですよ、あんなのと。兵長にとっては熊なんてありんこ同然なのでしょうが、私はビクビクしながら兵長の後ろにピタリとついて歩きました。だってどうみても熊いそうなんですもん。林道を抜けると一旦道路に出て、その先が五百羅漢があります。最初からタクシーか何かで道路から来れば、怖い思いをしなくて良かったのではと思っちゃいましたよ。五百羅漢のところは熊は100%いそうな雰囲気です。何か薄暗いし、巨大樹も森みたいでした。巨人がいてもおかしくないです・・・。兵長は看板に書かれた文字を読んだり、転がっている石を眺めたりと観光をしていますが、私はそれどころじゃなかったですよ。「なんだか懐かしい雰囲気だな・・・。」とまで言っています。いいから!早く帰りたい言って半泣きの私をみてまたもやちょっと嬉しそうでした。
そんなこんなでとうとう列車の時間が迫ってきたので、私たちは遠野から帰ることになりました。日本は私たちの住んでいる国から来るまで2日かかるので往復4日です。2泊3日だと1週間くらい休みをとらないとここまで来られません。お互いに仕事をしているので。兵長は足の治療を終えてから清掃業で働いています。何でも成績トップみたいです。それはそうですよ、古い家を借りていますが、家の中はピカピカだしゴキブリだって出てこないし、快適な暮らしです。私は衛生兵だったので看護師として働いています。なぜ同居したのかって?昔からの知り合いだったし、当時は介護人が必要だったからです。何より私が1人でいるのが不安だったっからです。近しい人はみんあ死んでしまいましたからね。巨人はいなくなって命の危険度は大分なくなりましたが、新しい世界で生きていかなければなりません。兵長とは兵団時代顔見知り程度で、あまり喋ったことはありませんでした。でも生き残った人の中では兵長が最も近しい人だったのです。2人で生活していくうちにちょっと家族っぽい感じになっていきました。始めは「気まず!」って思いましたけど、「あっ、この人めっちゃいい人かも!」ってすぐになりました。見た目は怖そうですけど、だから慕う部下が多かったんじゃないかな。おっと、回想してばかりじゃいけませんね。
最後の夜、「楽しかったか?」って聞かれたんですよ。私は「うん。すごくすごく楽しかった」って言ったら兵長は優しい顔で「そうか」とだけ言いました。またお金を貯めて、2人で予定を合わせてこんなふうに旅行に行けたらとても幸せなことだって思います。そうそう、列車を待っているとき「家に帰るまでが遠足だからな」って真顔で言ってましたよ。本当この人面白いなって思いました。
~完~