――しょうがねえなあ。
お前、あの変なサルたちとも違うみたいだし……。
どうだ? 全部終わったら、一緒にこの世界を旅してみないか?
俺も色々と知りたいことができた。
それとも、あいつらと一緒にいる方がいいか?
――ううん。カイルは私を助けてくれたんだもの。
あなたといれば安心だわ。
「どうした、寝ないのか?」
エゼンさんと見張りを交代したルースが焚火を挟んで私の前に座る。
隣ではヤシャ姉さんが豪快にイビキをかいて眠っていた。
「なんだか眠れなくて……」
そうか、とつぶやいてルースは枯れ枝を火に放り込む。
「ほんの短い間なのに……この旅でたくさんのものを見てきた。
多くの人々が苦しみながらも、それでも希望を見据えて生きていること」
パチパチと鳴る炎を見つめているうちに、どうしようもない不安が胸に浮かび上がってしまった。
「ルースは強い。それにエゼンさんもヤシャ姉さんも……。
私だけ……何もない。記憶だけじゃなくて、みんなの強さのひとかけらだって持っていない」
サライさん、キュロス王、セリアさん、それにトロイ。
みんな命がけで未来を作っているのに……私だけ、私だけが後ろ向き。
「珍しいな。お前がそんな弱音吐くなんて」
「茶化さないでよ」
「悪い」
彼がバツの悪そうな顔をする。
私を慰めようとしての軽口だってことはわかってる。
それだけに、自分に対して余計に苛立ってしまう。
「まぁ、なんだ。お前が強くないだなんて思ったことねぇよ。
お前は……いつだって能天気だったしな」
「私だって、ちゃんと色々考えてるし」
それはそうなんだろうけど、と彼が言葉を濁して黙り込む。
パチパチと焚火の燃える音が静寂を包んでいる。
「なぁ……全てが終わったら、どうするんだ?」
炎に消えてしまいそうな声音で、彼が問う。
「そんなこと……」
考えたことなかった。
記憶を失って、ナーガやダッパの意志に沿って時間も空間も超えて旅をしてきた。
旅を終えた後のことなんて……。
「なぁ、この旅が終わったらさ……一緒に……」
「ダメよ。あなたは国へ帰らなきゃ」
ルースの口から出る言葉を遮る。
私はそれを望んではいけない。
「国なら親父がなんとかしてくれるさ」
「セリアさんは? 許嫁なんでしょ?」
「あれは親父が勝手に決めたことで……」
「じゃあ好きじゃないの?」
「……」
「ごめん、いじわる言って」
「いや、いい。それでもな、エリアス……」
「俺はずっとこうしていたいと思ってるんだぜ」
胸が痛んだ。
私がルースに向ける感情も、きっと彼が私に向ける感情も……
この感情は恋じゃない。
親子兄妹夫婦恋人のそれとは……全部違う。
それらの言葉の先に、きっと私達はいる。
だから、このままでいい。このままがいい。
私は彼の隣に移動して腰を落とす。
「ねぇルース……」
血豆だらけの、ゴツゴツした手を握る。
『なんだかんだ放っておけねーんだよ、お前は』
そう言ってくれた、いつかの竜人の言葉が思い出される。
ありがとう。
10万年前に助けてくれて……。
200年前に、迎えに来てくれて。
ずっと一緒に、旅をしてくれて。
「これからも、よろしくね」
そう告げると、ルースは恥ずかしそうに顔を背けた。
彼から差し出される手を、きっと何度だって私は掴む。
そう夢を見るくらい、許されるんじゃないかな……。