カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
崖から落下するヤトちゃん、かなりの大ピンチだ。
とはいえ、ちょっとくらい落下しても無事なのがファイターである。
ただ、落下の影響でタブレットの映像が途切れてしまった。
下手すると、このまま二度と映像が繋がらないまであるだろう。
「ヤトちゃんは傷心旅行中だ、このタイミングで落下すると行方不明になって闇落ちする可能性がある!」
「エッチヤトちゃん!?」
「言ってる場合かー!」
闇落ちイコールエッチみたいな発想はよしなさい!
なんなら君は絶対闇落ちでエッチ方面に行かないでしょ!
よくわからないへんてこ衣装を身に着けて頭身の縮む様が、手に取るように解ってしまう。
「エレアを遠隔でサモンする。エクレルール装備はあるか? 完全武装の方!」
「えーーーーーーと」
以前使ったのは……野生に返った後、取り繕ってシリアスモードになるために使った時か!
それ以来一度もつかってないのかよ、マジかよ。
……ん? っていうか、その後俺達ってどこに行った?
「…………帝国世界で、洗濯に出した後回収してませんね」
「お前……」
まぁそりゃ実家なんだから、そういうこともあるだろうけどさ!
なんかこう、さ!
大事にしようよ、一着しかないんだから!
帝国世界に行けば回収できるし、予備も手に入るだろうけど。
その手間で、ヤトちゃんを救出するほうが早い!
「しょうがない、ヤトちゃん本人をサモンするか……」
「普通の闇落ちなら、エッチヤトちゃんが見たいので止めるんですけど、今回は流石にちょっと……」
「傷心旅行の理由が理由だからな……」
痴女のハレンチが理由で旅に出たんだ、間違いなく闇落ちしたらエッチになる。
それは流石に……ダメだろ。
というわけで、
「サモン! <コンダクター・ヤト>!」
デッキに手をかけ、ドローしつつ宣言すると部屋中に光が溢れ――俺の姿はその場から消失した。
□□□□□
「うおおお!? 俺がヤトちゃんの方に飛ばされた!?」
ばばばばば、と風が体にぶつかる。
気がついたら、俺は落下を始めていた。
周囲の光景からして、明らかにここはファイトオブマウンテン。
ヤトちゃんをサモンするつもりが、俺のほうがこちらに呼び寄せられてしまったらしい。
何? ついに俺モチーフのカードが誕生したのか? と思ったけど手元には何もないな。
では一体どうして、俺はここに呼ばれたのか。
「ヤトちゃん、どこだー!」
周囲を見渡して呼びかける。
こうしてファイトオブマウンテンに飛ばされたってことは、近くにヤトちゃんがいるのは間違いない。
落下中なら、普通に考えて今もヤトちゃんは落下しているはず。
叫べば返事が来ると思ったんだが――
「……何もない? いや、この気配は!」
返事はないが、不意に気配が俺に向かって飛び込んでくる。
イグニスボードを構え、その襲撃を受け止めた。
そのまま弾き飛ばすと、俺の前にそいつは現れる。
「私は――ヤト」
ヤトちゃんだ。
しかし様子がおかしい。
それは、なんというか――
「いえ、違う。私は
――――コンドルと、融合している。
下半身はデス・コンドルと完全に一体化。
上半身は衣装が変わって、胸元を覆うコンドルの毛みたいな奴。
エレアがいたら興奮しそうだが、思ったほどセクシー系の衣装にはなっていなかった。
獣人系の装いとしては、割とスタンダードな部類。
とはいえ、気にするべきところはそこではない。
イグニスボードをデス・ヤトちゃんが展開しているということだ。
「クソ、空中戦は分が悪いんだが……!」
「デス……!」
ようするに、バトル展開ってことだよ!
「イグニッション!」
「イグニッションデス!」
――さて、空中でのバトルというのはなかなかない経験だ。
俺も人生で三回くらいしか経験がない。
飛行能力がないと、ただただ落下していくしかないからな。
俺個人は飛行能力を持たないため、なんとかして調達するしかない。
一番簡単な方法は――
「現われろ! <ロード・ミカエル>!」
飛べるモンスターをサモンすること!
宙に浮かぶミカエルの肩に着地すると、俺はそのままファイトを続ける。
しかしそうすると、なんとなく解ってくるものがあるのだ。
「私は<デストラクション・デス>を発動! <ロード・ミカエル>を破壊!」
「エフェクトで破壊を耐える……が、場に残るタイプか!」
「手札、フィールドのカードを破壊することでターンに何度でも発動できる!」
結構悪さが出来そうなカードだ!
ともかく、どうやらデス・ヤトちゃんは執拗に足場の破壊を狙ってきた。
デスと名がつくのは伊達ではないらしい。
とすると、おそらくヤトちゃんの狙いは――
「この世で一番壊しにくいものを……デス!」
「純粋な向上心だぁ!」
光が部屋を包んだ時、俺ではなくエレアをこの場に呼び出すこともできた。
しかしそうしなかったのは、完全武装が手元に無かったのもあるだろうが、もっと単純に目的が俺だったからだろう。
俺を越えたい、俺を倒したい。
そんな向上心が、<デス・コンドル>との融合で発露した。
「真面目過ぎかよ!」
しかしそうなると、こちらも全力で応えないといけない。
というか、全力で応えることがヤトちゃんの戦術に対するメタとして働く……!
「というわけで、現われろ! <極大古式聖天使 レボリューション・メタトロン>!」
こいつは、結婚した後に俺が手に入れた新しい<メタトロン>。
旧メタトロンも復帰してはいるんだが、将来的にミチルの元へ向かうので、今のうちからこちらに慣れておこうという感じ。
まぁ何年先の話になるんだか、ってところだけど。
とにかく、大事なのは<メタトロン>のエフェクトだ。
以前の<エクス・メタトロン>もそうだが、<メタトロン>には耐性がある。
「くっ……破壊できないデス!」
「ああ、そういうことだ。そして破壊にこだわる以上……バウンスやセメタリー送り系の効果は、今の君のデッキにはないだろう!」
「ぐっ……!」
今のヤトちゃんのデッキは、「蒸気騎士団」をベースに<デストラクション>カードを追加したアレンジデッキ。
おそらく、「蒸気騎士団」にバウンスエフェクト持ちがいても、今はデッキから抜かれているはずだ。
「というわけで、決めに行くぞ!」
「デーーーース!」
何にしても、俺は安定した足場を手にしたことで、なんとか空中戦を制することができた。
その後のバトルも激戦ではあったけど、最終的には俺が勝った……ということだな。
□□□□□
「……ごめんなさい、迷惑をかけたわ、店長」
「いや、いいさ。面白いバトルもできたしな」
あの後、ヤトちゃんは正気に戻った。
<デス・コンドル>との融合は解除。
不死鳥は、再び墓地に舞い戻る……
じゃなくて、コンドルはヤトちゃんと和解、なんかいい感じの雰囲気を出しつつカードとしてヤトちゃんの手に収まった。
なんと、「蒸気騎士団」カードになったらしい。
それでいいのか……いや、まぁいいか……
「なによりそれと同時に、嬉しくもあるんだ」
「うれしい?」
「ヤトちゃんが、俺のことを一番高い壁だと認識していることが」
「あ……」
なんというか、ファイター冥利につきるってもんだ。
俺は決して、表舞台でガンガン目立つタイプではない。
世界もそんなに救わない。
それでも誰かの”最強”になれるっていうのは、ある意味店長をやってきた報酬と言えるかも知れないな。
「……ほら、そろそろ日が昇るぞ」
「そうみたいね……思えば、これが見たくて夜のファイトオブマウンテンに登ったんだったわ」
そうして、俺達は何とも言えない達成感に包まれつつ、登ってきた朝日を拝もうとして。
「いや、まて――」
「あれは――」
なんか違うことに気付いた。
「クソデカイエレアの顔だ――――!」
地平線の向こうから、エレアの顔がにゅうっと登ってくる!
ちょうど、こう!
コミカライズ一巻表紙のような、絶妙にエレっとした顔で――――!
いや何を言ってるんだよ!
「って、アレ……気球じゃない?」
「多分本人が乗ってるんだろうけど……よくあんなもの用意したな……?」
ってか地平線の向こうから登ってきて太陽と見紛うほどデカイって、どうなってるんだよ……
いや、なんかこう、ギャグ補正でデカく見えてるだけか?
何にしても……
「……帰るか」
「……そうね」
アレがエレアの迎えであることに違いはない。
ファイター超視力で、気球にエレアが乗ってこちらへ手を振っていることを確認しながら、俺はヤトちゃんと二人で肩をすくめて苦笑するのだった。
というわけでコミカライズ単行本発売中です。
【挿絵表示】
こちらのエレッとしているエレアの顔が目印です。
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