シュヴァルがかっこよくイメチェンしてトレーナーとデー……お出かけに臨む話【シュヴァルグラン】 作:奈良ひさぎ
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:オリ主 短編 ウマ娘 トレセン学園 シュヴァルグラン トレーナー ヴィブロス ヴ姉妹 イメチェン デー……お出かけ
ヴィブロスのトレーナーである俺のところに、突然やってきてそう言ったシュヴァルグラン。なんでも今度トレーナーとデート、もといお出かけをするらしく、その話がヴィルシーナやヴィブロスにバレてしまうと可愛い服の着せ替え人形にされてしまうから、事前にかっこいい感じに仕立ててもらおうということらしい。シュヴァルがそこまで自分の考えを伝えてきたことに担当外ながら驚きつつ、俺は早速協力するのだった。
「ぼっ……僕を、男にしてください……!」
「え?」
トレーナー室に入ってきたシュヴァルの第一声がそれだった。最初は入ってくる部屋を間違えたんじゃないかと思った。シュヴァルのトレーナーは二つ隣の部屋で、俺は彼女の妹のヴィブロスの担当だからだ。だがシュヴァルのトレーナーの部屋とは内装が全然違う。すうっと部屋に入ってくるなり真っすぐ俺の前まで来て、唐突にお願いをしてきたのだから、勘違いしているわけではないのだろう。
「あ、えっ、えっとあの……! こ、これはじ、事情が……!」
あまりにも堂々としていたものだから、思わずきょとんとして聞き返してしまった。すると突拍子もないことを言ったという自覚があったのか、シュヴァルが露骨に動揺して、あわあわと挙動不審になった。いったん落ち着かせるために麦茶を用意してあげると、くぴ、と飲み干してまたあわあわしだした。
「かっこいい服を一緒に選んでほしい、ってお願いでいい?」
「……っ! は、はいっ!」
シュヴァルの言葉からよく推測できたなと自分でも思う。ヴィブロスのおねだりをよく聞いているうちに、姉妹の気持ちも分かるようになった、ということだろうか?
「その……今度、トレーナーさんとデ……お、お出かけに、行くんですけど……」
「うん」
「お寿司を食べに行くんだって言ったら、ヴィブロスが張り切り出して……姉さんも出てきて。このままだと……すごく女の子女の子した服を着せられそう、というか、着せ替え人形にされそう、だったので……」
「あいつの前で可愛い格好するのは、まだ恥ずかしい?」
「は、恥ずかしいです……! と、というか、『まだ』って……!」
「だって、あいつはシュヴァルのこといつも自慢してくるぞ? ちょっと自信はないかもしれないけど、能ある鷹は爪を隠すってやつだとか。たくましくて粘り強いとか。姉妹らしく確かな勝負根性がシュヴァルの持ち味だとか」
「わー! わー! わぁーっ!!」
これ以上褒めてくれるなとばかりにシュヴァルが声を出す。確かシュヴァルのトレーナーは今隣の部屋にいるはずなのだが、話の内容的にあいつにバレてはいけないのではなかろうか。
「シュヴァルが可愛らしい服着てるところ、あいつも見たいと思うけどな? ヴィブロスも今呼べるだろうし」
「や、やめてください!」
「そんなに気になるか?」
「そ、その……僕に可愛らしい服なんて、似合わないだろうから……」
「そんなことないぞ。ヴィルシーナもヴィブロスも、すごくおしゃれなんだし。まあ、二人ともシュヴァルのことを振り回すか振り回さないかで言ったら、ちゃんと振り回すと思うけど……」
「やっぱり、そう思いますよね」
「でも、いいのか? シュヴァルに合いそうなかっこいい服とか、一緒に選ぶことはできるけど」
「はい。その……トレーナーさんを、びっくりさせてみたいので……」
それを聞くとヴィブロスが余計に黙っていなさそうな気もするが。ただ、シュヴァルがこれだけ積極的になるのは珍しい。よほど彼のことを信頼していて、いいところを見せたいと思っているのだろう。彼も厄介なやつで、シュヴァルの気持ちの汲み取り方がヘタに上手いせいで絶妙にシュヴァルと噛み合っていないように見える。ヴィブロスのように距離が変に近いのもそれはそれでどうかと思うが、毎日少しずつ認識のずれが積み重なっていくと、もっと致命的なすれ違いが起こるかもしれない。やはりシュヴァルの手伝いをして、彼女がもっと直接的に気持ちを伝えられる環境を用意してやるべきだろう。
「分かった。じゃあ、行こうか」
「……っ! は、はい!」
正直言って、俺はシュヴァルのことをいつも観察しているわけではない。ヴィブロスのトレーナーなのだから当たり前だ。シュヴァルがどんな子かは、ヴィブロスの口から聞いて把握することがほとんど。ただ、華やかで人当たりの大変いい姉と妹に挟まれ、内気で自己主張が苦手なことは言われなくても伝わってくる。甘やかすのはよくないと思いつつ、ついつい何がしたい、こんなのはどうだと積極的に提案してしまう。
「こ、これ……僕に、似合うかな……」
「いいんじゃないか? 髪の毛はがらっと変えると元の方が良くても戻すのに時間がかかるし、それに似合ってる」
「そ、そうですか? よかった……」
最初に、髪型を少し変えてみてはどうか、と提案した。男性モデルの写真がたくさん載っている雑誌を買って、二人並んでぱらぱらとめくり、シュヴァルがいいと言ったページに付箋をつけてその足で美容室に行く。いつも予約がなかなか取れない行きつけだったが、たまたまぶっつけで予約が取れた。しばらくして出てきたシュヴァルは一層垢抜けていた。
「うん、髪だけでもだいぶ変わった」
「そ、そうですか?」
「あとは服と帽子かなあ」
帽子はいつも目深にかぶっているマリンキャップを取って、マニッシュな中折れの帽子を選んであげようと決めていたが、服のイメージは漠然としていた。正装に近い、落ち着いた色のものを選ぼう、というくらいは決まったが、それ以上は実物を見てみないと分からない。慣れない形の帽子に戸惑いさわさわと頭を撫でてばかりのシュヴァルを連れて、最後はいろんなタイプの服が置いてあるお店に入った。ガーリーなものからボーイッシュ、果てはパンク系やスカジャンまで選びたい放題。髪に帽子とかなり俺の嗜好を押しつけてしまった自覚があったので、服くらいは豊富なラインナップの中から自由に選ばせてあげよう、と思っていたのだが。
「あ、えっ……わぁ……」
「あ……」
よりにもよって店内でばったりシュヴァルのトレーナーに出くわしてしまった。俺がいる以上別人のフリもできず、シュヴァルもあたふたしてごまかせなかったから、結局本人だと確定してしまった。
「どした、その組み合わせ?」
「いやぁ、まあ」
「というかシュヴァル、変わったか? いつもとだいぶ印象が」
「あ、あの、えっと」
怯えたような目でシュヴァルがこちらを見てきた。行け、ちゃんと自分の口から言うんだ。目で伝えると、意を決してシュヴァルが自分のトレーナーの方へ向き直った。
「と……トレーナーさんに、かっこよく、見られ……たくて」
「……!」
一瞬訪れた沈黙。俺の目にも分かるほど引っ込み思案なシュヴァルが、自分から思いを発した。普段から見ている担当トレーナーであれば、一層驚いたことだろう。
「……そうか。今度のために」
「え? あ、は、はい……」
「すごい。すごいぞ、シュヴァル」
「……え?」
「手に持ってるその服も全然普段と印象違うし、髪型もかっこよくてちょっと別人にすら見える……ヴィルシーナやヴィブロスには見せてきたのか?」
「あ、あぁ……あぅ……」
俺が首を横に振るのに合わせて、小動物のようにふるふるとシュヴァルも否定した。俺はずっと見ていたから変わったな、と冷静に受け止めていたが、第三者の反応だとこうなるのかもしれない。二人ともキャッキャとしばらくシュヴァルにくっついて離れないだろうが。
「……ま、俺へのサプライズだったみたいで、ちょっと申し訳ないけど……」
「と、トレーナーさんは……どうしてここに?」
「うん? あぁ、こっちもバラしちゃうか……今度シュヴァルの誕生日だろ? せっかくなら、似合いそうな小物か何かを渡そうと思って」
「えっ……ぼ、僕に……?」
「どうする? もうサプライズでも何でもないし、一緒に見てみるか」
「はっ……はいっ」
距離感はなんだかぎこちなかったが、俺とシュヴァルよりも確かに親密な雰囲気が流れ始めて、俺はそっと離れた。そういえばヴィブロスの誕生日のことも考えてやらないとなと思ったところで、タイミングよくヴィブロスからメッセージが来た。トレーニングの時間だ。
後日、「ありがとうございました」というメッセージとともに、目がくりくりとしたクマのスタンプがシュヴァルから送られてきたのだった。