犬飼いろはは、事故にあいそうになったペットのこむぎを野獣先輩に救われる。

 そして先輩のペット、トカゲの遠野はガルガルと化してしまった。

 果たしてプリキュアは、ガルガルになった遠野を元に戻せるのか……。



※このお話は、わんぷりほんへ5話より前に起きた事、という設定です。

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わん!わん!わん!だふるぷりきゅあ

 ──ある種のトカゲは、ヘビのように卵を丸のみにする性質がある──

 

 今朝、テレビの動物特集の番組で言っていたこと。

 お母さんも珍しがっていたから、私も印象に残りました。

 

 私の名前は「犬飼いろは」。

 今は、ペットで家族のパピヨン犬──「こむぎ」と、日課のお散歩の最中です。

 

「今日もいいペンキ☆」

 

 春が間近に来ているけど、まだ気温は低め。

 でも、お日様が照らしてくれているから、私もこむぎも厚着はしなくて大丈夫。

 ポカポカ陽気で今の気分はウキウキなのら!

 

 信号が赤になって待っている最中、なんだかこむぎがソワソワしだしました。

 

「どうしたの、こむぎ?」

「いろは、ガルガルのにおいがするワン!」

 

 私の言葉に応えるこむぎ。

 そう、私の犬はなんと、人の言葉が話せるのです!

 

 なんでそうなったかというと、その経緯(いきさつ)は私にもまだ、よく分かっていないことが多く……。

 とりあえず、こむぎが発した『ガルガル』というものが関係しています。

 

「こっちだワン!」

「あ、待ってこむぎ!」

「つべこべ言わずに来いワン!」

 

 私が止めるのも聞かず、こむぎは駆け出していきました。

 勢いで、私の手からリードが外れてしまいます。

 待って、こむぎ! 今はまだ、信号は赤のままだよ!

 

 そこに道路から、一直線に車が走ってきました。

 こむぎが小さすぎて、運転手さんからは見えてないみたいで、ブレーキをかける様子が無い……

 

「こむぎ、危ない……ッ!!」

 

 私はたまらず、まぶたを強くつぶり、こむぎが大怪我をしてしまうのを覚悟しました。

 でも、その時です。

 

「あっ、おい待てい!」

 

 突然私の横から、そんな風な江戸っ子口調が聞こえてきたのは。

 驚いて閉じていた目を開けると、なんと……こむぎは無事だったのです!

 

「おっ大丈夫か? 大丈夫か?」

 

 私の前には、こむぎを抱き上げながら心配そうに立つ、一人の男の人がいました。

 

 お父さんより若そうだけど、歳をごまかしていそうな感じもある、年齢の特定できない不思議な顔立ち。

 時折冷たい風の吹くこの季節に、着ているのはTシャツとハーフの短パン。

 のぞいている肌は浅黒く焼け、健康的なのを通り越して、なぜか不潔に思える色をしている。

 

「(この子が助かって)嬉しいダルルォ!?」

 

 そう言って男の人は、私の手にそっとこむぎを返してくれました。

 

 風変わりなその人の格好に、私はちょと唖然として。

 でも、我に返ってすぐに、こむぎを助けてくれたお礼を伝えます。

 

「……あ、ありがとうございます!」

「こ↑こ↓は見通しが悪くて、事故が起きやすい場所だからま、多少はね?」

 

 したり顔っていうのかな……?

 どこか得意げな面持ちで男の人は、私がこむぎのリードを放してしまったミスをフォローしてくれました。

 

「あ、さ。俺たち、最近このアニマルタウンに引っ越してきたんだよね」

 

 俺……()()

 よく見れば、男性は私と同じようにリードを持っていて、その先には一匹の……不思議な、本当に不思議としか言いようのない生き物が繋がっています。

 

「まずこいつさぁ、『レシートリザード』っていう種類のトカゲなんだよね」

 

 え、なにこれは? という表情をしている私の心を察したのか、男の人はそう説明してくれました。

 

 確かにその生き物は爬虫類特有の顔をしてるけど、それはどちらかというと人間のものに似ている。

 おまけに服を着せられているもんだから、余計に人間を首輪でつないで歩かせているようにしか見えません。

 でも、こんな朝からそんなチョーSな仕打ちをする人がいる訳がない、と私はその考えを振り払いました。

 

「レシートリザード……聞いたことのない種類です」

「当たり前だよなぁ? レシートリザードは超希少種で、下北沢の一角にしか生息してないんだゾ」

「はえー、すっごい限定的な生息地……」

「こいつの名前は、『遠野』。そして俺は、『田所』ってんだ。皆からは、野獣先輩って呼ばれてるんだけど、お前もどう?」

 

 野獣で先輩って、なんか変な組み合わせだなぁ。

 そう思っていると、野獣さんはあだ名の由来を教えてくれました。

 

「俺は野生動物の研究をしてるから、みんなが敬意を払ってそう呼ぶんだゾ。(尊敬の念を集めるの)FOO↑気持ちいぃ~」

「あ、私は犬飼いろは。この子は、こむぎって言います」

 

 なんだか野獣さんを無視したような感じになってるけど、別にそんなことは無いからね! 自己紹介は大切だから!

 当の野獣さんも、特に気にする様子もなく話を続けてくれます。

 

「いろはたちは、この街に先に住んでる先輩って訳ですね。よろしくお願いしナス!」

「私の家、お父さんがペットサロンを、お母さんが動物病院をやってるんです。もし遠野ちゃんになにかあったら、ぜひ寄ってみてください」

「夫婦共働きで動物関連の仕事とか、やりますねぇ! その時はお世話になるゾ~、これ」

 

 しっかりお家の宣伝も出来た所で、野獣さんは遠野ちゃんを連れて去っていきました。

 やっぱり傍目(はため)には、二人の姿はSMプレイの一環にしか見えません。

 

「……いろは!」

 

 今までずっと黙り込んで大人しくしていたこむぎが、二人がいなくなったのを見て話しかけてきました。

 

「どうしたの?」

「さっきの二人から、ガルガルのにおいがしたワン」

「えッ!? ……でも、ガルガルってキラリンアニマルか、ニコアニマルが変化したものだって、メエメエが言ってなかったっけ?」

 

 言ってなかったかも? じゃあ悟くん?

 あ、メエメエって言うのは言葉を喋るヒツジで、悟くんは私の友達の……いや、そんなことより。

 

「ガルガルのにおいがしたって、本当なの、こむぎ」

「ウソじゃないワン! あのヤジュウって人、すっごく臭そうだったし。きっとウンコのガルガルだワン!」

「うんちは生き物じゃないでしょ。いや、人に対してそんな失礼なこと言っちゃダメだよ。いや、そうでもなくて」

「じゃあ、トオノの方がガルガルだワン!」

「う~ん……」

 

 ニコガーデンの生き物以外にも、こっちの生き物がガルガルになるなんてことあるのかな?

 メエメエに確認した方が……その時です。

 

「アン! アン! アン! アン! アン! アン! アン! アン! アン! アッーンン!!」

 

 遠くの方から、甲高い動物の鳴き声が聞こえてきました。

 とても苦しそうな叫び声。

 それは、野獣さんたちが歩いて行った方角からのものです。

 

「トオノの声だワン」

「じゃあ、本当に」

「急ぐワン、いろは!」

 

 私はうなずき、こむぎと一緒に二人の後を追いかけました。

 

 

 

 

 

 そして、間もなく()()は見えた。

 尻もちをつく野獣さんと……ハッキリわかるほど、体がすっげぇ黒くなってる、巨大になった遠野ちゃんの姿が。

 

 これがガルガルです。

 ガルガルっていうのは、ニコガーデンという所に住んでいる妖精のような生き物が変化したもの。

 元の妖精さんとは違って、すっごく狂暴になっちゃってるんだ。

 

「こむぎの言う通りだ。本当にガルガルになってる!」

「お、お前ら……」

 

 私の声に、野獣さんがふり向いた。

 

「遠野が、遠野が……怪獣みたいになっちまった! コワすぎィ!!」

 

 目の前の出来事が信じられない、という風に野獣さんが叫びます。

 ここは街のど真ん中で、まだ朝早いから通りに人はいないけど、騒ぎを聞きつけて誰かやって来たら大騒ぎです。

 

「こむぎ!」

「わかってるワン!」

 

 私とこむぎは、互いに役目を果たすことを確認しあいました。

 

 そして取り出したコンパクトは、お化粧をするためのものではありません。

 これは私とこむぎが、とある存在へと「変身」するための、魔法のアイテムなのです。

 

「「ぷりきゅあ・まいえぼりゅーしょん!!」」

 

 私たちの声が重なる。

 光の中で、こむぎは子犬から人の姿に変化して、私の体も変わっていきます。

 

「みんな大好き、すてきな世界! キュアワンダフル!!」

「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ!!」

 

 私とこむぎは、動物を助けるヒーロー……ヒロイン? の「プリキュア」へと変身を終え、決めポーズと共に名乗りを上げました。

 これは自動的に行われるもので、恥ずかしさなんてありません。

 

「んなんだお前ら!?」

 

 突然変身した私たちの姿を見て、野獣さんは驚きの声を上げます。当たり前だよなぁ?

 

「野獣さん、安心して! 私たちは、遠野ちゃんを助けたいだけです!」

「…………遠野をお願いしますなんでもしますから!」

 

 土下座するように頭を下げて、野獣さんは私たちに遠野ちゃんのことを任せてくれました。

 

「行こう、ワンダフル!」

「うん、フレンディ!」

 

 遠野ちゃんの変化したガルガルは、とても苦しそうに(うめ)いています。

 ツラそうだけど、暴れないためすぐに元に戻せるはず。

 

 私たちは、早速いつものように、ガルガルを優しく抱きしめました。

 

「もう大丈夫だよ」

「怖くないよ~」

 

 私とワンダフルの体がボンヤリ光って、その光がガルガルの体も包み込みます。

 

「……ガル! ガル! ガル!」

 

 元に戻ることに抵抗するように、ガルガルが突然暴れ出しました。

 私たちは動きを抑えるように、抱きしめる力を強めます。

 それと一緒に光も強くなる。

 

 けれど……

 

「フレンディ! このガルガル、全然もとにもどらないよ!」

「そんな、どうして……」

 

 いつもだったら、もう元の姿に戻ってもいい頃なのに。

 いくら抱擁(ほうよう)を続けても、ガルガルに変化はなく……。

 

 私たちの中に、焦りが生まれます。

 こんな時、ワーッとやって、パパパッと浄化して、終わりっ! な便利なアイテムでもあればいいのに……。

 

 

 そんな心情を余所に、ガルガルはますます激しく暴れ出します。

 このままじゃ、この子の力でこの子自身が傷ついちゃう!

 

「……遠野!!」

 

 見ていられなくなったのか、野獣さんも駆け寄って、私とワンダフルのようにガルガルに抱き着きました。

 

「暴れんなよ……暴れんなよ……」

 

 ガルガルを落ち着かせる様に、優しく語りかける野獣さん。

 

「お前のことが好きだったんだよ!!」

 

 その声が、野獣さんの気持ちが届いたのか、これまでの事がウソの様にガルガルの動きは弱まっていき、そして

 

「アン! アン! アッーンン!」

 

 とうとう、ガルガルは元の遠野ちゃんの姿に戻ったのです!

 

「ぬわああああん、遠野が無事でよかったもおおおおん!!」

 

 野獣さんは涙を流しながら、遠野ちゃんをギュッと抱きしめています。

 私と、犬の姿に戻ったこむぎは二人の姿を見て、なんだか心が温かくなる気がしました。

 

「すごいね。プリキュアの力だけじゃなく、ペットを想う人の心が、ガルガルに勝っちゃった」

「こむぎも頑張ったワン! いろはに褒めてほしいワン!」

「そうだね、こむぎも頑張ったよ。えらい、えらい」

「わふ~ん♪」

 

 ねー今日浄化キツかったねー、とこむぎを(ねぎら)っていると、抱擁を終えた野獣さんが私たちの所へやって来ます。

 

「二人のおかげで遠野が無事だったゾ。この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ。じゃけん、お礼におごりましょうね~」

 

 お礼が欲しくてしてることじゃないけど、この時はお腹が空いてたので、素直にお呼ばれすることにしました。

 

「遠野は、俺にとって唯一の家族なんだよね」

 

 屋台へ向かう道中で、野獣さんはそうぽつりとつぶやきました。

 

「遠野って名前はこいつの元の飼い主の名前で、そいつは俺の、一番の友達だったんだ」

「その人は、今はどこに……?」

 

 野獣さんは、私が初めて見る悲しげな瞳を、空に向けます。

 

「遠くにイッちまったよ。このレシートリザードは、遠野の形見なんだ。俺にとっては、かけがえのない存在なんだって、ハッキリわかんだね」

「……野獣さんがこんなにこの子を大切にしてくれてるなら、きっと遠野さん本人も、天国で喜んでますよ」

「そうだワン」

 

 便乗してくるこむぎ。話の内容わかってるのかな?

 

 野獣さんは私とこむぎの方を見て

 

「プリキュアってのがなんなのか、これもう分んねえけど、秘密にしといた方がいいんだろ?」

「……お願いします。こむぎが人の言葉を喋るってことも……」

「大丈夫だって安心しろよ~。誰にも言わないから、ヘーキヘーキ」

 

 言質も取って、私は胸をなでおろし、美味しいラーメンを頂きました。

 

 

 

 

 

 後日、遠野ちゃんがガルガルになったのは、あの(皆さんご存知)ガルガルの卵を食べてしまったせいである事が分かりました。

 

 なんでも、私と野獣さんが出会ったあの日。

 向こうも散歩の最中に、黒い卵を見つけた遠野ちゃんが、野獣さんが止める間もなく丸のみにしてしまったんだとか。

 

 そして、食べられた卵から元の姿に戻ったニコアニマルは……遠野ちゃんのお尻の穴から無事?外に出て、ニコガーデンへと帰ったのでした。

 

「やめてくれよ……(絶望)」

 

 そう言っているような、この世の地獄を味わったような顔を浮かべるニコアニマルの表情が、忘れられない私なのでありました。


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