私に母はいない。
死んだ、そうとだけ父は云う。
「お前たちはな。ただ、
私が子だくさんの農家に生まれたのは、何も武蔵の国では不思議ではない。
父の名を
私は
一番上で、普段は機織りをするが、なんせ腕っぷしはおろかめっぽう冬の寒さにも強いから、男たちにまじって山に行く時もあり、村の男たちからは、物の怪だと怖がられている。
そもそもこの村に雪山に登れるような屈強な男はいない。
どやつもそやつもタマナシの男ばかりだ。
基本的には女の炊いた飯を笹の葉に包んで肩で風を切って歩き、夕方の暮れには
×××
「父さん」
「なんじゃ」
いろりの灰をあてもなく火鉢でつついて、父は目も合わせずにつぶやいた。
「今日はいのししでしたよ」
私は銃を土間に立て掛けて、
「そうか」
「母に逢いました」
「…よせ」
「…いつまで!」
私は正座で向き合っていた。
父はひたすらに火鉢で炭をつつく。ぱちっと弾けた音がした。
思わず床を拳で打ち付けた。冬の凍てつく淋しい風が、かじかんだ右こぶしにじんと滲む。
「いつまで……。幻しなどと、そううそぶくのですか!」
「お
父はいたずらにそればかりを繰り返す。
私は、縁側で針子をして、下の弟たちの召し物をつくろうところを何度も視ていた。
あの透き通った白い肌に、不自然なまで哀し気に笑った顔、いつか必ず私達と別れなければいけないことを承知しつつ、でもどこかで、ともに居続けたいと願う顔。
「さあ、食え」と、今までの話を打ち切って父は云った。
「マタギの殺生の