軛を解き放て   作:クマぴょん

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【親鳥】

 

 

ロシア・サハリン

元準内地・豊原(ユジノサハリンスク)駅

 

駅構内には連邦軍から提供された冷戦期の装甲列車BTL-1が佇んでいた。

中には神美(シェンメイ)やフキお嬢にイーダが率いる護衛部隊が積まれている。

作戦開始まであと数分で始まるのだが、既にフレディとその私兵はコルサコフに潜入している。

作戦決行したのはミカの旦那ではなく千束の鶴の一声によるものだったーーー。

 

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約12時間前

日本・某所

喫茶リコリコにて。

 

「私は喫茶リコリコが好きだし、フキたちも無事に戻って来て欲しいし、何よりも私たちを盾にしてまで守ってくれるフレディさんに帰ってきてもらいたいからです。」

 

千束は本音を通信機にぶつけた。

この本音は通信機越しにいるフレディやフキだけではなく、喫茶リコリコにいる面々がそうであった。

千束はありのままに話を続けた。

 

「私は他人の命を失いたくないし、時間も奪いたくない。でもフレディさんだけは違った。私と違って他人の命や時間を奪う。けれどもー違う形で私を守って時間を預けた。フレディさんの人生を棒に振ってまで私を・・・いや、たきなやフキ、DAを守ってくれたー」

「「千束・・・」」「お嬢・・・」

 

千束は話すうちに涙を零していた。

 

「だから帰って来て欲しいです!!」

 

千束の叫びに通信機にノイズが入るが、千束の答えはフレディに確かに届いた。

フレディが声色変えて優しく言う。

 

<<千束お嬢、しかと受け取った。こちらで再度作戦計画(ビジョン)を練り直し、絶対にお嬢たちに会ってやる。絶対に。>>

「出来るんですか?」

 

しおらしく応える千束にフレディは、

 

<<大人っていう生き物は弱きもの守る。それが世の常だ。それまで涙はお預けだ。いいな?>>

 

取引が成立した瞬間であった。

そこから間もなく、作戦の練り直しが行われた。

コルサコフ港では連邦軍、独立軍、フレディの私兵で奪還及び艦隊とフランクリン派閥の殲滅を同時に行う。

その過程でユジノサハリンスクから装甲列車を走らせ、途中で独立軍の戦闘装甲車と合流しコルサコフ駅から商船を拿捕。

神美(シェンメイ)とフキたちを載せ、サハリンから脱出。

日本は、海自に日本海に展開予定だった護衛艦やイージス艦を合計4隻を手配した。

また、空自にも北海道上空とEEZでの空中待機も手配した。

これはリーや連邦・独立の高官だけではなく、連邦軍と独立軍の両方に眼を利かせていたピエールから日本政府への要望に応答したものであった。

これによって作戦決行と判断されたのだった。

 

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約12時間後の現在。

ゼロアワーまで秒読み開始された。

 

フキはルークこと神美(シェンメイ)と共にいた。

神美(シェンメイ)だけじゃないフレディとの間に出来た赤ん坊・ケリーも居る。

サクラとモモがずっとケリーと遊んで貰っているが、果たして作戦が成功するのか(いささ)か不安だった。

肝心の総司令官のフレディは、東の空が明るくなる前に既にコルサコフに向けて出発している。

彼は、

 

「秒単位で事が動く。」

 

と言い残して戦地に向かっている。

出来るのだろうか?

不可能ではないとは言え、そこまで練った上で出来ると踏んだのか?

彼には出来て、私たち(DA)には到底出来ない。

不安要素がありすぎて、どこから手につけるか解らないほどだ。

私・・・春川フキとして考えるなら護衛車両共に南下した方が安全だと思って進言したが、早い段階で任務がバレる可能性があるため却下された。

 

『デカい動きを避けるためにゼロアワーで相手を港に束縛した方が良く、さらに殲滅戦で戦力を削った上で装甲列車がコルサコフに到着出来ると良い。』

 

と彼の決断だ。

これが傭兵で(つちか)った知識とゲリラ戦の天才と言われた養父(ようふ)の下で動いた大人の1人だ。

でも私的には彼が傍にいた方が、よっぽど安全ではないか?

そうふと思ったフキ。

直後に装甲列車の鈍い音が響き、装甲列車が動き出す。

鈍い音が列車内部に響き渡り、それを聞いたケリーが泣き出してサクラとモモが必死に(さと)す。

フキはその光景を見て、

 

「やっぱり無理がある。」

 

とつい口に出してしまった。

それを聞いたサクラとモモがフキに注目した。

フキは震えながら言う。

 

「よくよく考えたら不確定要素が多い。だからこの作戦には無理がある。神美(シェンメイ)さん今からでもー」

「無駄よ。」

「しかしながらー」

 

フキの提案に一蹴した神美(シェンメイ)は、微笑んでフキを見る。

 

「不確定要素が多い?だから何だと思う?」

 

曖昧な答えにフキは真剣になる。

 

「い、いやいや!相手は大艦隊かつ元特殊部隊で質が上。こちらは数は多くとも参加できる数はあちらよりも少ない。しかも聞いた話では組織化された傭兵より質が良いってー」

「それだけ?」

 

フキの弁明に神美(シェンメイ)は首を傾げる。

神美(シェンメイ)にフキは問う。

 

「ーそれだけって・・・貴女はどれだけ余裕があるのですか?」

「そんな不確定要素が多い中でも実行に移すと思える?特に彼が感情だけで実行に移したわけじゃないわ。」

 

嘘だ。

千束の言葉でーーー。

あの言葉で!

フキは耳を傾けようとせずに任務から必死に逃げようと模索していた。

それを現実に迎えようとする神美(シェンメイ)の言葉がフキを刺す。

 

「貴女たち来るまでの1ヶ月以内に貴女が考えうる全ての不確定要素を潰したのよ。しかも貴女たちが来るように仕向けたのも彼。少ない戦力投射で如何に相手を叩き潰すのが彼流。貴女は延空木以前から見たんじゃなかった?」

 

神美(シェンメイ)の言葉で我に返ったフキ。

それは1年前から(さかのぼ)る。

栄華を誇る傭兵集団が入国する以前、フレディ単騎でDAに挑み情報戦略において、完全勝利をもぎ取り成し遂げていた。

しかもラジアータや私たち含むファーストを相手にあらゆる手段で欺瞞(ぎまん)工作し、24時間の監視しようとものらりくらりでかわされた。

最初から現在(いま)まで彼にしてやられたのだ。

いや、彼ではない。

トランスヒューマニスト。

つまり人間を超えた先に居るヒトみたいな何かだ。

五体不満足だが機械化された人間と五体満足の人間では大きな差がある。

そこがフキの頭の中ですっかり抜け落ちていた。

いわゆる盲点に過ぎなかった。

彼が一瞬で消えるのも、相手の気持ちや心を読めるのも全て、脳をはじめとする機械化されたモノだからだ。

神美(シェンメイ)は決定的なことを言う。

 

「彼が作戦中に感傷(かんしょう)に浸っている時は、だいたい貴女たち・・・強いては子供たちが原因なの。違った?」

 

思えばそうだ。

初対面の時だった。

あの時のフキはフレディの実力を聞いた時に返された言葉が、

 

『実力か・・・実にくだらない。』

 

だった。

私たちに言ったのは皮肉ではなく、彼の意にそぐわない結果として相手にならないと永埜一稀(リー)から聞いた。

その後の模擬戦闘も、千束やたきなを助けた時も皮肉なことを言われたが、全て裏を返せば”子供たち”を守るべく自己犠牲に走ってそのまま消えた。

結果として、彼は子供たちが”幸せ”にするべく身を滅ぼし続けた上でDAを救った。

子供であるリコリスや楠木司令を守る親鳥として寄り添い守ってきた。

私は・・・春川フキとして彼の存在を完全に失念していた。

 

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その彼は今、南へ向かっているーーー。

禍々しい敵を封じ込めるべく先行して再び親鳥になろうとしているのだ。

 

「出来ればこれで最後にしたいものだな。」

 

彼は”またもや”そう呟く。

 

 

次回⇒【サプライズ】




Q&Aコーナーを作るのは諦めて、趣旨を変えてみる。ただ単に自虐ネタが切れているだけなんですか…

後日談のオマージュは、
映画だと007シリーズやエイリアンシリーズを始めとする洋画と座頭市を始めとする邦画。
ちょっと昔(約10年以上前)のゲームや古典派演劇も取り込んで20前後の作品を落とし込んだのが、この後日談。
本編(銃弾と対価)に比べて180ぐらいの差がある。
本編は異端だから(否定できない)。

見所としては、
(有力者としての)ノブレス・オブリージュがフレディ。
彼の責務が、叔父のフリッツに託された千束やDAの子供たちを守る。
叔父がそうだったようにフレディ自身もその責務を全うする大人の1人。
という形で描いてます。
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